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不思議な話をしてみよう

霊感相談を受けていた祖父を持つせいか、わたしは小さな頃から、ごくごく自然に変なモノを見たり聞いたりしていました

その中でダントツに怖い体験があるんですけども

当時の学校文集に書いたら失禁者が出る騒ぎになったくらいです
(割とゆるゆるな時代だったから許されたと思うの)

わたしが小学4年生だった時に住んでいた賃貸物件は、独立した一軒家でした
そして同じ敷地内にアパートが建てられていたんです

そのアパートはかつて両親が住んでいて、子どもが増えて手狭になったので、敷地内の一軒家へ移った、という経緯がありました
一軒家とアパートは持ち主が同じ方だったので、大家さんと両親は親しい間柄でした

そういう関係から、母がアパートの管理を任されまして、お掃除や家賃の預かりなんかをしていたわけです
当然、住民の鍵なんかも預かっていました

そんな頃のこと…

古い一軒家、エアコンもまだ普及していなかった真夏の夜

蒸しきった暑さで眠れず、何となく胸騒ぎがして深夜放送を楽しむ母の元へ行きました

その日は父が出張で留守にしていたので、心おきなくテレビを楽しめる日だったようです

母は機嫌良く、そばで寝ることを許してくれました

わたしは母に背中を向ける形で横になり、壁に映るテレビの灯をボンヤリ眺めながらうとうととし始めました

ドスンッ

突然、全身に重圧がかかり、身動きが出来なくなりました

いわゆる、金しばりというやつです

暑さとは別の、冷や汗が全身から次々に吹き出してきます
壁に反射するテレビの光を頼りに、目をこじ開けようとしますが、ピクリとも動かせません

『お母さん…』

心で何度も訴えますが、テレビに向かって笑う声が響くだけ…

子ども心にも『これはヤバい』と焦りを感じ、ヘソの中心から力を込めてえいやっと、身体を仰向けに動かしました

何とか動いたので、今度はまぶたです
目一杯力を込めてようやっとこじ開けたその時…

ドスンッ

更なる重圧が掛かってきて、顔にばさりと髪の毛が被さってきました

その髪の毛の奥から、蒼白い顔の女性が覗き、ギロリとこちらを睨み付けてきます

女性は、わたしの胸に両手を揃えて、逆立ちをしていました

彼女の全身の重力が胸に集中して、泣くことも叫ぶことも出来ず、どれだけの時間そうしていたか分かりません

反射的に『思考してはダメ』と、もうひとりの自分が言い聞かせているような感覚になりました

うっすらと女性の口元が動き、何かを云おうとする仕草をしたその時

ドンドンドンッ

激しく自宅の扉を叩く音が響きました
それと同時に、女性は音もなく消えていきます
わたしはやっと、身動きができるようになりました

『こんな時間に!!』
最初は無視していた母も、あまりにもしつこい来客にしぶしぶ扉を開けました

『おかしいと思ったんや!!もう3日も連絡無いねん!!絶対、なんかあったんやって!!』

泥酔した見知らぬ男性が、転がり込むように乱入し、錯乱した状態で母に訴えます
何のことやら理解に追い付けない母は怪訝な顔をするばかり
酔っぱらいは扱いが面倒やわ…とうんざりしています

その様子を端から見ていたわたしは、先ほどの女性が関係するのだと分かりました

『行ったげて』

その言葉を尻目に、面倒そうに鍵を持った母と、知らない男性はアパートの一室に向かいましたが、ほどなく戻ってきました

『そうやろ!?やっぱりやろ!?絶対、おかしいやん!!』
先ほどより興奮した男性が母をけしかけ、母は焦りながらトンカチやら釘抜きやらを持ち出しました

騒がしい物音で、アパートの住民達がわらわらと起き出してきています

午前3時半ばを過ぎた頃だったと思います

扉を叩き潰してこじ開けたであろう騒音の直後、男性と母によるけたたましい金切り声が響き渡りました

朝を迎え、何人かの警察官が件の一室に集まり、テープやら何やらを張り巡らせます
母はあれこれ調査され、憔悴したのか帰ってくるなり、横たわりました

まだ子どもだったわたしには事の詳細は説明されません

しかし、昨夜の女性の口元の動きからある単語が発せられており、それが気になったので、母に尋ねました

『ふりんってなに?』

ガバッと飛び起きた母は驚いて『誰に聞いたん!?』と詰め寄ってきました

そこで、昨夜の一連の出来事を話したのです

母は観念したのか、ため息混じりに女性の状況を話してくれました

家庭のある男性とお付き合いしていた女性は、不倫の状態で待ち続けることに疲れ果てていたようです

思い詰めた末の自死でした

昨夜の男性は飲み仲間のひとりで、事情を知っており、最近見掛けないことを気にしていたようでした

『大人にはいろいろあるねん』

よく理解出来ないわたしに、母はポツリと呟きました

何とも言えない出来事でしたが、失禁レベルがかなり高い体験なので、大切に伝えようという気持ちを込めて、その後小学校の学級文集に書きました

先生までが震え上がってくれて、良い時代でしたね…

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