4月から変わった表示制度 「遺伝子組み換えでない」表示が消える?
日本消費者連盟 原 英二(2023年5月10日)
食卓にあふれるGM食品
皆さんが遺伝子組み換え(GM)の表示を目にするのは、納豆や豆腐に付けられた「遺伝子組み換えでない」という表示くらいでしょう。では、日本にはGM食品はないのでしょうか? 答えは「NO」です。大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタは、食用油やデンプン原料等として食品に大量に使われていますが、日本は大部分を輸入していて、そのほとんどがGM作物です。
海外と比較すると、日本のGM表示制度は遅れていて、表示基準は5%超と高く、食用油や醤油などは表示が免除されています(左表)。消費者は食卓にあふれる不安なGM食品を、この表示制度のせいで、知らずに食べているのです。
「社会的検証」でGM表示を
食品表示が消費者庁に一元化されて以降、消費者庁は検討会を設置して表示基準の見直しを順次進め、遺伝子組み換え表示については2017年度に検討会が開催されました。当然、消費者側からは表示基準量5%の引き下げや、食用油等の表示について見直しを求める声が数多く出されました。しかし、検討会は業界の言いなりで、世界最低レベルの現行制度を維持することが決められたのです。
それだけでは済みませんでした。検討会に向けたヒアリングで消費者団体から出された「5%の基準が緩すぎる」という意見が逆手に取られて、不検出(検出限界未満)でなければ、「遺伝子組み換えでない」と表示ができなくなってしまったのです。そのため、表示がなくなったり、「分別生産流通管理済み」といったわかりにくい表示になっています。
また、表示制度の変更に伴い、混入を判定する新たな検査方法が定められたのはトウモロコシと大豆だけですが、他の作物も、仕入れ先からの書類等でGM原料の混入が一切ないことを証明しなければならなくなりました。
このように、仕入れ書類等で証明・確認することを、検査・分析によって確認する「科学的検証」に対して、「社会的検証」といいます。
食用油などが表示免除されているのは、最終製品でDNAを検出できない、即ち「科学的検証ができない」ことを理由にしていますが、EUや台湾は、社会的検証で食用油などのGM表示を義務付けています。
日本でも、社会的検証で食用油などのGM表示を義務付けるという消費者団体の要求を、消費者庁は拒み続けてきました。
その消費者庁が、「遺伝子組み換えでない」表示については、社会的検証によって規制することを決めたのです。都合の良い時だけ社会的検証を使うダブルスタンダードではないか、とは思いますが、逆に考えれば、消費者庁も社会的検証を認めたということです。
私たちは「遺伝子組み換えでない」表示規制開始を控えた2月末に消費者庁と意見交換会を開催し、表示基準5%の引き下げとともに、社会的検証の取り入れによる食用油などの表示義務付けを要求しました。対する消費者庁の説明はかなり苦しいもので、4月6日の意見交換会で消費者庁は、消費者などの声を受けて検討することを約束しました。
改悪の流れを変えよう
「遺伝子組み換えでない」表示は、不十分な遺伝子組み換え表示を補ってきましたが、4月からの規制で、次々に消えてきています。
私たちの調査では、GM作物でないはずの国産原料でさえ、2月時点で4割もの会社が「遺伝子組み換えでない」表示をやめていました。ごくわずかの混入を恐れて、表示を自粛しているのです。私たちは遺伝子組み換え表示の基準量を5%から引き下げることによって、それ以下なら「遺伝子組み換えでない」表示を許容する以前の運用に戻すことを要求しています。
表示は消費者の知る権利、選ぶ権利を保証するものです。食用油などのGM原料を覆い隠すだけでなく、「遺伝子組み換えでない」表示まで制限する改悪の流れを、消費者の声で変えましょう。