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赤と黄金

僅かな晴れ間の梅雨の午後

憶えたばかりの自転車ならし

まだランドセルの残感が背にあまるなか

日頃は縁遠い駅の裏側まで

私は両足を回していた


緑広がる田の間

立っているのは畦角に地蔵

表情無くても私に対し

友の様に朗らかにはにかむ

地蔵の立つ畦道の角っこを

私は軽快に曲がっては

地蔵にまたねとはにかみ返す


緑広がる田の間

瞬き終わると黄金色

摩訶不思議に逢う田んぼの変身

私は車輪を転がして

右手左手見渡した

揺れそよぐ黄金色は

私の目の理解の届く

一面限界に壮光に轟く

なにやら赤い命が当たる

畦道走る身体に当たる


右手左手黄金色

豊作刈る前

首を垂らした

稲穂の海を割っては走る

ぶつかる赤は戯れゆく蜻蛉

何千匹の赤蜻蛉


私は快晴眩しい田園に

季の理を何個か跨いで走った

圧巻金色

旋回赤色

風も匂いも秋の色


蒲公英

夜花火

カワセミ模様


どれも美しきと見合ってきたが

私を囲う金と赤は

撃たれたことない美矛の矢



声は置き去り

停車も出来ない流れに乗っては

畦道終わる林に入ると

明後日の街端に私を吐き出した

夕方の暗さに焦っては

母に怒られる前に

急いで帰った

また明日ここに来ようと歓喜に刻んで



眠った後に訪れた新しい日の始まりは

余韻を打ち消す雨に負け

それは六日ほどに長くと続く


漸く見送った梅雨に手を振りながらも

ランドセルを置き去りにした私は

すぐに駅裏に車輪を回した


緑広がる田の間

友の地蔵はもういない

緑ばかりが騒めき添える


蜻蛉一匹見当たらず

稲穂はまだまだ子供ではしゃぐ

空は低いまんまで無言



またねと交わしてひどいじゃないか

私は線路を横切り帰った


これからくる青い夏を追って





子供の頃の不思議な実話です




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