01デジタルクリエイティブにアナログ要素を持ち込むことによるアイデアの転換
こんにちは。わかぼです。エアコンの不調の発覚とともに今年の夏を迎えました。酷暑が続いていますが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。さっそくですが、ゆめみでは有志のデザイナーで視覚伝達情報設計研究室(以下、視伝研-シデンケン-)というUIについての深堀りや可能性を追求する活動をしています。 今回はその活動の一部をご紹介します。
(視伝研についての詳しい説明についてはこちらをご覧ください↓)
UIにアナログ要素を盛り込むとどうなるか
今回は『デジタルクリエイティブにアナログ要素を持ち込むことによるアイデアの転換』をテーマにメンバーで考察をしました。 普段、私たちが使っているデジタル上のUIに、アナログの実世界では当たり前に発生する「汚れる」「濡れる」「無限に複製が困難」などの概念を持ち込んだとき、何か新しい価値が生まれるのではないか?という試みです。
まずは、自由にメンバーで検討を進め、それぞれアイデアを出し合いました!↓
ダビングすると劣化するカセットテープの世界観を取り入れたい
きっちり等分にならない“ちぎる”動作って面白そう
時間経過で”汚れ”たり、あえて”不自由”だと感じる現象にアナログを感じる
ペットのかわいい仕草によるリアルな癒され体験をデジタルデバイスで再現したい
アナログとデジタルを繰り返し踏襲することで生まれる複合型デザイン
その結果、上記5つのテーマが出てきました。
ここから一つに絞った結果、今回は「きっちり等分にならない“ちぎる”動作って面白そう」というアイデアについて深堀りをし、全体で考察を進めることになりました。この時点でどのアイデアも面白くそれぞれ情熱のこもったプレゼンがあったので、研究室は大盛り上がりでした…!
(他のアイデアについてはこちら↓)
さて、読者の方に今回の研究テーマについてと、研究員の関心の矛先をより深くご理解いただくために、まずは“ちぎる”が起票された経緯からご説明したいと思います。
きっちり当分にならない“ちぎる”動作に興味が湧いたわけ
『デジタルクリエイティブにアナログ要素を持ち込むことによるアイデアの転換』という大枠のテーマに対して個人で様々なアイディエーションを行なった時に、一番はじめにでた“ちぎる”アイデアがこちらです。
“ちぎる”の特性である「ちぎった後を正確に予測できない不便さ」が、「感覚的で曖昧な裁量を可視化すること」に向いているのではないか、といった発見が発端でした。
その後、「そもそも“ちぎる”ってなんだったっけ…?」というような概念的なところであったり、日常での基本的な動作から、私たちがどの場面でどのような時にちぎっているのか、なぜちぎっているのか…を考察し始めました。
こうしていくつかの段階を踏みながら、研究員同士での対話を続けていくうちに、私たち視伝研は、“ちぎる”をテーマにUIを検討することに踏み切りました。
「“ちぎる”…おもしれーじゃん。」
ここからは、視伝研全体での活動記録です。
日常での仕草や言葉って、案外無意識で使っていることに気がつきます。
まずは日常生活にある“ちぎる”行為について改めて探ることにしました。
私たちはどんな時にちぎるか
お菓子のパッケージを「開けたい」時、一つのものを複数人で「分け」たり「分離させたい」時、少しだけ「手に取りたい」時、とにかく「小さくしたい」時。意識してみると私たちは日常において様々な目的でいろんなものをちぎっていることに気がつきました。
では、ちぎりたくなるものって?
