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空中ブランコのりのキキを見てきました

私はこの咲妃みゆさんが見たかったんです。
初めて世田谷パブリックシアターにて観劇するチャンスをいただき、音楽劇「空中ブランコのりのキキ」を見てきました。

別役実さんの児童文学「空中ブランコのりのキキ」を基にした音楽劇です。
本物のサーカスの方が出演し曲芸を見せてくださるだけでなく、幻想的で、「夢」を見せてくれる「サーカス」もっと言えば「劇場」といった世界の構築を見せてくれました。
咲妃さんは主にサーカス団の花形、空中ブランコ乗りのキキを演じます。ですが、別役さんの作品に出てくる様々な登場人物を演じ、最後は不思議なサーカスの話を読み聞かせてもらう少年にもなったりと。
とにかくどこからどこまでが現実でどこからどこまでが空想なのかがわからない、舞台芸術だからこそできるふわふわとした「夢」の世界がありました。

キキは空中ブランコと空中ブランコの間を3回転できる世界でただ一人の空中ブランコのり。しかし、別のサーカス団に3回転ができるブランコ乗りが現れたと聞き「たった1回だけで良いから4回転を成功させたい」と思うようになります。

そんなキキはもともと引っ込み思案で、友達もいない。でもロロという名前のピエロも、サーカスの巡業先で出会う町の人たちとも仲良くなっていきます。
でも、キキの心はずっと「4回転をしなければ」という気持ちにとらわれていきます。拍手をもらえなければ自分には価値がない。拍手をもらうために4回転をしなければと自分を追い詰めます。
そこに、サーカスを見守る、瀬奈じゅんさん演じるおばあさんが現れ「人の役に立たなくちゃいけないかい?ただそこにいるだけじゃいけないかい?私はもう誰の役にも立たないおばあさん。でも、こうしてシャボン玉を吹いて、サーカスを見ているだけでとっても幸せ」と観客席に語り掛けます。

お子さんもたくさん来ている劇場で、まさしく世田谷パブリックシアター全体が一つの大きな舞台のようで、観客も確実に舞台上の世界に参加しているようでした。

私はこうした、現実と幻想の間をお芝居の中で表現する咲妃みゆさんがずっとみたかったんだなと思いました。

最後にキキはたった一度の4回転の空中ブランコのために梯子を上っていきます。そこのキキの言葉がとても印象的なのです。

「お客さんたちが見える。とても不思議な気持ち。わたし、拍手をもらえなくても良い。美しくなくても良い。飛びたいから飛ぶんだ!」

その後は有名な児童文学の通りです。キキは確かに4回転の宙返りを成功させます。しかし、反対側のブランコにキキが手を伸ばしたところを誰も見ていません。
代わりに、鳥の羽が一枚空から降りてきます。

客席内だけでなく、劇場のロビーもとても素敵で、本当に現実なのか、ふわふわと夢の中に迷い込んだのかもわからないくらいでした。
観客席も大きな布製の月が見えたり、影絵があったりと「ここはどこか知らない空想の場所だ」と思わせてくれました。
「どこかしらない空想の場所」で主演を演じる咲妃みゆさんという表現者を私はずっと見たかったんだなと改めて思いました。
キキは鳥になったのでしょうか、それとも劇場の天井に描かれていた青空に吸い込まれていったのでしょうか。

舞台芸術にしかできない表象についても考えさせられる公演でした。千秋楽しか見られなかったのがもったいないです……再演されたら見に行きたいですし、世田谷パブリックシアターもまた行きたいです。
本当に夢見たいな劇、世界みたいな世界、風みたいな風でした。

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