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【DTM】個人的なミックス作業時のリファレンス楽曲の紹介

この記事はなに?

  • 趣味のDTMerである筆者が、自作曲のミックス時にリファレンスにしている楽曲を紹介してみます。

  • リファレンス曲として定番の楽曲はとりあえず外して、個人的に気に入っているのを中心に紹介したいと思います。

  • ミックス用のリファレンス楽曲を探しているDTMerの方などの参考になれば幸いです

  • モニタリング環境を改善したい方に向けた★おまけ★もつけています。

はじめに

 楽曲のミックス作業は楽しいものです。
 特に、自分が作った曲の魅力を最大限活かすためにあれこれ試行錯誤しながらバランスを調整していく作業は、気がつけば時間がどんどん過ぎて行くような没入感や充実感があります。

 さて、ミックス作業において、特に重要になってくるのが「リファレンス音源」を用意することです。いくつかのリファレンス曲を用意することで、ミックスの方向性がより明確になり、また自分のミックスの不備や改善点などもはっきりしてきます。

 この記事では、自分がミックス時にリファレンスにしている楽曲を、定番のものは外して、個人的に気に入っているものを中心に紹介してみようと思います。
 ミックス用のリファレンス楽曲を探しているDTMerの方などの参考になれば幸いです。

リファレンス曲の選定基準・方針

 リファレンス楽曲のおおまかな選定基準・方針は以下となります。

  • 自分の作る曲は歌モノのバンドアレンジが中心なので、それに沿った楽曲。

  • EDM系などはあまり作らないので多くは取り上げない。

  • なるべく多様なジャンルから選ぶ。

  • 自分が好きな曲。

 また、自分のミックスの好み・理想は以下なので、これに合致したミックスの曲が多いです。
 とにかく好みを持つことは何よりも大事だと思います。

  • ローエンドの処理が適切で、低域がタイト、かつきちんと存在感がある。

  • 楽器の分離感が良く、クリア。

  • 特にキックのアタックとベースラインがしっかり見えるミックス。

  • 耳障りな高音成分がない。

  • 重心がしっかり安定しつつ、上澄み成分もちゃんと華やかに聞こえる。

  • モサモサ感やモヤモヤ感があまりない。

  • クリアでありながらも、中低域のウォームさを大事にしている。

  • 作品の趣旨を完全に理解している、愛のあるミックス。

 ということで、以下、紹介していきます。

リファレンス楽曲の紹介

グリーン・デイ『Basket Case』

 自分の音楽のルーツのひとつはメロコアやパンクロックなのですが、その中の言わずと知れた超有名曲です。
 シンプルなパート編成ながらしっかりエネルギーやパワーが伝わり、安定した重心感、中低域も適度に厚みがあり、各楽器の分離感も明瞭で、ボーカルも前に出ていて、非常にバランスが良く、まさにパンクロックのお手本のようなミックスだと思います(このような考え方自体パンク的ではないような気もしますが)。
 この曲については耳コピはもちろん、個人的に曲構成をほぼ丸パクリしたオマージュ曲を作成したりもしているくらい、自分にとっては大事なリファレンス楽曲です。

Victor Wooten『Funky D』

 現代における最高のベーシストの一人であるVictor Wootenの楽曲です。
 ベーシストの楽曲だけあって、ベースの魅力を最大限に伝えるミックスになっていて、特にベースを目立たせたい楽曲を作る際に参考になります。
 ベースを気持ちよく聴かせるローエンドの処理、キックとの分離感、ベースの存在感を引き出す高域成分の明瞭さなど、Wootenの歌うようなベース演奏の魅力を最大限に引き出すプロフェッショナルなミックスだと思います。

赤い公園『pray』

 赤い公園の最後の楽曲です。
 この曲を聴く度に亡くなった津野米咲さんの事を想って胸が苦しくなりますが、そのような背景を込みで、思い入れの深い楽曲です。
 赤い公園の楽曲の中でも、この曲のミックスは特に神がかって良いように感じます。楽曲の尊厳を尊重した、素晴らしいミックスだと思います。
 曲全体を通したダイナミクスと、ギターの分離感、女性ボーカルの存在感などが参考になります。

The Birthday『なぜか今日は』

 ミッシェル・ガン・エレファントのチバユウスケさんを中心としたバンド、The Birthdayの代表曲の一つです。
 シンプルなバンドサウンドを活かしたナチュラルでライブ感のあるミックスで、特に中低域の自然なウォームさが参考になります。
 チバさんの暖かい歌詞世界を反映したような、楽曲の世界観に寄り添った素敵なミックスだと思います。

54-71『Idiot (Awakenin' of the Noex)』

 筆者が敬愛するバンドであるZAZEN BOYSの結成にも関与した伝説のバンド、54-71がニルヴァーナのレコーディングなどで知られる名エンジニアであるスティーヴ・アルビニの元でレコーディングしたアルバムの一曲。
 とにかく余計なことは何もしないミックスで、「自然なバンドサウンドとは何か?」というある意味哲学的な問いに応える、一種の極北的なミックスの例として参考にしています。修行僧のようなサウンドです。
 このバンドに関しても超好きなのでほぼオマージュと呼べるような内容の曲を過去に作っています。

toe『My Little Wish』

 インスト好きはたぶんみんな大好きな鉄板バンド、toeの一曲。
基本的にはオーガニックなサウンドで、ミックスで余計なことをしている感じはないのですが、筆者はそういうのを打ち込みで目指したいという一つの憧れがあるので、最近参考にしている楽曲です。
 きちんとした再生環境がないと分かりにくいかもしれませんが、あたかもドラムセットが目の前に出現したかのような臨場感と空間を感じるミックス(というか録音)は素晴らしく、是非モニター環境を整えて聴いてほしい一曲です。
 ドラム好きにはたまらない一品です。

