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詩集 幻人録

316
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2022年7月の記事一覧

無形の美術館

無形の美術館

白檀の香を焚く
煙が顔に当たって
私は目を瞑る

視界が暗い分
白檀の焦げた匂いを強く感じる
机に置いた腕と
腕に置いた頬が
力無く沈んでいく

開いた目が捉えた
火の高さが低くなっていることから
いかに私が長い時のなか机に沈んでいたかがわかる

音も無い部屋の中には
煙が創る形無いアートが
私の前に展示される

鼻腔も穏やかになる
このアートは私の脳のカチカチとした部分を
揉んでは撫でて暖める

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工業船

工業船

旧江戸川に聳える工業船の入り口までは
金具の寄せ集めの橋を渡って
カンカンと歩く他ない

その音を頭に浮かべ
月の落ちた川辺をひたひたと歩く

遠くに望む電波塔が紫色に光り
私は少し安堵した

なぜなら工業船の迫力に丸呑みされかけていたからである

船員達が何人も私の頭の中で橋を渡る
カンカン カンカン カンカン カンカン

少し先の出航に向かい
進める歩は粗々しく強固な音だ

のんびりと月夜を歩

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虫になっちゃった

虫になっちゃった

虫になった
名前も知らない

虫になった
黒くて小さな

虫になった
飛んでみた

あの子の部屋の窓が開く

虫の私は
飛んでいった

あの子の部屋に
入って行った

幸せでした

虫になった
名前も知らない

虫になった
あいもかわらず

過ごしています

なにも変わらず
感じて
噛み締め

生きています

生きています

虫になった
名前も知らない

黒くて小さな

羽のある虫

生きていきま

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稚魚の詩

稚魚の詩

川の曲がりの内側は
水流なきこと溜まりの様
何処へも行けぬ流線形
石が貯まって気重たい

流れる同胞見送って
今日も休暇の真ん中で
雲の異形を佇まう

魚が来たからいただいた
生命力の端っこを
米粒程の希の光を
稚魚の詩聴き
涙する

涙流れず溜まるが
ここは
淡水微睡む
道の途中

声

自由にならなくちゃと首を絞め
与えられた運命を忘れる
言葉が降る夜ならしたためて
私が今どこに居るかを知る

最果ては見えないのに勝手に
想像するから頭バカになる
決められた声をなぞるよに歌う
そんなことはしてはいけないと

愛が呼ぶからと行ってみた
そこには深い憎もあった

酸っぱい果実を噛み締めた
わざわざ眉間のシワを見る
鏡は嘘つき騙された
やるせない顔をして実は笑ってる
夢はいつか終わると

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部屋の部屋

部屋の部屋

暗い部屋
とびきりに暗い部屋
暗いが故に深淵に憧れ
暗いが故に笑いが止まらない
暗いが正義と闇を欲す

明るい部屋
とびきりに明るい部屋
明るいが故に暗がりに憧れ
明るいが故に笑いも出ない
明るいが悪と闇を欲す

少しだけ暗い部屋
少しだけ明るい部屋
同じ部屋でも違う部屋
あなたの部屋はどんな部屋
私の部屋はピアノの鍵盤は見えぬけど
壁掛けの絵はぼんやり見える

部屋を入れる部屋に灯った
何の意味

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旅路

旅路

数えきれぬ喜びが
澄み渡る鈴音が
浴びるほどの笑みを
私に与える

心に振ったにわか雨
眼光開くと降ってはおらず
頭中凍える氷山は
踊り明かすと溶けていく

魂は常に笑い
淀んでいくのは身体だけ

ここは知らずの楽園で
目新しいの行列だ

重た過ぎる哀しみは
鈍苦に響く鐘の音は
浴びるほどのいろんな笑みで
私が私を取り戻す

そんな旅路の途中で記す

黄色い風

黄色い風

子の騒ぐ遊声
言揺れのブランコ
芝生は柔らかく
黄色い風は吹く

頭の中はなにもなく
ただ動く秒針
地は暖かく
遠くは子落ちる滑り台

不思議なことがらのない世界は
かりそめの遊園地
ここは不思議が沢山漏れ出す
希望の広場

それは私に穏やかな時をもたらし
小さなエネルギーの集合体が風回る

私もそれのひとつの筈で
私も誰かの黄色い風で