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無情の雨~#毎週ショートショートnoteお題「無情会館」

~河あきらに捧ぐ

「明日の朝五時にXX会館前ね」瑠璃子は言った。
「わかった」健一は公衆電話の受話器を置いた。
 二人は街を出ることにした。親も友も要らない。この街から出てどこか遠くで暮らすんだ。過去のすべてを断ち切って生き直すんだ。
 冬の夜は長い。健一は周囲に目を配りつつ薄汚れた街の路地を目立たぬように抜けていった。時計は四時半をさしている。会館はすぐそこだ。
 雨が降り始めた。ビルの狭間から顔を出し、通りに人がいないか確かめた。真冬の早朝。誰も歩いていない。通りを真っ直ぐ進めば会館だ。
 健一は通りに出て歩道を一気に走り出した。会館が見えてきた。一人の女性が傘をさして立っている。瑠璃子だ。新しい生活が目の前にある。
 脇腹に鋭い痛みが走った。すぐにナイフだとわかった。腹部を何度もえぐられて健一は歩道に膝をつき這いつくばった。遠のく意識の中、必死に顔を上げた。瑠璃子は時計を見ていた。その姿が次第に霞んでいゆく。健一は力尽きた。
 午前五時。無情の雨が歩道の血溜まりを静かに洗い流していた。

 


本作品は、毎週ショートショートnote参加作品です、毎週企画ありがとうございます。


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