ヒップホップ
私がまだ結婚する前の話をしたい
彼氏と別れて間もない頃
なんとなく、昔連絡を取っていた男性にLINEをした
ノリと勢いでご飯に行くことになった
その男性は医者で
上京先で出会ったのだが
なんと地元が一緒だった
それも隣の中学校という近さ
年齢は8つほど上だったと記憶している
なんて優良物件
別にその人に恋愛的な気持ちは無いが
スペックだけ見たら優良物件であることは間違いない
いつもより少し
メイクに気合を入れてみる
新橋駅で待ち合わせ、居酒屋へ向かう
金曜日の新橋駅は人が多い
人混みをかき分けながら歩く
居酒屋を2軒まわるが
人前でお酒を飲むのが苦手な私は
ほとんど素面である
地元の話や仕事の話
時々恋愛の話
あっという間に終電も近くなってきた
新橋駅へ向かう
この時間になると
酔っ払いもたくさんいる
少し大きな声で話さないと
声がかき消されてしまう
改札の前まで来て
もう少し新橋で飲んでから帰るという彼に
お礼と別れを告げる
すると彼は言う
ねえ、バイバイの前にさ
ヒップホップの握手しよ
何言ってんだてめえ
私はヒップホップとは無縁の人生を歩んできた
ヒップホップ界には
ヒップホップの握手というものがあるのか
そして、
なぜそれをお前としなければならないのか
しかも
激混みの新橋駅
烏森口
南改札前で
思わず
なにそれ
と質問してしまう
説明されたがよくわからない
しかしそれをしないと帰してくれない雰囲気だ
どうしよう
当時、私は社会人1年目
22歳の私にとって
ヒップホップの握手をする、という行為は
なんだかとても重いものだった
ピッ
次の瞬間
私はPASMOをタッチして
改札内へと入っていた
右手に持っているピンクのパスケースは
知り合いが就職祝いにとくれたものだ
そうだ、私は就職したてで
みんな私をお祝いしてくれて
気にかけてくれて
頑張らないといけないんだ
浮かれてヒップホップの握手なんてしてる場合ではないのだ
そんな決意をする一方で
彼は驚いた様子でこちらを見ている
それもそのはず
私はあのヒップホップの握手をスルーしたのである
ごめんなさい
いくらあなたが優良物件でも
金曜日の新橋駅、改札前で
ヒップホップの握手を要求してくる人とは
少し距離を置きたいの
じゃあねと笑って手を振り
私は電車に乗った
ヒップホップが少し苦手になった
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