【DTM】ミックス作業において大事な事総まとめ_Ver.1.01(2025.01.29)
この記事はなに?
備忘録もかねて、DTMのミックス作業時に大事なポイントを、わかりやすく整理しつつ、ひたすらまとめました。
ミックス作業について、要点をざっと確認したい、整理したいDTMerの方などの参考になれば幸いです。
たぶんこの記事は、今後筆者が新しい知見を得る毎に随時改訂してブラッシュアップしていくことになると思います。なので最後に記事のバージョン情報をまとめています。
なお筆者は趣味のDTMerであり、ミックスエンジニアでもなんでもありません。
参考までに、筆者の作る楽曲は歌モノのバンドアレンジが主で、基本的にすべて打ち込みです。
寄付用に有料記事になっていますが全部無料で読めます。
1. ミックスの準備・前提
ミックス作業を行う上で、前準備・前提として重要なポイントを重要度順に以下に並べます。
重要1◆楽曲のコンセプトを正しく理解する
ミックスの前提として最重要となる事は「楽曲のコンセプトを正しく理解する事」です。
たとえばクラシック音楽にコンプをかけまくって音圧マックスに仕上げるのは変ですし、アナログ感を活かしたナチュラルサウンドのデスメタルはおかしいと思います。
どんなに高品質なモニタリング環境を整え、優れたバランス感覚をもったプロフェッショナルなミックスを行おうとも、この根本部分がずれていては話にならないと思います。
ミックスが目指すべき方向性をまずはっきりさせ、ミックス中は常にコンセプトに振り返りながら脱線せずに歩を進めることが何よりも重要です。
重要2◆モニタリング環境を整える
次に大事なことは適切なモニタリング環境を構築することです。
ローエンドが再生できない環境でローエンドの調整をすることは不可能ですし、定位が不安定でディップだらけの周波数特性をもったスピーカーで左右の音量調整やパンニング、EQを適切に行えるとは思えません。
特に自宅などでモニタリング環境を整える際、スピーカーの音場補正はほぼ必須です。手頃な価格帯だとARC StudioやSoundID Refecenceなどが有名です。なお、筆者による自作音場補正プログラムは無料で試せる最高の音場補正の選択だと自負しています(宣伝)。
また、スピーカーやヘッドホンだけでなく、スマホやラジカセなど、複数のモニター手段をもつ、ということも重要です。高品質なモニタースピーカーやヘッドホンと同等以上に、スマホと安いイヤホンはモニタリング環境として重要です。
筆者はミックスの際は定期的にベッドに横になってリラックスした状態でスマホ+安いイヤホンで音を確認します。モニタースピーカーやヘッドホンでは気がつかなかったミックスの粗が、なぜか不思議とわかることが多いです。
重要3◆リファレンス音源を複数用意する
ミックス作業において客観性を維持することは非常に重要ですが、ミックス中はずっと同じ楽曲の音ばかり聴き続けることになるため、耳がそれに慣れてしまってバランスの悪さなどに気づきにくくなります。また、体調や耳の疲れ具合などによって、音の主観的な聞こえ方は常に変動し続けます。ある時にはクリアに聞こえていた音が、ある時にはやたら曇って聞こえることはよくある事です。
複数のリファレンス音源と常に比較しながら作業を行うことで、自分のミックスの音を相対化し、客観性を維持することができます。
◆その他
上記3つはミックスの準備・前提として最重要となる項目ですが、他にも重要な点として以下が挙げられます。
・DAW内でのトラックの整理、命名
ミックス作業を始める前に、まずDAW内でトラックを適切に命名したり、フォルダーやバストラックにまとめたり、色分けしたり、といった整理整頓をすることを強く推奨します。これは、作業の効率化や視覚的わかりやすさ、ミスの防止などのために非常に重要です。
筆者は物事を階層的に整理整頓する作業が異様に好きな変人なので、長らくテンプレートを使わずに毎回1からやっていましたが、常識的にはテンプレートを作っておくと楽です。
色分けにセンスのよい配色を使うとか、トラックの命名規則の統一とか、そういう見た目や体裁部分が意外と制作モチベーションアップなどにも重要だったりします。筆者は「ベーストラックの色は紫」など、謎のこだわりがあります。
・フォルダ管理
