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女性の社会参加について

 男女雇用機会均等法が成立したのが1985年、その30年後に女性活躍推進法が成立している。女性の社会参加は理念ではなく、実態として強く求められるようになって久しいが、現状は世界的に見ても底辺に近いと言われるほど進んではいない。社会で活躍する女性が増えている一方で、望む形での社会参加が出来ない女性は依然として多数存在している。こうした状況の改善に取り組むべく、株式会社ユーメディアでは、昨年度から「ハハルル」という女性活躍支援を進める事業を開始した。まだ緒に就いたばかりの事業だが、地域の企業や行政を巻き込み、多方面から期待されるものになっている。その取組は学生達の目にはどの様に映るのだろうか。
(取材先:株式会社ユーメディア 2024年5月24日)

 厚生労働省の調査によると現在、女性の労働人口率は上昇している。令和4年女性の年齢階級別労働力率の推移をみると、1番高い数値は25から29歳の87.7%であり、次に高い数値は45から49歳となっている。そして、30から44歳の間は高い数値と比べると低い傾向にある。このような女性の労働人口率はM字型曲線ともいわれ、社会でも問題視されている。
 以上のことを踏まえると、日本は女性の社会参加への支援が足りないことが分かるだろう。女性の社会参加が進んでいるようで、支援が足りない現実にある今日、実際に女性や企業はどのような思いを持っているのだろうか。
今回は宮城県を代表する企業である株式会社ユーメディアが行っている事業、「東北・子育てブランク女性のライフキャリア磨きあいカレッジ ハハルル」に調査を行った。
1.ハハルルとは
 ハハルルでは、子育て経験を強みに変え、母たちの再就職を後押しするプロジェクトを行っている。2023年の6月から第一期が始まったハハルル。このプロジェクトは、ユーメディア取締役の今野綾子氏自身が、子育てを通じて周りの母たちと関わる中で、母たち「名もなきスキル」を感じたことが創業の大きなきっかけとなっている。この「名もなきスキル」とは、ストレスコントロール力・利他的な気持ち・タイムマネジメント力など、人によって様々なスキルがあるが、いずれも子育てを行った母から有する力といえる。スキルは、ビジネスにおいても意味あるものである。そのスキルを自己認識してもらい、その後の人生に活かしてもらえるようにしたいというのがハハルルの目的である。
 さらにハハルルのプロジェクトは、東北を動かす大きな社会変革を企図した事業であるといえる。そして目指している成果は母の持つ名もなきスキルを見える化できるようにすることである。名もなきスキルの見える化とは、上記で示したようなそれぞれのスキルを母たち自身は知らない。それをハハルルのプロジェクトを通して、自分自身のスキルを「知る」ということである。
 母たちには様々な背景があり、ハハルルは母たちのそれぞれの力を信じている。だからこそハハルルは、社会に女性を利用して、ただ雇用を生み出したいわけではない。「ママという側面だけでなく私の面にもフォーカスして磨いてきたスキルを人生のプランニング全体をお手伝いし再び社会参加をしたい」という気持ちを後押ししているのである。
 昔よりも「男は仕事、女は家事・育児」という概念は薄くなってきているように思われているが、実際にはまだまだその概念は残存している。ハハルルではその理由として、外部要因と内部要因があると考えている。外部要因とは企業で女性が働く環境が整っていないという点である。環境が整っていない中母たちを送り出しても、うまく働けず、早期退職してしまう可能性が出てくる。そのためハハルでは、母たちだけではなく、企業にもアプローチを進めている。一方、内部要因とは世の中の女性が本当に働きたいという意思を持っているのかという点である。母たちの中には「働けるけど、働かない」などといった心持ちの人もいる。ハハルルはこの内部要因を踏まえ、母たちにプロジェクトを通して行動を起こすきっかけや動機を育てようとしているのである。
2.ハハルルの母たちへの思い
 ハハルルに参加したから正規雇用で社会に参加しなければいけないというわけではない。自己分析をした結果、非正規雇用として社会に参加する方が合っていることに気づいた人もいれば、全く異なる考え方で、社会と関わろうと考えるようになった人もいる。ハハルルは、母たちにより多様な選択肢を気づかせることを大切にして活動している。すなわち、自分と向き合い、自分を見つける機会を提供してくれている場なのである。
ハハルルについて今回お話頂いた西村さん、手塚さん、浅川さんから以下のような言葉をいただいている。
西村さん「人生は一度きり。個人の人生を大切にしてほしい。」
手塚さん「「産んでみないと分からない」という言葉を大切にしている。」
浅川さん「楽しい人生を送ってほしい。」
 ハハルルを運営している方々の中には、実際に子育てを経験している人もいれば、子育てを経験していない女性もそして男性もいる。様々な立場の方が多様な視点を大切にしながら、女性の社会参加向上を目標に取り組んでいるのをとても感じられた。
 以上のようにハハルルは母たちが名もなきスキルに気が付き、社会にスキルを活かせるように支援すること、そして女性の社会参加のために企業へアプローチするといった活動を主に行っている。しかし、雇用をする側の企業にとっては「母である」という肩書きは良くも悪くも関係ないという。
では、さらなる女性の社会参加発展のためにはどのようなことが必要になるのか。
3.さらなる女性の社会参加のために
 現代は社会の構造が変化したことで、働く人々の要求も変化していっている。しかし、女性の社会参加のために企業が今以上のメリットを作ることは容易ではない。そこで行政の支援が必要になるのではないだろうか。行政は基本的な考え方や枠組みを作ることが可能である。今以上のメリットをつくることが難しい企業に唯一アプローチすることができるはずだ。しかし、行政は強制する力を持ち合わせていない。だからこそ、企業と行政それぞれが足りないところをお互い補うことで女性の社会参加推進に有効となるのではないだろうか。
 また、母の「名もなきスキル」を活かすことのできる場は、企業だけとは限らない。上記でも説明した通り、「名もなきスキル」は利他的な気持ちやタイムマネジメント力など企業だけに通用するスキルではない。企業は「母」という立場は良くも悪くも関係なく、厳しい現実があることも確かだ。社会参加は企業に就職することだけではない。どの道が自分自身に最適かを見つけ、その道に進むことも社会参加といえるだろう。
 以上のことから、行政や企業は多様な道を用意してあげる必要があるのではないだろうか。女性の社会参加を推進していくならば、今どのような状況にあり、何が足りないのか、しっかりと現実に目を向ける必要がある。母たちは自己分析を通してどのようなスキルを持っているのか「知る」ことを、行政は行政にしかできない支援の枠組みを、企業は行政が作りあげた枠組みのできる限りの活用を、それぞれができることを少しずつ行っていくことが重要となる。その積み重ねが、きっと今後の社会に変化を与えるだろう。
 最後に、少しでも再び社会参加したいという想いを持っているならば、ハハルルが無料で行っているサロンイベントに参加し、説明や実際にプロジェクトに参加した母の声を聞いてみるのもいいのではないだろうか。(大枝凜花)

