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プレミアリーグのような「静寂から熱狂」と「リスペクト」溢れるブラインドサッカー
「日本のサポーターは試合中にプレー関係なくずっと応援をしていますよね?でも、こっちはプレーをジーッと見ていて、良いプレーとか良いシュートをした時だけ拍手して盛り上がる。あの雰囲気はたまらないですね。」
スポーツリーグの中で最も視聴者数の多いイングランドプレミアリーグや隣接するスコットランドプレミアリーグでプレーした日本人選手たちが語った言葉である。
その「静寂から熱狂」がブラインドサッカーにもある。
■ブラインドサッカーとは?
フットサル同様に、サッカーの約4分の1のピッチを使ってプレーされるブラインドサッカーでは、観客は声を出すことが禁止されている。
というのも、ブラインドという名の通り、フィールドプレーヤーたちは目の上にアイパッチをはり、アイマスクを着用してサッカーをする。つまり、フィールドプレーヤーたちは視界が遮られた状態でサッカーをしなければいけない。
そういった状況で、選手たちが頼りにするのが音である。
ブラインドサッカーは、転がるとシャカシャカと音が出る専用ボールを使用する。守備側の選手たちは、ゴールキーパーからの指示で動き、攻撃陣は攻撃側のゴール裏にいるガイド(コーチ)の声でゴールを目指す。また監督の指示や、サイドラインに置かれたフェンスとボールがぶつかる音でルーズボールを拾う。相手選手との距離感は、相手が衝突を避けるために発する「ボイ」(行くぞ)という声で図る。
■ブラインドサッカーの戦術とは?
戦術的には、ゴールキーパーからのリスタートとコーナーキックやフリーキックがポイントだ。
ゴールキーパーが相手ゴール付近のサイドフェンスにボールをスローし、そのぶつかった音でボールを拾い、フェンスと相手をスクリーンするようにフィジカルを武器にカットインをしてシュートを狙うパターン。このフェンスを使ったプレーは、ブラインドサッカーならではのプレーで、サッカーやフットサルよりフィジカルが全面に押し出される。日本のチームだとbuen cambio yokohamaのパワープレーは見応えがある。
もしくは、ゴールキーパーが近くの選手の足元にボールを渡し、そこからダブルタッチと足裏のドリブルでゴールを目指すテクニカルなパターンもある。日本のチームでは、Avanzareつくばの日本代表・川村怜が見事なダブルタッチと足裏のターンでボールを運んでいた。
フリーキックやコーナーキックは、ボールが自分の足元に入った状態で、相手ゴール近く、さらに角度などをイメージ出来た状態でリスタート出来るため、多くのチームが重宝していた。ショートコーナーを使い、ドリブルシュートを狙うことが多い。
いずれの戦術も音が重要になる。
そして、音を活かすため、観客には静寂が要求される。
■ブラインドサッカーを観に行ってみた
と、文字で書き起こすと、理屈は分かる。観客が静かにすれば、音を頼りにプレー出来そうな気がする。
が、実際のプレーを見ると、机上の空論にしか思えなくなってくる。
我々メディアは、サイドラインにあるフェンスの外での観戦を許され、ほぼプレーヤーと変わらない距離で音と接せれる。
しかし、近距離にいてもボールの音はほとんど聞こえない。聞こえたとしても、味方がどこにいるか声だけでイメージするのは至難の業である。
ゆえに、「どうしてパスが繋がるのだろう?」と不思議に思う。さらにいえば、「何であのスピードで走れるのだろう?」とも思う。そんな中で、
パスが足元に繋がった時―
ダブルタッチを活かしたスピードあるドリブルでシュートが放たれた時―
静かにしていなければいけないと頭ではわかっていながらも、思わずプレーへの感嘆の声が漏れてしまう。
そして、「静寂から熱狂」が生まれる。
