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国と地方を「主従」関係に?問題だらけの「地方自治法改正案」

5月7日、地方自治法改正案が審議入りした。地方分権一括法(2000年施行)に定められた「国と地方は対等」を、根本から揺るがす法案だ。
同日、「徹底検証!これでいいのか地方自治法『改正案』」(LIN-Net=ローカルイニシアティブネットワーク主催)が衆議院議員会館で開催された。

▼国の判断ミスで混乱


主催者を代表して保坂展人世田谷区長は「今何が起きているのか共有したい。政治資金の不明な使い方が問題になっている陰でこの法律が3月1日、閣議決定されたことに危機感を持っている。地方の意見は聞くというが、現行でも沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題で民意が通らない実態があり、信用できない。国が大きく判断を誤る場合もある」と話した。
そして、国の判断ミスの事例として、「一番の失敗はコロナ禍での全国一斉休校」と指摘。国は1人も感染者が出ていない地域まで休校を指示し、多くの自治体に混乱を招いたと振り返った。さらに「至るところにPCR検査のテントが立った。民間や行政などで命を守るために知恵を出し合ったのだ。閣議決定で決めることではない」と訴えた。

▼むしろ自治体に権限を


元千葉県我孫子市長で中央学院大学の福嶋浩彦教授は「大規模災害や感染症など国民に重大な影響を及ぼす非常事態で、個別法に規定がなくても生命保護に必要な措置の実施を国が自治体に指示できるようにするとあるが、東日本大震災の時、東北の知事で国からの指示がほしいと言った人はいない。現行地方自治法で十分対応できる。現場を知らない国が指示を出すことは不適格。むしろ各権限を国から自治体に下ろして欲しいとの声はあった」と話した。
東京都三鷹市、小金井市の両市議会議員からは、本法案の慎重な議論を求める意見書を議会に提出したと報告された。主催したLIN-Netなど4団体から、この改正案は国と地方自治体との対等な関係を「主従」の関係に変えてしまう恐れがあるなどと、それぞれ訴えた。
今回狙われている改正は、憲法に緊急事態条項を書き込むという改憲案の先取りではないか。私たちはこの法案を絶対に成立させてはいけないと強く感じる集会だった。

                               (大塚 優子)

▼有事法制より歯止めなし


5月14日には、「地方自治法改正案に異議あり!」(改憲問題対策法律家6団体連絡会・総がかり行動実行委員会主催)が参議院議員会館で開催された。
田中隆弁護士(自由法曹団)が講演し、自民党憲法改正草案の緊急事態条項の先取りだと指摘。「しかし、有事法制は国会の承認を必要とし、国民の安全に重大な影響を及ぼす『おそれ』だけでは発出できない」という歯止めがあるが、この改正案には際限がないという。さらに、「有事法制」ですら自治体の役割は住民保護とし、戦争態勢への全面組み込みは考えておらず、発動するには国会承認が必要で、「指示」を出すには地方自治体との調整や意見聴取が義務化されている。しかしこの法案は、歯止めのない国の権力の行使につながる危険性がある。

▼立法事実なき改正案


まず、立法事実がない。「感染症蔓延、大規模災害、その他国民の安全に影響を及ぼす恐れのある事態」というが、コロナや災害時の混乱は国の「指示権」がなかったからではなく、日常的防災対策の不備や人的資源不足にある。救援・復興の主体は自治体で、国の役割は自治体のバックアップ。権限の委譲や財源・人的資源の保障にこそあると田中弁護士はいう。
指示権を拡大すると、①自治体が指示待ちになり対応が遅れる(自治体の責任放棄)、②精緻な法律があっても国の支持が優先する、③国は指示を出して終わり。あとは自治体任せ、となりかねない(国の責任放棄)。
指示権の拡大に際限がない。武力攻撃やテロ発生も、『おそれ』だけで担当大臣が必要と認めれば、閣議決定するだけ。国会審議なしで自治体への意見聴取は努力義務のまま「指示」ができるというのだ。
参加していた新垣邦男衆議院議員は「辺野古の基地反対運動のような自治体の抵抗をなくすための法律ではないか」と問題提起し、立憲民主党・共産党の国会議員からも「重要土地規制法で港湾などが指定を受けても断った自治体もある」とし、この法律で地元自治体の声を封じ込めることになるのではと反対の意見表明がされた。

日本が感染症や災害に弱くなってしまった最大の原因は、国がコロナ蔓延期に公的医療機関を統廃合し続けたことや、行革・民営化によって公務員を大きく削減したことだ(OECD諸国で最低)。
民主主義の砦ともいわれる地方自治体が、国の出先機関になるのか、抗う自治体が平和と民主主義を国政に反映させられるのか。私たちは、厳しい岐路に立っている。

                              (池田 万佐代)

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