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VR演出についてかんがえてみた|前編:没入と主体と破壊の話

「VR演出」について、さまざまな方法でVR演出を手掛ける方々とざっくばらんにお話をしました。

メンバーは
サンリオバーチャルフェスのB4で去年に引き続き圧倒的なパフォーマンスを見せたキヌさんとそのエンジニアリングを担当したtanittaさん、
スケールの大きな“旅”のような体験を提供したBeyond a bitのEstyOctoberさん、AyanoTFTさん、Yuki Hataさん、
アーティスト・TORIENAさんのパーティクルライブ演出を担当した三日坊主さん、ちゅーたなさん、
サンリオバーチャルフェスのバーチャルパレード「Musical Treasure Hunt」のディレクション・演出を担当した0b4k3さん、fotflaさん、
VR演劇「Typeman」でVRサウンドエンジニアを担当したらくとあいすさん。

セコンドとして、VRChatワールド探索部のタカオミさん、phi16さんが参加します。

今回は、前・後編に分けてお届けします。
前編では、サンリオバーチャルフェスB4を軸として没入をもたらすポイントや主体の取り扱いなどについておはなししました。

なお、本記事は主に「ソーシャルVRでVR機器を使用して経験したこと」をもとに議論しています。故に、本記事で触れるVRも主にソーシャルVRでの体験を指しています。また、VR機器を使用した体験全般を「VR」と表記しています。(2023年1月28日収録)

左からfotfla、0b4k3、らくとあいす、AyanoTFT、三日坊主、phi16、ちゅーたな、キヌ、tanitta(キヌさんに抱きかかえられている)、EstyOctober、タカオミ、Yuki Hata(敬称略)

phi16
みなさん今回は集まっていただきありがとうございます。この回の目的は、まずサンリオバーチャルフェスのB4が色々面白かったというのはあるんですけど、それについて振り返るだけの会というよりは「これからのVR演出」について考える機会にできたら良いなと思っています。

今回は前半と後半に分けてお話しできればと思います。
前半ではこれまでの振り返りをしたいのですが、自分のつくった作品を解説するのではなく他の人の作品の「こういうポイントが面白かった・よくなかった」みたいな話ができたらいいなと思っています。そこから、要点を整理できたらいいなと。

後半では「これからこんな作品見てみたいよね」「こんなのあり得ないけど面白そうじゃない?」とか未来の話ができたらいいなと考えています。

今見えているVR演出の領域では、想像で「これくらいの領域があるんじゃないか」というラインがあると思うんですけど、今回みんなで話をすることによってその想像のラインを超える領域を見つけて、今後やっていくことを引っ張り上げるような機会になれば良いなと思っています。

EstyOctober
なんか“Beyond a bit”な感じでいいですね

phi16
そうですね。
今回の話の注意事項としては、基本的には「言葉の定義」はしないことです。
言葉を使ってもいいんですけど、どういう意味で使っているかは明確にしないといけない。例えば「ライブ性ってなんですか」のようなことを誰かが言い出したら「あなたはライブについて何を考えているんですか」と問うべきで。自分が発した言葉の意味を明確にできないと話が成立しませんから。
後は、「言わない方が良いこと」は言わない、というところですかね(笑)

「没入開始」と「視野」について

phi16
最初はおおよそひとりずつ、これまでに観たVR演出の中で面白かったものを聞いていっていこうと思います。
そこで「VR演出として大きいと思った要素」とか「大きくはないけど大切だと思った要素」なんかを聞いていければと思います。

三日坊主
それは「VRならでは」っぽいことですか?それともそれに限らない方がいいですか?

phi16
VR演出は「VR」と「演出」に分かれている感がありますけど、「VR」に限ったら「演出」の話ができなくなるので、VRに限らなくてもいいかな。

タカオミ
一旦は色々なものをテーブルに出してみる、というのが良いかなと。

phi16
じゃあ、坊主さんどうぞ。

三日坊主
え(笑)
……VR演出。サンリオバーチャルフェスのB4のキヌさんの演出で、最初に電話がなって、そこから音が出てきて、というように音とグラフィックが一緒に移動して......みんながそれを追っていると、キヌさんがバーンと出てくるというのが印象に残ってますね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

phi16
「視線誘導」って話になるのかな?
音もまた「こっちを見てください」という意味合いの演出ですよね。

三日坊主
そうですね。「音も含めての視線誘導」って感じですね。

phi16
音は指向性があるので視線誘導は十分できますよね。

tanitta
音の方が視線誘導しやすい、ということすらありますよね。

phi16
例えば後ろで鳴っているものは見えないから見ちゃいますよね。

tanitta
クロスモーダル感ある。

三日坊主
なるほど。音の方が誘導しやすい。

phi16
そちらでめちゃくちゃメモを書いてるAyanoTFTさんはどうでしょうか?

