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Podcastの裏側〜シネマチュプキタバタのこと〜

「東京にね、すごい映画館がオープンしたんですよ」

『そんない雑貨店』を一緒にやっている下平さんがそう教えてくれたのは、2016年の11月のことだったと思う。
 ちょうどその頃、下平さんから岩浪美和さんという音響監督をなさっている方を教わった。

「とにかくすごい音響監督なのよ」という岩浪音響監督は、「客を呼べる音響監督」、「金勘定の出来ない大御所」というすごいんだかなんだかわからない肩書きをいっぱい持っていて、「とにかくすごい」らしかった。
 その岩浪音響監督がたずわさった作品としてあげられたのが『ガールズ・アンド・パンツァー』だったのだけれど、それは僕が敬遠していたアニメだった。
 名前は聞いたことがあったけど、なにしろ『ガールズ・アンド・パンツァー』だ。きっとガールズがキャッキャウフフする、大きなお友達がよろこぶアニメなんだろうと思っていた。
 それでも下平さんがアツくすすめる作品だったものだから、「まあ、一話くらいなら」と視聴を開始してみた。

 その直前に、番組でヘッドホンを取り上げたりしていたこともあって、件の『ガールズ・アンド・パンツァー』をちょっといいヘッドホンを使って観てみた。
 すると、なにかがおかしい。キャラクターたちの声が、聴き取りやすい。
 背後では戦車が走ったり砲撃したりしているのに、キャラクターたちの声が明瞭に聞こえる。もちろん人がしゃべるときにはその他の音量が下がったりするのだけれど、それにしたって聴き取りやすい。
 その戦車そのものも目をつぶっていてもどこを走っているかわかる。
「そりゃそうだろう」と思われるかも知れないけど、右や左というだけではなくて、それだけじゃない。前や後ろ、そしてその距離まで、目をつぶっていてもわかるのだ。

 学食のシーン。メインキャラクターがしゃべっている周りでにざわめきが広がっている。そう、ざわめきが「広がって」いるのだ。
 これまたあたりまえに聞こえるかも知れないけど、キャラクターたちが会話をしているその場所に空間的な広がりがあることがわかるのだ。

 保健室のシーン。三人がベッドに寝ている。メインキャラを挟んで左右にサブキャラ。カメラは上からメインキャラを捉えていて、サブキャラが左右から話しかけてくる。まるで自分がベッドに寝ているかのように、左右、それも低い位置からサブキャラの声が聞こえる。

 これはおかしい……。

 もう一度冒頭に戻って聴き直してみると、わずかに鳥の声が聞こえる。さっきも聞こえていたけれど、自分のうしろから聞こえていたものだから、てっきり部屋の外にいる鳥の鳴き声だと思っていた。ところが正確にさっきと同じタイミングで聞こえてくる。これが本物の鳥だとしたら、どこかで一緒に画面を見ていて、タイミングを合わせてきていることになる。そんな器用な鳥がいる?
 試しに途中でヘッドホンを外してみると、鳥の鳴き声はぴたりと止んだ。

 そういうことか……。

 そのあと何度も聴き直して、30分番組を観終わるのにゆうに2時間はかかってしまった。さっきの保健室のシーンだって、3人の会話以外にも外からの生徒たちの声も入ってる。
 それくらい、音が緻密に作られている。

 それから自分がこれまでにおもしろいと思ってきたアニメを調べてみると、至るところに「岩浪美和」の名前が。

 その岩浪美和音響監督が音響設計した映画館が、東京都北区田端にオープンしたという。ユニバーサルシアターというのはなんのことかわからなかったけど、まあとにかくすごそうだった。

 そして行ってみた。

 どこにでもありそうな、というよりも、もはやいまどきめずらしいほど懐かしい感じの商店街を歩いて行くと、どう考えても映画館なんかなさそうなビルの一階に「Cinema Chupki Tabata」の文字。
 中に入ると人が2人すれ違うのがやっとという通路の奥にカウンターとは名ばかりのレジがあって、その奥に信じられないくらい小さな映画館。席なんて20ほどしかない。これはもう、映画館というより試写室。いや、試写室だってもうちょっと立派なんじゃなかろうか?
 もう、嫌な予感しかしない。
 こういうのあれでしょ、ボランティアにかこつけて適当に映画上映する公民館とかでやるやつの延長でしょ?それで帰り際に、「みなさんの募金で助かる人がいるんです」って募金箱持って客席回ってきたりするんでしょ?

