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天佑と言う名のカステラ

お土産をいただいた。大阪市西区新町にある「天佑」のカステラ。

家に持って帰ると、母が
「このお店おいしいらしいね」
と喜ぶ。母が喜んでくれると大変うれしい。

気になったので調べてみると、天佑さんは創業65年。ってことはですよ1954年(昭和29年)からあるわけです。うちの母は昭和26年生まれなので、母が3歳の頃からの営業されているということ。

うちの母は、子供の頃は日本各地を転々。出征してシベリアで抑留され、共産主義と結核を持って帰ってきた祖父と、学校の成績は悪いが秀麗な容姿で遊び回っていた祖母の長女として生まれました。戦後、日本が成長過程に入るまで、祖父母は各地を仕事を求めて転々とします。

小学6年生で伊賀上野から大阪に転校。しかし学校には馴染めず、中学からは機会を見てサボり、高校も行くつもりはなかったが親と先生に説得されてなんとか進学。18歳で造船会社に就職し、20歳で父と結婚すると21歳で私が生まれその後46年間、東大阪で生活しています。

祖母と違って、母は積極的に外に出る性格ではなく、外の世界との接点は子どもを通してのもの。都会文化に疎く、百貨店に行くことも稀で、趣味は子どもとファミコンをする。

そんな母でも知っている。それが天佑のカステラ。卵が濃厚で、舌触りもいい。知ってる味。知ってるけど、知ってる中で一番おいしい。

おいしいには2種類あります。
知っているレベルが高い味

経験したことがない味

間違いなく、天佑は前者。知っているけどレベルが高いカステラです。

味覚は相対的なもの。今まで食べてきたものとの対比で出来上がります。
おそらく、大阪人が新しいカステラを食べた際、比較の対象としてきた一方の軸の一つが天佑のカステラ。そんな想像が容易にできる、味とパッケージです。65年、軸であり続けた重みってすっごい。

天佑とは「天が与えた思いがけない幸運」という意味。とても控えめで、訪れる人達に気づきを与えてくれる店名。

こんな、大阪文化の基礎を贈ることができる人ってすごい。
まだまだ知らないことがたくさんあって、やらなきゃいけないことがたくさんある。
文化を作り、継承していく人たちを取材して残していきたい。

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前田寛文@週刊ひがしおおさかの編集長
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