 ハハルルの取組は、学生達にはとても魅力的に映るよう。ユーメディアの果敢なチャレンジは女子学生のみならず、男子学生にも刺激になるらしい。しかし取材を進めていくと、どうにも理想に近づかない現状が見えてくると、企業や行政に対する風当たりは強くなる(行政は何とかしてくれる、という期待は東北では根強い)。母のスキルを仕事に活かす、という考え方には学生達の共感が集まった。実際に子育てに関われば、そこで養われる力がとても大きなものであることは男性の私でも存分に感じられるものであるが、その力を仕事に活かせるかといえば、多少なり共感力が高まり、寛恕の心が幾分ついたかとは思うが何ともいえない。その力を具体的に感じ取れるように出来れば、企業サイドの理解や協力も高まるのでは無いか、と思う。
 それとは別に、母達の声は企業にとって大いに参考にすべき点が沢山ある。企業の論理があたかも社会の正論であるかのように語られることが多いが、既に社会は大きく変化し、新しい仕組みが必要とされる局面に至っている。企業の論理に沿わないということで切り捨てられた小さな声は、新たな時代のあり方を考える上での貴重な気づきを与えてくれる。


母にも、母以外にもためになるプロジェクト
 
出産や子育てで仕事から離れた後の再就職はなかなか難しいですよね。
今回は株式会社ユーメディアで行っているママたちのためのカレッジ、ハハルルに携わっている方々(西村さん、手塚さん、浅川さん)に話をお聞きした。
 
ハハルルとは?
子育てを一段落終えたお母さんの再就職を後押しするプロジェクト。ハハルルにしかない魅力は「母の持つ名もなきスキルを見える化する」ことだという。母親として築いてきたスキルに合わせて、「私」としてのスキルにも向き合い、どうありたいかという観点に着目することに重きを置いている。
 
実際のプロジェクトの感想は
「失敗が許せる場を作りたくて。正しい知識と場数のある場は社会にあまりないので、そういうものを大切にしたいです。(手塚さん)」
「社会のためではなく個々のために行うコースなので、就職するかどうかは人それぞれですね。(西村さん)」
「企業にヒアリングした時の印象としては、(お母さんの再就職に関して)理解も手加減もないです。お母さんだから態度が変わるということはありません。(手塚さん)」
 
