東京に暮らす息子へ⑧
前田五朗の長男は母親から聞く父の病状を頭の中で整理してみた。
(こんなことは私情を挟まず客観的に時系列で整理すれば簡単なことだ)
母親の言葉は常に感情的で、何の裏付けも展望もないと常々思っていた長男だが、ここまで判断力がないものかと自身の親に落胆していた。
長男はまたこうも考えていた。
(医療費は高額ならば控除もあるだろうし、実家は金もないだろうから病院に入院させてもらえばいい。何を迷う必要があるのか。自宅に帰るなんて病院も無責任である)
家庭や環境の事情で入院に値しない症状で入院をすることは認められていないことを長男は知らない。
「母さん、親父は胃に穴を開けているんだろ?そんな人間、病院に居たほうがいいに決まってるだろ?冷静になれよ。」
ヨネコは長男に「でもね、病院の相談員さんもケアマネさんも自宅に帰るって言うから…やるしかないのかなって思って」と正直に答えた。
「俺が電話してやるよ。勝手なことするなって。他人の家のこととやかく言うんじゃないって言うから。母さんや姉ちゃんには任せておけないな」
長男はヨネコとの電話を切ってから(どっちも女性だって言ってたから…面白半分に他人の家のお節介を楽しんでいるのだろう。穏やかに理路整然と論破するか、一喝すれば黙るだろう)と考えた。
ヨネコは次女早苗に「家にどうしても戻らないといけないのかね。やっぱりもう一度病院に頼んでみようかな…」と長男の一種の励ましを受けて恐る恐る言ってみた。
早苗は(またお母さんは楽なほうへ逃げるつもりなのかな…先延ばしにして)
…つづく…