
川口ゴールデンドリームス・山本一真投手インタビュー(後)
今年、創部15年目で全日本クラブ野球選手権本選出場を果たし、全国ベスト8という戦績を残した川口ゴールデンドリームス。
先日は、豊山裕憙キャプテンにチームの歴史と、ご自身の野球人生について語っていただきました。
もっと、「川口ゴールデンドリームス」について知りたくなった私は、クラブ選手権出場に大きな貢献をされた3人の選手に、ご自身の野球人生と、川口ゴールデンドリームスについてのお話などを伺いました。
第二弾として、山本一真投手へのインタビューをお届けします!
またもや、大変お話が盛り上がりましたので、前後編でお届けいたします。
本日は後編です。山本投手の視点から見た川口ゴールデンドリームスの今年の躍進、トラッキングデータへの考え方や取り組み、今後の野球人生などについてふんだんに語っていただきました!
(文中における人名は敬称略のことがあります)
PROFILE
やまもとかずま◎1998年生まれ。札幌日大高〜北海道教育大旭川校〜ウイン北広島〜アジアンブリーズ。北海道教育大旭川校では投手のほか、学生監督をつとめた。川口ゴールデンドリームスでは主戦投手の1人としてフル回転し、クラブ選手権初出場に貢献した。
(本稿の取材にあたり、ぶるっく(X(旧Twitter)ID: @buru_photo)さんに多大なご協力をいただきました。ありがとうございます!)
野球を探究し、深めていくなかでトラッキングデータを使っていく
――チームの躍進の背景には、根上さんのnoteや、豊山さんのお話にあったトラッキングデータの活用もあったと思います。山本さんが行った、トラッキングデータの活用について教えてください。
山本さん
私個人としては、変化球の習得というところで活用しました。
去年の冬の時点で、スライダーをもっとよりよくしないと通用しないなと思っていました。よりキレて、スピードも速いスライダーにしたいなと。とにかく投げて、数値を見て、改善して…を繰り返し、自分の理想の数値が出るようなスライダーにしました。
もう1つは、自分の調子を見るパラメーターという点はあるかなと思っています。
例えば、ストレートを投げたときに、フォームが崩れていたり、「なんか感覚がおかしいな…」となると、ボールにもきちんと出るなと思っています。私はシュート回転するストレートを投げますが、調子が悪いときはスライドしていたりとか。こういうことも、トラッキングデータがあると数値や視覚で見ることができます。「スライドしているから、シュート方向にもう一度戻そう」といった診断ができるなと。
――スライダーの改善について、もう少し詳しく教えていただけますか。
山本さん
大きく3つあります。
回転軸、回転数、球速の3つを改善したいと思っていました。
従来の私のスライダーは球速が出ず、スライダーというよりもスラーブのような、カーブっぽい膨らみのある変化でした。これをいわゆる「スラッター」、カッターに近いようなもっと速い変化にしたいと考えていました。それまでは、回転軸としてはジャイロ回転というよりは、投手の目線から見て一塁側ベンチを向くような軸で回転していましたが、それをいわゆる「真ジャイロ」、真っすぐのジャイロの回転にしました。持ち方も変えて、回転数ももともと1900回転だったものを、2100回転程度にして、球速も110キロ台だったものを130キロ程度にしました。クラブ選手権の1回戦の弘前アレッズ戦でもスライダーが通用し、「このくらいの速さが出れば全国でも空振りは取れるな」と感じましたね。
2023年春の一球幸魂倶楽部戦の時点では、真っすぐとチェンジアップしかなく、「これでは長いイニングは投げられない」と思っていました。もう一球種増やさないと、と思い、スライダーを作っていきました。
スライダーはもっと改善したいですね。川口ゴールデンドリームスの奥田(真悟、注25)のスライダーは、2400回転ですので。
(注20)奥田真悟…池田高~関大(準硬式)~八尾ベースボールクラブ。現川口ゴールデンドリームス投手。
――野球人がトラッキングデータを使う意味について、山本さんのお考えをお話いただけますか。
山本さん
勝つための野球という枠組みと、趣味という枠組みで使い方が変わってくると思います。
