今、VRChatで“ちょうどいい”ライブをつくる──バーチャルライブ『メトロパルス』制作チーム座談会(ReeeznD×キヌ×tanitta×Cap)
2023年8月に初演が開催された、エレクトロ・ポップ・デュオのCAPSULEによるVRChatでのライブ『メトロパルス』。
長年、音楽業界で活躍するCAPSULEが初のバーチャルライブを行うことから話題を集め、VRChatユーザーをはじめ、それまでバーチャルの世界を体験したことがなかった方も参加するほど、注目されました。
また、欧州最大級の映画祭「レインダンス映画祭」の一部門「レインダンス・イマーシブ」(XR作品を表彰するプログラム)にて、ベスト・イマーシブ・ミュージック・エクスペリエンス分野で特別賞を受賞するなど、国際的に高い評価も受けています。
多くのメディアで、CAPSULEがVRへの興味や可能性をインタビューで語っていることも印象的です。
今回のバーチャルライブ制作を手掛けたのは、VRChatを日常としているクリエイターたち。そこで本記事では、今回のバーチャルライブの制作を担当したReeeznDさん、キヌさん、tanittaさん、Capさんを迎えて、制作にあたって考えたことをざっくばらんにおはなししました。(2023年9月16日収録)
CAPSULEが積み上げてきた時間
──ライブが終わってどうですか?
Cap
自分の観測範囲では、ネットに書かれた感想はみんな好反応でしたね。
キヌ
『Nakayoku Connect』の時もそうだったけど、今回のライブをきっかけにしてVRChatにきて「VRすごい」って言ってくれてる人もいたし、良かったよね。
あと面白かったのが、CAPSULEのライブをVRChatでやると分かった途端に「実はCAPSULEファンだったんです」という人がVRChatのユーザーでいっぱい出てきてたこと。
以前から聴いていたとか、いろんなエピソードがこぼれ出てきててすごく良かった。
tanitta
長年活動しているユニットなので色々な人の人生に寄り添ってる感じがあるよね。CAPSULEをきっかけとして色々な人のバックグラウンドを聞けたのは良かったですね。
ReeeznD
みんなが挙げてる曲が年代バラバラだったのが良かったよね。
Cap
僕は今回をきっかけにしてCAPSULEをすごい好きになったんですよね。普段聴く曲調と少し離れていたからか、しっかりと聴く機会が今まではなかったんですが、今回話をもらって改めて聞いたら「CAPSULEってこんなに良いんだ」ってちゃんと認識することができて、声を掛けてもらってめっちゃありがたかったです。
「VRChatでライブした時に“ちょうどいい”感じをつくってほしい」
ReeeznD
最初にCAPSULEチームと打ち合わせした時に「今VRChatでライブした時に“ちょうどいい”感じでつくってほしいです」って言われたんですよね。
──“ちょうどいい”
キヌ
難しい……
ReeeznD
1番怖いリクエストが来たなと思って(笑)
“ちょうどいい”って、VRChatのことをとにかくよく見てる人にしか出せないじゃないですか。
キヌ
そうですね。
ReeeznD
「自分の世界をつくりこもう」ということじゃなくて、周りとの関係性を意識したたたずまいになってるのが重要ということですよね。あらゆるものづくりにその面はあるから、 ぐぅの音も出ないくらいその通りなんですけど、なんてプレッシャーの強い言葉だと思いました。
キヌ
ちょうどいい感じをどのくらいに置くか悩ましいですね。
ReeeznD
VRChatのことを考えると、やっぱり『SANRIO Virtual Festival』、特にチルパークを見てきてる人たちが見るんだ、というのは大きかったですね。
そして、VRChatワールド探索部の人たちの顔がどんどん浮かんできて(笑)
その人たちにとって“ちょうどいい”やつをつくらなきゃいけない。ちょうどいい、と言っても横並びって意味じゃなくて、「その上で」というか、その人たちがちゃんと良いと思うようなものをつくるってのもあるし、どこに球を投げるかってのもあるし。
でも、それをやらないとCAPSULEがVRChatでライブする意味があまりない。「あのCAPSULEのVRライブ」という期待を背負った上で、『SANRIO Virtual Festival』を見てきた人たちが「良かった」と思うようなものをつくるのが自分のミッションだと思ってました。
ReeeznD
ちょっと演出っぽい話に移りましょうか。VR演出の大きなところから。
実は、僕のつくり方とキヌさんのつくり方が全然違うんですよね。
僕はクライアントワークも多いので、クライアントワーク用のワークフローを踏んで進めるんです。最初に企画・構成の資料をつくって、Vコン(ビデオコンテ)をつくって、その次はVコンレベルの超荒く組んだ演出をVRで実際にみんなで見る。それをちょっとずつ重ね塗りみたいにアップデートして本番のデータに置き換えていくみたいなやり方なんです。
つまり、僕のつくり方は最初からライブの全体像が見える形からスタートして、その形のまま全体をアップデートしていくやり方。でも、キヌさんは別のアプローチですよね。
キヌ
私はライブの中にいくつかの塊をぎゅっと押し込んで並べるというやり方をよくやります。ある演出をいい感じになるまでつくれたら「じゃあ次」って感じで進めがちです。全体を40パーセントぐらいにして、次は60パーセントぐらいにして、みたいな方法はあまりやってなかったので、その点ではつくり方がだいぶ違うねという話をしました。
ReeeznD
例えば1曲の中の最高到達点みたいなところがあったら、最初にそこをつくっちゃうってことですか?
