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アコースティックギター弾くならいつかはマーティン

ボクは2006年にマーティンのD28を買いました。当時で35万ぐらい、今アマゾンで見てみると36万ぐらいします。

ボクがギターを弾き始めたのは小5か小6ぐらい。家にあったクラシックギターを手にしました。親父の世代が「禁じられた遊び」のヒットでクラシックギターを買ってみたものの放置されていたというよくあるケースで息子が手に取るというのも昭和ではよくあった話です。

小学生の頃から母親の影響でさだまさしが好きでクラシックギターなのにさだまさしばかり弾いてました。見かねた(?)父親が「フォークギターを買ってやろうか」と言ってくれました。中学1年の時です。

大変嬉しかったのですが、万単位の買い物なんてしたことがないので1万以下の製品がないアコギという業界にビビってしまい、近くのギターショップで最安だったヤマハの1万2千円ぐらいのアコギを買ってもらいました。

それでも嬉しかったですよ。フォークソングだとクラシックギターで演奏するのとアコギで演奏するのでは当然音質が全然違うわけです。

さだまさしの場合当時だと「まんまる」とか録音し直し版の「秋桜」とかでまっさんが聞かせてくれる「冷徹だけど透明な響きの音」が、これぞまさにアコギの真骨頂と思っていました。でもあの音はスティール弦でないと出ないんです。

まっさんの「まんまる」はオフィシャルサイトでyoutubeが公開されていますね。ファンの間では超有名なアコギ/ハーモニーの名曲として語られる曲です。

この曲が収録されている「ADVANTAGE」というアルバムが発表されたのが1985年。ボクは14歳でした。14歳の中坊には衝撃の曲でした。「こんなきれいな曲を作る人がいるのか」と。

多分14歳のうら若き中坊でなくても、今50を越えたボクでも初めてこの曲を聞いたら衝撃を受けると思います。

オープンGチューニングという変わったチューニングもさることながら、運指の難しさ、サビに入った時のどんどんハイトーンに上がっていくギターコード、ギターソロの実はバックアルペジオがすげぇ難しいとか、当時は死ぬほど練習してました。つか、そもそもイントロのギターソロがすんげぇ難しい。あんなに練習したギター曲は多分これが最後じゃないかなぁ。ビートルズの「Blackbird」や、サイモン/ガーファンクルの「スカボロー・フェア」とかでもここまでは練習しなかった。

ちなみに10年近く前知人が結婚するということで「結婚式でなにか一曲やってくれないか」という依頼が来ました。彼もギター弾けるし、実はさだまさしが大好きという人だったので「じゃぁまっさんのまんまるを一緒にやりませんか?ギターのイントロや主旋律、歌のメインはボクがやるんで、バックギターとハモリを一緒に」と誘いました。

当日は新郎が一緒に弾き語りをするというサプライズ演出でしたが、彼のハモリのうまさやこの曲の歌詞の深遠さに新婦さん、歌が終わる頃には泣いてましたよ。いい曲っすよね。

決してヤマハをディスるつもりはないんですが、そもそも1万円台で買えるギター。今から思うとまぁそれなりにひどいものでした。ローポジションでチューニングを完璧にしても7フレットぐらいでバレーコード弾くともうずれてる。新品の弦なのに。今チューニングしたばかりなのに。

しかも数年経つとヘッド側もブリッジ側もナットがどんどん削れて来て弦高がガタガタなんです。だからより一層チューニングが合わない。

それでも初めて手にしたアコギが嬉しくて嬉しくて、ずっと愛用してました。2006年にマーティンを買うまで実に20年以上弾いてました。

アコギの魅力はなにか。

電子楽器にはない「指から体から、骨を伝わって音が入ってくる」感触。そして楽器自体が共鳴する響き。「あー、ずっとこの響きの世界に埋もれていたい」と真剣に思います。

電子楽器をディスってるわけじゃないんですよ。個人的に一番好きな楽器はシンセサイザーですから。

でも電子楽器では逆立ちしても出せない魅力が生楽器にはあるんです。

時は流れて2006年。さだまさしを弾いていた中坊も結婚していました。

なぜ2006年という年を覚えているかというと、ラゾーナ川崎がオープンした年だからです。ラゾーナ川崎のオープンが2006年9月。当時かなり話題になっており、人手もすごい様子でした。

