見出し画像

みんなまんが道を歩む 大志が花開かなかった私たち

4月7日、漫画家の藤子不二雄A先生が亡くなられたと一報が入りました。88歳と言う年齢と近年作品を発表されていなかったので大往生…と言っていいでしょう。同級生の藤子・F・不二雄先生が1996年62歳に亡くなられているのとは対照的です。

藤子不二雄は2人で1人。絶頂期だったのは昭和50年代から60年代でしょうか。「藤子不二雄ランド」なんて企画があった幸せな時代です。

藤子不二雄ランドは藤子不二雄の過去の作品を復刻した単行本が毎週金曜日に発売されるというもの。
開始当初は第一金曜日は海の王子、第二金曜日はドラえもん、第三金曜日は21えもん、第四金曜日はまんが道でした。

藤子不二雄Aの代表作である「まんが道」は藤子不二雄の自伝的作品で、戦後復興期の日本を生きた2人を描く立志伝。日本全国から東京へ人が急激に移動した時代に、2人の若者が仲間とともに成長していく。
読めば必ず漫画家になりたくなる。東京へ出て大志を抱きたくなる。そんな漫画。
A先生が亡くなられたことを伝える多くの報道が
「代表作は忍者ハットリくんや笑ゥせぇるすまん」
としていたことに
「いや、まんが道やろ」
と突っ込む人も多かったといいます。
それほどたくさんの人に影響を与えたということでしょう。

藤子不二雄ランドで連載されていた「春雷編」。名作。

物語の後半以降に舞台になるのは「トキワ荘」。東京都豊島区にあった木造2階建てのアパートに、手塚治虫や藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫などのちのスター漫画家が集います。読者は彼らが売れない頃をともに過ごす姿に興奮。同時に売れることなくまんが道から離脱する人も多く登場します。
そのリアリティがおそらくまんが道の、藤子不二雄A先生の最大の魅力です。

作中で最初に漫画を諦めた坂本三郎は、物語ではその後を描かれませんがアニメーターに転身。サンライズの「伝説巨神イデオン」「聖戦士ダンバイン」などで作画監督を務めています。そういえばドラえもんでイデオンをパロった「建設巨神イエオン」なんて登場しましたね。

藤子不二雄の人気キャラクター「ラーメン大好き小池さん」のモデルになった鈴木伸一もアニメーターになります。のちにトキワ荘メンバーで立ち上げたアニメーション制作会社「スタジオ・ゼロ」の中心として活躍。2022年4月現在まだご存命です。

強烈な個性を放っていた森安なおやは、仲間からの借金も払わずトキワ荘を出て職を転々とします。1981年にトキワ荘が取り壊される際に放映されたNHK特集「現代マンガ家立志伝」では主役的扱いで登場しています。

売れた仲間との対比で、貧乏暮らしの末に20年以上のブランクを経て出版社に漫画を持ち込みする姿は、当時少年前田の目には惨めにも見えました。誰もが知る売れっ子になったかつての友人と当て馬として扱われる自分を「コントラストの陰」とも取れる表現をする森安。
しかし、50を目前にした今思えば
僕は間違いなく、藤子不二雄の側ではなく森安の側なのです。

僕の人格に影響を与えてくれた、藤子不二雄A先生をはじめとするたくさんの漫画家に敬意を表するとともに、大志を抱くも花開くことのなかった多くの夢を次の世代へと押し付けるため、あと少しだけ僕もがんばろうと思います。

この記事が面白かった、同じような記事をまた読みたい、他にない素晴らしいものだと思っていただければサポートいただけると幸いです。取材費に使わせていただきよりオンリーワンな記事をお届けしやすくなります!