(京都finalロングレポ)Fujii Kaze alone at home Tour 2022.09.05.at ロームシアター京都
2022年5月からスタートしたalone at home Tour2022(aahT)は、お家で一人過ごす藤井風というコンセプトで、全国各地の数千人規模のホールをまわるというとてもat homeなツアーだった。演奏するのは藤井風たった一人。自宅で弾き語る様子をYouTubeにアップして人気を博した彼らしい演出であり、コロナ禍のstay home とも掛けてあったのかもしれない。
弾き語りはもちろんのこと、リクエストコーナーでリラックスしたお茶目な姿が見れたり、初めて弾き語る曲でも完璧な演奏を聴かせてくれるなど、みどころ満載のステージを展開した。
(この記事は、一度Twitterに投稿したものをalone at home Tour 2022のエイプリルフール告知から1年のタイミングで再編して掲載したものです。読みやすくするため約1500字追加しました。)
1 美しい人でありたい
ツアー中に風さんがコロナに感染され、7月19日の予定だった京都でのライブが9月5日に振替となり、この日がたまたまツアーファイナルとなった。初めて風さんのライブに行けることになった私は、午前中に仕事に行っても特別な緊張感をずっと感じていた。
午後休を取って岡崎に向かい、ロームシアター京都の建物に入ると2階会場のロビーがグッズ売り場と、風さんへのリクエストカードを書くコーナーになっていて、風さんのアルバム「Love all cover all」が流れている。グッズ売り場の手前でチケットを確認され、グッズ購入が済んだ辺りでリクエストカードを受け取るシステム。記載台の上には青いペグシルが置いてあり、それで記入するようになっている。ゴルフ場にあるような使い捨ての鉛筆みたいなもの。aahTのポスターに入っている青をセレクトしているあたり、芸が細かくて好きだ。
そこでは、みんな思い入れいっぱいの一曲を書いている。それぞれのドラマがあっての渾身の一曲を選んでいるのだろう…それを考えるとちょっと胸が熱くなった。
私はと言えば、ただただ風さんのシルキーボイスで歌ってほしい平井堅さんの「美しい人」。しかしこれはこれまでの人生で一番辛かった時期にCMでこの曲が流れてきて、思わず涙してしまった曲。
「泣かないで美しい人ー(いや美しい人ではないけど、そこは無視)中略 その涙を拭うためこの手がある(そんなこと言われてみたい!)」
やはり私も思い入れたっぷりの曲を選んでいた。歌ってはもらえなかったけれど、風さんのピアノと歌で脳内再生するだけで泣ける。
グッズも買って、かわいい白いアンティークポストにリクエストカードを投函してから、コンビニでおにぎりを買って横の公園で食べた。座るところもたくさんあるし、緑がいっぱいで、ほんとに気持ちの良いところ。
客層を観察すると、女性二人や一人が一番多いが、カップルで風さんTシャツを着ている二人や若い男性一人も、お仕事終わりでかけつけたらしい壮年男性もおられ、10代から60代まで老若男女。お子さんのファン(風さんTシャツ着てる!)もいた。
風民さんと会って、お互い初めて風さんの生歌を聴くのでドキドキするねと言い合って入場した。
2 起き抜けに弾くウクレレ
座席に着くと、古い映画で聴くようなストリングスが流れて来て、よく聴いてみるとジュリーロンドンの「The days of wine and roses(酒とバラの日々)」だった。舞台に垂れた真っ赤なビロードの幕にその曲がぴったりで、その赤い幕が開くのをみんな息をひそめて待っていた。
SEでは他にも様々な時代の曲が流れていて、音楽的に死角がないと言われている風さんの音楽の幅を感じるのと同時に、幅広い観客層の誰もが、ここにいて良いのだと言われているみたいだ。みんな音楽が好きなのは同じ、風さんの奏でる音楽が好きなことは。
幕が上がると待ちかねたように大きな拍手が起こった。ピンクとパープルのスウェットを着てソファに座り、ウクレレなのかミニギターなのか、ポロポロと弾き語る風さんは少年のよう。朝の海に浮かんでいるような浮遊感のあるDaniel Caesar feat. H.E.R.の「Best Part」という曲。2021年のねそべり配信でも歌っていた曲だ。眠気覚ましにソファで奏でているイメージかな。
なんてきれいな声…素直に浮かんできた感想。風さんの声にはいろんな顔があって、ざらざらしてたり、ふわふわしてたり、ガツンとしてたり。それ以上に、一本の線ではなく何層にも重なったような声で、それが深みを作り出す。表面が均一になることはなく、そのせいかべたっとくっついてくるようなかんじが皆無で、常に空気の層と一体になっているようなエア感がある。ピアノにおいても、何本の指で弾いてるの?というように音の層が厚く、ピアノ一台で弾いているとは思えない。