楽曲やプロジェクト毎にフォルダを作って、DAWに取り込むwavファイルなどはわかりやすくまとめておきます。
PC内の適当な場所にある音源ファイルをそのままDAWにドラッグして取り込むようなことをしていると、後で参照ファイルが行方不明になったりして痛い目にあうことがあります(経験者)。
・バックアップとバージョン管理
定期的なバックアップ、リビジョンの管理はいざというときの備えとして重要です。筆者もこれに救われたことは数知れません。
なにか実験的なことを試したいときなどは、別名で保存して、失敗した時は元に戻せるようにすることが重要です。
・楽曲のブロック、構造の整理
楽曲のブロックや構造をわかりやすく整理しておくのも重要です。
たとえばStudio Oneでは目印としてマーカーを設置できるので、「Intro」「1A1(1番のAメロその1の意味)」などと展開やブロックごとに印をつけておくと良いでしょう。
・ゲインステージング
各トラックの音源の音量(フェーダーではなく、その前段階)を適切なレベルに調整します。
プラグインを通す際の入力レベルの最適化や、クリッピングの防止など、テクニカルな部分で色々と重要なのでミックスを始める前には必ずやっておく習慣をつけることを推奨します。VUメーターを使うのがオススメです。
詳しくは検索するかChatGPTに聞いて下さい。
・コミュニケーション
筆者は作曲からマスタリングまで全部一人でやっているので該当しませんが、複数人で作業を分担する場合は、楽曲のコンセプトや方向性など、十分なコミュニケーションをとってすりあわせを行うことが大切だと思います。
「プロだから大丈夫だろう」と、ろくに意思疎通もせずに後工程に丸投げするようなことをすると意図と異なった仕上がりになるリスクがあるので、リファレンス音源を共有したり、楽曲の方向性をきちんと伝えたり、途中経過を共有してフィードバックを入れたり、といった意思疎通をきちんとするべきです(音楽制作に限りませんね)。
2. ミックス作業
★ミックスの本質★
ミックスの本質は「バランス調整」です。
楽曲のコンセプトを活かし、楽曲の魅力を最大限に発揮させ、リスナーにとって聞き心地の良い音のバランスを実現することがミックスの目的です。
以下に、ミックス作業において重要となる様々な「バランス」の観点を、重要度順に並べます(なお3と4の順番については人によって意見が異なるかもしれません)。
重要1◆フェーダーのボリュームバランス
ミックスにおいて最重要かつ真っ先に行うべきバランス調整は「フェーダーのボリュームバランス」です。
よく「録音がよい音源はフェーダーバランスを適切にとるだけで曲として成立する」というようなことが言われますが、フェーダーバランスというのはそれくらいミックスにおいて本質的です。フェーダーバランスが適切であれば、エフェクトをほとんど使わなくても曲として十分成立することがあるのです。
もちろん楽曲によって異なりますが、スタンダードな歌モノ・バンドものアレンジの場合、フェーダーバランスの核となるのは以下の4つです。
・キック
・スネア
・ベース
・ボーカル
まずはキックの音量を固定し、(ここは人によって順番は異なるでしょうが)筆者の場合はスネア、ベース、ボーカルといった順番でバランスを整えていくことが多いです(筆者はドラムとベースが曲の主役であり、ボーカルは補佐役、みたいな世界観なのでこの順番ですが、ボーカルが主役だと思っている人はキックのあとにボーカルを調整するのがいいと思います)。
この4つの要素を核としつつ、他のトラックの音量を適切に調整していきます。
また、調整の際には普通、曲の最も盛り上がる部分を聞きながら調整します。具体的にはラスサビです。
重要2◆周波数バランス
2番目に重要だと考えられるバランスは、周波数のバランスです。
よく、ミックス作業をお弁当箱におかずを詰めていくことに例えることがありますが、実際、ミックス作業ではそれぞれの周波数域にそれぞれの楽器をバランスよく詰めていくことが、音の明瞭さを確保する上で重要です。
ある意味パズルのようなものでもあり、ミックスにおいて面白いポイントの一つだと思っています。
以下、それぞれの周波数域に対する筆者の見解を述べていきます。
・低域(20Hz~100Hzあたり)