えなこ『アイデン貞貞メルトダウン』

 突如としてアニソンが出て来ましたが、筆者がちょっと前にハマっていたアニメの主題歌です。
 「どのような再生環境でも楽曲の雰囲気が変わらない」というのは理想的なミックスの一つの指標だと思いますが、この楽曲はどこで聴いても印象が変わらないのがすごいと思います。
 理想的なドンシャリ感で、特に低域のリズム感が気持ちよく、音圧感も曲調にふさわしい元気のあるもので、アニソンとしてバランスの良いミックスだと思います(若干最初の方針からズレている気もしますが)。

結束バンド『ギターと孤独と蒼い惑星』

 またもや流行のアニソンです。
 筆者はこのアニメは1話の途中までしか視てないのであまりくわしいことは知りませんが、おそらく女子高生がバンドを組む話だと理解しています。
 「コンセプトを適切に反映する」というのはミックスにおいて最重要の核となる部分だと考えていますが、この楽曲はあたかもスタジオに入って練習している時の音をそのままの録音ような、良い意味で荒削りのミックスで、特にドラムの音は筆者が昔スタジオでバンド練習していた頃を思い起こさせるような生々しさがあります(筆者はドラムでした)。アニメの趣旨を完全に反映した、非常にセンスの良いミックスだと思います。
 コンセプトに常に振り返りながらミックスすることの大切さを思い出させるという意味で、優れたリファレンス音源です。

ニルヴァーナ『Smells Like Teen Spirit』

 最早説明不要の伝説的超有名曲です。
 そもそも筆者はこの楽曲をリファレンスに使用していないので完全に趣旨から脱線しているのですが、ミックスというものを考える際にこの楽曲は本質的に深い背景を持っているように思うので、理念的な部分を整理する上で、あえて取り上げました。
 聴いて分かる通り、低域(ベースやキック)と高域(スネアやボーカルのプレゼンス)が強調され、中音域が控えめになった、いわゆる「ドンシャリ」的な加工感のあるミックスで、少なくともグランジ・ロックの文脈に沿ったミックスとは言いにくいと思います。結果としてこの曲は商業的に大成功を収めましたが、カート・コバーンは「商業的過ぎる」と不満を漏らし、後のアルバム「In Utero」ではスティーブ・アルビニによる、より生々しい、グランジ本来の文脈に沿ったミックススタイルに回帰しました。
 この曲のミックスが好きか嫌いか、と問われたら、私は「あんまり好きではない」と答えますが、そのような表面的な判断だけでなく、その背景にあるカート・コバーンの苦悩や商業主義との確執が、逆説的・アイロニックにこの曲の複雑なテーマをより強調する結果にもなっているように思います。
 考えれば考えるほど、深いですね。

おわりに

 以上、個人的なリファレンス楽曲を挙げてみました。
 もちろん、作っている楽曲の雰囲気に合ったリファレンス曲を選定することも大事ですし、定番のリファレンス曲や最近流行っている楽曲なども同時に参考にしますが、上記のように感情的な思い入れのある曲や好きな曲を参考にすると、モチベーションのアップにも効果的だと思います。

 あと、リファレンス楽曲というと普通は洋楽を参考にすることが多いと思いますが、自分はむしろ邦楽から探すことをオススメします。なぜなら邦楽は良いミックスと悪いミックスが混在していて、そこから良いミックスを探すことは耳の訓練自分の中の価値基準を固めるのにとても良いからです。
 また、悪いミックスのどこが悪いかを判断することは反面教師的な意味でも勉強になると思います。自分はミックス作業の時には良いミックスだけでなく、あえて悪いミックスの曲とも良く比較しています(具体例を挙げることはさすがにしませんが)。たとえば邦楽だと音像が潰れていて平面的で立体感のないミックスはかなりありがちなので、自分の楽曲のミックスで立体感がきちんと表現できているかどうかをチェックするのに、そういった曲とよく比較しています。
 spotifyなどではラウドネス値が揃えられているのでミックスの比較にはとても便利ですね。

 ご参考になれば。

まとめ

  • 自分のミックス作業時におけるリファレンス楽曲について紹介した。

  • リファレンス楽曲の選定には、ミックスの良さだけでなく、個人的思い入れなども重要になるかもしれません。

  • 良いミックスの曲と同様、悪いミックスの曲も参考になります。

  • 結局は「このミックス好き」という気持ちが大事だと思います!

追記

 リファレンス楽曲のSpotifyプレイリストを公開してみましたのでよろしければ参考にどうぞ。


★おまけ★

 筆者のモニタリング環境には以下の自作音場補正プログラムを使用しています。
 (比較したわけではないので完全に独断ですが)ARC STUDIOやSoundID Referenceよりも音楽的で聞き心地の良い、かつ恣意性を排した理論に裏打ちされた適切な補正ができているのではないかと勝手に自負しています。

 導入が若干面倒くさいですが、完全無料なので、もし興味があったら試してみてください(布教)。


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