女性の活躍について
「女性の社会進出が進まない理由として外部要因と内部要因があって、外部要因は企業の環境が整っていないこと、内部要因は(お母さん)本人の心持ちがあると思います。お母さんたちが一歩踏み出す「良い言い訳」を作らせてあげたいですね。(手塚さん)」
「企業側とお母さん側の折り合いをつけることが難しいですね。企業側も女性活躍のために何をしたらいいかわからないって思っていらっしゃる方も多いです。(浅川さん)」
 
最後に
 女性活躍が進むためには企業側とお母さん側両方へのアプローチが重要であり、溝を埋めていくことが必要不可欠である。
また、ハハルルでは母の持つスキルを活かすプロジェクトを行っているが、今回インタビューを受けていただいた方から「彼女たちの生き生きした姿を見て自分に対する鼓舞にも繋がった」「母以外のためにもなるプログラム」という声が上がった。失敗が許されるような、練習となる場が提供されていることは誰にとっても大切なことかもしれない。それに加え、本人が望む成果の実現のために社会のしくみを変えていくことが必要である。難しい課題ではあるが、今後は誰にとっても望む成果の実現に繋がるような社会改革を目指すべきである。
 (高橋紅羽)

 母以外のためにもなる、というところが大きなポイントなのだろう。出産育児が当たり前のライフスタイルとされていた時代とは違い、それらは今は「選択」や「権利」となった。母になること(当然父になることもそうなのだが)が当たり前とされていた中では、それが因習や強制という側面が多分にあったとしても、それなりにそれを支援する体制があったといえる。しかし今は新しい価値観の中に出産育児を位置づけることはしながらも、それを支える体制を十分整備したとはいえない。むしろ古い時代の不完全さを中途半端に残し、人間くさい面倒な部分を新しい価値観の美名で排除して、出産や子育てを甚だ中途半端で、親、特に母親の負担を絶大にするようなものにしてしまった。
 母は(父もそうであるが)ほぼ準備も無く、唐突に母になり、母としての役割を担うことになる。自身の心身の内面も、家庭も、社会関係も、十分な支援もなければ保証もない中で、一人で決着させるように強いられる。母の力に向き合うことは、そうした負担を解消することもそうだが、そうした負担を何とかしてきた試行錯誤を適正に評価することでもある。産業の話と家庭の話は別、というのは前時代の遺物であり、両者を社会のこととして包摂できる議論を進めていくことが不可欠なのだろうと考える。


 女性の社会参加というテーマを調べるため、2024年6月「株式会社ユーメディア」の主催するハハルルに取材を行った。ハハルルとは、仙台に住む子育てによる仕事のブランクから再就職に悩む母親を後押しするためのプログラム型カレッジである。「母親たちが持つ名も無きスキルを見える化」し、再就職を検討している女性達に個人レベルでサポートを行っている。
 現状として、一度キャリアから外れた女性が正規雇用に戻るのは難しく、働き方が非正規雇用に限定されやすいといった事実が見られる。近年は働き方の多様化に伴いロールモデルが増加したものの、自身の境遇にあてはまらないという問題もある。ハハルルへの取材では、女性の社会参加の促進には「女性たちの希望と企業の意向を擦り合わせるアプローチが必要」という見解が示された。
 女性の社会復帰が進んでいない原因には、企業が求める働き方が子育ての現状に合っておらず、女性達の希望と企業の要求が一致していないことが挙げられる。一般的に多くの企業は正規雇用の場合、24時間何時でも対応可能な人材を求めている傾向が強いという。また、ハハルルを利用する世代の多くは30代後半から40代で小学生の子どもを持つということから、育児と仕事を両立したい人に寄り添える企業のあり方が必要であると考えられる。ハハルルでは、全6回のプログラムを通して自分ではわからない長所やスキルの発見を目的とする一方、最終回ではプログラム受講生と県内企業における企業人事の方との意見交流会を実施している。
 子どものいる30~40代の女性は再就職に悩んでいることから、女性の社会参加には育児と仕事を両立したい母親たちに寄り添える企業のあり方が必要だと考える。その際、求められるのは「多くの女性が希望する仕事内容から職業選択をして、両立できる働き方が可能な再就職」(的場,2014)ではないだろうか。そこで、ハハルルが実施しているような女性と企業の意見交流の場をより広く行うことが必要であると考えられる。また、その他にはマザーズハローワーク青葉の情報なども女性の再就職を実現し得る手段の一つとして考える。(坂井夢実)

 ハハルルは正にこれからのプロジェクトであり、今後の展開によってはその内容が大きく変わっていく可能性もあるだろう。極めて大きく難しい社会課題に、一民間企業が取り組むことはまさに英断であるが、この取組が地域に新しい議論を喚起することが何よりの成果である。その議論が継続的に広がっていくようなものになることを期待したい。
 仙台地域には、女性の戦力化を率先して進めている企業も少なくない。障がい者についても数は少ないが、取り組んでいる事業者もある。皆が同じようにはならなくても、古の社会の呪縛をいつまでも引きずらなくても良い様に、色々な選択肢が見せられたり、可能性が見えてくればそれだけ社会は啓かれる。