人にもよるでしょうが、筆者はまず低域からバランスを整えていくことがほとんどです。特にローエンドにおいてキックとベースを棲み分けて、キックのアタック(胸に「どっ」とくる感じ)がしっかり感じられ、かつベースラインもしっかりみえるようなミックスが筆者の最近の好みです。
なおspotifyなどでは恐ろしいことにローエンドをほとんどまったく処理していないと思われる楽曲に出会う事があります。ローエンドがきちんと聞こえるモニター環境を整えることは大事です。
・中低域(100~300Hzあたり)
中低域はこもりの原因になりやすいので楽曲によっては抑え気味にしてドンシャリ感を出すアプローチも多いですが、筆者はこのへんのウォームさがある程度感じられるミックスも好きです。もちろん、大事なのはバランスだと思います。
なおカットしすぎると音がペラペラになります。
・中域(300~2kHzあたり)
中域は楽曲の芯や存在感を決める重要な帯域です。ただ、ギターやピアノやボーカルなど、多くのパートが密集しやすい帯域なので、EQで調整する際には帯域毎に優先順位を決めて聞かせたい楽器を目立たせることが重要だと感じています。
なお筆者は細かいEQを書くことに対して関心が薄いので、中域はあんまりいじらないことが多いです。その代わりにパンニングや奥行きなど、他のアプローチで楽器の棲み分けをすることを好みます。
・高域(2kHzあたり以上)
高域成分については、楽曲の開放感や煌びやかさに影響する部分ですが、耳障りな成分も含むので、ピンポイントで耳障りな帯域を抑えるなどの処理を適宜取り入れることも大切だと感じています。
筆者は黒板をひっかく音や野生動物避けの高周波音にかなり敏感な体質なので、このへんは気を遣うようにしています。
重要3◆オートメーション(時間・展開におけるバランス)
3番目に重要なポイントとして、筆者はオートメーションを挙げます。すなわち、曲展開にあわせた、時間軸における音のバランスの調整です。
オートメーションはほとんどクラシックの指揮のようなものです。これはミックス作業の中でも最も楽曲に対する深い理解が必要な作業であり、同時に最も創造的な、クリエイティブな作業です。なので私はオートメーションは可能な限りエンジニアではなくアーティスト自らが書くべきだと考えています。
オートメーションというとボリュームやパンの調整、エフェクト的な効果のために一時的に入れるローパスフィルターのオンオフ、などが思い浮かぶかもしれませんが、Studio OneなどのDAWではほとんどあらゆるプラグインのあらゆるパラメーターに対してオートメーションを書くことができます。
そしてこのオートメーションを曲展開に合わせていかに丁寧に入れていくかが、アマチュアっぽい楽曲とプロっぽい楽曲の差をつくるひとつの決定的に重要なポイントなのではないかと、筆者は考えています。
筆者の理解では、理想的には各トラックに挿しているすべてのプラグインにおけるすべてのパラメーターについてオートメーションを書くべきだと考えています。
もちろん、そんなことは現実的にほとんど不可能なので、現実的な妥協として、その中から最も効果的な要素をいくつか選別してオートメーションを書きましょう、というのが、筆者のオートメーションに対する考え方です。
ここに決まったセオリーはないと思うので、思いつく限り色々なパラメーターを試したり実験してみることが大事だと感じています。
また、オートメーションに多層性をもたせる、という視点も重要です。
たとえばサビを盛り上げたいからといって、オートメーションでサビのボリュームをいきなり5dBも上げてしまうとかなり不自然になるでしょう。
たとえば、ボリュームを0.5dBほどあげ、他にもステレオイメージをちょっと広げる、リバーブの量をちょっと調整、コンプで音圧をちょっと上げる、等々、さまざまな方向性から多層的に、少しずつ変化をつけることで、「リスナーにバレずに」曲展開に応じて雰囲気をがらっと変えることができます。
そして、オートメーションを書く上で重要なのはなんといってもストーリーテリングの能力です。
楽曲の展開にあわせてどのようにリスナーの感情的な高揚を変化させていくか、というシナリオデザインをしっかり頭の中でイメージし、構築することが重要です。
そして何より、実際に自分で聴いてみて楽曲の盛り上がりに感動できることが重要です!