AyanoTFT
坊主さんの話と被るところもあると思うんですけど「没入する瞬間」みたいなのがあると思っていて。
B4で言えばTORIENAさんのDEKAENAちゃんが入ってくる瞬間だし、キヌさんのだと雷が落ちるみたいな感じでキヌさんが出てくるシーンであったり。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.
©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

パレードは「ここだ」という没入ポイントは設けられていないように思いましたけど、最初のピンク色の部分は画面が一気に派手になって「パレードがはじまるぞ」ってなる瞬間だったので、そうだと言えるかもしれません。

Beyond a bitの没入ポイントはすごく弱めでゆっくりやっているような感じですが、花がステージ上ではなくて自分の横に生えてくるところがそのタイミングなのかなと思っていて。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.
Beyond a bitは2023年3月23日にワールドとしても公開された。起動リンクはこちら(©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.)

phi16
Beyond a bitは、いつの間にか入っていたみたいな感じはありましたよね。

AyanoTFT
インタラクションとは別に「VRならでは」と言われるものとして「没入感」があると思っていて、そういう「没入感」がもたらされるタイミングがないと、ゲームの画面を見ているような第三者の視点のまま進行するような感じが個人的にあって。

B4ではどのパフォーマンスも「没入感」がもたらされるタイミングみたいなものがあったのかなと思っています。境界を壊して没入させてくるような感じですね。それがあることによって、現実と同じように感じることができるようになるというか。ちょっと言葉にするのが難しいですが。

phi16
「映像」から「体験」になるみたいな。

AyanoTFT
そうですね。それが合ってると思います。

キヌ
「安全地帯はないんだぞ」っていう感じだよね。

tanitta
安全地帯なかったね(笑)

phi16
「安全地帯がない」は良い表現ですね。

AyanoTFT
パレードは「樹が迫ってくる」という没入ポイントもありますよね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

phi16
あれめっちゃ良いよね。

キヌ
あれめっちゃ良かった。

AyanoTFT
没入ポイントは瞬間的だったり、ゆっくりだったり色々なあり方があったと思っていて。

パレードとBeyond a bitはゆっくりで、TORIENAさんとキヌさんのは瞬間だったのかなと思っているんですけど、手法自体はどっちでもよくて。
そういう「境界を壊すギミック」みたいなものがあると、その時点から観客が演出に飲み込まれていって「すごい良い体験だったね」と最終的に感じるのではないかみたいなことを思いました。

つくってる時はそういうことを意識してなかったんですけど、終わってみてそうだと感じるようになりましたね。

EstyOctober
Beyond a bitで言うと、花が最初に咲いてくる部分などは「観客に何を求めるか」で設計した部分ではあるんですよね。

VR演出という観点で見ると、VRの「360度見える」という素朴な特性に対して、私は「お前らは360度色々なところを見なくてはならんのだ」という事を「序盤で教える」コンテンツのつくり方をしたんですよね。

そのために最初は花が散って、周辺に花が増えていき、次のステップで横にも後ろにも花が生えて...
これは「君らは周囲を観なきゃいけない」と伝えるもので、さらに上にも花を咲かせて「上を見てね」というある種の誘導を行っているんです。それによって「自ら首を振って見る」という鑑賞スタイルに切り替えてもらう教育ターンみたいなものを最初に設けたんですよね。

三日坊主
キヌさんの最初のステージ移動もそういう要素が入っている気がする。

EstyOctober
そういう「観客に何をしてほしいのか」みたいなところを序盤に伝えるというのは、ゲームとかでもよくありますよね。そうやって「観客に何をさせるか」を考えられるのは面白いところですよね。

三日坊主
「チュートリアル」ですね。

EstyOctober
そうそう。

AyanoTFT
視線誘導のチュートリアルみたいな感じってことですかね?