まず勝つためということについて。より野球に専念できる環境があって練習時間が長く、強いチームがあるので、そのチームとの練習量による力量の差を埋めていかないといけない。ただ、これは、同じ練習法では埋まらない気がしています。力量の差を埋めようとすると、数値とか科学とか、そういったものを使って、効率的に練習することは避けて通れないと考えます。練習量の差を埋めるツールとして、使う意味があるのかなと。
ただ私の場合、その感覚はありつつも、どちらかというと趣味としてやっているところもあります。
今のクラブ野球をやっていると、「野球を20数年やっているにも関わらず、野球について分からないことだらけ」ということが面白いなと思っています。スライダーについては「なんでスライダーは上手く投げられないのだろう」と高校や大学の時から思っていました。これが社会人になって、やや身体が動かなくなってきているのに、それっぽいものが投げられるようになった。こういう面白さや、改良・改善、探究できることに気づきました。その面白さを与えてくれたのがラプソードだったなと思っています。趣味の範囲内では、野球を探究し、深めていくなかでトラッキングデータを使っていくというやり方はあるのかなと思っています。
――今年、チームは躍進しましたが、トラッキングデータ関連以外で、何か練習で変えた面はありましたか。
山本さん
あります。
去年の冬場から、身体づくりをしっかりやりました。キャッチャーの小澤さんがパーソナルトレーナーで、トレーニングメニューと食事について、小澤さんの言われた通りにやりました。私の場合はかなり減量しましたし、トレーニング内容も、プロのトレーナーの目線から見てちゃんとした、もっと厳密なものとしました。また、今では挙上速度を測る機械もありますので、どれくらいの重さを上げられるかだけではなく、どのくらいのスピードとかパワーがついたかというアプローチもいれました。かなり、身体周りのアプローチやウエイトトレーニングはちゃんとやったかなと思っています。
――去年の冬から「全国に行きたい」といった目標があったのですか。
山本さん
全国に行きたい、といったことまでは見えていなかったですね。自分の役割が精いっぱいであったので。去年までは抑え役でしたが、今年は、自分が先発でイニングを投げないとチームは勝てないと思っていたので、先発できる身体とコマンドをつくろうという意識がありました。だからスライダーを作ったり、減量してもっと動ける身体にしたりしました。「まず先発でイニングを食うぞ!」というのが目下の目標でしたね。
社会人になって、こんな美味しい思いできるんだ
――普段の練習について教えていただけますか。
山本さん
基本的には、水曜日と、土曜日か日曜日のどちらかが練習ですね。
水曜日は、21時半から越谷の室内練習場で1時間半練習します。室内練習場なので皆バッティングをしたり、私の場合ピッチングやウェイトトレーニングをします。
土日は、どちらかが試合もしくは練習です。そして、終わった後に川口市の市民体育館に行きます。
上記以外の曜日は、食事に気を付けつつ、ストレッチと身体のケアを行っています。
土日の、野球をやってない方の曜日は、吉村(慎ノ介、注26)とAPEXの通信のゲームをしています。
週2で十分だと思って、あえてこのスパンにしています。これが一番続けやすく、仕事にも圧迫感なく続けられますので。そのなかでもきちんと練習すれば、ちゃんと筋肉痛や疲労感も残りますから。そのなかで一日一日追い込んでいけば、技術は上がっていくなと。
(注26)吉村慎ノ介…札幌日大高~日大。現川口ゴールデンドリームス外野手。
――今年のクラブ選手権予選で一番大変だった試合はどの試合ですか。
山本さん
どの試合もしんどかったですが、埼玉予選初戦のレジェンズ戦が一番しんどかったですね。1点差でしたから。チームをいい感じにしてきて、皆頑張って来たのに、「うわーここで終わんのか…」と思っていたら勝てた。逆にいえばそこを勝てれば、全大宮野球団や新波には負ける気はなかったです。いい試合はするだろうなと。
その試合に先発されたレジェンズの秋元(多加雄、注27)さんは本当に上手いですね。変化球もそうだし、上から投げる時もあれば横から投げる時もある。本当にクラブチームの投手らしい、いろんな工夫をされながら抑えてきてるなと…。
(注27)秋元多加雄…札幌手稲高~小樽商科大。現レジェンズ投手。