キヌ
場合によります。つくれるところからつくることも結構あります。ただ、つくるときは少なくとも気持ちよさを感じられるところまではつくり切ります。その後ブラッシュアップをすることもあるし、しないこともある。
──なるほど。
キヌ
気持ちよいところまで行かなかったら、捨てるかもしれない。
ReeeznD
キヌさんの曲には感情の抑揚があって、1曲の構成の中で気持ちを誘導して、緩急がすごく強いじゃないですか。一方で、CAPSULEの曲というか、特に『メトロパルス』というアルバムはそういうつくりになってる曲が多くないと個人的に思ったんですよね。
キヌ
確かに。
ReeeznD
曲ごとに景色やトーンは違うんだけど一曲の中ですごくエモーショナルになったり、静かになったりみたいな抑揚の強くない曲が多い印象でした。
今になって振り返ってみると、キヌさんのような手順でつくっていくと、ちぐはぐになる部分があったかもしれないなって思いました。
キヌ
トーンを揃えてじわじわ積み上げていくという感じだよね。
ReeeznD
ですです。でも、そのおかげでつくってる時は苦しくて。 トーンや文脈はできていくんだけど、キヌさんみたいに生理的に気持ちよいところにいつまでも行けないんですよ。
ここを超えないと気持ちよくないみたいな演出の閾値が、VR演出を含め、ありとあらゆる作品にあると思うんですけど、そこをいつまでも超えられない。 そこを超えちゃえば細かいところは目を瞑れるんだけど、そこを超えられないので「どうしよう」みたいな気持ちがずっとありました。
僕の今までのMVのつくり方だと、最初にVコンでタイムラインをつくれば、ある程度気持ちよさの方向性が見えて、その次にテクスチャーとかを貼っていないプリビズ状態のものを見れば「気持ちよいな」という部分だけは担保できる。あとは綺麗なモデルやライティングに置き換えていけば十分いけるなという算段がつくんですけど、今回はプリビズ版が全然良くなくて「どうしよう……やばい……」みたいな。
MVみたいに「最悪これやれば大丈夫」ってテクニックもまだ開発途中だし、メンタル的には結構やばかったっすね(笑)
キヌ
ReeeznDさんと全体の流れや演出プランの話をしてた時点で「ここは気持ちよくなるだろうな」と期待できる状態になってたと思いますが、それはまだ頭の中の話で、実際に気持ちよさを感じられるまで時間がかかったってことですね。
ReeeznD
そうそう。とりあえず通しでつくった段階で気持ちよさを体感できるものができると期待してたんだけど体感できるものじゃなかった。
キヌ
なるほどです。
ReeeznD
ちょうどその辺りに、今いるロビーのCAPSULE HOUSEをつくって公開しなきゃいけないという状況になって「このままじゃ本当にやばい」と思って、急遽Capさんに声かけて入ってもらったんですよ。
CAPSULE HOUSEはそもそも『バーチャル・フリーダム』という作品のMVに登場するのですが、ありがたいことにMVの監督・最勝健太郎さんから3Dモデルのデータを提供していただくことができたので、Capさんにドサッて渡したら、最初に上がってきた時点でLight Probeまで完璧なデータがきてすごくホッとして「Capさんに頼んで本当に良かったな」と思いました。
セットリストとストーリーと演出とトーンの話
──今回のライブでは、セットリストから生まれるストーリーと演出の統一感みたいなものがすごく重要だと感じました。
ただ、セットリストを見ると、曲がリリースされた順でもないし、アルバムに収録されている順番でもない。ストーリーとのマッチが重要だと考えると、セットリストはどこから出てきたんだろうというのが気になってました。
ReeeznD
最初に企画をイメージする足掛かりとして「もし自分がやるんだったらこういうセトリだ」みたいなのをつくったのですが、それが1曲目が『ひかりのディスコ』で、 最後の曲が『バーチャル・フリーダム』でした。それをお見せすることはなかったんですが、その部分はCAPSULEから提案されたセトリと一致していたんですよね。
『ひかりのディスコ』で出てくる「この身体にまだ慣れてないけど」という歌詞がバーチャルの世界で「アバターという身体」にまだ慣れてないことを言っていて、『バーチャル・フリーダム』は「バーチャルの世界でフリーダムを手に入れる」という曲。
なら、大きな流れみたいなものを表現するんだとすれば、『ひかりのディスコ』が最初で『バーチャル・フリーダム』が最後というイメージがCAPSULEからの提案と一致したのは本当に良かったと思います。
──ミュージックビデオを見ると、『ひかりのディスコ』の演出が今回のライブの『ギヴ・ミー・ア・ライド』の演出に近くて、『ギヴ・ミー・ア・ライド』の演出はミュージックビデオにない。強いて言うなら、どちらかというと『ひかりのディスコ』の演出に近いなと感じたのですが、演出と曲の対応はどのように考えられたのでしょうか。
ReeeznD
今回はVRMVではなくて「ライブをやる」が大前提としてあったので「ステージを観客が見てる」という構図でライブの姿をしている必要があったんですね。
