第二十一回「夏の思い出(前編)」
8/24
あおいちゃんのお誘いで、盛岡BeOneBoxのオープンマイクに行く事になった。オープンマイクってのは、出演者が決まってるライブではなく、その場に集まった人たちが1人2.3曲くらいでステージを回すというもの。事前に出演者が全くわからないということに少々敷居の高さを感じていたものの、前から興味はあったのでこれを機に行ってみることにした。
いつもより早めに出かける準備を済ませ、バスで市内へ向かっていると、国道沿いにバカでかいブルーシートを広げてゴロゴロとした球体を並べているおじさんが目についた。球体は大小様々な形の毒々しい縞模様。
あれはスイカだ!!
俺は思わずバスを降りた。
夏といえば、スイカ。俺は「一夏に一回は大きなスイカを食べる」をモットーにしているのだが、今年はまだミッションが未達だった。よし、これをライブ会場に手土産として持っていって、居合わせた人たちみんなで食べよう。蚊取り線香の匂いとギターの音色を一杯に浴びて、過ぎゆく夏に想いを馳せよう。気分はもう夏の終わりだった。フジファブリックの「若者の全て」のメロディが頭を流れた。
スイカおじさんから、大きくて実が熟してそうなスイカをゲットして、俺の心はすでに興奮で一杯だった。しかしその5分後、それは絶望に変わる。スイカを入れた袋の持ち手が、スイカの重量に耐えきれず破けてしまったのだ。
実はスイカを受け取った瞬間からこうなるような気はしてた。というのも、渡された袋がやたら貧弱だったのである。おじさん、もう少し立派な袋にしてよ…
おかげで俺は3kgはあるであろう球体を小脇に抱え、そのままバスに乗るハメになった。スイカを小脇に抱え、ギターケースを背負った男。髪の長い頃なら確実に新手の変態だと思われたことだろう。
バスの車内は、少し青臭いスイカの匂いに包まれていた。夏は、確かにこの手の中にあった。
ステージの開演までに時間があったので、肴町にあるいきつけの喫茶店で昼食をとった。いきつけにしている理由は席でタバコが吸えること(人が少ない時限定)、コーヒー豆がたくさん置いてあること、そもそも人入りが多くなく、のんびりできること。俺がスイカを抱えて参上したことについてマスターは何も突っ込まず、無言でコカコーラの灰皿が出てくる。そういうとこが好き。ここで夕方まで存分に時間を潰そうじゃないか。
さくらももこの「さくらえび」を読んだ。最近の好みは小説よりエッセイ。スラスラ読めちゃうし一つの話が短いので、飽きっぽい人にもおすすめ。本も曲も、短ければ短いほどいいですからね。いや、どっちの良さもあるか。ごめんね。
ここで余談だけど、みなさんは家族の前でおならが出来ますか?
「する派」の人は当たり前にするものと思ってる人が多いが、「しない派」の人はなんとなく家族みんなしないから、しない。でも当たり前におならをする家族が多少羨ましい、と思う人が多いらしい。割合でいえばする派6割、しない派4割くらいなんだって!
ちなみに本書では、さくら一家は断然する派で、本人はでかい屁をしようとしたせいで、間違ってうんこを漏らしたことがあるらしい。馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。
俺は家族の前でおならをたぶんしない。正確には昔はできていたような気がする。
さくら一家について、とりわけ父ヒロシについてを少し。ちびまるこちゃんの父、ヒロシは大雑把で適当、3歩歩けば嫌なことも忘れる。ついでに大事なことまで忘れる。それを悪びれることなく、調子よくいつも笑っている。このエッセイを読むと、俺にはヒロシの気持ちがよく分かる。たぶん意識しなければ、自分もきっとこんな感じなんだろうと思う。てるは、無神経でズボラで適当だよね!ってのを知ってる人は昔からの友達か、よっぽど洞察力がある人だと思う。(それか仲良くなるにつれ、無意識にそういう部分出ちゃってるかも)
俺はそんな自分の性格を恥じてしまった。思慮深く、他人を思いやれる人間になりたいと思ってしまった。それまで大好きだった自分のことが大嫌いになって、俺は変わってしまった。
だから今、家族の前でおならが出来なくなってしまったんだと思う。
ある人が「てるは、不完全な自分を変えようともがいてる姿がかっこいいよ」と言った。その時はその言葉に救われて、やっぱり間違ってないんだ!と嬉しくなったけど、今少し立ち返って考えてみる。
変わろうとする自分、意識して変わった自分を見てくれる人はいるけど、無意識でいる素の自分を愛してくれる人はいるのかな。
少し怖くなる。自分のことなんて自分が一番わかるはずなのに、突然わからなくなることもある。ありのままの自分ってなんだ?自分を偽らないことが正義とされてるこの世界で、俺はそういう意味では自分を偽りまくっている。
そう考えてる全部を含めて、それが自分だよ、なんて優等生的解答はいらないぜ。
たかがおならの話で真剣に考え込んで、気づけばちょうど良い時間になっていた。マスターに破れたスイカの袋を包装し直してもらい、多少持ちやすくなった。ありがとうマスター。ただこれ引き出物みたいだね。
俺には、馬鹿馬鹿しさが足りてない。
長くなりそうなので、ここら辺で一旦。
後半へつづく。(CVキートン山田)