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競馬場にいきたい⑤ ナンパ?

3月の中京競馬場。
暖かい陽気だった事を覚えている。
ゴール板から100mほど先の芝生に、各々持ち寄ったピクニックシートを敷いてウマ女4人は陣取った。
皆日本酒好きという共通点が見つかり、日本酒を地元から持ち込み、コンビニでしこたま買い込んだおつまみやビールで乾杯したあとは、まず他愛のない近況報告から始まった。
気づくとレース開始時間になったが、このレースはまあ様子見とかいいながら10時頃発走のレースを見送りつつ2本目のビールに手をかける。
ドドドッという地響きと共に目の前を美しいサラブレッドが駆け抜けていく。
最高の宴会場だった。

「今日は武さんいないけど楽しんでる?」
清掃のおじさんが声をかけてくれた。
あろうことか私たちは、競馬場の何でも捨てていい(語弊)ゴミ箱の付かず離れずの位置に狙って陣取り大宴会を楽しんでいた。
ゴミはすぐ捨てられる環境にあったが、おじさんがぶわっと広げたゴミ袋に遠慮なくあらゆるゴミを捨てさせてもらった。
これも競馬場の良い所だ。
「楽しんでねー」
ゴミ箱もきれいにしてニコニコと立ち去るおじさん。
「はーい!」
以降もウマ女の宴会は続いた。

レースも終盤、多分8Rは終わっていたと思う。
「あのちょっといいですか?」
今度は普通のおじさんが声をかけてきた。
「こちらに合流していいですか?」
どうやら私たちの背中側のガラス張りのスタンド席にお仲間がいるようで、私たちと一緒に話をしたいので誘いに来たという事だった。

「いや、そういうのは、ごめんなさい。」
「そうですか。残念。」
スタンドに向かってバツのジェスチャーをし、
「これをする決まりだったんで」
と言いペコッと頭を下げ帰っていった。

土曜日の昼間、ディズニーなどのテーマパークではなく競馬場にいる女性4人。
パドック、投票所、ターフ、お店と、縦横無尽に競馬場を練り歩いている。
男性や子どもの影はなく、競馬を楽しみ、酒を飲んでいる様子が、スタンドにいて目についたんだろう。
競馬談義などできれば、とも思ったのかもしれない。

後にも先にも、男性に声をかけられたのはこの時だけである。
私に魅力がないという事もあるが、100円の馬券を買ったらウン千万に変わる可能性のあるこの場所では、なかなかそんな雰囲気にないという事はあるだろう。
どうせならここが南の島で、ステキな男性に声をかけられて…という良くあるマンガの設定のようにはいかないもんだとしみじみ思った。

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