見出し画像

市川思迷のビデオ録 #1 木の声

私の名前は市川思迷(いちかわ しめい)。

現代社会に渦巻く謎を解明し真実を伝える
新進気鋭の動画配信者。




先日、私の元にこんな噂が届いた。



“市川思迷さん
はじめまして、突然のメッセージ失礼します。
思迷さんは、 喋る木 の存在をご存知でしょうか?私も噂で聞いた話しで詳しくは解らないのですが、調べて頂けると嬉しいです。宜しくお願い致します。”


上記のメッセージと共にその木の生えている住所が書き込まれていた。



私は半信半疑ではあるが、インターネットで喋る木について調べ出した。



だがどうだろう、何一つ情報は出てこない。
画像ひとつもなんにもない。




デマか?






しかし、この話がデマであれ本当であれ、
真実を伝えるのが私の使命だ。





私は早速、ビデオカメラを持ち車に乗り込んだ。


メールに記載された住所までは、
高速道路で約1時間。


日曜の昼下がりにお洒落な音楽の流れるFMラジオを聴いているうちに、あっという間に現場に着いた。

田んぼと雑木林が広がる北関東の外れ。
恐らくこの雑木林の中に喋る木とされるものがあるのだろう。


私は早速ビデオカメラをまわした。




「皆さんハロー、思迷チャンネルの市川思迷です。

今回は ○○県に来ております。
なんでもここに喋る木というなんとも奇怪なものが存在するというタレコミが入ってきましたので、
現地までやってきました。
多分、この雑木林の中にその喋る木があるみたいなので、早速入って確かめたいと思います。」



動画のオープニング部分を撮り終えると、
私は雑木林に入っていった。
しかし、これだけ木が沢山生えていてはどれが喋る木なのか判断が難しい。
私はビデオカメラをRECしながら雑木林ゆっくり
一周し、外に出た。






なにも無かったな。
やはりデマだったか。
まあいい、私は世の中に渦巻く謎の真実を伝える動画配信者。
デマならデマと伝えればいいのだ。


私は動画のエンディングを撮り終えると、
高速道路で東京に帰った。


自室に着くとパソコンを開き、動画を編集し、
完パケした映像をアップロードした。

編集中の雑木林にもなにも変なところは見当たらず、ただ風の音がザワザワと走り去るだけだった。




後日、私はこの動画のコメント欄をみていた。

視聴者達はなにも摩訶不思議なことが起きずに、
がっかりした様子だった。

しかし、よくよくコメントを読み進めていくと、
5名ほど 木が喋っている というコメントを目にした。

私は気になりその人達に、
どんな声が聞こえたのか?
とコメントを返した。



するとどうだろう。
5名とも雑木林に生えている全ての木が口を動かし喋っているという。
所謂、雑談をしているらしい。



なんかそろそろ寒くなってきたな。

あの芸能人夫婦、離婚したらしいよ。

風邪には気をつけよう。

紅白観た?

あぁ仕事だりー。




こんな感じらしい。


私はこの5名が嘘を言っているとは何故だか思えなかった。

まるで人間の様だな。
私は考えた。なぜ雑木林が喋るのか。
なぜ人間の様に喋るのか。
なぜ雑木林の声を聞こえる人と聞こえない人がいるのか。


だが、どうであれ
聞こえる人には聞こえる。
聞こえない人には聞こえない。




これがこの動画の真実であり、聞こえなかった視聴者もそれを真摯に受け止めることが重要なのだ。






視聴者よ、肝に銘じろ。
自分の目や耳で受け止めた事柄だけが全てじゃないからな。





市川思迷のビデオ録 【マガジン】

いいなと思ったら応援しよう!