なお、重要度としては3番目に挙げましたが、順番としてはオートメーションを書く作業はミックスの最終段階で行うのが無難です。
重要4◆空間配置におけるバランス
4番目に重要な項目として、筆者は空間配置のバランスを挙げます。
よくミックスにおいて「3×3マスの意識」とか「3×3×3マスの意識」とか言われることがありますが、空間配置とは要するに以下の3つの自由度(次元)をもった音響空間に音を配置していくことを意味します。
・音の高低の軸
・左右のパンの軸
・音の奥行きの軸
以下、それぞれの軸に対する考え方について、筆者の見解をまとめます。
・音の高低の軸
物理的にどういう理屈でそうなっているのか筆者はよく分かっていないのですが、不思議なことに、楽曲において高い音は上から鳴っているように聞こえ、低い音は下から鳴っているように聞こえます。
この現象が音の高低の軸を形成します。
この軸については重要度順に考えると、すでに周波数バランスの部分で調整していると思いますが、たとえば中域においては楽器が詰まっている状態があると思います。
そこで、以下の二つの軸を使って楽器を棲み分けることが考えられます。
・左右のパンの軸
一般的なステレオ環境では左と右の二つのスピーカーから音がなっている場合が多いです。これに合わせて左右二つのチャンネルをもつ音源を作っていくのが、いわゆる「2mix」です。
左と右のチャンネルで鳴っている音を変化させることで、横軸における音像の広がりが表現できます。
これにより、左右のパンの軸というものが形成されます。
これについては「重要2◆周波数バランス」で少し触れましたが、例えば中域において楽器が密集しやすいので、ギターのパンを左右に振って棲み分ける、などの方法が一般的によくとられる方法です。
なお筆者はドラム経験があることから、ドラムキットのパンを広めにとって、あたかもドラムキットが楽曲全体を包み込んでいるような音像を形成するのが好きです。
・音の奥行きの軸
もっともわかりにくいのが、この奥行きの軸です。
そもそもスピーカーには左と右のふたつしかないのに、どうやって奥行きなどというものが生まれるのでしょうか?
これは人間の音響心理学とかそういうことも関与しているのだと思いますが、たとえば人間は大きい音を近くに感じ、小さい音を遠くに感じます。反響が大きい音は遠くに感じ、小さい音は近くに感じます。くっきりとした音は近くに感じ、ぼんやりとした音は遠くに感じます。高域をカットした音は遠くに聞こえます。等々。
このような効果が組み合わさって、楽曲にはあたかも奥行きという次元が成立しているように、人間は感じます。
このような複雑な要素が組み合わさって奥行きは表現されるため、実際、わりと意識的に考えてつくらないと、奥行きは表現しづらいです。
なんでもかんでも前に置いて良く聞こえさせようとするのではなく、「この楽器の音は少し後ろにひっこめよう」「ボーカルのハモりは後ろに配置しよう」というイメージをもってコンプで潰すなりリバーブを加えるなりして、意識的に奥に配置して前後感を表現していくことが重要です。
なお、筆者の方法としては、まずドラムキットの立体感を作る事を重要視します。特にスネアを若干後ろに引っ込めるのが「包み込むような」ドラムキットの音像をつくるひとつのコツです。
重要5◆音圧感のバランス
最後に重要なポイントとして、音圧感のバランスを挙げます。
筆者はよく知りませんが、数々のネット上の伝承や歴史的書物によると、その昔、音楽界には「音圧戦争」なる戦乱の時代があったらしいです。
その時代には、音圧が高い曲こそが「最強」とされ、それぞれのエンジニアは最強を目指して音圧を高めるために、日々戦いや修行に明け暮れていたらしいです。
よくわかりませんが、たぶんドラゴンボールとかの影響だと思います。
現代においては、音楽はspotifyなどのストリーミングサービスで配信されることが主流となり、そこでは「ラウドネスノーマライゼーション」といった規格が採用されていることがほとんどとなりました。
これは、それぞれの楽曲の主観的な平均音量を強制的に揃えて、リスナーが曲によって音量ダイヤルをいじらなくてすむようにする、という画期的な規格です。
これにより、音圧戦争の時代は終焉を迎え、「音圧」という概念は「高ければ高いほど最強」という脳筋的なものから、「楽曲やジャンルによって適切にバランスをとるもの」という現代的な概念に変化しました。
音圧を高くすれば、それだけ音が潰れてダイナミクスが犠牲になります。特にダイナミックレンジの広い楽曲では、過剰なコンプレッションでダイナミクスが失われないようにすることが、現代ではより重要となって来ています。
ということで音圧については、楽曲のコンセプトやジャンルによって、マルチバンドコンプなどによって適切な音圧感に調整することが重要です。