アイホール全体にブラウンのアイシャドウを入れた風さんは、より日本人離れしたお顔立ちに見える。首とかもすごく細いし、何よりスウェット姿でこんなにスタイル良く見える人って何なんw。
コンサートの舞台である風さんのお家は、ヴィンテージカラーで統一され、最初のペールトーンのスウェットや、2着目のレッド、グリーン、ブルーのカラフルなブルゾン、3着目のミントグリーンのセットアップを着た風さんが、浮き上がって見えるように計算されている。屋上に上がる感じは、ウエストサイドストーリーを彷彿とさせる古き良きアメリカの雰囲気で、演劇かミュージカルの舞台セットみたいだ。
前半4曲はカバー。YouTubeに投稿していたのが弾き語りのカバー曲だった事から、カバーは風さんの原点と言っても良いだろう。なんとなくご本人もリラックスして弾かれている感じ。Sunnyは、「I love you」のところをちょっとささやくように歌うのがポイント。くどくならないよう、さらりとウィスパーにして、最後の「I love you」で座ったままセルフハグ。
最初のMCの前に、笑顔でダブルピース!それまでの雰囲気とのギャップで、正直どう反応してよいのかわからなかったが、だんだんと面白い風さんに慣れていった。
3 ガーデンから優しさ
続きのMCは英語で、
「この場所、京都でファイナルを迎えられてとても嬉しい」
と言ってくれて、念押しの感じでもう一度「京都ファイナル」と言って拍手が起こる。
「心配しないで(Don’t worry ) 全てうまくいくからリラックスしてね。」
みたいなことを言ってくれるが、後で思うとご自身に言い聞かせているようでもある。
舞台の前方にある花壇に水やりしながら
「this is my garden, special garden…」
と言って、そこから「ガーデン」のイントロのハミングを始めるのだけど、そのハミングも音源のハミングとは違っていた。私が大好きな部分、
「だから冬よおいで、私を抱きしめて」
の後はいつも音源では聞き取れないけど、この時はyeyと言っていた気がする。
そのあとに続く「きらり」のイントロは、日産スタジアムでの無観客フリーライブの時と同じイントロ。これを聴くとだだっ広い川原のような場所で、夏草が強い風に吹かれてうねっている中を自転車で走っていく中高生のイメージが見える。曲が進むと音のつぶがだんだん加速して、私たちを遠いところに連れて行ってくれる。ピアノのグルーブがすごい。私は、もしも「グルーヴって何?」って聞かれたら、風さんの「何なんw」を無言で流そうと思っている。そうそう、きらりの間奏のところで、
「きょうとーファイナルー」
と言ってくれていた。
この曲では手拍子が起こって盛り上がっていたのだが、途中「どこにいたの、さがしてたよ」の静かになる直前でピアノを弾きながら左手を振り下ろして、客席の拍手を止めたりしてくれるのも何か嬉しい。
前半の最後は「優しさ」。こちらもフリーライブと同じように冒頭部分だけアカペラで、テンポも自由。こういうところがちょっとジャズみたいでカッコいい。ロングトーンで声を伸ばすところ、だんだんマイクを離していくけど声量が、すごすぎる。
風さんが歌いながらセットの屋上部分に上がって私たちのいる2階席を見渡しているのだが、ちょっと目が泳いでるような感じがあった。あとで、理由が分かるのだが。
この辺りでお水を飲み、自分のトップスにこぼしてしまう演技。喉を潤す水分補給とお芝居とを兼ねていて面白い。
4 驚きの出来事とリクエスト
服が濡れたから着替えると言って、スウェットを脱ぎ散らかし、カラフルなブルゾンと薄い水色のパンツに着替える。途中でピンポンが鳴って、慌ててパンツを履いていると、ローディーの大地さん扮する赤いつなぎの宅急便の方が来て、YAMAHAのステージピアノをセッティングしてくれ
「おおこんな接続までやってくれるコースを頼んどったかな、ここまでやってくれるんやな」
などと感心している。
その後、ちょっとびっくりな風さんのトークが始まった。(以下、風)
風「リクエストカードに書かれた曲を知ってる曲だろうが何だろうが、知らんかったらスマホで調べたりして、歌詞も調べてわしがピアノを弾いて歌うっちゅう恐怖のコーナーがあるんじゃけど」
私の心の声(以下私心)「え、恐怖やったんや!」
風「ファイナルっちゅうことで色々テンパッとって大変な事態がおこっとる」
私心「えっ、何がおこってんの?」
風「コンタクトをはめ忘れた!」
私心「ええーー!」
風「これは絶対見えん、リクエストカードも読めんし、知らん曲の歌詞も見えん、スタッフさーん誰か、コンタクト持ってきて~最悪、眼鏡でもええわ、おめかしの時はコンタクトにしとるけど、もうしかたない。」
と言っているとまたあの赤いつなぎの大地さんがコンタクトの箱と小さい鏡を持ってきた。
風「またよりによって新品の箱や」
と言って、外装フィルム開けるのに手間取り、ピアノの上に鏡を置いて、コンタクトを装着しながら
風「これ今、何の時間?」
って言ってるけど、ぜーんぶぜーんぶ誰のせい?