――今年のクラブ選手権の予選から本選までを通じて、一番印象深いシーンはなんですか。
山本さん
関東予選の代表決定戦、TOKYO METS戦に勝った時です。最後、自分が9回に胴上げ投手になれた、一生忘れない瞬間です。9回に最後のアウトを取って、マウンドでみながワーッと集まれた、あの光景は一生忘れないなと。人生最高のゲームでした。
それまでの野球人生で、自分が中心となって、勝たせるような役回りのピッチャーではなかったので。直接的にチームに貢献できたという感覚は、大学までは味わうことがなくて。社会人になってこんな美味しい思いできるんだ、と思いましたね。
その少し前に、母校の札幌日大高が夏の甲子園初出場を果たして、甲子園で観戦していました。「甲子園いいな~」と思って、晴れやかな舞台で試合できるって羨ましいなと思ったのですが、自分もそこに近い環境で投げられたというのが思い出深いです。
勝った瞬間のガッツポーズは自然に出ました。人が溢れるようにバーッと来て、目の前が真っ暗になったような感じで。訳分からない感じでしたけど。とにかく嬉しかったなと。私はあまり人前で泣くタイプではないのですが、涙が止まりませんでした。豊山さんが表彰されるまでずっと泣いていたので…(笑)。人生においてここまでの経験はなかったです。夏の甲子園の予選に負けたときも、まったく涙は出なかったので。
勝った瞬間に泣けてきた感じで、みんなと抱き合ってるときに感極まった感じでしたね。
みんなで目指していたところに行けたという達成感がありました。また、野球人生が上手くいかないことばかりだったのを、なかなか日の目を見ずに終わりかけた野球人生だったのを、こういった場に立ち会えて、野球続けてよかったな、報われてよかったなと思いました。これまで辛かった野球のことが一瞬にして流れて、報われたような…。
――特に、どなたに感謝したいですか。
山本さん
みんなに感謝ということはありますが、一番は親ですね。あまり連絡とらないし仲も良くなかったですが、親には感謝の気持ちがあふれ出てきました。連絡したら、「良かったね、全国も応援しているよ」と。速報とかまで見ているタイプではないですが。私はノーコンなので、母親は「投げないでくれ、怖いから」と言っていましたが(笑)。北海道に帰省したとき、「野球続けてきてよかったね」と言われました。
豊山キャプテンへの感謝も大きいですね。一緒にチームを作って来た気持ちと。私個人を支えてくださったという気持ちと。車の移動も豊山さんの車に乗っているので、いろいろな話をします。チーム状況が怪しかった時も、お互い上手くカバーしながらやれたように感じています。本当に勝たせられてよかったなと思っています。
野球を本気で取り組むための「きっかけ作り」
――全日本クラブ野球選手権の1回戦で弘前アレッズに勝利しましたが、勝てた要因はなんだと思いますか。
山本さん
佐藤のホームランですね。完全に。彼の勝負強さがここまでか、と…予選からも勝負強さが出ていましたが、ここでも出たなと。
あともう1つは、月並みですが「川口らしさ」が全国でも変わらず出ましたね。雰囲気も全国を楽しむテンションと、いつも通り野球を楽しむテンションと。いい塩梅で緊張と緩和が保たれて、いい雰囲気で野球ができたなと。
ここぞというところの集中力はあるチームですから。
――全国の舞台は、山本さんから見てどういう場所でしたか。
山本さん
一言で言うと最高でしたね。ここまで来るチームなので、弘前アレッズさんもめちゃめちゃいいチームでした。この一戦に懸ける思いも強いですし、彼らのチームカラーも感じましたし。
あと、地域を背負っている感覚も改めて凄く感じましたね。弘前さんも応援がたくさん来ていたし、うちも「川口」という名前を背負ってやっている感をより感じました。背負っているものが大きいもの同士がぶつかり合っていく勝負は、また違った緊張感や特別感があると、試合で投げていて凄く感じました。
――同好会型のクラブチームが全国大会に行くためには、何が必要だと考えますか。
山本さん
難しいですね…。
――今回の、川口ゴールデンドリームスが全国に出られた要因、でもいいのですが。
山本さん