その年の12月、車でどこか出掛けようか、どうせなら最近オープンしたラゾーナに行ってみようかと妻と行ったんです。

当時はまだ大きなモールは周辺になく、年末、クリスマス近くということもあり、大変な混雑でした。しかし、そんな大混雑の中オアシス的に人の少ない店がありました。それがこのモールで唯一の楽器店(失礼な)。

ま、楽器店ってそんなに常時混むものでもないし、確か時刻は夕方19時ぐらいだったので他のアパレル系の店と比べるとほんとに人は少なかった。

でもそこはさすがラゾーナ。店舗が大きい。ピアノからギターから管楽器までなんでも揃ってる。ボクがアコギのコーナーを見てると店員さんが声をかけてくれて、「どれか気になるのがあれば弾いてみます?」と。

「うーん、今日は買わないけど、それでもいいよということならマーティン弾かせてもらっていい?」と失礼なことを言うボク。

実はボクはマーティンの中でも世界に100本前後しか残っていない(オリジナル)000(トリプルオー)を死ぬまでには欲しいと思ってるんです。でも安いものでもお値段は140万ぐらい。

渋谷の楽器店とか見てると、たまぁに000があるんですよね。店員さんが声をかけてくるので「うーん、000弾いていい?」と聞くとさすがに000は触らせてくれない。それ以外のマーティンならいいんですけど、と。

店員さんはそんな購入意欲を見せない客でも「もちろんいいですよ!まだ開店したばかりで隣のスタジオブースに誰もお客さんいないので、そちらを使ってください」と言ってくれる。この楽器店、スタジオも併設してるんです。

ボクはその時妻と別行動で、楽器店で待ち時間を潰すぐらいの意識だったのですが、「じゃぁお言葉に甘えて、この店にあるマーティン、全部持ってきてもらえますか?」とお願いしました。マーティンと言ってもピンキリだけど、「そこそこレベル」を用意してくれて、持ってきてくれたのがD28、D35、D18。

マジか。3本も弾かせてくれるのか。

そこでまぁ広いスタジオを1人で独占して3本ものマーティンを好きに弾かせてもらうという贅沢な時間を過ごさせてもらいました。

まっさんやサイモン&ガーファンクルの曲なんかを機嫌よく弾いていたら、10分ほどして店員さんがやってきて「どうですか?」と。

「えーと、ダメ元で聞きますけど、ピックで弾いていい?」と聞いたら、あっさり「いいですよ」とピックを持ってきてくれる。

マジか。

売り物の商品、しかもン十万するマーティンにいくらピックガードにビニルを貼っているとはいえ、ピッキングすると多少なりとも傷がつくので「いや、ピックはちょっと・・・」と言われることが多い試し弾き。それをあっさりいいよと言ってくれるので、逆に絶対にピックガードを傷つけないようにとこちらが変に緊張してしまいました。

うわー、さすがに20年以上弾いてきた1万円台のヤマハのギターとは違うわー、ローポジもハイポジもめっちゃチューニングずれないわー、倍音すげえわー、いつかはマーティン欲しいなぁと思いながら弾いていたのです。

そこへ買い物とか一通りウィンドウショッピングを終えた嫁さんがやってきました。横に座ってボクのプレイを聞いています。

この人、ボクが嫌いなのか、アコギが嫌いなのか、家でボクが弾き語りやっていても絶対に近くで聞かないし、ましてや褒めるどころか感想すら述べない人なんです。

そんな嫁さんが黙って2-3分ボクのプレイを聞いていて一言「さすがにいつもあんたが使っているギターとは違うね」と言う。彼女も若い頃はセミプロに近いミュージシャンやってたので耳は確かです。でも彼女はボーカルなのでギターは詳しくないと思っていたんです。

