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詩集 幻人録

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魔物

魔物

私の心が大波に揺られて溺れて水浸し

鬱の魔物は水面で
滑っとどろんと顔をだし
大きく開口した魔物は私を
夕飯として丸飲み鵜呑み

それでも言うの
あなたは言うの
魔物なんざいないのいないの気の迷い

そういって私の靴を磨き
シャツにアイロンをかけては
微笑みと神妙の丁度真ん中の顔をして
豊かな箪笥の引き出しを
そっと開けては色とりどりの召し物を用意した

私が今溺れているのは
私の冷や汗からでき

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炭酸水にて

炭酸水にて

炭酸水が喉を走る
痛みと幸せのはんぶんこ
喉元を通過した泡達は
私の細い食道で現地解散した

それは私の憂さを晴らす様に
それは私に喝をいれる様に

最近の晴れない事情に
少しの甘い余裕を
最近の晴れない事情に
少しの痛み分けを

私は炭酸水で汚れと不安を洗い流した

しゅわしゅわが守る私の心
しゅわしゅわが労る私の脳

救いはこんなにも身近で
何気のない場所にいる
炭酸水はいつも通り生きただけ

ミミズクの思

ミミズクの思

羽根をたたんで目を瞑る
ミミズクさんは昼行灯

答えを知らないミミズクさんは
なんでか頼りにされている

リスさんが言う
いらない涙腺は塞いだほうがいい?

ミミズクさんは
目を瞑ったまま
首を横に振っていた

リスさんは晴顔

ミミズクさんは漠然とした想いを乗せて
首を横に振っただけ

それなのにリスさんの
背筋はぽんと伸びていた

ミミズクさんは申し訳く思うも
皆が頷くので

これはこれでいい

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ミイラに月

錆びた天井を眺める夜は
私は好まない

床に伏せるだけの夜は
私は疎ましい

能動的に
泳ぐ夜

流動的に
駆ける夜

果てない
宇宙に吸い込まれる夜は
胸が苦しくて苦しくて

鼻歌の舞う夜に
嘘の様に神秘的な夜に

一生懸命働く為の
準備だけが夜じゃない

嫌よ
嫌よ

ミイラになって
床に伏せるだけの夜は

ああ 月が丸い

エミ

エミ

何気ない笑みが
走る言葉を越え
一輌の列車に乗って
私のもとにやってきた

私の前で開く扉
どうやら私はあなたのステーション

笑みが下車してこんにちは
それはぽぽっとひかる蛍のお尻
私は笑みと一緒に改札を出た

家までの道すがら
笑みに釣られて私も笑みる

マーケットでトマトとチーズを買った

笑みが嬉しそうに台所の私を眺める

私はトマトとチーズのパスタを作った

フォークがくるくる回ると笑み

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未確認夜間飛行

未確認夜間飛行

夜空に光る
プロキオンとの交流

しかしそれは動いてる
闇の世界を縦横無尽

私の目では追いきれない

サイズは月のクレーター
夜空を転がり乱反射

私の首は痛くなる
そのまま夜空に倒れ込む

私の目では追いきれない

夜空に光る
オリオンとの交流

どこへ行くの
なにしに来たの

ピュっとシュー
ビュールルル

夜間飛行にお気をつけ
夜空の魔物に宜しくね

ミルクソーダ

ミルクソーダ

あなたは甘くて
シュワっと消える

私が握ったあなたの掌は
ほろほろと絡みが外れていく

どんなにきつく縛っても
心臓だけは縛れない

だからあなたは消えていく

私の頬は赤らんで
ポッとあなたのまろみに落ちる

次第にどんどん寂しくなって
ふと気がつけば
喉元通る微炭酸

そのあとはただ消えるだけ
愛していたいの
私が私じゃないうちに

濃厚なのに爽快に走る
爽快なのにシュワっと痛い

ミルクソ

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キライと惑星

キライと惑星

手を取り合った
雨と風
仲良くなった
雪と夜

嫌いになった僕ときみ
成熟したいちごと飴

心地よい湯船に浮かんだ
小島から見る煙った月

たじろぐ星が降ってくる
たじろぐ惑星落ちてくる

手を取り合った
雨と風
仲良くなった
雪と夜

今宵の涙はお湯で流して
嫌いになった僕ときみ

好みの香りと愛と慈

弾けてそっと
夢のなか

嫌いになれない
僕ときみ

茶畑にて

茶畑にて

味の染みた田園は
煮込んで茶色くなっている

隣の段々茶畑も醤油で味付けした様だ

私は薄情な冷風に煽られ
しゃがみ込んだ

緑の世界が観てみたい
青茂った心地のよい美風

時期を跨いで逢いましょう

その時はこの煮込み色の世界が
どれだけ大事なことだったか
痛感するのであろう

私は雀に挨拶をして
ここを去った

美しきは忍耐の先に待っているのであろう

丸い皿

丸い皿

私が落とした丸い皿
藍色焼きの丸い皿

割れては四つになった皿
鋭利な角持つ気張った皿

もう料理が乗らない皿は
皿というのは可笑しいか

無理矢理乗せてもいいけれど
鋭利な角で血が出ちゃう

袋に捨てた丸い皿
涙流した丸い皿

私のせいで泣いた皿
今まで色々乗せた皿

誕生日ケーキも
クリスマスチキンも
お餅だって乗せた皿

皿の涙で私が泣いたら
私の涙で皿も泣いた

感謝の念と憂いが同居した瞬

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憩いの街にて

家のガラス窓には施錠がしてある
それは頑なに
それはひっそりと

カーテンで仕切った外側に
なにがあるかは
日差しに頭を突っ込まないとわからない

私の大きな勘違い
外側が美しくないから
汚染の街の捨て恥だから
そう感じて長らくが経つ

それは頑なに
それはひっそりと

美しさに外も内もあるわけが無く
私の眼がどう捉えるかが美の定石

この世の全てが私が触れた狭い世ならば
そこはしっかりと美しい

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歩の幅

歩の幅

この身がただただ歩くわけでは
ないから余計に困ってます

そこには命と心が住んでて
周りの星をも傷つける

只々黙って転がりすぎた
日々の薄い温度は
やるせなさとしての風当たりだけではなく
生温さのなかに心地さを含ませている

前に進んだ昔の友よ
後ろに下がった今の私よ

弾ける涙はナイフのように
滴る汗が丸太の様に

たがいの体液が
重なる場所を探してる

こんにちは
昔の友よ
今も友でいてくれ

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波

泳ぐはちっとの荒波よ
冷たいみぞれの水面よ
痛いは身体
苦心は灯台に置いてきた

服が重くてとられた波に
詫びゆく想いが絡みあう

陸は見えずと
果てのない

ばあばの詩が聴こえる方角

しゃきっとしなくしゃ
いけないよ
しゃきっと歩いて
いけないよ

聴こえるうちに
帰りましょう

冷たい荒波潜りましょう
私は帰る
なにがあっても
私はばあばの詩の方

方位磁石はヨーソロ ヨーソロ

シャボン玉

シャボン玉

愛の不思議は
色じゃない
温度も痛みも
嘘でもない

愛の不思議は
形崩れて
透明シャボンで飛ぶところ

私が絵を描き
色を塗り
額縁囲って
飾ってもなお

意味のない愛が
浮遊するだけの小部屋

命の祈りはますますと
愛の鎧を脱いでいく
がぎゃん がぢゃん
と崩れてく

鎧の中の透明人間は
愛そのもののシャボン玉

気がつきゃ私もシャボン玉