日常の中で「ちぎる」行為の目的が様々あることはわかりましたが、ふとちぎれそうと感じたり、ちぎりたくなるものってどんなものがあるでしょうか?実際にたくさんちぎって考えてみました。
【実際にちぎったもの】
お菓子のパッケージ
ねりけし
パン
新聞紙
おもち
厚紙
掃除用スポンジ
ウエットティッシュ
グミのお菓子
スライム
紙粘土
生肉
…etc
たくさんちぎりました…!実際にちぎっているビデオがございますので興味のある方はぜひご視聴ください。
まずお菓子のパッケージですが、ギザギザがついていて切れ目が入れやすくなっていました。パッケージのギザギザがちぎれることを多くの人が学習済みなので「ちぎりたくなる」というよりは、「中のものを食べたいからパッケージを開けたい」という目的が大きいと考えました。
新聞紙はというと、力を入れて引っ張ることでビリビリと気持ちのいい音をあげてちぎれました。指先から伝わる若干の振動も爽快感の演出を手伝います。紙の目に沿いつつも思ったように綺麗にちぎれないもどかしさや、たまに詰まったりする不規則さが感じられました。
ねりけしや粘土もちぎってみました。これらは特に目的がなくてもちぎりたくなります。音は大きく出ませんが、特有の触感があり、無目的でちぎりたくなります。ねりけしなんかは特に、小学生を始め多くの人類を魅了する不思議なちぎりたくなる魅力があったと思います。紙粘土は手が汚れなければずっと触っていたい。
ウエットティッシュはというと、紙でありながらも湿気っているので、ビリビリと大きな音は出ませんが、紙の繊維がゆっくり解けてプツプツとちぎれていく感覚は独特でした。ちぎった断面の変化は一番大きく現れました。
…このようにたくさんの種類のものをちぎりましたが、音や振動が気持ちいいいと感じるものや、こねて丸められる柔らかいものは、特にちぎりたくなるように感じました。
【研究員によるちぎってみた生の声】
親指が触れる範囲や力を入れる方向的に、UIに落とし込むとしたら紙粘土やグミのお菓子くらいの厚みのあるものの方がしっくりきそう
ビリっとちぎった方が音は軽快でいい
UIに落とし込んだ時のマイクロインタラクションとして、軽快な音か、柔らかめの音か、とかでもユーザーに与える印象がかなり変わりそう
ちぎった瞬間の気持ちよさは新聞紙が気持ちよかった、軽快な音と振動が結構重要な気がした
ちぎってる最中の楽しさとしては、おもちとか伸びるものの方が、いい意味でのじらしがあったり、予想外の伸び方・ちぎれ方をするのでおもしろい
リアルな感覚に近づける方向と、ビリビリ系と伸びる系のいいとこどりにしちゃうみたいな新しい感覚を作る方向もありかも
“ちぎる”をUIに落とし込む
実際に"ちぎって"みた結果から、研究員たちの間で次のような声が上がりました。
でもそもそも、"ちぎる"って、UIだと、どのように表現できるでしょうか…?
プロトタイプを作ってみた
使うデバイスをスマートフォンと仮定して、研究員でそれぞれプロトタイプを作成してみることにしました。
1つ目:ちぎるときに指先を使う感覚が、ピンチアウト/ ピンチインの動作と似ているのではないか。
2つ目:1本指でも音と感触とビジュアルで"ちぎる"感覚は再現できるのではないか
3つ目:「ちぎれそう、ちぎりたい」と直感的に思ってもらうにはどのような見た目がいいのか
3つの課題を立てて、実際にいくつかのプロトタイプを作り、デジタル上で“ちぎる”を再現してみました。
プロトタイプを作った研究員の感想
UIそのものの操作感と同じくらい、音・振動が「実際にちぎっていると感じさせる」感覚を想起させていることを実感できました。
デジタルに変換することで、いくつか抜け落ちてしまう感覚に反して、“ちぎる”という行動で発生する感覚のうち『ビリビリ』という音や振動による気持ちよさはデジタル上でも再現度が高いことを感じました。
ちぎれそうな見た目にはなったかも。ピンチイン・ピンチアウトでちぎるって新しい
研究員だけでなく、これまでの経緯を知らない第三者にもプロトタイプを触ってもらうことで以下のようなフィードバックをもらいました。
説明がない状態ではちぎる操作はなかなか思いつけない
基本的には片手で操作したいため、ピンチアウトのような両手を必要とする操作は不便に感じてしまう
実際にちぎれたときに音や振動があると気持ちよさを感じる
「実際、“ちぎる”ってどういうUIで使えるの?」
ここまでの研究で“ちぎる”という行為は、一般的な操作ではないけれど達成感のある操作ということがわかりました。そのため、現実世界でもイメージしやすいチケットやクーポンなどであれば、“ちぎる”という行動も違和感なく行え、ちぎったときの達成感でユーザーにも付加価値を感じてもらうことができるのではないか?と感じています。
また、いつでも command+Z でもとに戻せるデジタルの世界とは異なり、一度ちぎったらもとに戻せないアナログ世界も想起させやすいので、削除や退会など、すぐにもとに戻せない操作への注意喚起を直感的に感じさせる効果もあるのでは?と考えました。
一方で今回は「綺麗にちぎれないもどかしさ」「粘土やねりけしのちぎりたく魅力」については検証しきれなかったため、追々機会を見ながら引き続き深堀りをしていきたいと思います。
今後の活動予定と視伝研の紹介
ここまで読んでいただきありがとうございます。
私たち視伝研では、今後もデジタル表現においての様々なテーマについて考え、発信していきます。
次回のテーマは「架空の世界のUIをデザインする」です。
今後の活動にもぜひご注目ください👋
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