EstyOctober
視線誘導だけではないと思いますね。

phi16
視線誘導によって「これから視線を移動していいんだ」ということを伝える、ということですね。

EstyOctober
普通のライブは真正面を見るだけですからね。

tanitta
視線の動かし方の作法も作品によって違いがありますからね。そういう自由度がある作品なんだぞ、ということを伝えるためのチュートリアルということですね。

phi16
確かに今回のB4のパフォーマンスは全体的にそうした視線を動かす自由度がありますよね。
一方で、TORIENAさんのはステージがメインだったような。

ちゅーたな
TORIENAさんのは最初にでかいDEKAENAちゃんを登場させて、視線を中心からちょっと上空にあげているんですよね。そうすると全体が使いやすくなる、というのは意識していました。そうすることによって、ステージだけではなくて、ステージから発生したものとかも使いやすくなるんです。

三日坊主
破片の動きとかね。

phi16
なるほど。なら観客に「視野を広く取ってほしい」というのはどの作品も意識していた、ということになるかな。

「導入からの展開」と「全部見たい感」について

ちゅーたな
memexはこれまで触れたのと比較すると、空間を広く使う導入ではないと思うんですけど、シンボルと声だけで没入感を感じられたので「アーティスト」としてさすがだなと思いました。

EstyOctober
確かにシンボルに注目してもらうところからスタートするスタイルはかっこよかったですね。

phi16
memexはかっこいいからなー。

tanitta
Beyond a bitの宝箱もそういうニュアンスなんですか?

EstyOctober
シンボルほど分かりやすいものではないですが、ひとつの起点にはなっていましたね。

三日坊主
キヌさんの電話もそういうシンボルですよね。

phi16
ものがあると目で追いますからね。
目で追いたくなるようにするというのも大事なんでしょうね。

tanitta
最初のシンボルが具象か抽象かで導入の手触りが若干違うのはあるかなと思いました。宝箱とか電話とかは存在感があるから、自分にすごく近い感じがあってそっちの方が没入性が高いような気がしたかな。

phi16
確かに。

キヌ
そういうシンボルは「キャリブレーション」のような役割もあるかもしれないですね。具象的なものを使ってここを見てもらいたいと示したり、ふわっとこのあたりを見てねと示したり、初期状態を整えるみたいな感じですかね。
スタート地点をある程度絞り込んだ上で、そこからどういう誘導をしていくか、範囲を決めていくみたいな。

phi16
そうですね。ものがあると、そこが起点になっちゃうからね。
逆に言えば、ものがあるとその場所以外からは演出を出しにくくなりますよね。
例えば、今回のB4のmemexの演出では唐突に巨大メガホンを出したと思うんですけど、あれが出るまではなかなかひとつに集中させたくなかった、みたいなところもありそうです。

EstyOctober
そういう意味では、memexは最初は集中する先がないというスタイルだったんですね。
Beyond a bitは途中から集中する先がなくなるというスタイルなんですが、それは「どこを見ればいいか分からなくするスタイル」というんですかね。

キヌ
Beyond a bitは長い時間をかけて視野をふわーっと広げていくみたいな感じだったので、広がりを大きくしているのかなと思った。

EstyOctober
見なきゃいけない先をどんどん広げていくという感じでしたね。「どこを見ればいいかわからんぜ」というくらいものを置くという感じですね。

キヌ
全部を見れなくて残念という気持ちじゃなくて、そういうものなんだと受け入れられる感じがありましたよね。

EstyOctober
パフォーマンスを見終わった後に思ってほしい感想として「また見たい」と思ってもらうためには「見切れなかった」「気付かなかった」は必要なんじゃないかという意識があったんですよね。

phi16
リアルのコンテンツもだいたい見切れないですよね。

キヌ
分かる。

タカオミ
見切れてると思ってるかもしれないけど。

phi16
現実だと逆に諦めがつきますよね。リアルのピューロランドとかは真ん中に樹があるので、樹の裏側は絶対見えないじゃないですか。でも、なんか諦めがつく感じがある。全部というのを認識できる人はそんなに多くない気がしますね。つまり、見えている範囲で絵として成立しているというか……

