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聴かせて!【一般社団法人もも】のわがこと
今週から始まりました「聴かせて!みんなのわがこと」。
記念すべき第1回は「まなびや もも」を運営している、一般社団法人ももの伊澤貴大さん(以下たかひろ)、伊澤絵理子さん(以下えりこ)ご夫妻にお話を伺いました。
「聴かせて!みんなのわがこと」とは?
香川県内でとても素敵な活動をされている個人や団体にスポットライトを当て、その活躍や想いなどの わがこと(我が事)を伺っていきます。
「共感の輪が広がっていってほしい」という想いからこの取り組みを始めました。
Vol.1
一般社団法人もも
「生まれ育つ環境に左右されず自分の未来に希望が持てる社会」の実現に向かって、子ども若者が安心して力を発揮できる地域のプラットフォームをつくる活動をしています。
① 教育支援
学習塾、学習支援、文化芸術ゼミ、ももカレッジ(キャリア支援)
② 居場所支援
居場所づくり、ゆてぃレク、体験活動
③ 暮らし支援
子ども食堂りこのキッチン、ももの居場所ごはん、フードパントリー、同行支援、ショートステイ
④ 相談支援
訪問支援、個別相談、保護者相談
ももの始まり「一人一人と向き合いたい」
――ももの取り組みを始めようと思ったのはなぜですか?
【えりこ】まず、原体験みたいな話になるのですが…。私は小学校1年生の時に父親が交通事故で亡くなって、母親が朝から晩まで働くようになり、その頃から学校に行くのが遅れることが増えたんです。でも、どんなに遅く登校しても学校の先生は「おはよう〜〜えりちゃん!」って迎えてくれて、保健室の先生は「学校では私のことをお母さんだと思っていいからね」と言ってくれました。しんどいことがあっても自分の感情を吐き出す場所があって、素晴らしい先生にたくさん出会うことができて。そこで、「こういう大人になりたい」っていうざっくりとした夢ができたんです。
その後、大学は国際協力系の学部に進学しました。そこで英語の教員免許を取得して、中学校の先生としてキャリアをスタートさせました。
――夢が叶ったんですね!教師のお仕事はいかがでしたか?
【えりこ】私は不登校の子や発達障害の子などに寄り添った対応をしたいと思って、先生になりました。でも、同僚の先生には「担任は学級全体を守るのが使命だ」と教えられたので、なかなか個別の対応をすることができませんでした。私には先ほどお話しした原体験があったので、「もっと一人一人と向き合いたい」という葛藤がありましたね。
そんなころ、院内学級(注:怪我や病気で入院しなければならない児童・生徒のために、病院内に設置された病弱・身体虚弱特別支援学級)の担任をさせてもらう機会がありました。
――院内学級とそれまでに経験した学級とは、どんな違いがありましたか?
【えりこ】院内学級の子どもたちは、自分の怪我や病気を治すのにいっぱいいっぱいでもおかしくないのに、「僕は大人になったらこうなりたい!」という未来への希望を持っていたんですね。少人数の学級で、一人一人としっかり向き合う中で、「私はこういう形で、子どもと関わりたかったんじゃないか」と思うようになりました。
院内学級を離れた後は学校に戻ったのですが、やっぱり私がやりたい子どもとの関わり方を「学校」という枠の中で実現するのは難しいのかな、という気持ちが強くなっていったのです。
――それで「学校」を離れることを決められたんですね。
【えりこ】ちょうどその頃、初めて自分自身が「当事者」になったことも大きかったです。13歳離れた私の弟が、中学校に入学してまもなくパタっと学校に行けなくなってしまったんですね。弟が不登校になったことで、家族として「当事者」になって、すごく悩んで、どうしたら良いのかわからなくなるという経験をしました。
弟が学校以外に行ける場所がないか、探しました。高松市には、廃校舎を活用した不登校のサポートセンターがありますが、「学校」だった場所に行くことに心理的ハードルを感じる子どももいます。他にはフリースクールなどもありますが、高松から遠かったり、どういった活動をしているのかが見えづらかったり…。社会には、本当に不登校の子を受け入れる場所がないんだと痛切に感じました。
その頃に結婚して、たかひろにいろいろ説明して。とにかく「学校をつくりたい!」って大きな夢を語っていました。そしたらたかひろが「いいじゃん!やったらいいじゃん!」って言ってくれたんです。それで、一緒にももの準備を始めることになりました。
小学生向けの授業をするえりこさん
「機会と情報の不平等」解消に向けて
――たかひろさんは、もともと教育の分野に関心があったのですか?
【たかひろ】僕も、大学時代に教員免許を取るための授業を受けていたので、多少なりとも教育分野に関心はありました。大学院ではカンボジアやバングラデシュにフィールドスタディに行き、マイクロファイナンスや世界のNPO経営などについて研究していました。マイクロファイナンスというのは、小さくお金を借りてビジネスを始めること、例えばまちのキオスクみたいな商店を運営したり、家畜を飼って収入を得たりする仕組みです。若者世代の教育問題に、金融とセットでアプローチすることができます。
社会人になってからは、リサーチャーという職種からキャリアを始めて、次に岡山県のジーンズメーカーで働きました。もともと服が好きだったので、新しいアパレルブランドの立ち上げをしたりしましたね。その後、結婚を機に香川に戻ることになりました。
――えりこさんから「学校をつくりたい」と聞いたときは、どう感じましたか?
