聴かせて!「円座小学校金管バンド部 後援会&保護者会」のわがこと
香川県に全国大会2位の実力を持つ金管バンドがあるのをご存じですか?
それが、高松市立円座小学校の金管バンド部。
今回はその金管バンド部、……ではなく、金管バンド部の活動を支える後援会と保護者会のみなさんにお話を伺ってきました。
全国的な部活動の地域移行の流れの中で、子どもたちを支える仕組みが生まれ始めています。
Vol.18
円座小学校金管バンド部 後援会&保護者会
コンクールだけじゃない! 多彩な活動
——まずは自己紹介をお願いします。
棚田さん、鈴木さん、岩下さん:私たち3人は、円座小金管バンド部後援会の事務局を務めています。
全員中学生の子どもがいますが、子どもたちが金管バンド部に入っていたことがきっかけで、後援会の活動に関わるようになりました。
日吉さん、森口さん:私たちは、円座小金管バンド部保護者会のメンバーです。
今現在、自分たちの子どもが金管バンド部で活動しています。部員の保護者は全員、保護者会に入ることになっていますね。
――ということは、後援会のお三方ももともとは保護者会のメンバーだったんですね。改めて、円座小金管バンド部はどんな部活ですか?
棚田さん:円座小金管バンド部は、学校教育計画に基づく部活動で、今年で創部46年目になります。
去年大々的に開催した45周年記念コンサートは大盛況でした! ご来場いただいた地域の方からアンケートを集めたんですけど、ほんとに肯定的なご感想をいっぱいいただいて。「演奏を聴いて、明日からがんばろうと思いました」みたいな。
――学校の行事以外にも演奏の機会があるんですね。
棚田さん:たくさんありますよ。昨年は、小学生金管バンド選手権の全国大会で2位を受賞しました。他にも、バンドフェスティバルやアンサンブルコンテストなどのコンクールに出場しています。
日吉さん:コンクール以外だと、円座小校区の文化祭やPTA主催の秋祭りでも演奏しますね。
昨年は、地域のグループホームでもボランティア演奏の機会をいただきました。これがけっこう好評で、今年度は別のグループホームからも演奏に来てほしいっていう話がありますし、高松市内の商業施設でも演奏する予定なんですよ。
保護者と地域、みんながサポートできる部活へ
——円座小金管バンド部の活動を支える、保護者会の役割について教えてください。
森口さん:金管バンド部は、現在3~6年生の合計24名で活動していますが、その部員の保護者で組織されるのが保護者会です。
役割としては、月々の保護者会費の管理・活用と、休日練習や朝練の見守り活動などをしています。
日吉さん:特に平日の朝練は毎日やるので、保護者会が全面的にバックアップしています。
朝練は学校の先生の始業時間より早く始まるので、先生には極力頼らずにやりましょうということになっていて、朝早くから保護者が2人ずつ見守りに入っているんですよ。
——小学生の部活ながら、毎日朝練とは驚きです! 練習も決して楽ではないと思いますが、子どもたちは弱音を吐いたりしないんですか?
棚田さん:弱音、吐きますよ(笑)
でもそういうときに、保護者会のメンバーが自分の子どものように接してくれるんですね。うちでは「金管の母たち」って呼んでます。𠮟ってくれたり、窘めてくれたり。
それが、子どもたちにすごく伝わっていて。弱音も吐けるし、話し合いもするし、全部受け入れてくれるから、みんなが子どもを見てくれる居場所にもなってますね。
森口さん:子どもたちも保護者会のメンバーを「○○ちゃんのお母さん」じゃなくて、ご本人の下の名前で「△△さん」って呼んだりします。他のお母さんたちのことも信頼してるんだなっていうのがすごくわかる。
保護者会としては、できるだけ子どもに近い存在であろうと思って接しています。
——なんだか大家族みたいで素敵ですね! では次に、後援会の役割について教えてください。
棚田さん:後援会は、2023年9月に発足したばかりなんです。「円座小金管バンド部を長く存続させていくために、必要な支援ができる団体をつくろう」ということで、地域のみなさんの声によって設立されました。主に、後援会会費を原資とする金銭面での支援を担っています。
設立のときは、会員を集めるために地域に働きかけをするうえで、役員会や事務局だけでなく、ほんとに多くのみなさんが実際にいろいろと動いてくださいました。「声をかけてくれたら出れるときに出るよ」って言ってくれる元保護者会のメンバーもたくさんいます。サポーターのような存在ですね。
——どんな人が後援会の会員になれますか?