うーん、見えないものって想像しないじゃないですか、できないというよりしないと思うので。なのでまず目に入るもので情報量が十分圧縮されていて余白がなければ、それ以上は思考を巡らせない気がします。

キヌ
「外があるんですよ」ということを示すのは結構考えるけどな。

phi16
それも分かります。なんか、うーん……
ちょっと気にはなる、認識はしているけど見に行かないくらいのニュアンスですかね。

AyanoTFT
それもゲームか現実かの線引きがあると思っていて。
ゲームだと再生・停止したり戻ったりできるけど、リアルでは当然できない。なので、ゲーム・ビデオと思っていると「全部見たい感」が強くなると思っていて、リアルに寄っていると「全部は当然観れないよね」という認識になるかもしれないなと思いました。
つまり、十分に没入していると全部見たい感はちょっと減るというか、全部観れなくて当然だよねという感覚になるというか……

phi16
没入が成立したら「見たい」という感情は成立しないかもしれないですね。
没入しているってことは世界に「居る」ので、「見る・見ない」ではない。

EstyOctober
そもそも「全部見たい感」がよくわかってないかもしれないです。
目の前で起きている演出をすべてを見たいなんて欲求を持ちながら見るとかあるんですか?

キヌ
例えば、とあるバンドが演奏していて、ギタリストの方を見てたら、その間にベーシストがめっちゃ良いパフォーマンスしてて、うおーって盛り上がっていて、そっちの方を見逃したみたいな感じですかね。

EstyOctober
なるほど。「明らかに価値があることを見逃した」という感覚は分かります。
ただ、単純に全部見たいという形の要求を持つことはないんじゃないかという感覚があるんですよね。

キヌ
今自分が見たと思っているものがすべてではない、まだもっと価値があるんだという感覚、信頼感というのかな。

EstyOctober
RPGのダンジョンで言うなら「ここに行ったらもっと綺麗な景色が見れそう」という期待感とかは、「明らかに価値がある」という感覚なんじゃないかなと思うんですよね。「隅々まで歩きたい」という感覚より。

三日坊主
それも全部見ないとあるかどうか分からないという気持ちになりませんか?

EstyOctober
「結局隅々まで歩かなきゃいけないのかめんどくさいな」と思いながら、とりあえず景色見たいから歩くみたいな感じなんですけど……

phi16
そこまでいくには作品への信頼がだいぶ必要ですよね。

EstyOctober
必要ですね。誰にも気付かれないところに何かあっても、全体として興味を引かなかったら、存在しないも同然みたいな。

キヌ
信頼感は大事だよね。身を任せて良いんだって思わせないといけない。

三日坊主
そこでチュートリアルが大事だなって思いました。

ちゅーたな
「他のものを切り捨てている状態」を「没入している状態」だとすると、パフォーマンスを見て「すごいよかった」「めっちゃ楽しかった」って思った時に「これだけ良い体験をしたのなら、まだ見てない良い部分が他にもあるだろうな」となって「また観たい!」と思うんですかね。
「ギターソロがめっちゃ良かった時に、その時のドラムとかの動きを見たい」みたいな。

そのように裏で何が起きていたかを見たいと思うことがあるので、おそらくすごく良い体験をした時には周りが見えていなくて、その体験を終えた後に見えていなかったものが見たくなる、ということが多いんじゃないかなと思いました。

phi16
良い体験が得られたらそこで信頼が成立しますからね。

ちゅーたな
そこで信頼感を得たら、ダンジョンの全体を探りたいみたいになっていきますよね。

「主体」と「人の反応」について

タカオミ
少し「主体」の話をしようと思うんですけど。TORIENAさんもBeyond a bitもキヌさんも、それぞれ演出の主体の取り扱い方が違ったなと感じていて。

Beyond a bitは主体が存在しないですよね。みんな言っていましたが、空間というもののメディアの強さを感じた体験でした。僕は前の方でステージを見ていたんですけど、客席側に花が咲いた時に後ろにいるお客さんが何か言っているのが聞こえて、その演出に気づくという経験をしたんです。
「人の反応によって後ろで起こっていることを知る」というのは、映像というメディアでは絶対できないことなので、VR演出、空間演出という意味では非常に重要な要素なのではないかなと感じました。

