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noteことはじめ:予告編(2)

前回の「コロナ時代の大学論」の予告編に続き、今回は、もうひとつのテーマである「スローを武器にしてくれ~普段使いの学び術~」について予告します。

◆スローを武器にしてくれ~普段使いの学び術~

 世の中には、たくさんの「勉強術」「学習法」「独学術」に関するノウハウが出回っていますが、ここでは、肩ひじはらず日常生活のなかで実践できる、まさに「普段使い」の学び方について紹介します。そして、特に「スロー」にこだわりたいと思います。つまり、すぐに答えを求める「ファスト」な学びではなく、ゆったりとした深い学びについて考えます。
 ちなみに、「スローを武器にしてくれ」というタイトルは、いうまでもなく、片岡義男さんの小説『スローなブギにしてくれ』のもじりです。

 あらためて「普段使いの学び術」を書こうと思ったのは、約30年間、大学生を教えてきて痛感したことがあるからです。それは、「学び方」を知らないために、自分の能力を十分に発揮することができない学生が多くいる、ということです。つまり、どうものごとを考え、どう学ぶかという「型」と学ぶ習慣が身についていない学生が多いということです。しかし、そんな学生でも、「学び方」を身につけたとたんに大きく成長する、まさに「大化けする」学生がいることも事実です。
 実は、大学の責務のひとつは、「大化け」とまではいかなくても、さまざまな意味で学生を成長させることです。そのためには、学生に「学び方」を身につけさせる必要があります。ところが、多くの大学教職員、学生、保護者は、専門的な知識と技能を学ぶところが大学だと考えています。もちろん、それは否定しませんが、文学や経済学「を」学ぶというだけではなく、文学や経済学「で」学ぶことが重要です。つまり、それぞれの専門分野がもつ「知識+思考+アウトプット」(知識をもとに考え、表現する)という「型」を通して、社会や人生をみる方法を学ぶことが重要だということです。しかし、そのように考える大学人は必ずしも多くありません。そのため、相変わらず専門的知識を詰めこむ授業をする教員も多くみられます。
 さて、大学生が「学び方」や学ぶ習慣を身につけていない、などというと、大学や大学生を馬鹿にすることをいう方がいます。たとえば、「Fランク大学はいらない」「偏差値50未満の大学はいらない」といった意見です。よほど学力の高い方が発言されているのでしょうね。また産業界からは、日本の大学もアメリカ流に「入学するのは簡単だが、卒業するのは難しくしろ」や「大学は学生にもっと勉強させろ」との意見があります。しかし、そのようにいう人のなかには、大学がゆるかったから卒業できた人も多く含まれているのではないでしょうか。もしそうだとしたら、いったいどの口が言っているのだ、ということになります。

 そこで、大学を出た社会人は学び続けているのか、ということについて、不都合な真実をおみせしましょう。
 リクルートワークス研究所の「全国就業実態調査(JPSED)」(2018)によると、働く人の七割弱が自ら学ぶ習慣をもっていないといいます。「あなたは、昨年一年間に、自分の意志で、仕事にかかわる知識や技術の向上のための取り組み(たとえば、本を読む、詳しい人に話を聞く、自分で勉強する、講義を受講する、など)をしましたか」という質問に対して、「はい」と答えた人の割合は雇用者(正社員・非正社員)全体でみると33.1%でした。さらに、なぜ学ばないのかという理由について、「忙しい」「費用負担が重い」「既に知識や技術が十分で必要ない」「方法がみつからない」「会社が機会を用意してくれない」「学んでも評価されない」「今後、転職や独立を予定していない」などの選択肢を用意しましたが、驚くべきことに、もっとも多かった理由は「あてはまるものがない」(51.2%)でした。つまり、労働時間が短縮され、時間があれば社会人が自ら学ぶかというと、そうでもないようです。

 最近のマイナビの調査でも、「学び直しに興味がある」と答えた人は82.1%だったものの、プライベートの時間を使って学び直しを「現在している」割合は16.9%にとどまっています。このようにみると、社会人が「大学生は勉強しない」などと批判できないことになります。

 一方、社会人になっても学び続けている人に焦点を当ててみましょう。矢野眞和氏は、教育経済学の立場から、「大学時代の学習や読書の蓄積と継続が、現在の学習や読書を支え、その成果が所得の上昇となって現れる」という、大学教育の間接的効果があることを「学び習慣」仮説と呼んでいます。また、濱中淳子氏も、経済学系学部の卒業生にも「学び習慣」仮説があてはまることを確認しています。ということは、学生に「学び習慣」をいかにつけさせるかが、大学教育の重要な課題のひとつであるといえます。

 さて、大学の話題ですこし遠回りをしましたが、大学生にかぎらず、中高生、社会人全般に「学び習慣」を身につけることは大切です。そこで、「スローを武器にしてくれ~普段使いの学び術~」では、以下のようなトピックを取り上げる予定です。中高生、大学生、社会人、子育て世帯のお母さん・お父さん、ぜひお読みください。

  ・「学び方」を学ぶということ
  ・学びの基本は「結んで・開いて・丸めて」
  ・読書のなかに「学び方」が詰まっている
  ・深く掘るには広く掘らなければならない
  ・「学びほぐし」(unlearn)について
  ・「違和感」を大切にしよう
  ・全体と部分、目的と手段をわける
  ・学ぶは「まねぶ」(まねる)
  ・脳の可塑性について
  ・自分の「OS」を鍛える
  ・知識と思考の関係
  ・アウトプットについて考える


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