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掛詞は美しきダジャレ ~これぞヤマトの粋~

山口県下関市にある長府ちょうふの街を歩きました。
ここは高杉晋作が奇兵隊きへいたいを結成した地で、
毛利藩の城下町の風情が残っています。

街の中心にあるのが忌宮いみのみや神社。
創建は西暦193年と書いてあります。

下関・壇之浦だんのうらでの源平合戦が1180年代。
そう考えると、
長府の歴史の深みがうかがい知れます。


忌宮神社から続く小径こみちを歩くと、
乃木神社があります。
ここには乃木希典のぎまれすけ将軍が祀られています。

乃木希典は江戸で生まれ、
少年時代に長府に移り住み、萩で学びます。
幼い頃は、
泣き虫でいじめられっ子だったようです。

乃木希典と言えば、
やはり明治天皇への忠誠です。

夏目漱石の大作『こころ』では、
物語のテーマに関わる
とても大事なところで登場します。

乃木希典は、
明治天皇の大葬の日、
静子夫人と自害しました。

『こころ』の主人公は、
このニュースに大きな衝撃を受け、
自分も明治の精神に殉死するのだとして、
自殺を決意するのです。


明治とは、日本にとって近代化の時代でした。

夏目漱石は、
文明開化とともに
日本人の精神も変わっていくことに
違和感と危機感を覚えました。
エゴイズムの顕在化です。

『こころ』の主人公は、
親友が思いを寄せていた女性を奪います。
親友が自殺したのはその直後でした。
エゴイズムの罪悪感に苛まれた主人公は、
乃木希典の殉死に触発されるのです。

明治の精神、、、
彼らはそこにどんな世界を見たのでしょう。

そんなことを思い浮かべながら
乃木神社の奥に進むと、
乃木希典の旧家が残っていて、
軒裏に小さなほこらと出会いました。

見ると、
「石神社(別名・意思神社)」
と書かれています。

「石」と「意思」、お見事な掛詞かけことばですね。

近くには「さざれ石」が祀ってあります。

「さざれ石」とは、
「君が代」でもお馴染みの小さな石のことで、
極めて長い年月をかけて
大きないわおになるとされています。

たった31文字で感動を詠み上げる和歌では、
掛詞はとても大切な表現技法です。
ダジャレと言ってしまえばそれまでですが、
和歌の世界に入り込むと、
深みのある比喩にもなり得るわけです。


さて、ご存じ、
高杉晋作が上の句を詠んだとされる和歌です。

おもしろきこともなき世をおもしろく 
住みなすものは心なりけり

(面白くない世の中において、面白く生きるようにするのは自分の心次第なのだなあ)

「世」と「心」が、
ちゃんと詠み込まれていますね。
『源氏物語』の和歌みたいです。

この歌を引かせてもらって、私の一句。

おもしろきこともなき世のさざれいし
 いわおとなすは心なりけり

小さなのような意思であっても、
抱き続け行動し続けると、
いつしか心強い仲間が現れて
巌のような大きく強い運動体になってゆくのだ、
という心を詠んでみました。

その時、
神社の屋根に留まっていた鳩たちが一斉に、
冬の青空に向かって飛び立っていきました。

乃木将軍の苦笑いがふっと浮かび、
まもなくして、
関門海峡からの風に溶けていきました。


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