棚田さん:保護者会に入れるのは部員の保護者だけですが、後援会の会員は誰でもなれます。
保護者だけでなく地域の方々にも金管バンド部の活動をサポートしてもらえる体制をつくることが、後援会を立ち上げた目的の一つだったんですよ。
ただの「地域移行」ではなく、地域と学校のハイブリッドを目指す
——発足したばかりの後援会ですが、後援会が立ち上がったきっかけを教えてください。
棚田さん:一つの大きなきっかけは、顧問の先生の任期切れです。
現在、外部講師をお願いしている先生はもともと円座小学校の教員だったんですが、その任期が昨年度末で切れることになって。
もう指導に来ていただけないかもしれない、来ていただけたとしても謝礼をお支払いできなくなってしまうかもしれない、という状況になりました。
日吉さん:どんどん教員の働き方改革も進んで、省庁から部活のガイドラインが出されたりして。活動に対する制約とか、周りと調整しないといけないことが増えてきて、保護者会だけではかなり限界を感じていました。
岩下さん:私の娘が部員だった数年前は、そんな動きは一切なかったんです。学校の部活なんだから学校におんぶにだっこで問題なかったのに、状況を知って「今そんなことになってんの?」って驚きました。
——いわゆる「部活動の地域移行」の流れですよね。
棚田さん:中学・高校だけでなく、小学校の部活も地域移行する流れがありますね。
全国大会に出向いたときに、同じ悩みを持つ金管バンドさんと情報交換させていただいたんですが、全国的に小学校の金管バンド部は地域移行を進めざるを得ない状況になっているようです。
ただ、完全に地域に移行してしまうと、楽器の置き場や練習場所を確保できないし、練習や指導も教員にお願いできなくなってしまう。
森口さん:あと、金管バンドって維持費がかかるんですよ。
楽器は安くないので、修理や買い替えのための積み立てもしてますし、練習場所は防音でご近所に迷惑がかからない場所に限られる。他にも、大会に出場するたびに大型楽器を運ぶトラック代とか、子どもたちが移動するためのバス代、全国大会では宿泊費も必要です。
それでも学校から補助が出るわけではないので、すべてを保護者が負担していました。そこにさらに追加で、外部講師に謝礼をお支払いする必要が出てきたんです。
——そうした金銭面を支援するために後援会を立ち上げたんですね。
森口さん:円座小の校長先生にご相談させていただいたら、「金管バンド部は地域の大事な宝だから、ちゃんと存続していかなくちゃいけない」「学校の課外教育活動でありながら、ちょうどいいバランスを探していきましょう」って言ってくださって。
棚田さん:地域と学校のハイブリッドを目指してるんですよね。
とにかく汗をかいて多様な支援を募る
——後援会の会員はどうやって集めたんでしょうか?
棚田さん:県内の後援会がある部活などにお話を伺ったら、とにかく1件1件体当たりや!っていうアドバイスをいただいて。
この春休みにめっちゃ地域をまわったり、電話したりしました。とにかく「地域で」っていうのにこだわって、円座地区の企業やお店に後援会の案内チラシを持って行って、とにかく説明しました。
そしたら、20件以上の地域の方や企業さんが正会員になってくださったんですよ。
そのときに、地域の方といろんな出会いや情報があったんです。「実はコンサート聞きに行っとったんよ。すごいよかったよね」とか、「合同演奏会に行ったけど涙が出ました」とか、今プロの音楽家として活躍されている卒業生が、「小学生時代のおかげで今がある」って思ってくださっていることを知れたり。
そういうのは実際にやってみてわかったことなので、それだけでも意義があったなと思います。
——ファンが増えていくと嬉しいですよね! 会費以外にはどうやって支援金を集めていますか?
棚田さん:今年3月のお別れコンサートでは、もともと部内開催していたものを地域に公開することにしたんです。その際に、マルシェというかたちで地域の企業さんにお店を出していただいて、その売上の何%かを善意で寄付していただく、という方法をとりました。
他には保護者会が中心となって、地域行事のときにスーパーボールすくいとか、くじとか、そういうので少しずつ集めていって。
汗をかいてやるっていうか、創意工夫ですね。子どもも喜ぶし、お金も入ってくるみたいな仕組みでやっています。
——金銭面以外にも、後援会を支援できる仕組みはありますか?
