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吉田の視点(特別編)
「タカシに ...よろしく」
それが、その日お客様が口にした唯一の言葉でした。
・・・
曇り空の五泉市でした。
施設の玄関から現れたお客様の表情は堅く、無表情。娘さん達が「久しぶり」と話しかけても返事をしません。私もご挨拶をしましたが、やはり同じでした。様子がおかしいと感じたのでしょうか、ご家族の皆さんも不安な表情になります。
車内でも懸命に話しかける娘さんでしたが、お母さまは変わらず視線すら動きません。
「もう分からなくなったのかな...」諦めの言葉が漏れます。
コロナ禍で、気にかけている気持ちすら伝えることができず、長い時間が経ってしまう。これまでも同じような状況を何回も目にしてきました。
病院内では緊張が解け、家族との会話ができるかもしれない。そう願いながらお送りしましたが、帰りの道中でも様子は変わっていませんでした。久しぶりの再会はもうすぐ終わってしまいます。
施設前に到着して、車椅子に掛けた固定装置を外しているときです。かがんだ私の直ぐ上で、小さく声がしました。
「タカシに …よろしく」 はっと見上げると、お客様の視線がこちらを捉えています。
「タカシさんに!タカシさんに宜しくと言ってます!!!」慌てて外にいたご家族様に伝えると、みなさん驚いた表情で
「喋ってくれたんだ、タカシのこと覚えてるんだぁ…」と涙を流して喜んでいました。その光景を見て、私も泣いてしまいました。
私たちが日々の業務の中で見かける一場面は、誰かの物語の一端です。通院に向かうたった10分でも、人々の喜怒哀楽が詰まっています。その大切な時間に寄り添えるよう、これからも何が出来るか考え続けていきます。
体験 ケアドライバー吉田和美