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【視伝研】困難な条件下でのコミュニケーションの手段を考える


はじめに

こんにちは!Hello! 你好!안녕하세요! Jambo! Guten Tag! Bonjour!!

今回は、世界の色んなあいさつでスタートしてみました。関東は秋風が涼しい今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

私は複数の国の言語を流暢に使いこなすことはできませんが、インターネットを介して世界中の人々が言葉を交わす様子を日常的に目にする今、同じ意味でも沢山の言葉があることを実感し、その豊かさに毎日驚かされています。地域や文化によって様々な言語がありますよね。

冒頭の外国語は、全て「こんにちは」と訳される言葉です。
見た目が全く違いますね。発音もまた、バラバラです。
当たり前のことですが、私たちが普段使う言葉を形を使って視覚的に表したものが文字です。
同じ意味でも言語によってバラバラなので、全く共通点などなさそうに見えます。しかし、それらをまとめて大きく「文字」として観察した時、共通して言える性質があります。

今回は、視覚コミュニケーションについて考える旅の始まりとして最も便利で有用な発明「文字」の性質について考えたあと、困難な条件でのコミュニケーションにどう向き合うか、「きりゅう信号」を切り口に探求していきます。(てんこ盛りだー!!)

「文字」の観察

文字は「形」と「音」2つの性質を併せ持つ…!

唐突ですが、今みなさんは私がタイプして入力した「文字」を「読んで」います。「読み方」によってはもしかすると「聞いて」いる方もいらっしゃるかもしれません。

文字を使ったコミュニケーションは「読む/書く」ことと「聞く/話す」ことのどちらの方法でも成立します。また、「点字」は「触る/打つ」で読む文字です。送り手と受け手の状態に合った展開で発達してきた文字を使ったコミュニケーションですが、その可能性は計り知れず、どこまでも広がっているようにすら感じます。ロマンチックですね。
そして、全ての言葉は国や文化による「言語」の違いに関わらず、「文字」として同じ性質を持っています。

ちょっと想像してみてください。

あなたが家族や親しい人たちと食卓を囲んでいるとします。隣に座るその人にあなたが体験した面白いエピソードを共有したい時、どのようにコミュニケーションをとるでしょうか?

近距離で同時的なコミュニケーション

日常的に言葉を発音して会話することを通常としている人の場合、その場で話しかけてコミュニケーションを行います。
最近はチャットツールが便利なので、基本はスマホで筆談、という方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、すぐに要件を伝えたい場合はその場での会話が、最も素早く行えて便利です。

では、もしもあなたが漂流して無人島に行き着いてしまった時、どうやって誰かと連絡を取ろうと考えるでしょうか?

遠距離で異時的なコミュニケーション

実際にそのような状況は珍しいですが、手頃な瓶と布さえあれば、そこに文字を書いて運命を波に委ねる…みたいなことも考えますよね。
コミュニケーションを取りたい相手との位置関係が不明である、また相手からの応答が予測できない状態にある時は、いつか誰かの目に留まることを願って文字で思いをしたため、視覚的に情報を残す手段を選ぶと思います。

「文字」は分解すると、「音」と「形」の2つで構成されています。そしてそれは、コミュニケーションをとる相手との身体的・時間的な距離の違いに対応する時、とても役に立っています。
食卓での会話は身体的距離が近く、同時的に会話を行うことができる一方で、漂流したときは、話し手と聞き手は離れた場所にあるので、文字を通じて時間差でコミュニケーションが行われます。これは本やWEBサイトで情報を得る時も同じといえます。

私たちは文字の持つ特性を使い分けて、時空間の距離に関係なく日常的に高度なコミュニケーションを行っているのです。

さて、ここまで文字の持つ性質について話してきました。
ここからは、無人島の例に挙げたような、困難な条件でのコミュニケーションの取り方について考えます。
時間や距離の条件が予測しづらい、「海上でのコミュニケーション」について、一緒に思考を巡らせてみましょう!🌟

※個人的な学びの成果としてまとめます。国際信号旗の使い方や確かな情報ソースをお求めの方は、外務省による国際海事機関のまとめや、海上保安庁、JAMSTECなどの専門機関が発信している情報ソースをお確かめください。

