初めて跳満を上がった日
麻雀でまだよちよちしていた頃の話だ。
(「よちよちしていた頃」は始めたての比喩表現。実際はしっかり歩けている)
まだ点数計算も覚束ないため、とにかく満貫以上を目指してばかりいた。
もちろんそんなうまくいく訳はないのでドベばかりだった。
そんなある日、チャンスが訪れた。
配牌も良く面白いように手が入っていき、あっという間にテンパイになった。
これはでかいぞ。何より牌の並びが美しい。
心臓が強く拍動する。手に汗が滲み顔の筋肉が強張る。
これは絶対に上がってやる。いや、これで上がれない訳が無い!
「リーチ」
声はうわずっていなかっただろうか。緊張が伝わっては相手に警戒されてしまう。
役は何とか暗記することができていた。頭の中で何度も翻数を計算しなおす。
リーチからほんの2巡で当たり牌が僕の手にやってきた。
いつもより強めの力で卓に叩きつけ、いつもより強い口調でツモを宣言してこう言った。
「リーツモ対々三暗刻! 跳満!」
面々が僕の手牌を覗き込む。
「あ、やるじゃん」「すごいね」「やられた〜、おめ」
初めての跳満への祝福からなのか、悔しさを微塵もみせずニコニコと点棒を渡してくる友人たち。いい奴らだ。
結局その対局では2着に終わったが、2着も初めてだったので大満足だった。
ただ、もしあの時裏ドラが乗っていたら、倍満まで跳ねあがって1着になれていたかもと今でも思い出す。