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詩集 幻人録

316
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2022年1月の記事一覧

天樹木

天樹木

それは空に架かる人の思いの種念体
色は動いて喜怒哀楽
そこに生えるは天の樹木
果実は甘いか酸っぱいか
人の思いに他ならない

枯れることはないのだか
人が減ったら天の地は脆くなる
根の栄養素も乏しくなる

今ここで私が見上げる群青の彼方に
うっすら見える天樹木は
あと行く年で衰退してしまうのか
我が子が産まれ泣いた日に
甘い果実を食べさせてあげたいが故

あざとくとも徳を積むのが先決だろう

夕暮れチョコレート

夕暮れチョコレート

その髪を綺麗に結ったのは
僕に逢うからなのだろうか

薄紅のワンピースを選んだのは
僕と出掛けるからなのだろうか

だとしたら僕は小汚い裾のズボンに
よれた緑のチェックシャツ

なんかごめん

夜が来る前ののっぺりとした夕暮れに
君の笑みは揺るぎがない

甘くなるほど苦いのは
それは夕暮れチョコレート

四つ角にて

四つ角にて

右に曲がれば団子屋が

左に曲がれば風が吹く

そのまま進めば氷の世界

後ろにひいたら真っ黒けっけ

腹を満たすか
急がば回れ

追風 向風
命の修行

このまま行けば
凍えるだけか
それとも
霜焼けまっかっか

どうせ戻れはしない道

ぐるぐる
ぐるぐる
行けずとも

曲がりましょう
曲がりましょう

右に曲がれば
茶が飲める

迷いごとなど
後ろに棄てて

ミミズクの思

ミミズクの思

羽根をたたんで目を瞑る
ミミズクさんは昼行灯

答えを知らないミミズクさんは
なんでか頼りにされている

リスさんが言う
いらない涙腺は塞いだほうがいい?

ミミズクさんは
目を瞑ったまま
首を横に振っていた

リスさんは晴顔

ミミズクさんは漠然とした想いを乗せて
首を横に振っただけ

それなのにリスさんの
背筋はぽんと伸びていた

ミミズクさんは申し訳く思うも
皆が頷くので

これはこれでいい

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ミイラに月

錆びた天井を眺める夜は
私は好まない

床に伏せるだけの夜は
私は疎ましい

能動的に
泳ぐ夜

流動的に
駆ける夜

果てない
宇宙に吸い込まれる夜は
胸が苦しくて苦しくて

鼻歌の舞う夜に
嘘の様に神秘的な夜に

一生懸命働く為の
準備だけが夜じゃない

嫌よ
嫌よ

ミイラになって
床に伏せるだけの夜は

ああ 月が丸い

ヒクイ

ヒクイ

まだ
あどけない朝

両手で掬った陽の命

溢さぬ様に口に運ぶ

私の胃袋に木漏れ日が差す

血管を巡る陽の光は
私の至らぬ心や
汚い精神に
無垢に浸透してくる

だから私は
いまがいちばん
あどけない

生活に下地を塗った

朝支度はこれから

ゆらゆらとした私の魂は
耳から抜けそうになっていたが
暖かさで思い留まった

日常の彩とは
ずっと隣で座っていたんだ

エミ

エミ

何気ない笑みが
走る言葉を越え
一輌の列車に乗って
私のもとにやってきた

私の前で開く扉
どうやら私はあなたのステーション

笑みが下車してこんにちは
それはぽぽっとひかる蛍のお尻
私は笑みと一緒に改札を出た

家までの道すがら
笑みに釣られて私も笑みる

マーケットでトマトとチーズを買った

笑みが嬉しそうに台所の私を眺める

私はトマトとチーズのパスタを作った

フォークがくるくる回ると笑み

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未確認夜間飛行

未確認夜間飛行

夜空に光る
プロキオンとの交流

しかしそれは動いてる
闇の世界を縦横無尽

私の目では追いきれない

サイズは月のクレーター
夜空を転がり乱反射

私の首は痛くなる
そのまま夜空に倒れ込む

私の目では追いきれない

夜空に光る
オリオンとの交流

どこへ行くの
なにしに来たの

ピュっとシュー
ビュールルル

夜間飛行にお気をつけ
夜空の魔物に宜しくね

ミルクソーダ

ミルクソーダ

あなたは甘くて
シュワっと消える

私が握ったあなたの掌は
ほろほろと絡みが外れていく

どんなにきつく縛っても
心臓だけは縛れない

だからあなたは消えていく

私の頬は赤らんで
ポッとあなたのまろみに落ちる

次第にどんどん寂しくなって
ふと気がつけば
喉元通る微炭酸

そのあとはただ消えるだけ
愛していたいの
私が私じゃないうちに

濃厚なのに爽快に走る
爽快なのにシュワっと痛い

ミルクソ

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キライと惑星

キライと惑星

手を取り合った
雨と風
仲良くなった
雪と夜

嫌いになった僕ときみ
成熟したいちごと飴

心地よい湯船に浮かんだ
小島から見る煙った月

たじろぐ星が降ってくる
たじろぐ惑星落ちてくる

手を取り合った
雨と風
仲良くなった
雪と夜

今宵の涙はお湯で流して
嫌いになった僕ときみ

好みの香りと愛と慈

弾けてそっと
夢のなか

嫌いになれない
僕ときみ

茶畑にて

茶畑にて

味の染みた田園は
煮込んで茶色くなっている

隣の段々茶畑も醤油で味付けした様だ

私は薄情な冷風に煽られ
しゃがみ込んだ

緑の世界が観てみたい
青茂った心地のよい美風

時期を跨いで逢いましょう

その時はこの煮込み色の世界が
どれだけ大事なことだったか
痛感するのであろう

私は雀に挨拶をして
ここを去った

美しきは忍耐の先に待っているのであろう

しろいねこ

しろいねこ

雪原に衣替えした街の灯りは
僕の姿を照らせない

なんにもないが溢れてる
ここにいるよ
ここにいるよ

前爪の溝から尾っぽの先まで
まっしろけっけ
にゃっしろけっけ

帰る道筋わからない
僕は迷子の子猫でござる

にゃーっと鳴いても
毛並みが混じる
白い世界と融合思念

にゃんてことないさ
にゃんてことないよ

僕は大体の道すがらを
ぽこぽこと歩いて家路を辿る

心配しないで
パパとママ

杉波

杉波

北からの風は痛く
身が剥がれていく

杉の葉は変わらずの香で
私を陽から隠す

余計なものを背負い込んだ背は曲がり
冷たい風で歩幅が縮む

杉の波が押し寄せては
力で押し返す男にならんと

人生の合間にさす日射しは
杉並木の様
ポツリポツリとまばらに照らす

そこまで行ったらひと休み
陽を浴びここで腰下ろし

歩けど
走れど
同じこと

同じ場所で腰を下ろして
休んでくれればそれでいい

これから

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丸い皿

丸い皿

私が落とした丸い皿
藍色焼きの丸い皿

割れては四つになった皿
鋭利な角持つ気張った皿

もう料理が乗らない皿は
皿というのは可笑しいか

無理矢理乗せてもいいけれど
鋭利な角で血が出ちゃう

袋に捨てた丸い皿
涙流した丸い皿

私のせいで泣いた皿
今まで色々乗せた皿

誕生日ケーキも
クリスマスチキンも
お餅だって乗せた皿

皿の涙で私が泣いたら
私の涙で皿も泣いた

感謝の念と憂いが同居した瞬

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