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恋は泡/Grapevine #3 読むバイン
#恋は泡 #Grapevine #読むバイン #和田東雲
歌詞全文はこちらをご覧下さい。 https://g.co/kgs/XS3HJ3w
「泡」と書いて「うたかた」と読む。
「恋はうたかた」
うたかたとは、泡のようにすぐ消えてしまう儚いもののことだ。漢字で書くと【泡沫】となる。【泡】と一文字書いて、「うたかた」と読む用例を僕は他に知らない。もっとも、【泡】も【沫】も、どちらも「あわ」のことだし、【泡】と書いて「うたかた」と読ませるのことが、行き過ぎた飛躍というほどでもないかもしれない。それに、戦前戦後のブンガクに耽溺する田中和将の愛読書の中に、【泡】と書いて「うたかた」と読ませる作品があったとしても、何ら不思議はない。
しかしそうではあるまい。これは「仕掛け」だ。
田中和将は、先に出た梶井基次郎の『檸檬』の主人公のように、誰に知られぬ様にこっそりと爆弾を仕掛け、結果は見ずにその場を立ち去り独り面白がっているようなきらいがある。たびたびそういうことがある。仕掛けが分かり、カチリと鍵穴を回すと、途端に全ての歯車が回り出す。
結論を言うと、これは風俗嬢との束の間の疑似恋愛を歌ったものだ。あけすけに言えば、「うたかたの泡」はソープランドの泡だ。田中和将は中学2年生のころに年齢を偽ってラブホテルで働いていたと言う時期があり、おそらくその当時の風景を物語化したものだろう。
待ち合わせた場所は群れの中 ちょっとだけ後悔した
以下略
少年はソープ嬢と人通りの多い街の中で待ち合わせをした。しかし客と嬢の関係ではない。二番に、
忌み嫌った場所で皮肉にも二人は出会った
とあるように、二人はラブホテルでたまたま出会い、親密になったのだ。しかし群衆の中で彼女と待ち合わせたことに後悔が生まれる。彼女を「買った」と知人に思われるのを恐れたからだ。
「アナタにならどんな事でもしてあげるわ」
という彼女は、性に対して手慣れていて
だってさっきまでずっと黙っていたクセに
と返す少年は遅れをとっている。
巧いのは、サビの3つの「したたか」さだ。
一つ目。
君がもっとしたたかに 振舞えばこの世は
交じり合った秘め事も また夜の泡(うたかた)
ここの主体は少年である。したたかに振舞わない(心を開いてくる)彼女に、少年は心を惹かれてしまって、一夜の関係と割り切ることができない。したたか振舞ってくれれば、忘れることができたのに、という逆説だ。
二つ目。
ほんのちょっとしたたかに振舞えばそれだけで
知らなかった僕たちはうっとりするばかり
不特定多数と性的な関わりをもってお金を稼いでいる彼女と、それを分かりつつ彼女に足を洗わせようとするほどの真剣さも誠実さもない少年の交わり。初めて肉体を通わせる喜びを知った二人は、背徳には知らぬふりして行為に溺れていく。ここでいう「したたか」さは、白痴を装う狡さのことだ。つまり、主体は共犯関係を結ぶ「君とぼく」にある。
三つ目。
君はもっとしたたかに振舞わなきゃだめさ
やがて ぼくは消失せるさ そして恋は泡(うたかた)
少年は結局彼女の元を去る。少年は卑怯にも撤退し、彼女はゲームに負ける。ここで、主体は彼女になっている。体を売り、うたかたの恋にのぼせて舞い上がるも、やがて男に捨てられる少女の物語だ。「したたかに振舞う」、それは「恋をしたら負け」ということだ。まさに「恋は泡(うたかた)」だ。
そうだね これでもう おいとまさせてもらうよ Bye Bye Bye
と歌って曲を締めるのは、なかなかのクズっぷりである。田中和将の真骨頂、もとい、数ある魅力の一つだ。
【著作権について】
本記事では、日本のロックバンドGrapevineの音楽、主にその歌詞を考察していきます。Grapevineは、歌詞については、ギターとボーカルを担当する田中和将氏が書いています。そのため、歌詞の一切については著作権者は田中和将氏にあるものと考えております。ただ、日本の著作権法には以下のような一文があります。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
本記事は、公表された著作物について、引用して批評・研究しようとするものであり、著作権者の権利を侵害するものではないと考えています。また、その意思はありません。万一、引用の仕方や分量について、著作権を侵害するような部分があると感じられた場合、ご指摘いただければ改善に努めます。
なお、本記事の文につきましては、先に述べました著作者Grapevine及び田中和将氏の権利を害さない限り、転用して構いません。その際、ご一報頂けると嬉しく思います。
和田東雲