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【マスコミ研究会・企画×文芸小説】   台場編①「君の光は海の色」 作:すばる

企画概要

 マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。

 スケジューリング企画では、「予定を立てるのが苦手」という悩みを解決すべく、事前に設定を考えた上で理想のスケジュールが実行可能か、体当たり取材を決行...! 
 一方の文芸分科会ではスケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基にオリジナルの物語を考えた。
 企画の内容は、フリーマガジン「ワセキチ」にて。(下にリンクを添付しております)
 
 今回、スケジュールが組まれた舞台は「新宿」と「台場」。それぞれの場所で、どんな物語が生まれるのだろうか。

人物設定・台場編

女子高育ち、恋愛経験も乏しい女子大の大学生。そんな彼女が大学生になりハマったのがメンズ地下アイドルだった。推しとのデートができる「特典」のためにお金を貯めた彼女は、一日だけの「疑似恋愛」を行なう。不器用ながら自分の「やりたいこと」を詰め込み、お台場でのデートプランを組む彼女。「仕事」としてデートに応じるメンズ地下アイドル。叶わない恋に夢を見て、美しい冬のお台場を散策する。

君の光は海の色 作:すばる

 なんで、私はこんなことをしているんだろう。
 十二月、夜、お台場。明るい海をイメージしたという青いイルミネーションの下には、穏やかに広がる黒い水面。
 隣を歩くその人をそっと横目で見る。そんなに背が高いわけじゃないけど、それでも私より頭一つ分高い身長、透けるような色素の薄い髪、くっきりした二重まぶたの奥の澄んだ目、そして、
 「どうしたの?結愛」
 少し掠れた低い声。
 他の女の人が見たら、羨ましさに悶絶しそうなこの状況。私は、今、生まれて初めて好きになった人とデートしている。
 私は、好きな人とデートしている。
 それなのに、他ならぬその事実が、こんなにも辛い。
 「別に……」
 自分のブーツのつま先を見つめながら、声を絞り出した。
 「ちょっと寒くて。それだけ」
 ああ、今日だけは、可愛い女の子でいようと思ったのに。可愛い女の子でいられると思ったのに。
 なんで私は、もっとうまくしゃべれないんだろう。
 
 恋愛、彼氏、デート。大学生になったら当たり前のようにみんなが経験していくことを、私は自分の力ではうまくこなせなかった。
 だから憧れた。ステージの上で輝く、絶対に手に入れられないものを。目の前の、彼という光を。
 そして、その彼が手に届くかもしれないと思った時、私は……。
 その時、彼がこちらへ手を伸ばしてきた。
 「大丈夫?」
 指先が髪に触れ、耳に触れ、すっと離れる。髪を耳に掛けられたのだと気が付く前に手を取られ、なすすべもなく私は彼につられて歩き出した。
 「せっかくだから、もうちょっと歩こうか」
 今日は楽しかったね。そう言って微笑む彼に、私は泣きたくなった。
 この日のために、張り切ってたくさん準備してきた。場所を調べて、服を新調して、髪を綺麗に巻いて。このイルミネーションを見に行こうと思ったのは、青色が彼のメンバーカラーだったから。すべてが計画通りに運んだ。会話も弾んでいたし、彼はずっと笑顔だった。私も、普通に恋ができる。普通の、可愛い女の子のように。

 でも、それは違ったのだ。私は見てしまった。
 予め調べてあったイタリアンレストランでテイクアウトを頼み、先に席を取っていた彼のところへ戻るとき。偶然、手元のスマホがメッセージトークを表示しているのを見てしまった。おそらく、彼のマネージャーさんだろう。
 ——そっちはどう?デート、ちゃんとやれてる?
 ——大丈夫だよ。
 大丈夫だよ。
 そう打ち込んでいた、冷たい無表情。機械的な動作。薄暗い瞳。ステージの上でも、私と話している間も、決して見せたことのない顔。
 ああ、これは、仕事なんだ。頭の中がすうっと冴えていく感じがした。そんな当たり前のことに、私は今まで、ずっと気づかないふりをしていた。
視界を埋め尽くす、青い光。明るい光。その下に広がる、黒い、黒い、静かな海。
 
 あの光には、決して手が届かない。手に入れることは、絶対にできない。
そして私にはその距離が、その遠さが、たまらなく心地良いのだ。
 「結愛」
 名前を呼ばれる。穏やかな、掠れた声。彼の声が、私を呼ぶ。
 「結愛、こっち見て」
 恐る恐る、顔を上げる。黒い、静かな目が私を見ている。
 「今日はありがとう」
 その瞬間の彼は、今まで私が見た中で一番遠くて、一番綺麗だった。

最後まで読んでくださった方へ

 ワセキチ掲載企画である「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」では、理想のスケジューリングが実行可能か、サークル員が体当たり取材。以下のリンク先ではその様子をレポート記事でまとめております。
 どんなスケジューリングを立てたか気になる方は、ぜひチェックを!