安曇野で道祖神に会う (小さな旅シリーズから)
小さな旅
「安曇野で道祖神に会う」
旅に出かける時の必需品にカメラがあります。決して撮影テクニックがあるわけではないのですが、学生時代に写真学科に在籍していた友人(後に彼は報道カメラマンになったんですが)の影響もあって、野次馬根性や好奇心が旺盛で写真を撮るのも大好きです。ですから、積める荷物を限定されてしまうバイクツーリングであっても、あれこれとやりくりしていつも2台のカメラを持って出かけた頃がありました。そういう頃の作品には秀作が残っています。しかし、ひとりで走っていますから自分自身を写すことは滅多になく、景色や人の動きなどを撮ったものが多いですね。最近は、カメラが高機能になってくるとともに腕が衰退していくのでしょうか、気に入った一枚になかなか出会えません。
写真ばかりに夢中になると実際の景色の印象が薄れてしまいます。しばらくして思い出そうにも記憶に残っていなかったりしますので、やはり、しっかりと記憶するためにも余裕を持ってスケッチをするように心がけています。ただ、私の場合、美術の成績はクラスでビリでしたので画才といえるものはこれっぽっちもなく、とても他人に見せられるような作品が描けません。そこで、下手でも投げずに描くように努めてます。無心になれて、結構、楽しいです。道行く人の視線は気にかかるのがたまにきずです。
さて、安曇野へ行きましょう。素敵な名前ですね。どんな所なんだろうかって、初めて訪れた時はドキドキしました。アルプスの裾野に果樹畑が広がっていて、塩尻から松本にわたる盆地を見下ろせます。北アルプスのせせらぎが生き生きと流れている。その水は千曲川となり信濃川となってゆくのです。サラダ街道が大地を突っ切って延びています。
対数関数的に加速してゆく現代の生活クロックのなかで私たちは暮らしていますので、ふと、立ち止まった安曇野のさりげない民家の軒先で泰然と時間の流れを見つめるように座る「道祖神さま」に出会うと感動が襲ってきます。道祖神さまはこの地方では有名らしく、気をつけているとあちらこちらの道端で頻繁に出会えます。思わずバイクを止めてカメラを向ける。大抵が夫婦で居てカラフルな服を着ています。珍しい風景に心も和みます。
安曇野といえば、美術館などがあって賑わっているようですが、私はバイクのソロツーリストですから、「サラダ街道」と呼ばれる農道がお気に入りです。アルプスの峰を間近に仰ぎながら、林檎や杏の畑の中を快走して行きます。5月の中頃行くと「わさび祭」をやっていて、わさび園でわさびソフトを食べながら、北アルプスに向かって両手を広げて「わぉー」って叫んでみると最高です。
ある時、このわさび園でNHKの「小さな旅」の取材に出会いました。川藻の漂うせせらぎの中に足を突っ込んで撮影しているカメラマンさん。雪解け水がさぞかし冷たかろうに……と思いました。些細な風景のひとコマひとコマが絵になるところ。安曇野は何もないところですが、とても満足感のこみ上げてくるスポットです。
December4,2000