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ブンジンとブンレイ

分人。
これは、小説家の平野啓一郎さんが2009年に提唱し始めたとされる考え方で、『人は、相手や状況によって様々にキャラ(性格)を変えて生きている。そのように多種多様な自分がいることを肯定しよう。その中に、たったひとつでも好きな自分を見つけて、ラクに生きよう。』というものです。『個人』に対する『分人』というわけです。

V界隈では、キズナアイさんを運営するActiv8株式会社が2019年に発表した声明文に織り込んだことで知られる言葉となりました。

分人という要素が加わったProject A.I.がどのように展開していくのか、当時は非常に興味深くうかがっておりましたが…。現状を見るに分人の件は、たくさんある通過点のひとつとしてとうに過ぎ去っていった模様です。
いま『V界隈における分人』について語るのは、完全に周回遅れのようですね。

それはともかくとして、当時の賑わいを遠目に見ながら考えていたことを最近思い返しました。また忘れてしまうのも惜しいので、備忘録としてここに書き記しておこうと思います。

『分人もいいけど、分霊も知られるようになればもっといいよね。』

分霊。
またの名を、分け御霊(わけみたま)といいます。
これは、日本古来の宗教である神道で用いられる言葉で、『ある神社で祀られている神様の霊を分けて別の場所にある神社に祀る』ことをいうらしいです。
知ってました?神様って、どれだけ分けてもノーダメージどころか、際限なく増やせるんですって。具体例を挙げると、日本全国に約3万社あるといわれている稲荷神社のお稲荷さん(稲荷大神)はすべて、京都にある伏見稲荷大社から分けられたものなのだとか。

…いきなりなんの話だって?まあまあお待ち下さい。ちゃあんとVTuber含むキャラクターに関係あるお話ですから。

先に挙げた『V界隈における分人』は、『多種多様な人間に対して、キャラクターはどう向き合っていくべきか』という問題にActiv8株式会社が提示したひとつのアンサーでした。
方法としては、『キャラクターに付与するキャラ(性格)を多種多様にする』というもの。図にするとこうです。

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これにより、根本的な部分は変えないままに、新しい魅力を新しい人々へ届けられることが期待されたと思われます。

ただし、この方法にはふたつの懸念点があります。

1.単純にキャラクターを増やすのと違い、キャラ(性格)の間で統一感や共通認識を持たせる必要がある。
魂がひとつ(=演者が1人)だとすると、統一感は持たせやすい代わりに演者への負担が大きく、魂が複数(=演者が複数)だとすると、演者への負担が軽い代わりに運営の方で統一感をディレクションする手間が増える。

2.あくまでも従来そのままのキャラクターが好きだったファンが解釈違いにより離れる可能性がある。

まあ別に、新しいことにコストやリスクがともなうのは、これに限った話ではないのですが、誰もが真似できる方法ではなさそうですね。

一方、『V界隈における分霊』はどうでしょうか。こちらも図にしてみましょう。

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つまり、『本社の神霊を分社に分ける』ように『キャラクターの存在をファンに分ける』方法、今風にいうと『ミーム(=情報伝達)』です。
ファンに分けられたキャラクターは、ファンのもとでローカライズされ、結果として多様化します。この方法で成功したキャラクターを挙げるとすれば、初音ミクさんですかね。

この方法の良いところは、コストゼロ・リスクゼロで誰でも始められるというところです。

1.分けられたキャラクターをハンドリングするのは運営側ではないので、演者の負担も運営の手間もない。

2.大元のキャラクターが変わることはないので、解釈違いによるファン離れが起こりづらい。

いえ、始められるどころか、世に公開されてファンを持つキャラクターのほとんどは、すでにこの状況にあるといっていいでしょう。キャラクターのファンの中にはそれぞれキャラ(性格)の異なるキャラクターが存在するかもしれないのです。

分人の話で持ちきりだった当時は、そういう状況がもっと知られるといいな~などと思っておりましたとさ、めでたしめでたし(特にめでたくはない)。

※補足ですが、分人と分霊は相反するものではないので、並行して行うことが可能です。