棚田さん:会費会員とは別に、年会費を払わないヘルプ会員というのがあって、演奏の指導をする「そだてる会員」、子どもたちの見守り活動をする「みまもる会員」、演奏を聴きに行く「きく会員」の3種類があります。
たとえば「そだてる会員」は今年度から募集を始めたんですが、すでに13人もいるんですよ。県外に出ているOBの大学生が「帰省したときに来てもいい?」って言ってくれたりして。
森口さん:OBも金管バンド部の現状を知ったら「ぜひ何かしたい」「手伝いたい」って言ってくれる子がほとんどなんですよ。他にも「楽器が吹ける場所ができてありがたい」って言ってくださる方もいます。
あとは、卒業して間もない中学生OBも経験を生かして教えに来てくれてますね。
——多様な支援の方法があるんですね! 「きく会員」なら、誰でも今すぐなれそうです。
子どもたちが私たち以上にがんばっているから
——みなさんが熱い想いを持って子どもたちをサポートされているのが伝わってきました。その原動力はどんなところにありますか?
棚田さん:やっぱり恩返しかな。
後援会が立ち上がったときは自分の息子も部員だったので、指導者が来れなくなって子どもたちが宙ぶらりんになるんじゃないか、という危機感があって、そこがスタートでした。
子どもに、音楽を通じた音楽だけじゃない居場所を提供してくださった学校と保護者のみなさんに、ほんとにありがとうございましたっていう気持ちが一番大きいです。
あとは、子どもたちが大人になってここに帰ってきたいと思っているんじゃないかなっていうのもあります。だから続いてほしいし、大事にしたいと思ってます。
岩下さん:私はもともと保護者会の活動を和気あいあいとやっていたんですが、子どもが卒業したら親の繋がりまでなくなってしまいました。さみしいなって、まるで自分が部活を引退したみたいな虚無感があって、そんなときに後援会に誘っていただいたんです。
他校の金管バンド部も規模を縮小したり、コンクールに出なくなったりしていて、うちも今後やばいんじゃないかって思いました。
だから、そうならないための後援会なら「やらなきゃ!」って。子どもが卒業した金管バンド部をなくしちゃいけない、っていう想いが強くありますね。
鈴木さん:私はそこまで気負ってやってないんですけど(笑)
中学生の娘がOBなんですが、いまだに休日は練習に行きたがります。私がちょっとでも関わってたら卒業しても来やすいのかなって、そういう場が作れたらいいなって思います。
あとは、私自身も金管バンド部のOBなんですが、OBも出られる演奏会に参加するとやっぱり楽しいんです。事務局も楽しい。あんまりヘビーに活動しても、嫌になっちゃったりしますもんね。
森口さん:でも一番は、子どもたちが私たち以上にがんばっているから。
棚田さん:そうですね。子どもたちは楽しんでやってますけど、とことん自分と向き合って、自分との戦いがあり、忍耐があり、その先で得られる達成感とか。
なんていうか、中途半端じゃないんですよ。今どきなかなかそんな場はないかなって思います。
——最後に、今後の展望を教えてください。
岩下さん:今は後援会の土台を作っている段階なので、まずはその地盤を固めることができればいいなと思ってます。
金管バンド部を通じて、縦も横も、親も子も、繋がりが広がって、いつまでも続いていってほしいです。
鈴木さん:私は後援会のホームページ管理を担当しているんですが、私だけで終わらない仕組みにしたいと思っています。
事務局のメンバーも入れ替わっていくと思うので、次の人に繋げられるようにがんばります。
棚田さん:後援会の活動を通じて、私たちが思っている以上に、地域の方が喜んでくださっていることを初めて知りました。
「金管バンド部の音楽で円座のまちを元気にするんだ」くらいの勢いで、笑顔が生まれる、いいまちだねってみんなが言える、そういう存在になれる可能性があるんじゃないかと思うんです。
持続可能なかたちで、金管バンド部も後援会・保護者会も、いっしょに育っていけたらいいな、と願っています。
取材を終えて
子どもたちの演奏に感動しました!
まだまだ遊びたい盛りの子どもたちが、こうしてひとつの音楽に向き合う姿は、こちらも背筋をピンとさせられる思いでした。
それを支える後援会・保護者の方々の必死なまでの努力には、金管バンドへの愛を感じずにはいられませんでした。それが子どもたちのやる気にもつながって、保護者・先生・地域・子どもたちの好循環の渦がぐるぐると円座を熱く盛り上げていく予感がしました。
小学校体育館から帰る際に、私たちの履いていたスリッパに「金管バンド部」の文字が書いてあることに気が付きました。
部活の地域移行とはこういうことか、学校と地域が協力し合うというのはこういうことなのか、と間近に感じることができました。
これからも音楽で円座を盛り上げていってください。応援しています!
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