 と、思っていた自分が恥ずかしい。いや、恥ずかしくない。だってあの中見たら普通そう思いますって。そのあと連れて行った知り合いもみんな最初はそういう顔したもん。

 その日、観たのはアイルランドのアニメーション映画『ソング・オブ・ザ・シー』(吹替版)
 海の中のシーン、森の中のシーン、雨が降るシーン、風が吹くシーン、そのすべてで、自分がまるでそこにいるかのような感覚だった。これ見よがしな「リアルさ」ではなく、「あ、そういえば映画観てるんだった」と意識して思い出さなければならないくらい、あくまでも自然な音場だった。
 そして音声ガイドは声優の小野大輔さん。
 これも、「目が見える人にはかえって鑑賞の邪魔になるんじゃ?」なんて思っていたけれど、なんてことはない、映画をより深く味わうための道しるべになるものだった。

 音響に関してのこの感覚はその後も何度も味わうことになる。
 特に新海誠監督の『言の葉の庭』では、あの新宿御苑のシーン。「ああ、外も雨降ってるのか」と錯覚するくらい、あまりにも広い空間を感じた。
 そしていわずと知れた『ガールズ・アンド・パンツァー劇場版』では砲撃音が身体の芯までゆさぶり、観覧車先輩はぐるんぐるんと僕の周りを回った。
 片渕須直監督の『この世界の片隅に』では日常生活の物音から蝶の羽音まで繊細に聞こえ、防空壕のシーンでは自分が爆撃を受けているとしか思えなくて息を詰めていた。

 これは、お話を聞いてみたい。

『ソング・オブ・ザ・シー』を観て、すぐにそう思った。だけどやっぱり知識が足りない。だから勉強してからもう一度来よう。
 そう思って劇場のこと、音響のことを勉強して、翌年2月になってから『ニーゼと光のアトリエ』を観にいった。実はこの間にも、12月31日にもう一度『ソング・オブ・ザ・シー』を観にいっている。このときはオリジナル音声版。
 というわけで3度目の訪問で、ようやく和田浩章支配人(当時は佐藤浩章支配人)に声をかけた。
「音響にあまりにも感動したので、お話しをうかがえませんか?」
 このとき以来、和田浩章支配人とは懇意にしてもらっていて、彼がチュプキを離れ、島根県に新しい映画館を作ったいまもたびたび番組に出演してもらっている。

 初インタビューのときのことを、彼は「いきなりiPhone突き付けてきてさあ!」といまだにいうのだけれど、はじめて来てから実は3か月かかってたんですよ。

 そこからは訪れるたびに親しくなっていき、おたがいバカバカしいことに命をかけるのが好きということがわかり、輪をかけておかしい平塚千穂子代表の存在を知り、岩浪音響監督が舞台挨拶にいらしたときにはインタビューさせていただいた。

 実はその前から、岩浪音響監督にはTwitterでメッセージを頂いたことがあったし、直接お目にかかったこともあった。
 チュプキを紹介する回を岩浪音響監督が聴いてくださって、「チュプキの魅力を上手に伝えてくれてありがとう」とメッセージをいただいたのだ。その後、千葉県幕張で『BLAME!』の舞台挨拶&サイン入りパンフレットお渡し会にうかがって、「そんない雑貨店のわだです」というと、「ああー!」と覚えてくださっていた。

 チュプキでの舞台挨拶のあと、ロビー(とは名ばかりの通路)でご挨拶のひとつも出来ればと待っていると、岩浪音響監督の方から「おう、今日はなんにも録らなくていいのか?」とお声がけいただいた。

 そんなこと急にいわれましても!こちとらここの映画館の支配人に声をかけるだけで2か月かかってるんですよ!
 とはいえこんなチャンスは滅多にないからやりますけれども!