皆さんが期待する答えじゃないかもしれないですが、1つは補強ですね。自分語りになってしまいますが、今年の選手補強を牽引したのは私です。引木(拓己、注28)さんを呼んだのは自分ですし、下嶋(浩平、注29)さんともつながりはありましたし。芦谷(汰貴、注30)とのつながりもありました。このあたりの人のつながりを使って呼び込んでいくのは、リアルな話必要かなと思っています。ただし、これも誰彼構わず呼ぶのではなく、結構緻密に選んでいるところがあります。ちゃんと考えて来たからこその補強というところはあるなと。
また、川口ゴールデンドリームスは、自分で考えて動ける選手がもともと多かったように思います。それを実際に行動に移すきっかけというか、トリガーを引けたかどうかという気がしています。それにはいろいろな要素があり、豊山さんが「全国に行くんだ」と情で訴えかけてトリガーが引かれたものがいれば、私みたいに試合で自分で掴んだものもいて、根上さんみたいにコーチとして振舞っていくなかでトリガーが引かれたものもいる。何がしかのきっかけで、そこのスイッチを押せたかどうかというところかなと考えています。みんな元々「惜しかった」のが、スイッチが入ってそれぞれやるようになったかなと。野球を本気で取り組むための「きっかけ作り」が大事かなと思いますね。きっかけを作ったあとに、ラプソードを導入したりといった、野球の実力を伸ばせる環境を作ったことが大事だったなと。
豊山さんや山下さんの言うように、諦めない気持ちは大事です。最後はそこかなと思うところはあります。ただ、そこだけでこの1年間を乗り切ったわけでは全くないと思います。全国に出たという結果は、もっと皆の思考や、考えられたものの上に立っているという感覚が近いですね。
(注28)引木拓己…佐久長聖高~千曲川硬式野球クラブ~長野大~信濃グランセローズ~ハナマウイ~カリフォルニアウィンターリーグ~上田硬式野球倶楽部~大阪ゼロロクブルズ~EBC野球部。現川口ゴールデンドリームス内野手。
(注29)下嶋浩平…仙台二高~東大~横浜金港クラブ~一球幸魂倶楽部。現川口ゴールデンドリームス内野手。
(注30)芦谷汰貴…修道高~九州大~火の国サラマンダーズ。元川口ゴールデンドリームス投手。
「いつまでも満たされない」ところが、野球の嫌いなところであり好きなところ
――今、「川口」という地域の話が出てきました。山本さんは豊山さんを慕って川口に移住されたと伺っています。「川口」という地域に対する思いを教えてください。
山本さん
豊山さんのように、地元という感覚はないのですが、よりよい環境で野球ができるようにしたいし、より後ろの代の子たちもいい環境で野球ができるように「おじさんたち」が頑張った方がいいと思っています。そのあたりを、自分たちが主となって取り組めていけたらいいなと思っています。
具体的には、とにかくグラウンドがないんですよね。野球ができる環境は当たり前じゃないと、物理的に感じてきます。野球人口を増やそう、というテンションではないですが、野球ができる環境を選択できることが素敵なことだと思います。そのための活動を、今、川口にいるからこそやりたいと感じています。
あとは、野球というスポーツが面白いものだよと、自分の目線から発信したいと思います。勝負のツールの1つや、スポーツの1つとしてだけではない深さや、面白さ、別の角度からの楽しみ方もあると思っていますので。いわゆる「甲子園を目指す」だけとか、「勝ち負け」だけじゃない野球の面白さは伝えていきたいですね。私としては、ラプソードなどのツールを利用して、野球の面白さを深めていますので、こういった片鱗だけでも、子供たちに伝えられたらいいなと思っています。野球教室などを企画して、「ラプソードに触れてみよう」みたいなこともやっていきながら、少しでも興味を広げるような取り組みなどをできたらいいねと、豊山さんとも話しています。
「川口」という都市名をお借りして、バックアップもしていただいたので。恩返しをしたいという気持ちが強いです。
――山本さんは様々な土壌で野球をされてきたと思いますが、そのなかで感じるクラブ野球の醍醐味はなんだと思いますか。
山本さん
何だろうなあ…難しいですね…。
何かに依存せず、健全に野球をできるのがクラブ野球かなと思います。
勝ち負けや、仕事、地位名誉など、社会人になると縛られるもの、大人になると依存するものがあると思いますが、クラブ野球の醍醐味は自由であることかなと。ここまで自由にできるのは軟式の草野球とクラブ野球かなと。