逆にTORIENAさんはDEKAENAちゃんのように主体を大きくするみたいなことを感じました。

その中でも僕が面白いと思ったのはキヌさんです。
キヌさんって空間全体を使った演出をつくってるのに、実はみんなキヌさんしか見ていない、というところも結構あると思っていて。それはキヌさんの楽曲の力もあると思うんですけど、キヌさんは空間での演出をつくりつつ自分に視線がくるようにしているのか、結果的にそうなっているのかが気になります。

キヌ
両方と言えば両方かな。
基本的には、ライブでアーティストがステージに上って、がーんと音を鳴らした瞬間に会場全部を掌握して、みんなその世界に飲み込まれる、っていう感じを意識してます。なので、結果的に私が中心になるというのは当然そうなる気がする。

その上で、「大体このあたりを見ていたらいい感じになる」と思えるようにはつくってます。
空間全体で演出をつくる以上は、私の方を向いていたら見えないところも当然発生する。例えば、何か通り抜けていくとか、前後左右から何かが出てくるとか。そのときは、見ていない方向でもなにかが起きているぞとは思わせつつ、見ている部分から予測できるようにして、別にそっちを見なくてもいいようにする、ということはやっていて。だから、意図的に私の方に視線が集まるようにつくっているとは思う。

タカオミ
なるほど。全体を通してお客さんがどこを見るべきかというのがなんとなく分かるようになっている。誘導なのかは分からないですけど。

Yuki Hata
キヌさんが演出の変化の合図を出しているような印象を受けましたけどね。

phi16
確かに。そういえば今回は動きを大きく感じられた印象がありました。
前から動きが入っていたような気もしなくもないんだけど、今回はエフェクトの効果もあってか、キヌさんからデカデカと物事を起こすという力を出してたように見えました。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

キヌ
それはめっちゃ意識してます。
『バーチャルYoutuberのいのち』の演出は、アルテマ音楽祭の原型から今の形にアップデートした時にそういう動きをかなり意識していて。
「私が世界に干渉している」ことを感じさせたいという想いがあって「体の動きに合わせて演出する」要素を入れるようになりました。体にくっついてくるエフェクトじゃなくても、何かが起こるタイミングで何かやる、ということはやってる。

アニメでも指パッチンしたら何か起こるというのはあると思うけど、ああいう感じの「私がやってますよ」という感じを出そうとはしている。

phi16
今回はそれが強く見えましたね。

EstyOctober
タカオミさんが「人の反応で周囲に起きていることを知る」って言っていたのは、私もそうした反応があったこと自体は知っていて、めっちゃ喜んではいたんですけど、演出という意味でも面白いなと今の話を聞いていて思いました。

VRで演出する時に、VR演出はそもそもコンピュータグラフィックスなので、いわゆるインタラクティブアート的な路線は普通に選択肢として存在するわけですよね。でも、「ライブ中に効果的なインタラクションってなんやねん」という事に対してイマイチ良い答えを持っていなかったので、ちょっと考えただけで最初から捨てたんですよね。

でも、あの花の咲き方に対しては「みんなの反応」という反応があって「何かに気付けるというある種のインタラクション」が起きてたんだなという意味で、めっちゃ面白いわーって思いました。VRでみんながいるからこそ可能な演出という意味でめっちゃ面白いことになってたんやと今更ながら思いました。

タカオミ
あれは、めっちゃ面白かったですね。

EstyOctober
私がこう語ろうかなと思っていたことに近いものがあります。

キヌ
たくさんお客さんがいるからこそ嬉しいよね。

EstyOctober
私はサンリオバーチャルフェスについて最初は「音楽フェス」と認識していて、一生懸命考えていました。それに対して紆余曲折があったわけですけど、最終的につくったものは音楽フェスで出すものかって言うと、怪しいラインに踏み込んでいると思うんですよね。
でもそれが音楽フェスに合わないものかっていうと違うと思っています。

考え方として、サンリオバーチャルフェスは「なんのフェスなのか」という認識を広げていい世界に入っているんじゃないかと思っていて。

音楽フェスの大きな価値って、単に音楽を聴くだけじゃなくて「みんなが同じ場所に同じ時間にいて、みんなで一緒に何かを感じる」という体験ができることだと思うんですよね。それをやるために音楽を楽しんだり、アイドルを応援するという以外の道もたくさんあるんだということが、「みんなが気軽に集まれる」というVRの特性を利用して色々試せる世界になっている。それは世の中の流れ的に「メタバース」というか「VRSNS」というみんなが手軽に集まれる空間ができたことで生まれた、新しいひとつのものの観方なんだろうなと思っているんですよね。