「母」には誰しも、「私」という側面がある。いや、「母」が「私」の側面である。そんな「母」という側面を持った女性たちの、新たな人生を踏み出すサポートをしている活動がある。株式会社ユーメディア主催の、母のためのライフキャリア磨き合いカレッジ「ハハルル」だ。この記事では、ハハルルの担当者3名へのインタビューを通して分かったハハルルの魅力を紹介する。
ハハルルの活動は、ユーメディアの取締役を務める今野綾子さんが、子育てを通じて周りの母たちと関わる中で、母たちのパワーや「名もなきスキル」を感じたことがきっかけで始動した。ハハルルのプログラムでは、多彩な講師陣による講義や他の参加者との交流を通して、参加者の未来を共に考えていく。今回のインタビューからも、ハハルルの活動は、ただ雇用を生み出すという表面的な理由からではなく、世の中の母の力を信じていることが原動力となっていることを感じた。それゆえ、雇用創出に固執せず、母のこれからの「人生全体」のプランニングをサポートするという暖かい取り組みが生まれたのだろう。
ハハルルでは、女性たちが「母」として生きてきた年月と共に、「私」にも向き合う機会を提供している。家庭でも職場でもない、「私」でいられるサードプレイス。ハハルルでの人間関係は日常とは違っている。未来を真剣に考える仲間と、「私」として語り合い、自分の思いを再確認する場、それをハハルルでは「磨き合いカレッジ」と呼んでいる。そのために、有料(¥33000)かつ子どもの同伴NGとしていることで特別な「学びの場」を実現することに努めている。この金額は、簡単に出せるようなものではないが、同じような高い志を持つ仲間を集めるため、また、質の高い講義を提供するためには必要なものであろう。大人になると学ぶ機会や自己開示する場が減ってしまう。だが,ハハルルでは、恥ずかしがらずに“夢”や“希望”を語ることで、本来持っていた「私」の意志を思い出すことができるのである。
以上のように、ハハルルでは参加女性の「母」としてのスキルと「私」としての思い・経験の両面から未来を考えていこうとしている。ここでは、子育てはブランクではなくキャリアとして扱われているように感じた。子育ても仕事と同じように立派な経験値となることを示し、その価値を自覚してもらうことで、母たちの自信に繋げているのだろう。

 ユーメディアによると、ハハルルの今後の課題として、「集客」「意欲の形成」「参加者と企業との結びつけ」の3つがあるそうだ。「集客」については、今以上に広報活動に力を入れ、子育て世代のお母さん方に知ってもらうことが必要である。私がネットでハハルルを検索した時には感じることができなかった魅力を、今回のインタビューでは感じられた。そのため、その魅力をより伝えらえるような方法をとれば興味を持つ人が増えるだろう。「意欲の形成」については、成果モデルの提示が必要であると感じた。まだ始まったばかりで、具体的な成果が見えにくいが、ニーズに合ったモデルで示していくことが重要であり、参加者からの修了後のフィードバックが必要であると考える。参加を考えている方も、高い参加料を払うからには、成果モデルがないことには、モチベーションにつながりにくいだろう。修了生の輝く姿を通してハハルルの実績を示すことができたら信頼度が生まれると考える。「参加者と企業との結びつけ」については、マッチングさせる企業の選定も大切になってくる。企業側にも、子育てを経験した母が大きな力となる存在であることに気づいてもらうことが必要である。
それぞれの人生に合った未来を設計できるハハルルは、今の多様性の時代に適した活動であると考える。だが、すでに正社員として働きたいと明確に決まっている人のために、よりスピード感があり、戦略的に再就職をサポートしてくれるようなプログラムがあると、ハハルルのターゲットに厚みが生まれ、より多くの人の興味を引くことができると考える。ハハルルの活動は、子育て世代のみならず、私たちのような若い世代にも希望を与えるような活動となっていくだろう。(麥澤聖奈)

 この学生の意見は、総括としてふさわしいだろう。要領よく古い社会の示してくれるものを受け取り、そこで賢く生きることを考える代わりに、何が理想であるかを考え、議論し、それを実現するために丁寧に現状と対話していく姿勢。そうしたチャレンジを目指す若者達を応援していくのが我々の勤めであり、彼らの実験材料としての社会なのだろうと思う。彼らの疑念をうやむやにせず、きちんと向き合うことができれば、その真剣さが彼らにも伝わるであろう。言い古された地域愛を彼らに説くよりも、彼らのチャレンジに誠実に向き合ってくれる地域であれば、彼らも引きつづき関わりを持ってくれるはずである。

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