VR演出としては無駄遣いというか、VRだからもっとCAPSULEの2人があちこちに登場してきたりしてもいいし観客の後ろに演出が回ったりとか、お客さんの視点をどんどん誘導するような演出もありだったんですが「今回はライブなのでそういう演出はやめよう」というのは最初に決めていました。これが初めてのVR体験という人も来るでしょうし。
ReeeznD
もう少しつっこんで言うと、少なくとも冒頭はライブの姿をしたものを見せる必要があると思ってたんです。まず 「自分はCAPSULEのライブに来たんだ!」って感動からはじまって欲しい。
だから、1曲目の『ひかりのディスコ』は特に現実のライブっぽい構図。そして、後半になるにつれてお客さんが慣れてきたあたりからは飛躍していいだろうなと考えて、そのタイミングが『ギヴ・ミー・ア・ライド』のあたりだったんです。
──なるほど。
ReeeznD
『ギヴ・ミー・ア・ライド』のミュージックビデオは、ギミックとしてはすごいシンプルなMVですよね。ライトのパネルがあって、それが光る様子とバンドの演奏を多彩なカメラワークで見せる。
ReeeznD
これがVRになるとカメラワークが使えないので、MVの演出をそのままなぞるとライブとしてはシンプル過ぎるものになってしまうなと。あと、今回のライブがVR初体験になる人も見るエンターテイメント作品になるだろうと考えた時に、VRならではの演出を盛り込みたいなと思って。もちろんMVの世界観をじわじわ味わうようなものをつくることもできるんだけど……。
なので、「全体での演出の飛躍をどこにするか」と「『ギヴ・ミー・ア・ライド』のMVの演出を踏襲しつつ、VRならではの独自性を持たせたい」というふたつの点が重なって、あの演出ができたという感じですね。
──全体のストーリーを見ていて「破壊」がだんだん進んでいくみたいな印象を受けました。
直接的な破壊はないんですけど、最初はライブステージから始まってどんどん空間の使い方が自由になってくると、演者と観客の関係性を破壊するというか。
もうちょっと具体的に言うと、曲が進むにつれてどんどん奥行きが見えてきて、最後『バーチャル・フリーダム』で奥行きがなくなる。そしてHMDの向こう側に新しい奥行きが見える……みたいなことを思いました。
『ギヴ・ミー・ア・ライド』の部分は直線的なハイウェイで無限遠というかずっと続いていく感じなのが余計にそう思わせたのかもしれません。
ReeeznD
それは嬉しい視点ですね。でも『ギヴ・ミー・ア・ライド』がまっすぐ行くのは、実は曲がると酔うからです(笑)
ああいうワールド全体が動く演出をやりたかったんですけど、 酔わないようにはしたかったんですよね。いろんな人が見に来てみんなが楽しいものにしたかった。
個人的にもワールド全体が動くような演出は好きだから、それを見に色々なワールドに行くんですけど、だいたい後半で気持ち悪くなります(笑)
僕自身もめっちゃ酔いやすいので「僕が酔わなかったら酔わないだろう」と自分基準でやりました。
──道路のアップダウンは結構ありましたよね。
ReeeznD
横と回転が酔って、アップダウンはあんまり酔わないんですよね。やりすぎると酔うかもしれないですけど。でもあそこを好きだと言ってくれる人が多くてつくった甲斐がありましたね。
キヌ
ポーンと投げ出されるとか、振り切っていたから逆に酔いがひどくならなかったとかはありそうですね。
ReeeznD
あー、それはあるかもしれないですね。
キヌ
そうそう。ゆっくり登っていく・下っていくだったら、しんどさが出たかもしれないけど、 ぽんって放り出されて「ひーっ」ってなってる間に次に進むから、うまい塩梅にできてたのかな。
ReeeznD
たしかにそうかもしれない。
キヌ
『ギヴ・ミー・ア・ライド』は横の街がぴょこぴょこと動いていたのがすごく可愛かったです。
ReeeznD
あれはtanittaさん謹製のシェーダーですね。
tanitta
仕込みました。監督的には当初はもうちょっと激しく動く想定でしたよね。
ReeeznD
最初はもっとアタックが強いというか、滑らかじゃなくてぴょこんぴょこんって動くイメージだったかな。でも、tanittaさんがつくってくれたやつを置いてみたら「あ、完璧だわ」って。
tanitta
あのくらいの滑らかなアニメーションでも、前方に進んでいく際のスピード感によってアクセントとしてちょうどいい塩梅として機能していましたね。
ReeeznD
あれによって「単にローポリの街をつくりました」ではない世界になったからめっちゃ良かったっすね。
Cap
良い意味で“ちょっと変な浮遊感”みたいなのを街によって出せている部分はあるかもしれないですね。
ReeeznD
そうそう。お客さんが注目する場所じゃないかもしれないけど独特なトーンをつくるのにすごく効果が出てると思います。
あと、ライブ中に出てきたモデルたちもトーンが揃っていてすごく良かったです。CAPSULE HOUSEにあるプロップやライブ中に出てくる新規でモデルに起こしたものはほとんどCapさんにつくってもらったんです。
目立つところだと中田さんが使ってる「シンクラヴィアⅡ」っていうシンセサイザーをオマージュした楽器ですね。みんなパソコンだと思い込んでるんですけど、あれはパソコンと横にある鍵盤と後ろのサーバーラックみたいなやつ全部含めて1つの楽器で、当時1億円くらいしたシンセサイザーなんですよ。そして、『バーチャル・フリーダム』はCapさんラッシュでしたね!