普通インタラクションというとUI的なインタラクションとして「ものを操作するところ」が安直に出てくると思うんですけど、そうではなくて「人の反応そのものを見ながら自分の動きを変えることができる」というのはひとつの演出のあり方に繋がるんだなって思いましたね。

phi16
その通りですね。
インタラクションはもっと広いと私も思っていて。

EstyOctober
広くあって欲しいという願望はあっても、私は具体例は思いつかなかったんですね。
でも、タカオミさんのおかげで、ひとつの具体例として認識できて良かったなと思いますね。

その観点で言うと、私はTORIENAさんのやつがよかったなと思ったのがあって。
肉が周りに降ってくるやつがあると思うんですけど、私は最初は「なんで肉が」とか「肉好きなのかな」と雑な感想で終わっていたんですけど……
sabakichiさんが「みんなお前らは肉なのだ」という感じのツイートをしていたのを見て「あれそんな良いやつだったんだ~」って感動して。

普通に演出をつくると「観客に何を感じてほしいか」を一生懸命考えるわけですけど、TORIENAさんのは「観客に何であってほしいのか」を押し付けてくるみたいな、観客のあり方について「こうあれよ」って伝えてくるのは結構面白いなと思うんですよね。

三日坊主
ひとつ言っておくと、「お前たちが肉なんだ」というよりは「みんな肉なんだ」ってイメージですかね!

ちゅーたな
攻撃的な意味というより悟り的な意味で。みんなお肉だと思えば周りから何言われても気にならなくなるので、自分は自分のことをやろうという吹っ切れた曲と理解してます。
お肉はPVでも登場するモチーフなので使ったというのもあるんですけど、お肉を踊らせることで「一緒に首を振ると楽しいよ!」ということを伝えたかったのです。

三日坊主
示す存在としてね。
あと、TORIENAさんの主体がでかいという話がありましたけど、DEKAENAちゃんはTORIENAさんじゃないというイメージです……TORIENAさんという存在はステージにいるから。

タカオミ
それはちょっと疑問でした。
DEKAENAちゃんは壁を壊してるから世界に干渉してる。だから、実体があるのかなと思って。そうなると、ステージに立っているTORIENAさんは実体じゃないのかなって思っていたんですけど、さらにSUBENAちゃんが出てきたからそういうことは考えずに楽しもう!という気持ちになりました(笑)

ちゅーたな
実はあれは色々なTORIENAさんが共存する内部空間でして、曲をつくるTORIENAさんと曲そのものであるDEKAENAちゃんと……それとSUBENAちゃんのような観客として純粋に楽しんでる存在は共存しうるだろうと思ってつくってました。

僕らはTORIENAさんのことをよく知らない人にもいろんなTORIENAさんを紹介したかったんです。曲名通り大きく破壊もしつつ、一方でB4でやることにも意味を持たせたいと思っていたので。会場全部は壊さず、壊れたB4を残したまま盛りだくさんに詰め込みました。
そうすると結構主張が激しいというか、捉え方は皆に委ねるような感じになりましたね(笑)

「破壊・分解・再構築」について

三日坊主
破壊の話に繋がるんですけど、キヌさんが最後に破壊しつつもつくり上げるというか再構成するみたいな演出はめっちゃいいなって思っていて。そうきたか、みたいな...

fotfla
あれは破壊なのか?みたいなところはちょっと思いましたけどね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

phi16
分解してるよね。

fotfla
TORIENAさんとかBeyond a bitの破壊の仕方は、いわゆる強制的に空間を馴染ませるためのものだと思うんですけど。
キヌさんの場合はあの空間自体が全部わたしのもの、みたいな、すべてを巻き込むタイプの破壊だと思うんですよね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

