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不思議な話をしてみよう
霊感がある祖父の血を引いたのか、時々妙なモノを見たり聞いたりしているわたしでしたが、
一方で母方の祖父母や親戚は、母を含めてそんな感性の全く無い人たちでした
これがいわゆる『普通』というものか、と知ったきっかけになった体験です
まだわたしが小学生になったばかりの頃
母方の実家で過ごした時のことです
母方の祖母はものすごく口うるさい人で、何かやろうとすると必ず邪魔をする人でした
『川には行くな、畑に行くな、大声だすな、絶対、屋根には登るな…』
当時のわたしにとって、『大人の言うことを聞く=退屈』という認識が出来上がっていたので、その日も当然のように無視していました
年下の従姉妹を連れて川で泳ぎ、畑の野菜を盗んで、大声でご近所一帯にお菓子をねだり、祖母の家の屋根に登ってそこから爆竹を連発させていました
牛のように怒り狂う祖母を、せせら笑いながら眺めたものです
※当時の小学生はマッチを携帯していました(わたしだけかもしれませんが)
そんなわたしが母方の親戚で一番懐いていたのは、母の末の妹にあたる、叔母のKちゃんでした
Kちゃんはユーモアがあって明るい性格で、いつも冗談を用いてかばってくれたのです
『わかちゃんは大人しい方が怖いのんよ』
どんなイタズラをしても、そう言って笑いとばしてくれました
ちょうどその頃は、Kちゃんには赤ん坊がいました
これまでは一緒に寝てくれていたのですが、赤ん坊が居るとなると夜中も起きたりするのでそれが叶いません
『わかちゃんかんにんぇ』
ちょっと寂しかったけれど、Kちゃんの困った顔は見たくなかったので素直に従いました
そうして、増築した二階の部屋へと、赤ん坊を抱いて昇って行きます
わたしはこの家の二階が何となく苦手で、めったに行くことはありませんでした
二階への階段は、玄関の真っ正面にあります
玄関を開けると六畳ほどの広間があって、その向こうの真ん中に階段がある状態です
階段には、目隠しのために数珠玉の長いのれんが掛けられていました
Kちゃんが潜ると、パラパラパラ…と音が鳴ります
階段を挟んで両隣に六畳間が設えてあり、それぞれに扉がつけられていました
階段に向かって右側の扉が台所、左側が洋室です
そしてちょうど階段の裏側になるあたりに、十八畳ほどある仏間がありました
仏間へは左側の洋室を通らなければ至れない造りです
親戚の大人たちは仏間を仕切って寝具を用意し、子どもたちはまとめて洋室に雑魚寝するのが定例でした
わたしは、少しでもKちゃんの近くが良かったので、洋室の入り口近くの場所を陣取りました
そして、深夜
月の薄明かりに照らされたのか、ポッカリと目を覚ましてしまいました
そばで従姉妹の寝息が聞こえてきます
奥の仏間からもめいめいに大人たちの寝息が聞こえました
寝直そうかとゴロンと寝返りを打つと、洋室から玄関に至る扉が少し開いています
『誰かが閉め忘れたんかなぁ?』
そう思い、扉のノブに手を伸ばそうとしたその時
ギシ…
階段を踏む音が聞こえました
Kちゃんかと思い、手を止めました
いつものイタズラ心で、降りてきたら『わっ』て脅かしてやろうかな?
…などと考えていると、更に音が響きます
ギシ…
二度目の音で、何か異変を感じました
階段を踏む音が遅すぎるのです
ギシ…
少し開いた扉から、異様な空気が流れてきました
『Kちゃんじゃない』
そう直感し、扉を閉めようとしましたが、身体が動きません
金縛りになっているようでした
ギシ…
徐々に、音が近付いてきます
わたしは身動きが出来ないまま、宙に浮いた腕の先、薄く開いた扉の向こう側を凝視していました
まだ街灯も充分に行き渡っていない田舎の一軒家…
飲み込まれるような深い闇が、扉の向こうに拡がっています
凍り付くような感覚の中、やがて最後の段であろう、すぐそばで音が止まりました
これで数珠玉が鳴ったら、何かが扉の向こうに現れるはずです
長い沈黙が続きました
わたしは汗びっしょりになったまま、相変わらず身動きが出来ません
ギシ…
再び、階段を踏む音が響きます
数珠玉は鳴らず、階段の音が上へと昇って行きました
そうして、また、降りてくるのです
数珠玉の前でしばらく立ち止まっては昇る、という異様な繰り返しが朝まで続きました
どうやって眠りについたのか、気が付くと朝でした
従姉妹に寝坊を囃し立てられ、ようやく目が覚めたのです
Kちゃんはいつもと同じ様子でした
念のため、昨夜下の部屋へ降りてきたか訊ねてみました
『まさか。起きもせんかったよ』
他の親類たちも一様に爽やかな朝を迎えている様子でした
昨日の出来事は何だったんだろう…
『あのさ、二階、気持ち悪くなかった?』
すると、聞いていた母や他の叔母たちまでが全員口を揃えて
『何が?』
と、いった様子です
それよりお昼は何を食べようかと相談しはじめました
その様子にうらやましくなった覚えがあります
その件からずっと後なって、祖母の家で起こった事件について母から聞かされました
まだ母が子どもだった頃、増築したばかりの二階を見に友人がやって来て、どうやら遊んでいるうちに屋根から落ちて、亡くなってしまったそうです
それを聞いて、あぁ…と納得してしまいました
祖母のあの異常なまでの口うるささ…
そして、数珠玉の向こう側には、まだ、あの人が居るんですね…