ReeeznD
実は、プリビズの段階ではリアルなモデルにするかローポリにするか、悩んでるものが結構多くて。
ひかりのディスコに出てくる電球のモデルも最初はリアルなものを使ってたんですよ。それは演出に絡んでくることで、最初は「バーチャルの世界に馴染んでない」ところからだんだんバーチャルの世界に馴染んでいくのを表現するために、リアルなモデルからだんだんローポリになってくみたいな流れがある方が良いかなと思っていたんです。
『バーチャル・フリーダム』もリアルにするかローポリにするか、最初は悩んでた気がしますね。Capさんに「どうしよう」と話して、待たせている期間が長かった気がする。
Cap
最初はローポリのモデルでテクスチャはPBRみたいなのでやろうという話とかありましたね。
ReeeznD
そうそう。何がきっかけだったかはちょっと明確に分からないんですけど、どこかでローポリにしようと決めて、それまでリアルタッチだったモデルも全部ローポリにつくり直したんですよね。
つくり直したっていうか、Capさんにつくってもらったんですけど(笑)
Cap
ローポリと言っても、形を良い感じにするみたいな部分でけっこう時間が取られましたね。
そのおかげで、ローポリ筋がつきました。
ReeeznD
リアルなモデルだったらアセットストアとかで買えるんですけど、意外と”ちょうどいい”ローポリモデルはないんですよね。特に機材系はない。汎用的な電球1つとっても、海外の電球だったりして。
単に球体が光ってるんじゃなくて、わざわざ電球などのモチーフを使うのって、世界観やトーンもあるんですが、理由として強いのは見てる人の記憶との接点をつくるためです。特にどんどん場面が流れていく時間芸術では接点を持てる時間が少ないので見た人が瞬間に分かるようにしなきゃいけない。なので外国製のものだとちょっと距離があって、もの足りない。
だからこそ、Capさんにちゃんとつくってもらわないと演出が成立しないと思ったんです。
VRで確認して意見を言い合う
──「プリビズの段階でなかなか気持ちよくならなかった」という話がありましたが「これでいけそうだ」と思ったタイミングはあったんですか?
