成人式の思い出、の話

 1月18日、これを投稿するちょうど1週間前が成人の日だ。  

 せっかくなので成人式の思い出でも書いてみようと思う。僕が住んでいる地域の成人式は、成人の日の前日に行われた。毎年のことなのかは知らないけれど、とりあえず僕の代ではそうだった。

 実は、僕は高校生の途中くらいで今の地域に引っ越してきている。本来なら成人式で集まるであろう「小学校・中学校の懐かしい面々」などがいるはずもない。成人式に行くつもりなど毛頭なかった。

 地元の友達はいないのだけれど運がいいのか悪いのか、同じ地域に高校、そして大学が同じ友人が一人だけいた。ふとした時にその子に誘われたのだ。誘われたからにはまあ、行くかとなった。なにせ人生で本当に一度きりのイベントだ。参加しないのも勿体ない気がした。

 そしてもう一つ理由があった。僕は引っ越しの際に住民票はそのままにしていて、なぜか成人の日の数ヶ月前になんとなく移しに行ったのだけれど、そのおかげで前に住んでいた地域から成人式の案内状が届いていたのである。当時の僕はこんなことを考えていた。

「ひょっとして、成人式に二回も出られちゃうんじゃないか?」

 今住んでいる地域では成人の日の前日、以前の地域では当日に成人式が行われることになっていた。愚かな20歳の僕は、その両方の成人式に出席したらめちゃくちゃ面白いな、などという浅はかな考えを持ってしまったのだ。名付けて「成人式二回出席大作戦」である。

 こうして愚かな僕は、知り合いは誘ってきた友人一人だけ、という成人式に出席することにしたのだった。もちろん、僕を待っていたのはアウェー過ぎる空間での地獄のような時間だ。

 当日に知ったのだけれど、この地域の成人式というのは受付や案内なども僕と同じ成人組が取り仕切っていた。当然、そんな係の人らも「久々に会う知り合いの輪」に含まれる。名簿と案内状の照会や座席への誘導など本来の仕事そっちのけで、皆かつての親交を懐かしむのであった。

 住民票を移しておらず、成人式の案内状は以前住んでいた地域からしか貰っていなかった僕は「案内状持っていないんですけど」と白状し、誰だコイツはという目線を浴びながらまっさらな白紙の名簿に名前をかかされ受付を突破した。

 誘ってきた知り合いといえば、そっちはそっちで知り合いを見つけており、なぜか僕はその面々と行動を共にすることになった。誘ってくれた手前気を遣わせるのも悪いので、僕はこの空間内の大気と同化することに全力を傾け、あとは式典の時間が光よりも早く過ぎ去ることを祈るのみだった…

 かのように思えた終盤、この式典は思わぬ展開を見せる。

「それではここで、ご来賓された当時の○○小学校の先生たちをご紹介します」

 湧きたつ会場、取り残される僕。なんと、地元の小学校の当時のクラス担任たちが来場していたのだった。名前を呼ばれ立ち上がる先生たち、その度に笑顔と拍手を見せる周りの人々、その一体となった空気に取り残される僕。全く恐ろしい世界だった。

 これ以上もう何事もなく終わってくれ、と思いながら虚無の拍手を送っていた僕を救うように、間も無く式典は終わりを告げた。しかし成人式の追撃は止まらない。

「引き続き、懇親会に参加される方は会場隣のホールにご移動ください」

 その瞬間、僕は隣に座っていた友人に一言「じゃあ俺これで帰るね」と言い荷物をまとめた。懇親会、要するに同窓会のようなものだろう。あまり人数の多い式ではなかったから、このまま「地元育ちしかいない前提」の半同窓会が開催されるのだ。式典だけならまだ良い。しかし同窓会となると話は別だ。誰とも話すことなく無限に長い時間を過ごすことになるのは目に見えていた。

 式典が行われた場所と懇親会の会場は一つの建物で繋がっていて、僕たちは列をなして会場へ向かわされた。出口は、二つをつなぐ廊下のちょうど真ん中を抜けたあたりにあった。友人への挨拶もそこそこにコッソリと列を向けた僕を引き止める声。

「会場はあちらですよ!」

 せめて他にかける言葉があったのではないだろうか。会場までは列ができていて、一本の廊下で続いているのだから迷うはずもない。第一、成人式が行われたホールを出れば、すぐに懇親会の会場も目に入るのだ。そんな状況下で「あれ、懇親会の会場はどこかな?」などと列を抜ける人がいるとどうして思ったのだろう。

「このあと用事があるんで帰るんです。ありがとうございます」

 これ以上は勘弁してくれ! そう思いながら精一杯の笑顔と共に逃げるようにその場を後にした。

 この時のことを思い出すと、今でもドッと疲れが襲ってくる。僕にとって成人式は軽いトラウマな思い出なのだ。ましてや当時の僕の疲労感は言うまでもない。遠く離れた「元・地元」の成人式に出る気力が残っているはずもなく、「成人式二回出席大作戦」も作戦のまま終わったのだった。

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