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詩集 幻人録

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2021年3月の記事一覧

空想

空想

電線の様な針金虫が青年の頭上で息を潜める

ビリビリと生活に寄生してくるそれに

嘲笑れていると

青年は怯えた

昨日の震える様な豪雨のせいか

下水から濁流の様な巨人のゲロが青年の暮らす街を

這い巡った

なぜここの街の住民はノウノウと営んでいるのか

青年には理解出来なかった

背中が丸く

髪は伸びきり

青年はこの街を地獄の続きだと考えていた

きっと
前の私が惨虐なやつだったのであろ

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彷徨うは慕情の夢

彷徨うは慕情の夢

途方に暮れればくれる程
少年は街を徘徊した

商店街の八百屋の看板の色褪せや
無くなった電線のことなど
頭の隅にも伸びきった爪の中にも入ってこない

なにも考えずただひたすらに歩くことで
少年は見たくもない愚かな自分と
向き合う時間を
言い訳の様に削っていった

これが散歩ならば
風を感じ
街並みに恋をし
今いる場所の一部に少年はなろうと願うのだろう

情け無い己が
自室の真ん中で大の字になり居眠

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泪の拡散網

ひとりで遊ぶ赤ん坊は
アパートの一階で大きな声で泣きました

ベビーベットに憧れて
畳の上で泣きました

アパートの窓は風の通り道
レースのカーテンが優雅に泳ぎます

赤ん坊の弾け跳ぶ泪は
ベランダを越えて風に大気に流れ出します

ひとりで遊ぶ赤ん坊は
アパートの二階で大きな声で泣きました

母の乳房に憧れて
畳の上で泣きました

アパートの窓は風の通り道
大気は泪を背にのせて
赤ん坊の窓に吹き付

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グレーオーシャンの診察室

グレーオーシャンの診察室

潮風にあたり
無理矢理に幻想の扉を潜る

絶え間ない波の強弱に
私の鼓動のチューニングを合わせた

曇天のせいで
やるせない日常の屋根のままだが

都会から離れたこの場所は
あくまでも私の味方だった

得意のご都合主義

魚達は過酷な水中で必死に生を全うする

私よりも生死を強く噛み締め
ひたすらに向き合っている

人間の感情とは
時として低次元で
波にのまれやすい

一長一短の感情は
余計に私の

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激情 進化 特異点

激情 進化 特異点

ラプトルは走る
ビルとビルの間を抜けて
人間達を退け反らせながら
車を踏んづけては爪を振り回し
雄叫びをあげた

人間は逃げ惑う
ビルに登り
体勢を崩しながら
他人のヒールを踏んづけては
悲鳴をあげた

ラプトルは思う
恥ずかしいから
早く人混みを抜け出し
自分だけの巣に帰りたいと

人間は思う
恐ろしいから
早く誰かが
あいつを倒してくれないかと

ラプトルは暴れる
ふざけんな
ふざけんな
ふざ

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逃避行なんてロックじゃないか

逃避行なんてロックじゃないか

僕は学校に行っていない
行きたくないから
行っていない

先生や家族になにを言われても
負い目に感じるだけだから
ほっといてほしい

友達に陰で噂されていると思うと
余計に外に出たくなくなる
小さい街だとすぐに他人とすれ違うから

ほっといてって言ったけど
完全無視は都合が悪い
だってそれじゃあ僕の存在がうっすら消えて萎んでしまう

ここにいるよ
ここにいるんだよ

学校に行きたくない理由なんて

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星陰のラブレター

星陰のラブレター

時間が止まれと願ったのは
星が落ちた瞬間のこと

喧騒とは程遠い田舎の高台で
突然迫ってきたのは黄色い惑星

瞬きの間に消えてしまうから
私は時間が止まれと願った

この星が欲しい
私だけの流れ星

聡明で懸命な光りは
私を胸の真ん中を射抜いた

叶ったばかりの願いを背負い
私は星に手を掛けた

重くて熱い落ちた星は
私を強く拒絶した

ベランダに置いておきたいの

カーテンを開けたらいつでも輝け

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新しい古城

新しい古城

私は積み木で遊びたいのに
飛行機の玩具を持たされる

父は私が飛行機を飛ばす姿を観ては
高揚感で満たされている様だ

私は小さな飛行機を右手で飛ばした
私は積み木で遊びたいのに

別に飛行機の玩具が嫌な訳ではない
翼やタイヤはかっこいい

だけども私は積み木でお城を作りたい
大きな私のお城を構えたい

赤い屋根に
黄色い城壁

私がいくらお願いしても
私の言葉は届かない

仕方ないからわんわん泣い

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朝の空気を腹まで吸って

朝の空気を腹まで吸って

玉粒の様な汗をかき
一生懸命働いた

涎を垂らし
一日中スーダラに過ごした

身体に絡まった蔦を
日没まで必死で解いた

愛に刺された日

孤独に首を絞められ
窒息しそうな日

高速道路で一気に距離を稼いだ日

渋滞にはまった日

どんな街にも
同じ朝が来る

暗い湿った路地裏に

リッツのフカフカのキングベットに

雨にうたれた沼地に

実家の母の布団に

愛するパートナーが隣で眠るシングルベッ

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曲がったピースをする人へ

曲がったピースをする人へ

ツライツライと嘆いていたら
小さなコブが出来ました。

胸部にできたそのコブを
服で隠して生きています。

他人は私に期待を寄せて
私のまわりは真空状態。

息のできない空間で
もがいているのは誰にも言えない。

絡まる世界で堪える度に
コブは大きくなっていきます。

擦れれば痛いし
隠すにも必死

私はどんどん追い込まれ
私は私を演じます。

もっと甘えて、もっと晒して

それが許されない世界線

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余計なつまみ食い

余計なつまみ食い

お腹が空いたよ どうしよう
冷蔵庫の腹 空っぽさ

ズボンのポッケに忍ばせた
砂利銭仲間は 家出した

ばあちゃんの腹も 鳴いている
二人揃って 立ち往生

小さなお家が 壊れそう
腹から聴こえる ホルンの音

堪らず窓開け 空気吸う
ばあちゃん一緒に 空気吸う

北風ケラケラ 笑えども
腹の中でも 馬鹿にする

夕日が綺麗な 燈色に
こんがり焼けてる 美味しそう

枝切り鋏を 持ってきて
夕日を

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かるくて

かるくて

着なくなった古いセーター
遊ばなくなった玩具
私の部屋にはいくつの面影が隠れているのだろう

私の元を離れてどこかへ羽ばたいてくれるのなら
それがいい

しかし
野暮ったるく足腰が大鬱の様に重い私は
彼等を陽下に出そうとはせず
押し入れの奥の暗がりにズドっと置いたまま

自身のていたらくのもと
命の口を封じ置き去りにしている

私がこの世を去る時に
この手で掴んでいけるのは
たったひとつかふたつだ

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