今までの野球人生を振り返ってみると、縛られていたことが多かったなと思います。少年野球や中学では、親やコーチに怒られないために、という気持ちがあったでしょうし、高校野球なら甲子園やベンチ入りに縛られていた気がします。大学野球では「いかに世間に承認されるか」といったこと、「いかにチームを勝たせるか」といったこと。いろんなカテゴリで、いろんなことに縛られていたなと。そう考えると、クラブ野球には「縛るもの」がないと思います。野球が上手くいかなくても、自分の仕事には影響しないし、地位が脅かされるわけでもない。全国大会に行きたいですが、行けなくても、「来年頑張ろう」となる。そういう自由さがクラブ野球の醍醐味なのかなと。かつ、川口ゴールデンドリームスのような同好会型のクラブチームになれば、よりしがらみがなくなって自由になりますからね。それが答えなのかなという気がしています。
――野球のどういうところが好きですか。
山本さん
「いつまでも満たされない」ところが、嫌いなところであり好きなところです。
満たされなければ飽きない。いつまでも続けられるし、「沼って」いられる。こういうコンテンツや事柄は、自分のなかには野球以外ないです。
――今はどういうところが満たされていませんか。
山本さん
今年は凄く調子が悪くて、100点満点で言えば40点の出来でした。この60点分満たされなくて、調子が悪くて思うようなピッチングができなかったのが歯がゆいですね。一方で、調子が悪くて全国大会に行けるというのも面白さだなと思っていて。100%の状態で全国に行けたらどういう結果になるか、という期待感もありますし。
――今、野球をされている理由はなんですか。
山本さん
表向きの理由と、後向きの理由があります(笑)。
表向きの理由としては、「野球を探究する」ということが面白いから、やめられない。20年経ってもわからないことやできないことがたくさんあるから、やめられないなと。
それと同時に、後向きの理由としては、「満たされない」からですね。野球でいつまで経っても満たされない自分がいます。全国行ってもやめられないし、多分、全国優勝してもやめられない。
続けることの面白さを感じている自分と、やめられない自分が両方いますね。
「仙人」の域に達するまで野球を
――山本さんは何歳まで野球をやりたいですか。
山本さん
いつまででもやりたいですね。50代になってもクラブ野球をやっている方がいらっしゃいますが、そのような感じで「仙人」の域に達するまで野球を続けたいと考えています。全国行って、全国制覇して、有終の美で辞めますというよりも、いつまででもゾンビのように野球をやっている方がかっこいいと思います。
――「仙人」の域に達しても、ピッチャーにはこだわりますか。
山本さん
あんまりこだわりはないですね。いずれ投げられなくなる日は来ると、個人的には思うので。そのうち、野手でもう一度出てやるぜくらいの気持ちになるかと思います。
――今の山本さんの目標はなんですか。
山本さん
145キロ出したいですね。今年、最速が140キロまで伸びましたので。大学の時、145キロを一度出したことがありますので、もう一度そこに挑戦したいなと。そして、人生最速の146キロ以上に行きたいなと。
野球のピークは大学生くらいなのかなと、勝手に思っていましたが、最近はまだまだピークは先だなという感覚になっています。自分史上最高の自分、ではないですが、もっと自分の数字といったところを、更新し続けていきたいなと思っています。
今が一番、野球が上手いと思います。大学の時よりも、ウイン北広島の時よりも、今が一番上手いピッチャーだと思っています。自分の癖も理解していきますし、大荒れするような率も減っていきます。今は考えて野球をやっていますので、自分のベストパフォーマンスという天井も高くなっているなと。
――山本さんのように国公立大で野球をされている方に、クラブ野球人としての立場からメッセージはありますか。
山本さん
今までやっている野球のなかで、トップクラスに楽しい野球ができるのがクラブ野球だと思っています。しがらみなく、自由にできるのがクラブですので。特に国公立でやっていた方は入りやすいのかなとは思います。