ReeeznD
この4人で何回か通しで見て、意見をもらうっていう会をやって、そこでみんなが色々アイデアを出してくれて、それを盛り込んでいったのがやっぱり1番でかいですね。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
『スタート』で雨が降ってくる表現があったと思うんですけど、Capさんがあれに雨の雫を入れようと言ってくれて。コライダーに当たったら弾けるみたいなやつ。
Cap
そうそう。
ReeeznD
演出としては些細なことだと思うんだけど、VRで考えると「自分のすぐ横で何かが起きてる」っていうのがものすごい効果があるんですよね。
キヌ
うんうん。そういうことの繰り返しでしたね。
一通り揃った状態で見た時に、その時点でだいぶ良い感じになりつつあるのを感じて、みんなでワイワイと意見出したりしてたよね。
「もっとこうした方がいいんじゃないか」とか「照明が被ってるよね」とか、色々話してた。
ReeeznD
上の吊っている照明の位置ですね。
tanittaさんがシンメトリーに見えるようにしようと言ってくれて、そういうのもすごく影響が大きかった。 自分が思ってる以上にステージのレイアウトが「効く」んですよね。リアルと同じようにちゃんと効く。
キヌ
うんうん、そうそう。
ReeeznD
舐めていたわけじゃないんだけど後回しにしていて。あの話が出なかったら、時間切れでそのまま進んでたと思う。
歌詞と演出の関係
キヌ
打ち合わせで面白かったのが、1番最初に集まって見ようってなった時に、相談用のワールドにセットリストの曲の歌詞が全部置いてあったんですよ。
その場で言葉を参照しながら話を進められたのがすごく良くて。そういう確認をする時って、相談用のワールドに歌詞まで置いてあることはあまりないので、すごく良かったなと思いました。
ReeeznD
非公開のワールドに音楽とステージだけ置いて、 そこに籠って曲を再生しながらずーっとVRの中で演出を考えていたので、それの延長でもありました。
あー、あと歌詞関連だと、今回「やらなかった演出」があって、きちんとした歌詞を出さなかったんです。
ミュージックビデオで結構昔から言われてる話として、歌詞と演出をどこまでくっつけるかっていうのがあるんですよね。 歌詞を全部映像で説明すると、広がりがなくなっちゃうから。
音楽だけで聞いてたら本当はすごく豊かな情景が浮かんでいたけど、ミュージックビデオで意味を限定すると、すごく小さなものになってしまう。それをミュージックビデオでやるべきなのか、それともかけ離れたものにするのか。どれぐらいの距離感を持つのがミュージックビデオの良さなんだろう、みたいな話はよくあって。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
特に歌詞はライブ演出によく使われるじゃないですか。
VR演出の話をする時でも、歌詞をどうするかの話は出てくる話で、多分「VR演出についてかんがえてみた」でも出てきた気がするけど。
──歌詞を演出としてそのまま出すことについての話ですね。
ReeeznD
そうそう。音楽にとっては、やっぱり音楽があって、歌詞があって、それらがどう関係するか、めちゃくちゃ意味の大きいことで、それをビジュアルで演出するってなるとどこまでそれを参照するかというかっていうのは、1個の大きなテーマになるなとは思います。
キヌ
そうですね。
ReeeznD
それで言うと、僕の中ではある程度方法論はあって。あくまで僕の考え方ではあるんですが……音楽を聞いてる時って、ひとつ前の歌詞のことってもう忘れてるんですよね。
曲を聴いてる時って、ワンワードくらいしか言葉を認知してない。
ワンワードが音と共にポンって来ると、バンっ!て情景が浮かぶ。そうして、情景が浮かんでは消え、浮かんでは消えっていう層の重なりで歌っていうのはできてるように感じていて。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
それはストーリーや詞を追ってるわけではなくて、次々現れる風景を見てるみたいな印象なんです。だから、情景を浮かばせる引き出しのために単語をポンって提示するのは気持ちよいんだけど、歌詞をビジュアルで追うのは、僕が音楽を聞いてる時のイメージとズレがち。
歌詞を追うんじゃなくて、情景を追うべきだって僕は考えてるから、単語を出すのはオッケーだけど1文字ずつ出すとか、歌詞をずっと追いかけるみたいなことはナシにしてるんですよ。
だから、「Give me a Ride」という文字のオブジェクトが突っ込んでくるのはやるけど、歌詞をずっと追っていくのはやらないって感じですね。
キヌ
面白い。
ReeeznD
少し話が外れちゃうけど、歌詞を追う代表的なものとしては「ボカロMV」というものがあるじゃないですか。
それ以前にはあまり多くなかった。
ボカロMVはちょっと考え方が違っていて、普通のMVであれば、アーティストが出てリップシンクして演奏シーンがあってと、音とシンクした要素がたくさんあるんですが、ボカロMVは演者が演奏したり歌ったりするわけじゃない。しかも静止画が中心なので、音楽とシンクする要素が全然ないんですね。
だから本来ならリップシンクが担う部分を歌詞演出が背負えるという考え方ができるのかなと思っています。
ただ、それが実際のライブで歌詞が出てきてしまうと、演者のリップシンクを見ればいいのか、歌詞の方を見ればいいのかで見たいところが2個できちゃって、見てる側が迷っちゃうんじゃないかなーって思うんですよね。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
こっちも見たいし、あっちも見たいしという状態が長く続くと負担になる。だけど、ワンワードだったらポンって出てきた瞬間にぱって目やって、また演者の方に視線を戻せるからいいかな、みたいなことは考えています。