「きりゅう信号」の観察

コミュニケーションが困難になる条件

さて、なぜ「海上でのコミュニケーション」なのでしょうか。そこから説明させてください。

まずは、日常生活においてコミュニケーションが困難になるケースを見ていきます。
皆さんはこんな経験、ないでしょうか。

  • 商業施設のトイレに入っていたら営業時間を過ぎてしまっていて建物に閉じ込められてしまった

  • 会社で利用しているコミュニケーションツールサービスのシステムが落ちてチームメンバーと連絡が取れない

  • 家が停電して周りが見えず動くことができなくなってしまった

誰もが人生で一回は、似たような非常事態を経験しているのではないでしょうか?
これらのケースを元にもう少し「コミュニケーションが困難な状況」の解像度を高めるべく、具体的な要因を考えます。

  1. 周囲からの隔絶…自分が集団から隔離されてしまった状況にある

  2. 連絡手段の断絶…相手の所在(アドレス)がわからない状況にある

  3. 身体機能の制限…自分の身体の自由が効かないために普段の行動が取れない状況にある

探せばまだありそうですが、上記3つの要因が考えられました。
そして、そんな3つの要因を伴う非常事態に近い状況が、日常的に起こりうる環境。なんと地球上にありました。


そう、海です…!!

ザッパーーーーーーーーン

海上でのコミュニケーションの歴史は、海上という陸上とは隔絶された未知の世界を進んでいくために、先人たちが知恵を振り絞り切り拓いていったコミュニケーションの歴史です。
そこには、私たちが暮らす環境とは全く異なり、なかなか想像ができないような状況にある時の知恵が詰まっていました。

困難極まる海上の環境

まずは「海上での環境」がどんなものなのか、簡単に整理してみましょう。

場所…常に波が立ち揺れている、天気の影響を受けやすく、視界が悪くなる場合もある
対象との距離…船舶間でのコミュニケーションは両船が電話回線/無線が使える範囲に在れば通話/通信が可能だが、海には電波の届かない場所があったり、通信したい相手が遥か彼方にいることもある
コミュニケーションのタイミング(時間的距離)…情報を受け取る相手にタイミングを委ねるため、対象が視界にあったとしても瞬時に相互的なコミュニケーションが行えるとは限らない

こうして書き出してみると、海ってなんと過酷な環境なのでしょうか。
「孤独が前提」である上に「コロコロ変わる環境」に合わせて柔軟にコミュニケーションの方法を選ばないといけません。

海上でのコミュニケーションを成立させるための方法はいくつかありますが、とりわけ視覚情報的要素の強い手法があったので紹介したいと思います。

きりゅう信号について

国際信号旗一覧:日本海員掖済(えきさい)会『国際信号書』より引用

きりゅう信号とは、主に海上にいる船舶間でのコミュニケーションに使われる「旗」を使ったコミュニケーションの手法です。そして、きりゅう信号には写真にあるような「国際信号旗」を使います。カラフルでなんとも楽しげですね。
(信号旗の変遷など「『旗と船舶通信』三谷末治、古藤泰美共著」…にある説明が、私的には読みやすくてわかりやすかったです…!東京海洋大学の書架にて確認)↓

利用シーンはぼんやりとイメージできるものの、ひょんなことから「調べよう!」と思い立たない限りは、一般人が詳しく知る機会がありません。クルージングや釣りなどのレジャーを楽しむために小型船舶の運転免許を取得した方は、目にする機会があるかもしれません。
近くに大きな港や航路が確認できる地域にお住まいの方は、航行、または錨泊している大型船をよく観察してみてください。

先日沖縄県で過ごした日の朝、那覇港にて出港前の船のマストにて「P」旗を確認しました。これは、船員に向けて出港が近いことを合図する旗です。

那覇港発の客船になびく「P」旗

文字と国際信号旗を比べてみる

視覚コミュニケーションの手段として、国際信号旗と文字の特徴を比較してみます。
文字は1語で示せる意味合いが少ない場合が多い(「あ」や「A」そのものに意味はなかったり、意味はあっても一字で一文を作ることはあまりない)ですが、国際信号旗は1旗のもつ意味合いが具体的ではっきりしています。先述した「P」旗が出港の合図であるように、一旗ごとに具体的な意味が込められています。

次に、国際信号旗は、「文字旗、数字旗、代表旗、回答旗」の4種のグループで構成されています。その中の文字旗(全26旗)に、それぞれA~Zの文字を当てて読むことができます。これは「音」と「形」を有していることになるため、これにおいては文字と同様の性質を持っていると考えることができそうです。国際信号旗は海上という特殊な環境において最適化された文字、と言えるかもしれません。
(アルファベットと同じ音で独自の読みはないので拡声器的な特徴を獲得して「進化した文字」と表現するのが個人的にはしっくりきています。※個人の意見です🙇‍♂️