ブラインドサッカーの会場は、まるでイングランドプレミアリーグのような雰囲気だ。
だからだろう。7月23日にアミノバイタルフィールドにて行われた第16回アクサブレイブカップブラインドサッカー日本選手権FINALラウンドでは有料席の指定席チケット204枚は事前完売。自由席チケットは当日販売分も含め328枚が売れ、無料観戦も含めると1,189人もの観客が詰めかけた。
■サッカーが失っているモノがブラインドサッカーにはある
Avanzareつくば×buen cambio yokohamaの三位決定戦の途中から、屋根のない会場に雨が降り始める。止みそうにもない雨で濡れようとも、詰めかけた1,189人は帰ろうとしなかった。
この後に行われるたまハッサーズ×埼玉T.Wingsの決勝戦を見るためである。
その観客の期待通り、両チームは立ちあがりからアクセル全開だった。
2分、埼玉T.Wingsの菊島宙が45度から強烈なシュートを放つと、11分には日本代表最年長キャリアのたまハッサーズの黒田智成がFKからダブルタッチを駆使した華麗なドリブルシュートで先制点を奪う。
先制点が生まれたことで試合も落ち着き、一進一退の攻防に。
そして、後半。ピッチを「熱狂」が支配する。
後半11分、埼玉T.Wingsの加藤健人の強烈なシュートがポストに当たると、12分にも埼玉T.Wingsの菊島が立て続けにシュートを放ち、イケイケの空気が生まれる。会場は菊島に期待する空気が出来上がり、菊島のプレー後には拍手が起こる。
一方のたまハッサーズも17分に田中章仁がドリブルからチャンスを作るが、シュートはわずかにゴールを捉えられず。
試合時間残り2分。埼玉T.Wingsはショートコーナーから加藤のクロスを菊島がダイレクトで合わせるという見事なサインプレーをみせるが、シュートは枠の外に。まるで糸のようなパスがつながったことで、会場の「熱狂」は最高潮に。実況もつられ、審判員から「プレーが完全に切れるまではアナウンスを控えてほしい。選手たちに音が届かないとプレーし辛い」と注意されたくらいだ。
残り90秒、埼玉T.Wingsが再びコーナーキックを獲得する。先ほどと同様のショートコーナーからグラウンダーのクロスを菊島がダイレクトで合わせるが、シュートはわずかに枠を逸れてしまう。それでも菊島は諦めない。アグレッシブに動き続け、残り40秒でファウルを誘発し、FKを得る。が、加藤のシュートは枠を外れ、1-0でたまハッサーズが優勝を手にした。
プレーのレベルも高く、黒田のようなベテランや菊島のようなスター候補もいる。会場の雰囲気も日常を忘れさせてくれた。
それに加え、ブラインドサッカーには『清々しさ』がある。
サッカー界では、審判員や相手への罵詈雑言が散見している。応援するチームに肩入れするあまりなのだろうが、誹謗中傷は周囲の人たちを嫌な気持ちにもさせるし、プレーへのバイアスもかけてしまう。
そういったネガティヴな声が、ブラインドサッカーにはまったくない。
たとえば、審判員との関係だが、ブラインドサッカーの選手たちは審判員に全てを委ねている。選手交代があれば、審判員に自分が付きたいポジションを伝え、誘導してもらう。ボールが静止し、音が出なくなれば、審判員がボールを動かし、音で選手たちに伝える。
選手たちは審判員を必要としており、レフェリーの語源通り『refer』している。選手は委ね、審判員は介入する。もちろん、「押されているよ!ファウルでしょう」と一瞬のエキサイトはある。しかし、その一瞬以降は引きずらない。対立関係にはならないのだ。互いに良い試合を作る仲間という認識がある。
ブラインドサッカーは、勝利を欲するだけではなく、プレーへの熱狂、相手や審判員へのリスペクトが柱になっている。だからこそ、会場に多くの観客が足を運ぶのであろう。(sports.nhk.or.jp/paralympicより)