だから、ボカロMVみたいな演出は、VRMVだったら演出次第ではやるかもしれないですけど、ボクはライブではあまり選ばないかなあ。これはリアルライブでも一緒。……でも文脈や文化があったり、あと何か思いついたらしれっとやるかもしれない(笑)
これはあくまで僕の方法論なので正しいってものでもないし。いろんなものや考え方を見たいです。
キヌ
うんうん。
些細なものの積み重ね
キヌ
最初の演出はすっと始まる可能性もあったんですけど、やっぱりCAPSULEが初めてVRChatでやるライブなので「CAPSULEがVRChatに現れる瞬間はすごいものであってほしいのですごくしてください」っていう話はしましたね。
ReeeznD
それはほんとに言われて良かった。
キヌ
それで波が出て、CAPSULEのロゴがドンって出るやつが生まれた。
ReeeznD
最初は波がなかったっすからね。後で、「あそこはキヌさんがやったでしょ」って詳しい人にはバレてました(笑)
ストーリー的には、リアルからやってきてバーチャルに慣れてない状態からだんだんと慣れていくというものがあったので、「CAPSULEは外の世界(リアルの世界)からやってくる」という要素として、三角のロゴが空間を突き抜けて上から降ってくるアイデアとかもありました。
ReeeznD
さらに、三角形のロゴを象徴的にライブのあちこちに出てくるようにするとか……色々アイデアがあって、実際に実装したものもあったんですけど、 やればやるほど劇を見てるような感じになっちゃって、「あ、これライブじゃないわ」とある時思って、 シンプルにしたんですよね。
キヌ
ステージ演出に物語性を持たせすぎると、ライブから離れていく。
ReeeznD
それはあると思います。なんだろう、別の形態になるというか。
ライブとミュージカルって、見る時の気持ちは多分違うと思うのでどっちに落ち着かせるかを考えなきゃいけない。混ぜ込んじゃうと多分違和感が出る。どっちかに振り切るといいとは思うんだけど。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
うーん、「自分は今何をつくってるのか」というところから離れて進んじゃうとやばいってことかな。道を進んでから「あ、こっちの道進んじゃダメ」なんだっていうのがあったから、やっぱり試行錯誤が許されるようなフローを踏んでないとやばかったですね。
最初に絵コンテをばーって描いて、話を全部関係各位に通して「もう変えられません」みたいな感じで進めてたら詰んでたかも。変えるのにいちいち許可がいらないみたいな体制をつくってもらえたのは良かったですね。
ReeeznD
だから、些細なものの積み重ねが重要だったんですよね。
プリビズ版の時に通しで見てみて気づいたんですが、明らかに良いシーンと良くないシーンがあるんですよ。特に『スタート』が全然良くなくて。
『スタート』はシンセサイザーから、tanittaさんがシステムを組んでくれた光が走るケーブルを通してバックバンドを動かして、アバターのバンドが生きてるものなのかなんなのかがあやふやになるという演出が最初から固まっていました。「めっちゃおもしろいし、こんなに演出が決まっているなら、良いものになるだろう」と高をくくってたんですよ。
それでつくってみたら「やってることはすごく面白いんだけど気持ちよくはない」みたいな感じになって。
キヌ
あー。
ReeeznD
『ひかりのディスコ』は最初から割と良かったんですよ。サビもほぼ最終のものができていたし、冒頭のボクセルの波が襲ってくるところとか、最高じゃないですか。
キヌ
うんうん。始まるぞって感じ。
ReeeznD
それで、『ひかりのディスコ』には良いと感じる何かが存在していて、『スタート』には何かが存在しないんだろうと考え、観察して……なんとかひねりだして、tanittaさんに周りの金網みたいなモデルをつくってもらって入れてみたら、途端に良くなった。
──なるほど……!
tanitta
遠景がないから出したら良さそうな遠景ないかなとか、 そういう話をした記憶がありますね。近景についても「単にパーティクルを飛ばせばなんとなく空間は埋まるけど、それじゃもったいないからどうしよう」みたいな話をちょっとした気がしますね。
キヌ
「近くになんか出したいよね」というのは結構話しましたね。
──『スタート』の演出の経緯が面白いなと思って聞いていたのですが、最初『スタート』を見た時に「物理的なオブジェクトがあって、それが演出に加わっていく」という構成は0b4k3さんの『CUE』(Director / Composer: 0b4k3、Artist / Coding: phi16、Cassette Label Design: Daiya Tanabe)を思い出しました。
ReeeznD
『CUE』も鉄骨が組んでありますもんね。
──そうですそうです。
ReeeznD
『CUE』を直接的に参照をしたわけではないのですが、すごく好きなワールドで。
最初に演出の方向性や考えてることを伝えるのにCAPSULEチームを連れてVRMVのワールドを巡るツアーをしたんですけど、その中でも『CUE』に行きましたね。
さっき言った通り、『スタート』の演出で何か遠景が要りそうってことになって考えたんですけど……『スタート』の演出ってちょっとゲームっぽいニュアンスにしています。文字とかのドットの処理が1番わかりやすいかと思うんですが。
ReeeznD
今回、サウンドをバンドアレンジしてくれたんで、原曲からは結構変わってはいるんですけど……『スタート』はアーケードゲームのFM音源みたいな音の曲なんですよね。
CAPSULEメンバーのゲームへの造詣がすごくて、特に90年代のゲーム。
その辺りの時代で使われたFM音源をイメージしてつくられたのかなって想像できるような音色もあって、当時のアーケードゲームみたいなニュアンスを『スタート』の中に入れました。
それで、周りに出る格子のモチーフは「アーケードゲームの画面のイメージ」なんです。でも、これはあまり伝わらないだろうなと思いながらつくってました(笑)
──具体的にはどういう部分でしょうか?