ただ、大学野球と違うのは、大学野球は「とりあえず野球やっとくか」で入部する部員もいますが、クラブ野球は「とりあえず」でやる方はほぼいません。両方とも各人によってモチベーションの差はあります。大学野球にはモチベーションの「正負」の差がありますが、クラブ野球はモチベーションにおいて大なり小なり「正」のものを各人が持っているかと思います。
――クラブ野球を、「やめたくなったこと」はありますか。
山本さん
今年は、都市対抗一次予選が終わった時にはやめたくなりましたね。
「ピッチャーが弱いから勝てない」という状況で、実際にそう言われまして。
その時は本当に、「なんで、クラブ野球で楽しくやってるなかで、こんなこと言われなきゃいけねーんだ」とは凄く思いました。
――その際には、どのようにその気持ちを昇華させましたか。
山本さん
その際には、「勝つ野球」は楽しいものではないと、認識を改めました。楽しく野球をすることと、クラブで全国に出ることは折り合わない面があるなと。練習を頑張るとか、責任感みたいなものとか、楽しいだけだと全国には届かないことがある。それをやっていくことは気持ちいいものではなく、辛いことや苦しいことが多いということを自分のなかで咀嚼しました。ここは楽しい野球ではなく、全国に行くために苦しもう、と自分のなかで踏ん切りをつきました。都市対抗終わってから、クラブで全国に出るまでは、自由な野球というよりは縛られた野球に近い感覚でやっていきました。自分にプレッシャーを課して、一戦一戦の重さも感じながら…ですね。
人によると思うんですね。楽しさと真剣さが両立するという人もいますが、私は白黒つけながらやっていかないとできない人なので。その時その時のフェーズで自分がどうするのか、納得しながらやっていきたいタイプですので。
――抑えという立場には、やりがいを感じていますか。
山本さん
めちゃめちゃやりがいを感じています。一番後ろがいいです。自分で締めたいと。今は松原さんが抑えですが、それはそれで納得しながらやっています。
――チームに、あらためて一言をお願いしてもよろしいでしょうか。
山本さん
二連覇してこそ強いチームだと思いますので、二連覇したいと言いたいです。
まだ、私は「このチームが強いチームだ」とは自信を持って言えません。連覇してそれを証明したいなと。なので、それに向けて頑張りましょう、と。
――最後に、山本さんから何か一言ありますか。
山本さん
練習試合をお願いします。あと、グラウンドをください。…というのは冗談ですが、
川口ゴールデンドリームスというチームについてもっと知って欲しいですね。もっとズケズケと入り込んで欲しいし、私も含めて話したがり、目立ちたがりの人も多いので。色んな人によって引き出される良さがあると思います。もっと知っていただいて、もっと広めていただきたいと、真面目に思っています。もっと話したいことがあるので。
あと、ウイン北広島と東北マークスは対戦してみたいですね。昨年のJABA一関市長旗の東北マークス戦は、先ほど挙げた一球幸魂倶楽部戦と同じくらい、ターニングポイントだったと思っていますので。この試合は、自分の力はこのレベルのチームに対しても通用するな、と感じた試合でした。試合は負けましたが、現在ここまで高まったチームの実力と、自分の力で、どこまでマークスとやれるかはめちゃめちゃ楽しみです。この2チームは全国でやりたいなと思っています。
(了)
いかがだったでしょうか。
山本さんは理路整然とお話される一方、とてもユーモアがあり、取材中、何度も笑わせていただきました。
球歴に関心がある私としては、強豪高校~国立大~トライアウトプログラム~北海道のクラブチームと様々な環境でプレーされたそのご経歴も凄いと思うのですが、それぞれの場所で感じたことや、培われた経験を現在の野球に活かされているということがよくわかりました。
2010年代末より、継続的にnote等で発信をしておられ、特に今年のラプソード活用に関してはご本人による詳細な記事もあります。本稿によって興味を持たれた方は、そちらも読んでみてはいかがでしょうか。
北海道教育大旭川校時代以来、「考える野球」を実践してこられた山本さんのリアリストな一面が、本年の川口ゴールデンドリームスの躍進に与えた影響は少なくなかったと思います。
これからの山本さんのご活躍に期待しつつ、この稿を閉じたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!