でもそんなことがあっても、いやそんなことがあってより、風さんへの親しみがグッと増した。真面目に感想を言うと観客を白けさせずに話し方などを工夫して、ピンチを上手くチャンスに切り替えたところは、流石としか言いようがない。
気を取り直して、お待ちかねのリクエストコーナーがスタート。
舞台下手にある白いポストの下部を開け、中の袋をステージピアノの辺りにもって来る。うつぶせになって、前には低いガイコツマイク。カードを袋から出すとき、ピッと右手で高くカードを上げるお茶目なポーズに笑いが起こる。「うわ、最初からしっぶい曲やな」とか「これはわからん!」とか素に近いトークで生配信の時のような楽しさ。「あんまり知らん」と言っていた曲を自分のスマホで検索して再生、さらっと流すように聴いていたところも、弾き始めるとうつぶせのまま完璧に弾き語り、かつすごい声量で感動しきり。
客席からのリクエストは4階席で挙手され、風さんから当てられた「ピュアな目をした方」から米津玄師さんの「アイネクライネ」とKing Gnuさんの「白日」。リクエストの理由を聞かれて
「この曲が私のオハコだからです。」
という女性に
「オハコの人の前で歌うのは辛いな。」
と言いながら…風さんの演奏及び歌はご想像の通りです!
この客席リクエストの時は客席の電気が明るくなり、当てられた方にスタッフの方がマイクを持っていくまで、風さんは
「上の方まで沢山きてくれてありがとう!」
と手を振り、
「かわいいかわいい」
と客席にエアなでなでをしてくれるなどお客さんとふれあいの時間だった。
5 藤井風くんの歌から八瀬遊園へ
楽しかったリクエストコーナーも終わり
「次は藤井風くんの曲を歌っていきます」
と言って笑いを誘い、クラップを始める。客席も手拍子で応え、そして「何なんw」に入る。
「それからこのツアーのテーマとなっている曲で、つながりっちゅうもんを大切にしたいという曲」
と紹介してからの「ロンリーラプソディ」。孤独感を感じたときに書いた曲とインタビューで読んだ。
「途中で息を吸ったり吐いたりするところがあるから、一緒にやってくださいね」
と言っている。
「きれいなもんだけ吸ってネガティブなもんは吐いて」
ってこの曲ができる前にもライブでやっていたのを見たことがある。音源には「みんな同じ呼吸~」と言って息の音を入れているし、風さんはどうしてもこれがやりたいようだ。ヨガや瞑想の呼吸法にも似ている。マスクで息が詰まりそうなコロナ禍ならではというのもあるのかな。この曲に入ると、客席は徐々に暗くなり、舞台の背景は夕方になっていった。
「それでは、」をしっとり聴かせた後、(この曲の時、コロナ罹患の影響からか高音部が少し辛そうだったが、40日後のパナスタではしっかり出ていてほっとした)アルバムと同じ流れで「"青春病"」この辺りで二度目の衣装替えだったかな?
