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不思議な話をしてみよう

予知夢、というものを見たことがありますか?
わたしの場合は、必ず決まった風景が出てくるんです

子どもの頃に住んでいた地域の、どこにでもあるような神社で、実在しています

そして、夢の中でその神社界隈で出会った人物…
それは血縁者に限るのですが…
何故か、その人に何かしら不幸が起こるのです

最初の夢は小学校低学年の頃でした
その神社へ続く勾配の道を、えっちらほっちらと登る自分がいました

辺りは霧がかっており、薄く鎮守の森が見えています
神社の入り口に差し掛かったところを、見慣れた後ろ姿がありました

祖父です

『お祖父ちゃん、どこ行くの?』

いつもの調子で語り掛けましたが、祖父は振り向くと

『先に行くからもっと遊んでなさい』

と、呟いて霧の中をさっさと進んでゆき、やがて見えなくなりました

その翌日、祖父が亡くなったという知らせが届いたのです

祖父は叔父の家族と同居しており、わたしの外戚にあたります
亡くなる数日前にわたしへ渡すようにと画集を用意していたそうで、まるで準備していたかのような行動に、親戚が揃って不思議がっていました

祖父とは、夢で本当に会っていたのかも知れません

続いては中学生に進級する前の頃…
夢の中で、今度は氏神さまの境内にある鎮守の森の、杉の木に登っていました

天辺から辺りを見下ろしていると、霧の中から神社の前を横切る行列があります

全員が白い装束をした、葬儀の行列でした

何故か棺桶の顔の部分が開かれており、そこには母方の祖母の顔があったのです

驚きと同時に飛び起き、まだ夜も明けない時刻に母を叩き起こしました

『おばあちゃんが危ない!』

夢中で叫びましたが、まともに相手にしてもらえず逆に叱られてしまいました

しかし、その日学校から帰ると顔を真っ青にした母がわたしを出迎え、祖母が骨折をした、と慌てふためいていたのです

話によると、本当に何もない所で転倒し、足の骨と肋骨を折ったということでした

この頃から、あの神社が出てくる夢には何かしらの警告があるのかも知れないと思うようになりました

月日が流れ、やがてわたしは嫁いで実家を離れることになりました
その間も、神社の夢は幾つか見ましたが、それほど印象に残るものはありませんでした

けれども、2人目の子供が生まれた直後…
再びあの神社の夢を見たのです

辺りは暗く、深い群青色に包まれています

霧に包まれた神社の境内で、わたしは必死に何かを祈っているところでした

すると、お社の扉が開かれ、中から御神酒や榊などと一緒に父が飛び出してきたのです
父はそのまま地面をのたうち回り、苦しみ呻きました

オロオロとしているうちに、父の首がゴロリと転がり落ちてしまうのです

そこで目が覚めました

全身が汗びっしょりになり、両手が震えるほどでした
これは近いうち、父が亡くなる知らせではと確信したのです

当時は父との折り合いが悪く、遠方に嫁いだことを理由に会うことを避けていました

しかし、この夢の不吉な状況から、第2子が生まれたことを切っ掛けにして関係を修復する努力を始めた方が良いのではと思い始めたのです

父は事業の失敗から家の権利書や貯金を持ち出し、家族を捨て、一時期蒸発したことがあったのです
修羅場を迎えた経験から、わたしはいつまでもその行いを許すことが出来ないでいました

砂を噛むようなモヤモヤしたわたしの心情とは裏腹に、父は人が変わったように子供たちを可愛がり、手作りのおもちゃや懐かしい遊びを一緒に楽しむようになったのです

そんな姿を見ているうちに、父は本当はこんな風に生きたかったのかも知れない…と、感じるようになりました

無邪気に笑う父と、子どもたちの写真が次々にアルバムに増えてゆくたびに
刺さっていたトゲのような感覚が、次第に溶けてゆくようでした

それから約1年…
夢の警告は現実となり、程なくして父に頭頸がん(首のがん)が発見されました

すでに手術で取れる場所ではなく、たちまち病状は悪化しました
父は周囲に首を切ってくれと懇願し、のたうち回っていたようです

母からの話を受け、もう最後かも知れない…
そう思い、子ども達を連れて見舞いに向かいました

不思議なことに、わたしたちが来たわずか数時間だけ、拍子抜けするほど落ち着いていたそうです

病室で、父は本当に嬉しそうにわたしの顔を見つめて言いました

『本物の青の中でな、遊んでたんや…
上の子と下の子と…お前も居たぞ、
これまでに見たこともないような綺麗な青でな…』

おそらくモルヒネによる副作用ではないかと思われるのですが…
その日を最後にして、青い夢を見ていた父は数日後に亡くなりました

母は破天荒な父を見捨てようかと悩んでいましたが、わたしの夢の話を聞いてからは自分の悔いにしたくないからと、最後まで辛抱強く父を励ましたようです

結果的に神社の夢が、バラバラだったわたしたちを繋げたのではないかと、今では思っています

※この一連の出来事はあまりにも不思議だったので、朝日ソノラマ社『本当にあった怖い話』という雑誌に投稿しました
その時に漫画化されたものがこちら
鯛夢先生筆『夢の社』(2009年11月号)
ほとんど経緯通りに構成された上、とびっきりの美少女に描いていただいたので、現在も大切に保管しています

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