ドン・デリーロ『コズモポリス』と『ポイント・オメガ』
さてドン・デリーロである。
今まで、ドン・デリーロは『ボディ・アーティスト』しか読んだことがなかったんだけど、先月『コズモポリス』を読んだらめちゃくちゃ面白かったので『ポイント・オメガ』も買ってしまった。無職なのに。
『コズモポリス』
『コズモポリス』はポール・オースターに捧げられていて、それがきっかけで、お! と思い購入してみた。ちなみにポール・オースターも自作の『リヴァイアサン』でデリーロに献辞を書いている。
エピグラフは、ポーランドの詩人ズビグニェフ・ヘルベルトの「ネズミが通過の単位となった」クール!
主人公は28歳の億万長者。ヤッピーですね。ヤッピーって死語かな(死語という言葉が死語かも)。
その主人公エリックは、唸るほど金を持っているけど金に執着していない(ように思える)。エリックは非常に冷めている。彼が今したいことは床屋に髪を切りに行くこと。舞台はニューヨーク。エリックはリムジンの中で生活のほとんどを送っている。仕事も、食事も、セックスも、健康診断も……。
彼は生の実感がほしい。その結末が破滅であっても。
『ポイント・オメガ』
舞台は二つ
・ニューヨークの美術館
・サンディエゴ郊外の砂漠の家
この作品は、ほとんど動きのない小説で「瞑想的」といってもいいかもしれない。
オープニングはニューヨーク美術館の展示室で匿名の男が《24時間サイコ》というビデオアートを観ているところから始まる。
この映像作品はアルフレッド・ヒッチコック監督が1960年に制作したサスペンス映画『サイコ』をもとにして、本来の上映時間109分をスロー再生して24時間に引き延ばしたというクレイジーな作品。作者はダグラス・ゴードン。
そして舞台は飛んで、主人公が登場。
主人公は、映画製作をしている30代のジム・フィンリーという男。
彼はリチャード・エルスターという学者(イラク戦争のブレーンだった)のインタビュー映画を撮るために、エルスター老人が住むサンディエゴ郊外の砂漠の中にある邸宅に滞在する。
老人は気難しく映画の出演をいつまでも承諾しない。主人公の滞在時間はどんどん延びていき、エルスターの娘が登場して三人での奇妙な生活が始まる。そしてある時、事件が起きる。
この小説は訳150ページと短く、読もうと思えば短期間で読めるんだけど、冒頭のインスタレーション《24時間サイコ》のように時間の経過、密度が現実の時間と違うような、そんな錯覚を感じる小説だ。
この小説が、アート作品のような、小説に流れる「時間」についても考えてしまう作品だった。