「汗をかいたので着替えます」
と言って周りを見渡し、一気にズボンを脱ぎ、階段付近に投げる。下には赤いバスケットパンツのような短パンを履いている。
グリーンのセットアップに着替え、鏡に向かい
「うん、かっこいい」
と言ったところで、いつも風さんのMVなどを撮っている映像監督のダッチさん(山田健人さん)とザベスさん(エリザベス宮地さん)がお土産におだしや八ツ橋を持って来られた。
「(スーパーは)フレスコ派かマツモト派か、フレスコは田中里の前のフレスコミニで…いややっぱり河原町三条の明治屋だろ」
などとダッチさんは地元のとても細かい事まで覚えてお喋りされる方。ザベスさんは終始笑顔。
その後、ダッチさんがスマホの画面を舞台の屋上の画面に出るよう接続すると言って接続したら、待ち受けにずっずさんの顔写真が出て、笑いが起こる。「燃えよ」の演奏が始まると、ダッチさんが近づいたり離れたりして風さんの映像を撮り出した。それまでも固定カメラで、風さんが映っていたのだが、ダッチさんの映像になると「これやこれや、これこそ風さんや!」と屋上の画面に釘付け。ライトをバックに弾く風さん、とてもかっこ良い。超絶技巧のピアノソロは、風さんの背後から両手を出して鍵盤をどのように弾いているかをバッチリ撮影してくれる。ザベスさんは屋上から半身を乗り出して、二人の様子を撮っている。またブルーレイのドキュメンタリー映像になるのかな。
撮影が終わると
「ちょっと森のゆうえんちに行きたいから帰るわ」
とダッチさんが言って
「いや八瀬遊園(やせゆうえん)、それは森のゆうえんちの前だろ」
などと言っている。「八瀬遊園」という地元の、ある程度の年齢以上の人たちにとって懐かしすぎるワードが出て、リサーチが細かすぎて笑ってしまった。
6 たくさん伝えたいことが
「おうちカラオケみたいになっとるからな」
と風さんが、リモコンを操作すると、爆音でdamnのイントロが鳴りミラーボールが輝きだす。
「立ちたい人は立ってええよ!」
と言われて、立たない選択肢はない。おしゃれなミントグリーンのセットアップを着て舞台の前の方で歌い踊る風さんは本当にキラッキラだ。
まつりのイントロのアルペジオが、ループで鳴っている間に、風さんが屋上に上がってまつりが始まった。私のいる2階席と同じくらいの高さで、歌い踊ってくれる。まつりの振り付けをしたアレックスさんの動画を観て、練習をした甲斐があった。前の席の方が立たれず、まさかの実質1列目。距離はかなりあるけど、今、私は風さんの前で踊ってる?!癖になる和風のメロディ、風さんと皆さんと踊れて最高!と盛り上がっているところで、一気に暗転し「君が激しく泣いたせいで…」の歌詞に合わせて、MVのように風さんがバシッと横を向いてポーズを取る。ここはかっこよすぎて身震いするほどだった。
「この曲が最後の曲です。なんで今日京都でコンサートをやっているかというと理由があるんです。わしが流行り病にかかってしもうたからで、もう9月ですよ。9月5日ですよ。やっぱり健康が一番や、心も体も健康でいないといけんということを感じた。健康でいるためにも(上の看板を指さすといつの間にかモニターになっていた画面が、人参のイラストと"yasaitabeyo"の看板に戻っている)わしも色々あるし、感じ悪い態度を取ってしまう時もあるけど、昨日よりも今日は少しいい人になろうと努力して、優しくなりましょう。まずは、自分を愛で満たしてあげたらそれが周りに広がって行って周りに優しくできるから。それから、みんな幸せになることをあきらめんとって。」
等々とたくさん話してくれた後、「旅路」を弾きだすが、歌いだしの部分で少し止まって
「あれ、ちょっと待って」
みたいに言って照れ笑いし、再度弾きだした。これは感極まっていたのか、ただの弾き間違いなのか、分からないけど5か月に及んだツアーの最後の曲であったのは確か。
最後にスタッフの方や、来てくれたみなさんへの拍手をもらい
「ふじいかぜでした」
と岡山のイントネーションで、1階席から4階席まで両手を振って、エアハグ、エアよしよし、名残り惜しそうに投げキッス、バタンとドアを閉める直前にぴょんぴょん2回飛び跳ねながら手を振って退場。ようやく2022年の夏が終わった。
この音楽の天使は私達に愛することを広めて、これからもっともっと大きな世界に飛び立っていくのだろう。
7 Blue,yellow and red.
あの日以来、岡崎の辺りを通ると胸がキュンとなる。Best Partの曲を聴くと切ない気持ちになる。あれから半年経った今でも。
aahTのポストカードをいつも目に入る所に飾っているが、このテーブルと上のものはどうして真っ青に塗ってあるんだろう。そして、上に載っているものは、黄色。風さんのスウェットも壁も黄色。ちょこっと風さんの好きな赤がある…などと時々ぼんやり考えている。
この事とは全く関係ないが、青と黄色の旗の国では昨年から戦争が続いている。殆ど報道されなくなった今もなお。一日も早く収束することを願ってやまない。そしてLove all やHurt neverの精神が世界にもっと広がっていくことを。
※見出し画像は、ライブ終了後にホール外観を撮影したもの。古い建物を活かして内部は近年改装された。右側の瓦屋根の建物は、京都市美術館別館。