なつかしさのいろ
見たことがある景色だと思った。初めて足を踏み入れた場所だというのに、私は間違いなく、この景色を知っている。夕日が沈んだ直後では、物の影形がはっきりと分かるくらいに明るい。稲と雑草を撫でるように風が吹いている。目を閉じ、肌で風を感じていると、段々意識がぼんやりとしてきて、あるはずのない過去の記憶が頭の中を駆け巡りだした。
夜闇と影の境目が無くなり、ここにに存在しているすべての物が、夜の空気に溶け込んでいる。胸がざわつくけれど、今はこの気怠い心地よさに浸りたい。
体は私の言うことを聞いてくれない。目を瞑りたいのに、瞬きをするだけだ。本能が意識を完全にいなしている。生きる事って凄くシンプルなことなんだ、などど極端なことを思いながら、ぼうっと突っ立ていた。
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