マガジンのカバー画像

詩集 幻人録

316
現代詩を書いてます。
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

稲穂にて

稲穂にて

悲しみは時として詩になり
他人の心を癒すだろう
それまで耐えたあなたの心臓は
私の心臓よりもとても毛深い

だから私は思うのだ
いい加減になんて生きてはいられない
時に俯いた時にだけ
いい加減に踊ればいいのだ

稲穂が揺れる風が吹く
夕暮れ終わる帰り道
刻の速さに負けないように
徒然歩けばいいのであると

自然に教わる
それが業である
そんな生き方に寄り添いたいものだ

語り癖の多い私は
煙たがら

もっとみる
心音

心音

悲しみのリズム
心中鳴らす
朝なのに鈍い音は
どんどんと鼓動を揺らす

哀愁のリズム
心中鳴らす
夜なら嘘と笑ってほしいが
本当の音なの切ないね

このリズムも芸術と
問いただされたら頷こう

そしたらバレない

私の心臓は動いてる
私の身体は生きている

喜びのリズム
心中鳴らす
昼なら暖まる
声を出そう

心音揺らす
風が吹く

沼地の魚

沼地の魚

沼底を歩く魚はひとり
ゆっくりと刻の調べを感じ
瞑ったままの目で
進路を行く

怖いものなんてみあたらない
なぜなら視界を遮っているから
見えなければ怖くない
魚は歩く
ひとりで歩く

うちなる恐怖はなにもない
魚は知らない
恐怖を知らない

魚は歩く
沼地の底を

箪笥に悲哀

箪笥に悲哀

箪笥に悲哀
開けたら泪
古い引き出し
なかなか開かん

取手が錆びて朽ち果てたのか
木材軋んで開かぬのか
開けても埃で咽せるだけ
中身はなんでかすっからかん

哀しみのしまい処は
なぜだか勝手に決まってる
いつも心と脳の間

そこの箪笥にしまってる

いつしか埃と煙になるまで

ミルフィーユ

ミルフィーユ

万象なりとも幾重に連なる場所に生まれ
なんにも持ってはいないなどとは
戯言になってしまう世で

背負った分だけ脚腰を鍛えるばかりなもんで
重くて重くて嫌気がさして
ひとつずつ捨てていってしまえや

最後なんて何が何だかわからないもんで
遠い街の夜景より
近くの灯籠をひとつひとつ愛でりゃあいい

宝が枯葉一枚なったらなったで
どんどこ枯葉は幾重に積もるで

千枚
枯葉の音がする

さくさく さくさく

もっとみる
昼松明

昼松明

昼なのに夜更けのような顔をして
空気の流れのない部屋の抜け殻
久方振りに陽を浴びたら
泪が滲んで街が霞んだ

陽を少々いただいて帰りたかったが
歴史がそれを許さない
だから私は陽のかがり火をひとつ
胸に宿して
ぽっぽ ぽっぽと生きていく

魂が火傷しないように
ぬるいくらいの大きさで
摘んだ枝先
昼松明

できれば私は孤独ではなく
できれば私は貧相でもない
もう少しだけ笑いの中で
もう少しだけ風を

もっとみる
消えた彗星

消えた彗星

消えた彗星
朧げな思考
頼もしい星
ロボットの月

水の惑星
暗い空間
明るいのはただ
水の惑星

欲しい願いはずっとある
消えた願いもずっとある

どっちも好きで

どちらも無限に忘れない