 そんなわけで岩浪音響監督にもインタビューさせていただいた。

 岩浪音響監督曰わく、「イチから映画館を作るなんて、滅多に出来ない経験だ」、「やってるうちにおもしろくなっちゃった」そうで、視覚障害の人は音に敏感だから、その人たちをも満足させる音作りをしたい、とのこと。

 そう、チュプキが「ユニバーサルシアター」を名乗る所以。視覚障害があろうが、聴覚障害があろうが、映画を観ることに対して様々な困難を抱えていても、関係なく楽しめる映画館、それを目指しているのがシネマチュプキタバタ。
 目が見えない人には音声ガイドをつけよう、耳が聞こえない人には字幕をつけよう、暗闇が苦手なら個室を準備しよう。
 そのメリットはいわゆる健常者にも返ってくる。
 個室でおしゃべりしながら見ることもできるし、字幕でセリフを確認することも出来るし、なんてったって音声ガイドは映画に詳しい人に映画を楽しむ手伝いをしてもらっているかのよう。

 特に和田浩章さんの作った音声ガイドは秀逸なんだけど、それについてはまた今度。

 こうした映画のユニバーサル化は次第に認知されるようになってきて、普通の映画館でも音声ガイドが聞けるようになりつつある。映画に音声ガイドと字幕をつけることが義務化されるようになるところまで来たという。
 だけどそれに先鞭をつけたシネマチュプキタバタがいま、岐路に立たされている。 

 いま、新作映画の多くはDCPという機材がないと上映できない。ところがチュプキは岩浪音響監督曰わく、「ホームシアターのハイエンド」として作られた。当然、機材も民生品。つまりDCPという劇場専用機材は入っていない。
 これがないと、今後はチュプキで新しい映画が上映できなくなる。

 映画のユニバーサル化が認知され始めたとはいえ、それはまだ緒に就いたばかり。その先頭を走るチュプキの存在は不可欠。スタッフもそれがわかっているから、思い切ってDCPの導入に踏み切った。
 とはいえ、DCPは機材だけで500万円、設置にさらに100万円。こんな金額、そうそう準備できるはずがない。
「映画館なんだから、それくらいのお金あるでしょ?」と思った人は思い出してほしい。
 客席数は20。
 一日5本くらいしか上映できないから、最大でも100人くらいしか入らない。しかも入場料は大人1500円。中学生以下なんて500円ですよ。
 さらに歩行介助とかを行うヘルパーさんの入場料は無料ですからね。頭おかし……。

 そこで意を決して2022年8月現在行っているのがクラウドファンディング。この記事を書いている時点では最初の目標金額は達成しているんだけど、裏で聞いた話をすると、この金額では実はぜんぜん足りないらしい。
 というわけでちょっとでも応援できればと行ったのが8月21日の『クラウドファンディング応援生配信(終了時刻未定)』

 午後8時から始めて、結局翌朝7時30分まで11時間半に渡ってお送りしてしまったわけだけど、その前に僕、一本映画観てますからね。
『ソード・アート・オンライン オーディナル・スケール』を戸松遥さんの音声ガイド付きで。3年前よりパワーアップしてたなあ。
 これでDCPが入ったらさらに画も音も良くなるんでしょ?
 ちなみにこの戸松遙さんの音声ガイドはいまのところチュプキでしか聴けません。
 そういう作品がたくさんあるし、ロビーの壁にはたくさんの声優さん、俳優さん、監督さんたちのサインがびっしり。そろそろ書くとこなくなるんじゃないかな?そうなったら天井か?平塚代表、どんな大物が来ても、「もうスペースがないんで天井にお願いします」とかいいそうだもの。

 そんな志は高く、やってることはおかしく、なシネマチュプキタバタには今後もお邪魔する予定です。ていうか、8月31日には『クラウドファンディング終了カウントダウン生配信』をやる予定ですからね。さっそくお邪魔しますよ。

チュプキ初インタビュー


岩浪音響監督インタビュー


和田浩章支配人、能登麻美子さんについて語る


平塚代表、出版記念インタビュー


平塚代表、いっちゃいけないことをいっちゃってたインタビュー


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