ReeeznD
昔のアーケードゲームってブラウン管とかじゃないですか。画面が歪んでいるので筐体のスイッチを入れた時に、キャリブレーション用のグリッド表示が出るんです。 古いブラウン管だとどんどん歪んでくるので、グリッドを見ながらつまみで歪みを調節するんですけど……プレイヤーはそのグリッドを見ることはあまりないのですが。
厳密に言うと、おそらく90年代のアーケードゲームぐらいの時はそのグリッドはあまり使われてないんですけど、「SynthWave / アウトラン」(1980年代の映画音楽やビデオゲームの影響を受けた電子音楽のジャンル)あたりが参照してるもうちょっと古いゲームにはよく搭載されていて、そのグリッドのイメージであの格子状のオブジェクトをつくったんです。それが文字デザインと重なった時に「アーケードゲームっぽさ」が、ぐっと増えたんですよね、
──なるほど。
ReeeznD
見てる人にはそうしたディテールはまったく伝わらないだろうけど、空気感というか「レトロな匂い」がするのは伝わるだろうなと思っていたんです。
『スタート』のロックチューンみたいなレトロさとも相性が良いなというのを感じていたので、うまくトーンをつくれるというところであの格子状のオブジェクトの遠景を選んだ、という流れですね。
──「レトロな匂い」というのは確かに感じますね。
ReeeznD
tanittaさんにブラウン管風に歪めるのもできますよと言われて、ちょっと悩んだんだけど空間が複雑になりそうなので、まっすぐなグリッドにしてもらったというのもありましたね。
音響効果が入ることによって演出ががらりと変わった
Cap
『ギヴ・ミー・ア・ライド』はアニメーションの時点で良かったけど、CAPSULEの手によって音響効果が入ったじゃないですか。あれでまた一気に化けましたよね。
本番ではじめて聞いたんですけど、音が入ることによって印象がガラッと変わっていて驚きました。
tanitta
車の環境音やトンネル内の反響といった環境の変化を表す音響効果が入ることで空間の情報量が増えたんですが、最初聞いたときに良い意味で、「ゲームっぽい」という印象を感じたのが面白かったです。
Cap
うんうん、そうですね。ゲームっぽい。
tanitta
今回のライブは、ベースは「ライブをやろう」というコンセプトでやってたと思うんですけど、あの部分だけゲームの中に入るという形式なので味変みたいな感じで、体験にバリエーションを生み出せていますよね。
Cap
音が入って、没入感が上がってすごかったです。やっぱり演出と音が合っているから……近づいてくる文字の迫力もすごいですよね。
キヌ
良かった。執拗にぶつかってくるからね。
Cap
あれを見て「音ってやっぱりすごいんだな」って思いました。
キヌ
はじめて見たときに、ReeeznDさんに「これ最高です。」みたいなメッセージを連投してましたね(笑)
ReeeznD
ですね(笑)僕はテンパっている頃で反応はしきれなかったですが、気持ちはそうでした。
ミュージックビデオをつくっていると、アーティストが音の方をミュージックビデオに合わせて変えるみたいなことは、あまりないんですよね。
──ミュージックビデオは楽曲を良く見せるためのものでもありますからね。
ReeeznD
そうなんですよね。それでも、僕は音に対しても提案する方の監督だと思うんですけど。今回はチーム全体で音に口出しするのやめとこうみたいな空気感が最初からあって……でも、実はCAPSULE側から提案をもらって。
キヌ
めっちゃ良い話。
ReeeznD
やっぱそういうアクションがアーティストから来るとシンプルに嬉しいですし、こっちも、もうひと踏ん張りやってやろうみたいになりますね。
キヌ
最初の方でライブ用の通しとして「こんな感じ」とある程度曲は示されていたんだけど、そこからけっこう変わっていて。
ライブアレンジ的な面だと2曲目の『スタート』で「動きが足りないからこのパートももうちょっと入れましょうか」みたいな形で音を増やしたりもありましたね。効果音・ミックスの変化も印象的だったんですけど、その前段階で音の面からも一緒につくっていただけたのがとてもありがたかったですね。
ReeeznD
確かに『スタート』は最初はギターのパートがなかったんです。バンドの演出をしてるのにギターの音がなかったので、演出にするとギターは最初から最後まで固まってるみたいな感じになってしまっていた(笑)
キヌ
そうそう。
ReeeznD
それでギターパートを入れてくれたんですよね。
キヌ
キーボードとかも結構動くようになったよね。
ReeeznD
ですです。だから、ミックスってレベルじゃなくて。本当にあそこでしか聴けないライブ音源になっているんですよね。
実は冒頭のボクセルの波が襲ってくるところの音も、完成したものは最初にもらった音源と全然違っていて、元々はアルバムに収録されてる『ひかりのディスコ』のイントロと同じもので、もっとポップな感じだったんですけど、すごく太い音にしてくれたんですよね。多分、演出を見て演出に合ってるトーンにしてくれたんだと思います。VRの中では重ための表現が好まれる印象もあって、最初の演出は音によってだいぶ重い演出になりましたね。
キヌ
最初の音を変えたのもそうですし環境音やエフェクトやアレンジで、CAPSULEとしても「あの場所でやるライブ」として考えてくれたというのがとても嬉しかったなって思っています。
何回も現場(VR)に来てチェックしてもらう、をReeeznDさんが繰り返していた結果なんだろうと思いますが、それは本当に良かったですよね。
トーンをコントロールする解像度の高さ
ReeeznD
CAPSULEチームはトーンのコントロールの解像度が異常に高いんですよね。
例えば、ステージのすり鉢形状のアイデアはCAPSULE側からなんですよね。
その前に4人でステージの高さの検討をしていて。「ステージの床の質感が見えるようになっていてほしいけど、あんまり下げると厳しいな~」という話をしていたり。
──どういうことですか?