「え、分かる?」と聞くと「そりゃ分かるよ。響きとかチューニングが全然違うじゃん」と。

うーん、ギター素人でもすぐに分かるぐらい1万2千円のギターと30万超えは違うのか。

そんなことを心の中で考えていたら、後のボクの人生を決定づける衝撃の一言が彼女の口から。

「買えば?」

いやいや、なにを言っとるんだ、お主。

結婚して3年、共働きだけど、オレは小遣い制だぞ?月に3万しかもらってないんだぞ?なのに30万超えのギターを買え?と。

「だってこの間一時金入ったでしょ?余ってるなら買っちゃえば?」と。

当時勤務していた会社はIT系によくある完全年俸制なんですが、ボクが関わっていたプロジェクトが大ヒットして、売上が前年比で1桁多く出せたこともあり、プロジェクトに関わっていた人間に一時金が出たんです。一般企業で言うボーナスに近いものです。正確な金額は忘れましたが、140万ぐらい出たと記憶しています。

そのうちの50万ほどで夏休みに嫁さんとハワイに旅行してきました。新婚旅行も行けてなかったのでまぁせめての罪滅ぼしという感じでした。

一時金の金額は言ってなかったのですが(一時金なので給与とは別口座に指定できた)、相当出たのは感じていたようで、それもあっての「買えば?」という発言でした。買ってもいいけど、家計からは出さんよという妻の意思を感じたものです。

うーん、うーん、買っちゃおうかな、このタイミング逃したらオレの給料だとこの先買うこともないし、家計から嫁さんが出してくれるとも思えないし、マーティンなら一生ものになるだろうし、このままだと中学の時に親父が買ってくれた1万2千円のギターが一生ものになるだろうし・・・

逡巡すること1分。

店員さんに「これください」と言ってました。その時選んだのがD28です。名器と名高いモデルで、プロもスタジオやライブで使うことの多いギターです。

実はその時弾かせてもらっていたD35とかD18の方が値段は高いのですよ。D35って当時で45万ぐらいしたと記憶しています。

でも個人的に一番魅力を感じたのがD28でした。迫力のある鳴り、ボディから自分の体を包みこんでくれるように広がるサウンド、色で表すなら「明るいオレンジ!」という明瞭な響き。

都合20-30分ほどスタジオで弾かせてもらっていましたが、最初の弾きから「あー、これが好き」と感じていました。

ただ、後で知るのですが、D28はその明瞭かつ大きな響きのためにプロがライブで使用することも多いのですが、それが故に家で弾くのにはあまり向かないらしいです。音が大きすぎるからです。スタジオで弾いていた時はちょうどいい鳴りと感じていましたが、家で、特に床がフローリングだと鳴りすぎて近所迷惑かも?と感じるほどの鳴りです。

で、まぁ一括払いして持って帰ってきました。

あれから18年。他のアコギを欲しいとか買おうかなと思ったことは一度もありません。レコーディングのためにエレアコを買おうかと思ったことはあるし、深夜の練習のためにヤマハのサイレントギターは買いましたが、メインのアコギとしてD28以外に欲しいと思ったことは一度もありません。

18年経った今でも弾くたびに「いい音だなぁ」と感じるし、指の骨から入ってくる音には「ぞくっ」とするし、弾き方次第で昔中学生の頃に憧れていたさだまさしの「冷徹かつ透明感のある音」を出せるし、同時にサイモン&ガーファンクルのような暖かい音も出せる。

今でも発声とギターのならしでビートルズの「Black Bird」をほぼ毎朝軽く弾き語りするのですが、毎朝「D28、最高だぜ」と感じています。

クラシックにしろ、アコースティックにしろ、エレキにしろ、ギターを始める時最初は安いギターを選ぶと思います。でも5年、10年とその趣味が続くなら、次の1本は一生ものになるような少し高いギターを候補に入れて欲しい。ガットギターも3-4万円の入門用と30-100万するものでは響きや倍音が全然違うんです。

ありがたいことに楽器店では「ごめん、今日買うつもりはないんだけど」と断っても気持ちよく試し弾きさせてくれる店が多い。そうやって高いギターを試させてもらって「アタリ」をつけ、金と勇気の準備が整ったら高くて良いギターを手にしてください。

人生が変わるわけではないけど、人生に艶やかな色を添えてくれます。

良いギターライフを。

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