例えばメタルやEDMなどでは音圧感高めに調整し、逆に生ギターの演奏やジャズっぽいアレンジなどでは音圧感抑えめの自然で加工感のないミックスがより適切でしょう。
なお筆者はオートメーションを使って音圧感を曲展開によって変化させる、ということもしています。
3. その他雑記
その他思いついたことを以下にまとめます。
◆一人で全部こなす際の強みと効率的な進め方
一般に、楽曲の制作は「作曲」→「アレンジ」→「打ち込み・録音」→「ミックス」→「マスタリング」といった流れ作業として理解されます。
しかしこれはあくまで分業制が確立した商業形態での話であって、一人で全部こなす趣味のDTMerがこのような慣例をわざわざ守る必要性はないと考えます。
実際、筆者が楽曲を制作する際にはアレンジ・ミックス・マスタリングといった工程がごちゃ混ぜになっていて、常に行ったり来たりを繰り返しています。
これは合理性や効率性を追求した結果です。
たとえばミックス中に周波数バランスが悪いと感じたとき、アレンジに問題がある場合も多々あるので、ミックスでどうこうする前にアレンジに戻って修正することでより本質的な改善が可能です。
また、ミックスの初期段階でマスターバスにOzoneをとりあえず仮で挿すことで、完成系の音像を最初からイメージしながらミックス作業を進めることができます。
よくありがちな、ミックスの問題をマスタリング段階でなんとかしようとするような非合理的な行為も避けることができます。
一人で全工程をこなさなければならない趣味のDTMerの方は、その強みを最大限に活かした作り方をするのが良いのではないか、というのが筆者の意見です。
◆小技やテクニック
ミックス作業は無数の「小技」や「テクニック」の集積でもあります。たとえば「アタック遅めでコンプをかけてトランジェントを強調」とか「異なった種類のリバーブを多重にかけて空間を表現」等々。
プロのミックスエンジニアはこのような様々なテクニックを現場で学ぶのでしょうが、我々趣味のDTMerはそういうことができないので、ネットや書籍で調べるか、あるいはスクールで学ぶか、自分で試行錯誤して開発していくしかないと思っています。なので普段からの情報収集や試行錯誤が大事です。
また、ChatGPTやDeepSeekといったLLMは、色々テクニックを知っているので教えてもらうとよいと思います。たとえば「ミックス作業において、ピアノの高域がやや耳障りなので、高域の煌びやかさを維持しつつ耳心地のよい音に改善するアプローチをまとめてください」など。
嘘を言うこともあるかもしれませんが、それは実際に試して確認すればいいだけの話です。
◆「相対性」という視点
ミックスにおいて「すべては相対的に決まる」という視点をもつことは重要です。
たとえば、前に出したい要素、強調したい要素があるときは他の要素を下げる、抑えることでその要素を相対的に前にだす、という視点が有効です。
サビを強調したい時はBメロの音量をオートメーションで抑えることが効果的ですし、ボーカルを前に出したいときはたとえば他の楽器をコンプで潰して後ろに配置することで奥行き感が出ます。楽器の高域を強調したいときは低域をシェルフで抑えたりローカットすることで、より音が際立つでしょう。
◆有料プラグインについて
特に初心者の方において、「有料プラグインを買った方がいいのか」というのは良くある悩みだと思います。筆者の見解は以下です。
まず、プラグインエフェクトはDAW付属のものや無料のプラグインでも十分高クオリティなミックスができると考えます。筆者は今でも主力のEQは無料のもの(TDR Nova)を、リバーブやディレイはDAW付属品を使用しています。このへんについてはプラグインの良し悪しよりも、むしろ使い方や創意工夫が重要だと感じています。
ただしコンプレッサーは質感が結構変わるので、良いのを買った方がいいかもしれません。別に高いのじゃなくていいと思います。できるだけ定番のものを選ぶのがオススメです(筆者はセール中に購入したVoosteQ Material Comp、Shadow hills Mastering Compressorなどを愛用しています)。
音源については、DAW付属音源や無料の音源ではどうしても限界があるので、有料プラグインを少しずつ導入していくことを推奨します。
何から買えばいいか分からない人はまず良質なドラム音源を入手するのをオススメします。筆者のオススメは近年何故か異様に安売りされているBFD3です(サウンドハウスで確認したら6千円になっていました。イカレています)。
◆プラグインエフェクト使用時のポイント
