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エッセイ ツバメになって

 私が兵庫県尼崎市の下坂部幼稚園に入園して、最初に好きになった歌が、【つばめになって】だった。

 戦後になってからつくられた子供向けの歌は、《アイアイ》や《犬のおまわりさん》など、最低かつ最悪な作品がほとんどだが、この《つばめになって》は、野口雨情や茶木滋に通ずる非常によくできた歌だと、私は高く評価している。

 この歌を最初に幼稚園で習った時に、先生に、「この歌が好き」 ではなく、

「この歌は、いい歌や」と言ったことを、今でもはっきりと覚えている。

 その時の、若い美人の先生の顔が、一瞬、気味悪そうな大人の顔になり、自分が嫌われてしまったと、子供ごころにショックを受けたのだった。

 その後、大人にはこのような、力を抜かない「物言い」をしてはいけないのだなと、幼子なりに悟ったのであった。

 この、《つばめになって》のすぐあと……つまり、梅雨入りをして、《雨こんこん》を、習ったのだが、これまた、ものすごくよくできた歌でだった。
 だが、暗い……けれども、それがまたいい……。

♪ あ〜め〜こんこん
降ってるよ〜
あ〜め〜こんこん
やまないよ〜
遊びにいけない
あ〜め〜こんこん
やんどくれ〜

 この《雨こんこん》は、雨が降れば必ずと言っていいほど、晩年の父が、私が幼稚園児の時に歌っていたのを真似て歌うのだった。

《雨こんこん》は、約半世紀後に、《雨の子守唄》(作詞・作曲 久保研二)という歌に化けて、生まれ変わることになった。
 自分で言うのは無理があるが、「山口でうまれた歌」シリーズの中でも、特にマニアックな作品である。

 いずれにせよ、「歌」の持つ粘着力とパワーは計り知れないと、常日頃から私は実感させられるのである。

 そして同時に、私はやはり、幼稚園にあがる前からすでに、「歌」に対して異常な興味があったのだと、自覚するのである。

 青春期……もっと早くそれに気づき、焦点をより絞った生き方をしていれば……きっと、また違うステージを歩んでいたことだと思う。

 まあ、それでも、曲がりなりにも「歌」と共にあった私の人生。

 人生をピッチャーの投げる球にたとえれば、スライダーなのか、カーブなのか、シュートなのか、フォークボールなのか……まだまだ判別できない。
 ただ、ストレートでないことだけは、確かなのだが……。

 個人的には、ナックルボールだと思っているのだが、果たして真実は如何に?

【つばめになって】
作詞 塚本章子 作曲 本多鉄磨


ツバメになって
飛んで飛んで遊ぼ
五月のお空を
飛んで飛んで遊ぼう
はい すいすいすい
はい すいすいすい


ツバメになって
飛んで飛んで遊ぼ
夕焼けお空を
飛んで飛んで遊ぼう
はい すいすいすい
はい すいすいすい

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