EstyOctober
みんな当たり前のように「破壊」って言ってますけど、その目的とか発したいものに関してはみんな違うんですよね。その差は聞いてみたくはありますよね。

tanita
破壊の向きがありますよね。内側から外側、外側から内側とか。

EstyOctober
向きもありますね。破壊の方法とかも。

fotfla
キヌさんの場合は空間自体が自分の意思を持って、ついていってるみたいにも見える。外力を持っているというよりは内力感が強い。

キヌ
あれはメッセージ性とかコンセプトの部分でつくっていたところがあって。
ばらばらにした壁を吸収して最後に吐き出す流れを一番最初に決めたくらいに根幹になっている部分ですね。

お客さんそれぞれが読み取ったものがすべてなんだけど、意図のうちのひとつをあえて言うと、ライブ後に同じものを見てもそれが同じものに見えないような感覚になってもらいたかったというのはあって。

今わたしが見ているものは、当然のようにそこにあるように見えているけど、実際は誰かがつくったから存在しているわけで。
見てるものが本当に壁なのか、見てる世界は本当はどんなものなのか、というのをまず一回疑ってみたくて。

それを見極めた上で「じゃあそれはわたしにとってどんなものであってほしいか」というのは自分で決めていって良いはず。自分が思って、それが伝わっていくことで本当のことになっていくはずだから、今ある世界を受け入れた上で「そうあってほしい」世界を本当に世界としてしまう、ということがあって欲しいなって思って、それをそのままストレートに表現しています。

なので、私たちがいる場所はバラバラになる必要があった。だから、ああいう感じになった。

EstyOctober
メッセージと紐づいていて良いですね。

Beyond a bitはもうちょっと機能的な話で終わっていますからね。
キヌさんのライブをGugenkaの人に見せてもらいながら「こういう感じでEstyさんらしいものをつくってほしいんですよ」と言われて。
「そっかー」と思って、B4を眺めながら「これ何すればええんやろう」みたいな感じで考えていて。キヌさんはB4のフロアに穴を開けたりとか「活用」をしているんですよね。

で「活用せねばならんのか」って一生懸命考えるターンがあったんですけど、私がつくれるタイプの世界観にサンリオのキャラとフロアのムードが何も合わない...という悩みがあったんですね。
結果として、B4におさらばしてもらわなきゃいけないというのが私の結論になったんです。

機能的にどうすればB4に自然にさよならしてもらうかを考えた結果「全部ぶっ壊す」という方法になったんですよね。
つまり、自分の世界に連れていくための手段として単に破壊しただけみたいな。結果的に、あの宇宙空間に静かに崩れ去っていくかっこいい演出になったわけですけども。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.
©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

tanita
キヌさんの演出は、コンセプト的にやっぱり世界と地続きじゃないとダメだったというか。

phi16
世界というのは「外」も含めてですかね。

tanitta
そうね。
なので逆に会場を壊せないというか、良い意味で会場に縛られる呪いはありましたね。

キヌ
「結局私もあなたもここにいるよね」というのをやってるし。だから、会場はあって欲しい。

tanitta
文脈の話だけど、去年も会場を使ったというのもありますしね。

キヌ
そう、会場として確立してる場所にお客さんがやってきて、そこにアーティストがきてライブをやるという形式。
つまり、会場は私の世界じゃなくて、私は後からその世界に現れて何かやる。
ライブ開始時点で、お客さんは会場に既にいて少し馴染んできているので、その世界はお客さんの体の一部になっている。お客さんはその世界をホームというか、自分側だと多少は感じているはずで、そこに現れた異物である私が世界を浸食することで、お客さんは自分の領分を侵されるというか、自分に危害が及んでいる感じになるかなという意識はしている。

tanitta
なので、空間的にも文脈的にも連続しているかしていないかみたいなところが違うところかなって。

キヌ
ライブの間の空間がライブの前の空間と地続きか否かみたいな?

tanita
そんな感じ。

タカオミ
サンリオバーチャルフェスに出演するという文脈に乗るかどうかという感じですね。
Estyさんの演出はあまり乗ってはなかった。

tanitta
乗らない方を選んだというか。

らくとあいす
でも、導入部分はすごい混ざっている感じがしていて。
サンリオバーチャルフェスって演出が始まる前に広告が流れるじゃないですか。あれがすごい良くて。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

みんな喋っている中で、始まっているのか始まっていないのか曖昧な状況で、気付いたら宝箱がぽんと置かれていて、そこはなんか連続性というか場のフェードを感じますよね。

それで気付いたらみんな喋る声が段々減っていて、日常がフェードアウトしていって、Estyさんの世界が上がってくるというか......そういう連続性は感じたので、完全にサンリオバーチャルフェスから引き離された世界がやってきたって感じは全然しなかったですね。

