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積年の祈りを:日本国宝展「祈り、信じる力」(2014)

地味じゃない、国宝展

「面白い国宝展とは何か」を示されたようである。
「日本国宝展」はその名の通り、全国宝1,090件のうち約120件を集めた贅沢な展覧会であり、初めて一堂に会する作品や正倉院の宝物庫の作品が展示されている…等々が話題と言うが、「非オタ」にはピンとこない。
しかし、教科書で見た作品が淡々と並べられていそうな「国宝展」という言葉が持つイメージを打破する展示によって、なぜこれらの作品が国宝に認定されたのかを肌で感じ取れた、と言えば、この展覧会の面白さも少しは伝わるだろうか。

本展覧会は「祈り」というテーマで構成されている。仏、神、体系化以前のカミへの信仰をあらわした遺産を、ただのモノとしてではなく、物語や人々の想いを持った宝として展示している。
人間ではなく、神や仏に捧げることを目的として当時の技術の粋を尽くして制作された大小の作品群は、まるでお堂や御所、遺跡の中で作品を見てい
ると錯覚させるかのように観覧者を囲んでいた。

「空間デザイン」の力

この空間を創り上げた空間デザイナーの池田英雄氏は、日本美術の展覧会としては異例の動員を記録した「国宝 阿修羅展」(2009)でも空間デザインを務めた人物。
国宝の展示において、氏が意識しているという作品の荘厳さと繊細さを十二分に観覧者に伝える空間が出来上がっている。

年代や背景ごとに作品をまとめ、ストーリーを感じさせる空間は、様々な形の信仰や宗教が絡み合っている日本がどう出来上がっていったのかに自然と思考が傾く。作品の技術面だけではなく、歴史的に持つ意義を伝える展示なのだ。
色褪せた作品も、その歴史と人々の信仰心を感じさせる作品として見る人の目に入ってくるのは、本展覧会の丁寧なディレクションによるものであり、そこに難解さは無い。

これならば、例え「非オタ」であっても、上野公園の端まで足を伸ばしたことを後悔はしないだろう。

2014年 執筆


再掲に寄せて

2014年当時、国宝展としては14年ぶりの開催だった。まだ東日本大震災の傷も深く記憶に新しく、祈りは身近にあった。
古来の日本とその周辺に住んでいた人々の生きようとする様と、精神的支柱の具現として、大なり小なり傷を抱えていた観覧者に寄り添ってくれたように思う。

文中に出てくる「阿修羅展」は、2009年当時高校生だった私の周りでも話題になっていた。阿修羅が一大ブームになった、あの展覧会。

そのディレクションをした池田氏は、2014年に西洋型の建築物である「平成館」を、国宝という日本的なものに合った、優しく、本来的で、どこかから風が通ってきそうな日本建築の雰囲気まで作り出していた。

特に印象的だったのは、口の字にくり抜かれた壁だ。言ってしまえばテーマごとの区切り壁で、国宝自体とは関係無い。だが、大きなもの、目立つものに引き寄せられがちな人間の視線を適度に分散し、閉塞感を少なくしていた。
遠くからでも隣のテーマの展示を覗ける形式は、荘厳なものは少し距離を置いて眺めたくなるような私には画期的だった。


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