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ポーカーにおけるMDAとは何か
はじめに
MDAという言葉を耳にしたことがあるポーカープレイヤーは多いと思いますが、MDAをテーマにした日本語コンテンツはまだ少なく、「そもそもMDAとは何なのかよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、MDAの概要と簡単な分析を初学者向けに解説します。また、後半では既存のMDAツールにおける問題点と、現在開発中のMDAツールについても紹介します。
MDAの概要
MDA(Mass Data Analysis)とは、ポーカーの大量のハンド履歴データを分析し、プレイヤーの傾向やパターンを読み解く手法です。
具体的には、数十万件以上のハンド履歴を専用の解析ツールに読み込み、統計情報を可視化することで、プレイヤープール全体の行動パターンを把握します。
さらに、GTOとの比較などを通じて、実際のプレイヤーがどのように逸脱しているかをデータから発見することで、エクスプロイトのためのリーク想定を構築することが可能になります。
MDAの実践
概要だけではイメージをつかみにくいと思うので、ここからは実際にMDAを行ってみます。
今回のテーマは、FlopのCB頻度と、そのCBに対する反応です。これらを把握しただけでは、すぐに相手を搾取できるわけではありませんが、エクスプロイト戦略を構築するうえで必要となる情報です。
使用したデータ
0.5-1$キャシュゲームにおけるBTNvsBB SRP
Flop CB頻度
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これは実際に解析ツールを使って作成した、プレイヤープールとGTOのCB頻度を可視化したグラフです。
プレイヤーはGTOと比較してCB頻度が高い一方で、Potoverサイズのbet頻度が低いことが分かります
しかし、これだけではプレイヤーレベルやボードテクスチャによる違いが分かりません。そのため、今回の分析ではハイカードと対象プレイヤーがサンプル内でプレイしたハンド数を基準にデータを分割した分析も行いました。
(ハンド数を基準にした理由は、ハンド数とWRに相関があるからです)
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これは、縦軸をハンド数、横軸をFlopのハイカードとして、それぞれのアクション頻度を可視化したグラフです。
左上にあるグラフは、ハンド数が1万以上のプレイヤーによるAハイボードでのアクション頻度と同条件でのGTOデータとの比較を示しています。
これらの分析により以下のことが分かりました。
プレイヤーレベルに関係なくCB頻度がGTOよりも高い
Aハイボードで特にCB頻度の乖離が大きい
どのプレイヤーも殆どPotover betを使っていない
CBに対する反応
次に、FlopのCBに対する反応を調べます。
これには、ハンド数に基づいてあらかじめ3つのグループに分割したデータ解析を用います。
まずは、スキルが最も低いと思われるハンド数0~1000のグループについて調べます。
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上のグラフは、縦軸を頻度、横軸を受けたベットサイズとして、サイズごとのアクション頻度を可視化したものです。
以降、ベットサイズに応じたアクションの変化を弾性(elasticity)と呼びます。
緑の線はコールとレイズを合わせた頻度(ディフェンス頻度)、赤の線はレイズ頻度を表しています。各線の上下に表示されている帯状の部分は、値の95%信頼区間です。(Potoverは殆ど使わないので信頼区間が広い)
また、青と黄色の点線は、それぞれのGTO頻度を示しています。
グラフから以下のことが読み取れます
40~50%サイズに対してディフェンス頻度がGTOに対して下乖離している
80%以下のサイズに対するレイズ頻度がGTOに対して下乖離している
次にスキルが中程度と思われるハンド数1000~10000のグループについて調べます。
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グラフから以下のことが読み取れます
ディフェンス頻度は概ねGTOに近い
60%以下のベットサイズに対するレイズ頻度がGTOより低い傾向があるが0-1000グループ程ではない
最後に最もスキルが高いと思われるハンド数10000以上のグループを調べます。
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グラフから以下のことが読み取れます
ディフェンス頻度はGTOより低い傾向があり、特に80-100%ベットに対して下に乖離している
レイズ頻度は概ねGTOと一致している
以上がFlopのCBに対する弾性の分析です。個人的には、GTOよりもディフェンス頻度が高くなる状況がほとんど存在しなかった点が意外でした。
後述するツールの問題もあり、弾性はこれまであまり言及されることのないテーマだったため、今回初めて知ったという方も多いかもしれません。しかし、エクスプロイトにおいては非常に重要な概念だと筆者は考えています。
既存ツールの問題点
現在、MDAを行える解析ツールとしては、Hand2Note(H2N)が実質的に唯一の選択肢となっています。しかし、筆者はH2Nに以下の問題があると考えています。
スタッツを自作または購入する必要がある
プリセットのスタッツが限られており、詳細な分析を行うにはスタッツを別途購入するか、自分でスタッツを定義する必要があります。
自作する場合、すべて手作業になるため、大きな手間と時間がかかります。
可視化の手法が限定されている
データを可視化する方法が限られており、弾性グラフのような形式の可視化は作成できません。
GTOとの比較が困難
GTOとの比較が考慮されたUIではないため、まったく不可能ではないものの、比較作業には大きな手間がかかります。
新しいMDAツール
前述のとおり、H2Nでは弾性グラフを作成できないため、自作のMDAツールを開発しました。(この記事はそのツールを使用して書いています)
当初は個人用ツールとして作り始めましたが、どうせなら最高のMDAツールを作りたいと思い、開発を続けています。
開発中のツールでは、今回の記事で使用したアクション頻度や弾性グラフに加えて、以下の機能を実装中です。
任意のノードでのMDAとGTO情報の表示
ボード条件の柔軟な指定
SDノードの詳細な分析
アクションEVをベースにしたマルチノード分析
最終的には、GTO Wizardのようなサブスクリプション型のWebアプリとして公開する予定です。
開発状況は随時Twitterで投稿しているので、興味のある方はぜひフォローしてください。@wagonman53