【たかひろ】学生時代に教育問題に触れていたこともあり、えりこの言葉が響きましたね。不登校の子どもたちが行く場所があまりないという現状は確かにあるなと感じました。子どもって、愛情をしっかりと受け止めていれば大人の干渉がなくてもすくすく育つものですが、愛情が足りなかったらそうはいかないと思っています。
もう一つ、不登校の子どもを見ていると、子どもにとって「機会の不足」が障害になっているなと思います。さらに、学習面での「情報の不足」もあります。子どもにとって「機会」と「情報」へのアクセスしやすさは平等でないと感じていたので、そうした分野に取り組めたらいいなという気持ちが、ももを始めたベースになっているかもしれないですね。
居場所で子どもたちと遊ぶたかひろさん
ももが目指す「対等でフラットな関係性」
――運営はどのように役割分担されているのですか?
【えりこ】まず、私たち二人は専門が違うんですよ。先ほど話したように、私は教育、たかひろは非営利ガバナンスに強いので、そのバランスで進められているのが良いのかもしれませんね。
【たかひろ】今年からは、事業の全体的なコーディネートはえりこ、現場のマネジメントは僕、実際に動くのはボランティアさんや大学生、という役割分担ができてきていると思います。今関わっていただいているボランティアさんは30名ぐらいですね。
――どのようにボランティアの輪を広げていったのですか?
【えりこ】ももは子どもたちが挑戦してみたい体験活動を応援する取り組みを行っているのですが、その取り組みの一つに「りこのキッチン」という子ども食堂があります。「りこのキッチン」のスタッフとして集まってくれたボランティアさんが、ももの他の活動にも協力してくださるようになっていきました。そういう意味でも、「りこのキッチン」の存在は本当に大きいですね。
【たかひろ】ボランティアさんは「こんな人に関わってほしい」というのはあんまりなくて、ももに興味を持ってくれた方であれば誰でも嬉しいです。
【えりこ】少し前までは「こんなに困っている子どもがいるんです。だから居場所が必要なんです。助けてほしいです。」って仲間を募っていました。でも、その声の掛け方は間違っていたなと気づいたんです。最近は旗の振り方を変えて、「ここにみなさんを待っている子どもがたくさんいますよー!子どもたちと関わると楽しいですよ!」と伝えています。「困っている人」と「サポートする人」という関係性ではなく、子どもも大人も、一緒にいる人たちが対等でいられるような、フラットな関係性をつくりたいですね。
演奏中のえりこさんとボランティアのみなさん
――ところで、お二人は本当に仲が良さそうですが、喧嘩とかしないんですか?
【えりこ】めちゃめちゃありますね。ね?(たかひろさんを見る)
【たかひろ】はい。(一同笑)
【えりこ】私はいろいろ「これやりたい」「あれやりたい」ってすぐに言っていく、イマジネーションタイプ。たかひろは、それを受け止めてロジカルに「それは本当に必要?」「それはももにとって大事なこと?」と冷静にツッコミをするのです。あんまり穏やかには話していない気がします(笑)。私はアイデアは出せるけども、それを具体的に進める方法がわからないので、たかひろがそれをフォローするイメージですね。二人で一人前だと思っています。
誰もがあるがままでいられる「草原の学校」
――活動する中で大切にしていることは何ですか?
【たかひろ】僕は、子どもの意思を尊重することをすごく大切にしています。たとえ小さくても、子どもたちが選んだ一つ一つの決断を尊重したいし、自分で試行錯誤しながら選んだ決断を後押ししたいなと思います。
【えりこ】私は、ひとのあるがままを受け入れられる場所でありたいなと思っています。私はももが大好きだから今こんなふうに話せるけど、教員をやっていたときは自分に自信をなくしてしまうこともあったし、今でもすごく弱くなってしまうときがあります。それは同じ一人の人間の中にある多面性に過ぎなくて、苦しさや生きづらさに埋もれてしまうこともあるけど、それだけが自分という人間なわけじゃない。自分の好きなことや自分らしくいられる時間を大切にできて、自分のことを認め、愛していける。良いときも悪いときも、強いところも弱いところも出せるような、そんな居場所でありたいです。
――最後に、今後のももについて教えてください!
【たかひろ】僕たち二人から始まった活動なのですが、少しずついろんな方に支えてもらいながら活動できているなという実感があります。これからもこの動きを少しずつ広げて、子どもたちの支援に繋げていきたいと思っています。
【えりこ】ももが目指す社会のイメージはこれ。「草原の学校」です。
居場所づくり活動のリーフレット
映画「サウンド・オブ・ミュージック」の、丘の上で先生と子どもたちが一緒に踊っているシーン。あのイメージが理想ですね。まちに、おばあちゃんもおじいちゃんも、学校に行っている子もそうではない子もどんな子でも、ごはんを食べるところがあって、本が読めるところがあって、いろんな人が関われるような社会。それは私たちだけではできないので、地域の方々に共感してもらって、一緒につくっていけるといいなと思っています。
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取材を終えて
「ももに来る子どもたちは、がんばれている時に来てくれるんです。でもがんばれない時もあって、がんばれてない自分を見せるのってつらいですよね。だから、そんなときもあるよ、そんなときは休もうよ、って言える自分たちでありたい。」
お二人の言葉はどこまでも子どもたち一人ひとりに寄り添っていて、優しさにあふれているなと感じました。
たくさんの人が関わり、確実に活動の幅を広げている「もも」。それはお二人の人柄があってこそ実現しているのでしょう。
えりこさんが理想の形だという「サウンド・オブ・ミュージック」、ぜひ観てみたくなりました。
わがこと取材チームといっしょに
一般社団法人もも/まなびやもも
所在地:香川県高松市太田上町1287-6
連絡先:087-899-5340(月~土 13~21時)
SNS:Twitter/Instagram/Facebook(DMでの問合せ可)
イベントや居場所解放の予定・来所事前予約などはHPでご確認ください。こちらからオンラインでも寄付を受け付けています。誰もが自由に自分らしく過ごせる場 "momonoba(r)" の1日マスターも大募集中です。