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不思議な話をしてみよう

今回は不思議というよりは"ヒトコワ"で、親子共々恐怖に突き落とされた時のお話です

わたしには2人の息子がいます
長男は小学生になったばかり、次男はまだ年中組だった頃の出来事です

わたしたちは夫婦で作家業を営んでおり、夫であり監督でもあるR氏はその傍らで大学講師を兼業していました
そのため一週間の半分は出張していたのです

その日も息子たちを寝かしつけた隣で作業を進めていました

"今から帰る"
R氏からのメールが入り、夜食の準備を整えようと手を止めた矢先…

『うわーん!!』
長男が激しく泣いて駆け寄って来ます

『女の人が窓から見てた!!首がこんなに長かった!!』

見えないはずの"モノ"が見えてしまう、いわゆる霊感が備わってしまったらしい長男には、時々あることでした

窓の外を確認してもそれらしい人影は見当たりません
しばらく膝に抱いて落ち着かせると、スヤスヤと眠ってしまいます

わたし自身もそういった"モノ"を見ることがあるので、特に否定も肯定もせず、ただ不安に寄り添う対応をしていました

そうしていつものように日常が過ぎていったある日
R氏が教え子を引き連れて自宅に帰って来ました

観光ついでにうちに泊まりたいとのことです
何の連絡もなく、突然の出来事でした

彼女たちはMさんと、Tさん
R氏のような作家を目指しているのだとか…

急な来客に慌てて部屋を整え、食事を準備します
そうして唐突にやって来た彼女たちは2日ほど観光を楽しむと、あっという間に旅立って行きました
『良い子だろ?』
R氏は自慢気で、しばらくは上機嫌でした

その後、数ヶ月と経たずに再びMさんとTさんはやって来ました
"現場を見て仕事を覚えたい"とのこと

彼女たちの世話は勿論、わたし一人で賄わなければなりません

頼れる実家は遠方な上、仕事はあるわ入学したばかりの子どものこともあるわでてんてこ舞いです
結局、彼女たちは3ヶ月ほど(!)滞在します

わたしがヘトヘトに疲れて着替えを片付けようと寝室を前にした時…
R氏直々にTさんの肩を揉んであげているのが見えました

その様子を目の当たりにしてふと、ママ友の話を思い出しました
『若子さん、誤解だったら良いんだけど…』
言いにくそうに切り出したママ友によると、R氏とTさんが二人並んで歩くのを見かけたと
ただ歩くだけでなく、手を繋いでいたと…
そう心配してくれていたのです

思えば教え子たちが訪れてからずっと、変でした

わたしは息子たちを遠ざけるように、夏休みに入ると直ぐに九州の親戚へ預けました

『お母さん、首の長い女の人が居るから気を付けてね』
優しい長男の思い遣りに感謝すると、子どもたちを送り出しました

とは言ってもスケジュールはギリギリです
自宅に戻るとR氏はTさんを連れて出掛けてしまったようでした
残されたMさんと軽く食事をして制作を続けます

R氏たちが帰宅すると、わたしは普段通りに仕事の報告と確認作業を進めました

一通り終え、夕食の後片付けに取り掛かります
無事に承認が得られたこともあり、安心してすっかり気が抜けていました

『…………ル、………テ…ヤ…』

何か聞こえます
気が付くと、いつの間にかわたしのすぐ後ろに誰かが立って居ます

Tさんでした

いつの間に?いや、何故、そこに?
…待って、誰に何を言っているの!?

パニックになりながらもTさんの言葉に耳を傾けました
すると、次第に言葉の意味が聞き取れて…

『……コロシテヤル……コロシテヤル……』

そう淡々と呟いているのです
一気に冷水を浴びせられた心地になりました

震える手で立ち尽くしていると
『おーい、映画観ないか?』
そこにR氏が声を掛けて来ました

TさんはサッとR氏の方へ向かい、先ほどの様子とは打って変わって明るい笑い声を上げています

わたしは血の気が引いてしまい、映画を観るどころではなく
出来るだけ何事も無かったかのように装って
『…ちょっと買い忘れが…先に観てて~…』
そう言い残し、急いで外へと飛び出して車を走らせました

夜も更けて、街灯しか見当たらない場所まで来ると、路肩に車を停めて呼吸を整え、休みました

何が起こっているのだろう…

冷たくなった手を暖め、頭を整理している中
長男の言葉が浮かびました

『首の長い女の人が居るから気を付けてね』

長男が言ったのは、以前窓から覗いていた"モノ"のことでした
それが今、すぐ側に居るかのような言い方でした
だけどそれって、もしかして…

その時点では、単なる憶測でしかありません
聞き違いかも知れないと自分に言い聞かせ、その日は夜が明けるのを待って自宅に戻りました

しかし、それを裏付ける証拠がその後に出てきます

やがて彼女達は滞在を終え、息子たちも九州から帰って来ました
それまでの出来事を忘れようと日常を取り戻していた矢先のことです

その日、わたしは息子の発表会の動画を撮影しようとハンディカメラを取り出していました
手慣れていなかったので操作の確認です

ふと、何を撮影していたかな?と入っていたフィルムを再生してみました

するとそこにはなんと…
R氏と教え子Tさんとの男女の絡みが…

これまでの出来事が一本に繋がった瞬間でした

と、言うのも…
彼女たちが立ち去ってからも長男はずっと『首の長い女の人』を見掛けていました
ソレが時折、眠っているわたしの顔を覗き込んでいると怯えていたのです

あれはTさんの生き霊だったのです
そして明らかに彼女の殺意はわたしへと向かっていました

その頃のTさんは大学を卒業した後、R氏が役員を務める制作会社へ入社
R氏が以前よりも自宅へ戻ることが少なくなっていた頃です

R氏を問い詰めても、Tさんには重要な役割が任せられているからと返されるばかり…
かといって仕事の都合上、直ぐには離婚できません

そんなわたしを傍目に、R氏は開き直って二重生活を愉しんでいる様子…
辛い毎日が続き、そのストレスから膠原病を発症してしまいました

しかし、R氏を引き留めずにいることで長男の生き霊を見る頻度は下がりました
わたしの不調と引き換えのように、子どもの精神は安定してゆきます

息子たちが父親の居ない毎日に慣れた頃…
3作目の担当を終えたタイミングで持病を理由に休職し、R氏との別居に踏み切りました

Tさんの気配が無い場所へ移って、落ち着きを取り戻したかったのです

そんなある日
R氏が別居宅へ息子たちに会いに訪れた時のこと

いつも元気な次男が父親の元へ行かず、わたしの後ろへと隠れてしまいます
どうしたのか訊ねると

『あのお姉たんさ…お腹切るって。コワイ。』

そう言ってR氏を指差しました
長男とは違い、次男は常日頃からあまりそういった事を言わないタイプです
それだけにゾクッとしました

その後については詳しく知りません
ただ、結局Tさんは情緒不安定だか鬱になったなどという理由で会社を辞め、カナダへ移住したと聞きました

重要な役割は一体どうなったんでしょう?

ただひとつ救いなのは、息子たちが爛れたものに感化されず、自分なりにしっかりと考えを持つように成長してくれたことかなと思います

この投稿をしたら、また出るかも知れませんね…

(2019年9月調停により離婚が成立しました
現在は病状も快方へ向かっています)

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