きりゅう信号は、日中にコミュニケーションを行う場合に用いられます。離れていても認知しやすく、できるだけ素早く相手に情報を伝えるための工夫が施されていました。

…全部で5色、遠くからでも識別しやすいように彩度が高く区別しやすい色が選ばれています
…複雑な形を避けた簡単なパターンを用いることで見間違いを防ぎます。旗自体の形にもパターンがあり、また一つの旗に持たせる意味を限定しているため、信号を受け取った相手は視覚的に素早く区別することができます

確認できた工夫

一覧で見るとたくさん色が使われているように感じますが、よくみて数えてみると5色に収められています。

また、「いかに素早く識別しやすいか」という観点によってデザインされているはず、、なので、具象的なモチーフで示すのではなく見間違えないようなシンプルさが必要だったのかもしれません。もしくは、産業の発展やシンボルの普及を目指した背景があったり云々かんぬん…で、現在のような形に落ち着いたのかもしれません。(補足として…信号書に一覧としてまとめられてはいますが、一つ一つはせーので一斉に作られたわけではなく、船による貿易の活発化とともに、世界各地で使われていた野生のデザインを参考に統合されていった…ような文脈で成り立っているみたいなので、信号旗それぞれの起源や形の意図までははっきりと調べることができませんでした…。)

形と色もシンプルで特徴づけて覚えることが難しいので「これじゃあ全く覚えられないよ!」と匙を投げてしまいたくなります。ここまで読んでちょっと興味が湧いた方のために、私が使ったアプリをご紹介します。このアプリを使って、一字信号までを暗記することができました。(課金すると二字の組み合わせや繰り返しの意味になる旗の読み方なども学習できます)


また、国際信号旗の文字旗にはA~Zが一つずつ割り当てられていますが、国ごとで微妙に異なる発音や、聞き間違いを防止するために、A~Zで始まる単語もそれぞれ割り振られています。(例えばP旗だと「papa(パパ)」です。可愛いですよね)
また、掲揚する旗の数や組み合わせにも意味があったり、遠くに見える相手とのコミュニケーションのテンポを合わせるための掲揚ルールも存在します。

まだまだあるよ、海上でのコミュニケーション方法!

今回取り上げたのは「きりゅう信号」によるコミュニケーションですが、先述したように海上では、コロコロ変わる条件に合わせて最適な手段を選び、コミュニケーションを成立させる必要があります。きりゅう信号はその手段のうちの一つです。
他には、「手旗信号」「発光信号」「音響信号」などがあり、コミュニケーションを行う者とそれを受け取る者の違いや、環境によって使い分けを行います。大型船と小型船、救助船と遭難者、遭難船と航空機などの組み合わせ…外の明るさ暗さ…天候の良し悪し…などとさまざまなケースに応じて柔軟にコミュニケーションの形が検討されてきたのです。

調べながら…普段何気なく行なっている会話でのコミュニケーションがいかに高度で、発達した文明に助けられた上に成り立っているのかを実感しました。また海上でのコミュニケーションを成立させるための条件の複雑さから、航海やルール制定までの苦労を想像すると、涙がちょちょぎれてしまいます。

おわりに

ここまで読んでくださりありがとうございました。
「困難な状況」を考えることは、様々な状況にあるユーザーを想定してサービスを考えることの役に立つと感じました。また、その時々に起こる様々なケースに対応していくためのアイデアを養うために私たちは、普段の生活の外に一歩踏み出して、より体系的な学びを得続けることが重要だと考えます。
今日の私のアクションも、これまでの自分の常識を飛び越えることに役に立った、といつか振り返った時に思えたらいいな…。
最後に、雑談的エピソードを共有してまとめとしたいと思います。

今回の調査に際してずっと欲しかった『国際信号書』を購入しました!
付録でついてきた解説に、「原文を和訳するにあたり、船が女性名詞な故“she”や“her”で表現されていたことや、主語として用いられる“I”の多様性などの理解・表現に苦労した」とのエピソードが書いてあったことが印象に残っています。文化の違いやなあ、また一つ、ときめきを見つけられたので、買ってよかったです✌️

海が繋がっていたから、多様な文化やコミュニケーションの影響を受けて国際的なルールが発達したように、インターネットをはじめとする技術の普及と発達は私たちの日常のあり方を毎日大きく変化させていっています。
現代の人々をつなぐサービスやシステムを作る職業を担う一人として、そのことを噛み締めてプロダクト開発に携わっていきたいと、そう思いました。

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