プラグインエフェクトを挿した時は、必ずエフェクトを通る前後で音量が同じになるようにボリューム調整することが大事です(大抵のプラグインはゲイン調整できるようになっています)。
なおこの音量は「何dB」とかいう数字ではなく、実際に耳で聴いて同じくらいの大きさの音に感じる、という意味での音量です。
例えばコンプをかけた際、コンプの前後で音量が異なるとコンプによって音の質感がどう変わったのか判断がつきにくいですし、せっかく調整したトラック間の音量バランスも崩れてしまいます。
あと意外と見落としやすいですが、EQをかけた後も音量が変わるのでやはり調整が重要です。
◆MS処理とモノラル互換性
ミックスにおいて、MS処理はよく議論に上がるポイントだと思います。実際、これは注意が必要な処理です。
ネット上の記事によっては「MはMid成分」「SはSide成分」「Side成分を上げることで手軽に音像を広げることが可能」などと雑に解説されることもありますが、実際はMS処理はリスクを伴う処理です。
より正確には、Mは「モノラル再生時に残る成分」、Sは「モノラル再生時に位相が打ち消し合って消える成分」です。
モノラル互換性を高めるためにS成分を減らすとステレオ再生時に音像の広がりがなくなりますし、逆に音像を広げるためにS成分を増やすとモノラル再生時にミックスが破綻するリスクが生じます。
なのでここでもバランスが大事です。
ステレオイメージャーによっては(特にOzone Imagerなどの現代的なプラグインでは)、位相以外の方法(たとえば時間をずらすなど)によって処理を行っている場合も多く、比較的モノラル互換性を保ったまま音像を広げることができる場合も多いですが、完璧ではありません。
MS処理に限らず、ステレオイメージをプラグインで操作する際は、モノラル互換性を常に耳で確認する事が大事です。
それから若干話がそれますがMS処理に関連する話として、特に邦楽においては音像を広げようとサイド成分を持ち上げて中央を潰すような処理をした結果、ミックスが平面的になったりボーカルが引っ込んでしまっている楽曲がありがちな気がします。
いずれにせよ、バランスが大事です。
◆ローカット問題
たびたび話題になることで有名な「ローカット問題」について、筆者の個人的な見解です。
筆者は比較的タイトな低域や明瞭な分離感を好む傾向にあるので、必要であればローカットは積極的に行う派です。
しかし、もちろん「とりあえずローカット」のような安易な考え方には反対です。
常にリファレンスと比較したり耳で全体バランスを確認しながら、楽曲のコンセプトや求める音に近づくために、必要に応じてローカットで低域を整理することが重要です。
例えるなら、ロー成分は髪の長さのようなもので、髪が長いとか短いとかはあくまで好みの問題だと思いますが、無造作に整えずに放置された髪はやはり不潔でよろしくありません。
長髪にするにせよショートカットにするにせよ、「キャラに合わせてきちんとデザインして整える」という視点が重要だと考えています。
◆ミックスの完成はいつ?
「ミックスを行っていると、どこが完成かわからない」というような悩みはたまに聞かれますが、一般にかける時間と作品の品質は対数関数や逆指数関数の形で現されると考えられます。
すなわち、たとえば80%までもっていくのには数時間しかかからないが、90%までは3日かかり、99%までもっていくのには数週間かかる、というようなイメージです。
なのでミックスを行う際には、まず最初に「この楽曲にどの程度の完成度を求めるのか?」ということを決めておくと良いと思います。
なお、筆者は「ディープミックス」という方法論を用いて、自作曲においてかける時間と作品完成度にどのような関係があるかを実際に検証してみました。
あくまで筆者の感覚ではありますが、趣味のDTMerとしては以下のような感覚をもっています。
・YouTubeなどにアップできるレベルまで一通り完成:3日程度
・商業作品と遜色ないレベルまで完成:1~2週間程度
・徹底的にこだわって自分が満足できるレベルまで完成:1ヶ月程度
ご参考になれば。
この記事のバージョン
たぶんこの記事は、今後筆者が新しい知見を得る毎に随時改訂してブラッシュアップしていくことになると思います。
以下にバージョン情報をまとめます。
Ver.1.02 (2025.01.30):「ミックスの完成はいつ?」節を追加。
Ver.1.01 (2025.01.29):誤字などの微修正、spotifyプレイリスト画像追加、コミュニケーションに関する記述を追記、オートメーションに関する記述を追記。
Ver.1.00 (2025.01.28):記事を新規作成・公開
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