EstyOctober
「繋ぐこと」そのものは意識したんですよね。
最初に置いておいた箱はサンリオのムードにできるだけ合わせようという意図があって、唐突にぼんと繋いじゃうとつまらないので...サンリオの世界に合ったオブジェクトがなぜか置いてあって、そこの中から私のつくった世界が広がっていくという、世界を繋ぐための起点としてwakaさんに箱をつくってもらったんですよね。

tanitta
箱から出て最後箱にしまわれたからね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

EstyOctober
サンリオの世界との繋ぎ込みという部分において、そこだけはつくったって感じですね。

タカオミ
Estyさんのは演出を見ながら「あ~カンパニュラちゃんいる」とか「風の妖精さんいる~」って思ったんですよ。『Estyランド』のキャラがいっぱいいる感じで、ある意味サンリオを塗り替えているみたいな印象でした。

tanitta
そういう意味でのキャラクターがいるみたいな(笑)

「VR演出」の多様化について

phi16
0b4k3さんはどうでしょうか?

0b4k3
僕はまだB4を観れていないので、去年のB4やTwitterに流れてきた今年の写真を見て「おそらくそうだろう」というくらいのふんわり認識で話しますけど、B4には「良い意味でのインディー感」みたいなものがあると思うんですよね。

作品それ自体や、それを公開するという行為への責任みたいなものが、極端な話、自分の立ち位置くらいしかないっちゃないのかなと思っていて、そういう意味で遊びやすい。遊びやすいからこそ、「VR演出」と呼ばれるような何かに期待されている新規性のあることができる良い場になっているというのはあるんじゃないかなと思っています。

パレードはそれとは対照的な存在というわけではないですけど、「サンリオ」という既に存在する世界観を尊重、重視した上で、どうやって個人的な責任だけに収まらない状況の中で「VR演出」を組み上げていくのか、みたいな状況だったのかなと思っています。

phi16
インディー感は、確かにそうですね。

0b4k3
後は、前回のキヌさんがあんなことをやっちゃって、大暴れ推奨みたいな土台をつくってくれているし、B4が続投しているという事は、公式からのお墨付きみたいなものだとも思うし。そういう状況が「サンリオが主催するフェス」ではあるんだけど、作家性みたいなものに対する縛りが緩くて自由な空間になっているんだと思います。

三日坊主
確かに。B4っていう「場」の話はめちゃめちゃあるなと思っていて。
去年から続いていることやキヌさんがハチャメチャしたっていう文脈は間違いなくありますよね。

phi16
演出には文脈が避けて通れないところもあります。

0b4k3
「熱狂感」みたいなところもあったりするのかなと思いますね。
大枠の話になりますけど、さっき話していた「全部見たい感」で言うとサンリオバーチャルフェス全体がそんな感じですよね。

phi16
確かにね~。

EstyOctober
「価値がある気配がするもの」がいっぱいある世界でしたね。

0b4k3
しかも、パレードからB5まで全部方向性が違うっていうのも含めて、良さがあったのかなと思います。

ある一時期までは「VR演出」という何か大きな概念みたいなものがあったような気がしていたんですが、ここ数年はVR演出とかVRコンテンツと一口に言っても結構多種多様ですよね。
映画とか他のコンテンツと一緒で各々の表現手法みたいなものが広がってきていると今回感じて、そういう意味では「正解みたいなもの」「こうした方が良い・良くない」みたいなものが明確にあったりなかったりは昔の話になっているみたいな気持ちになりましたね。

(続きは中編で)


中編では、サンリオバーチャルフェスB4を軸に「音と演出」の関係性の話が展開されました。中編は下記リンクから。

座談会参加者(あいうえお順)
AyanoTFT
EstyOctober
0b4k3
キヌ
タカオミ
tanitta
ちゅーたな
phi16
fotfla
三日坊主
Yuki Hata
らくとあいす

企画:タカオミphi16fotfla三日坊主FUKUKOZY
進行管理:タカオミ
執筆・編集:FUKUKOZY
写真:rocksuch(ロックサーチ)FUKUKOZY


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