ReeeznD
僕の一方的な思いみたいなのがあるんですけど、アーティストには手の届かない巨大な存在としてステージに立っててほしい。
でも、ステージの高さひとつでその印象がかなり変わってしまうんですよね。
ステージが低いと路上ライブみたいになっちゃって、急に身近な存在に感じちゃうんです。
──なるほど。
ReeeznD
それで、ステージをかなり高くしてたんですけど、高いとちっちゃいアバターの人が見れなくなるんです。 VRならではの悩みだと思うんですけど。
キヌ
最初にみんなで通しで見てみる会をやった時に、私はまったくステージが見えなかったんですよね。
ReeeznD
そうそう。それで、ちっちゃいアバターが見れる用のお立ち台みたいなのつくろうかとか色々話してたんです。でもあんまりカッコよくない。
ただ低くすると、さっき言ったようにアーティストのすごさみたいなのが薄くなっちゃうので、どうしようかなと考えていた時にCAPSULE側からすり鉢状の会場のアイデアをもらったんです。
すり鉢状だったらちっちゃいアバターでも上に登れば見れるし、全部を解決する良いアイデアだなと思って。「ぜひやりましょう」って感じでしたね。
──どういう意図ですり鉢状のステージ形状のアイデアを出したんですか?
ReeeznD
その時に話してたのは「VRの演出だからいろいろな角度で体験したい」という話をしていたと思います。
すり鉢状だと普通にライブ見てるような目線でも見れるし、上から見るようなこともできる。 動くと音の定位も変わる。試しに動きたくなるような、立ち位置によって見え方が変わるようなフロアになってると良いと。
──自由に動けるようにするバーチャルライブはありますけど、高さを変えるわけじゃなくて平面的に広がってるものが多いという印象です。すり鉢形状を見たときに、観客側の高さ方向が変わるステージってバーチャルライブではあまり見たことなかったなと思いました。
ReeeznD
そうですね。よく考えると、リアルの劇場やホールだとよくあるんですけどね。
──空間構成的にはスタジアムとかそういう形状を抽象化したステージですよね。
ReeeznD
そうなんです。そういう大きなトーンを司る部分みたいなところはリクエストがすごく多くて、逆に演出の細かいところはあまり何も言わないみたいな感じだったんですよね。
──それはすごくやりやすそうですね。
ReeeznD
あんまりないパターンでしたね。
だから、今回はクライアントがCAPSULEだったから良いライブになったという部分は本当に大きいですね。よくよく話すとVRを見ている量も多かった。この事例を広く伝えて、みんなこのやり方に乗っていってくれると良いなと思うぐらい良かったです。
──それもCAPSULEとReeeznDさんのある種の信頼関係が必要になりますよね。
細かいことに口を出すってことは身を預けられていないというか、信頼関係が成り立ってない部分も少なからずあるってことだと思うので。
ReeeznD
そうですね。 それが事前のコミュニケーションからなのか、普段のやり取りからなのかとか、そういうのは色々あるとは思います。
でも、なんでこんな信用してくれたのかは正直わかんないです(笑)
キヌ
そうなんだ。
ReeeznD
コラボレーションのような形で任せてもらえるのが一番パワーが出るので、ほんとにありがたかった。
キヌ
CAPSULEチームと打ち合わせでたくさん会話していて、趣味や思考、見てきたものがすごく近かったという話を聞いてたのでそのあたりで任せられると思ってもらえたのかもしれませんね。
ReeeznD
そうかもしれないですね。打ち合わせはいろいろしゃべりましたね。でも、コンピューターとゲームの話が多かったような気がします(笑)
──でも、そういうのめっちゃ重要ですよね。
ReeeznD
そう、雑談の中で出てきたアイデアとかは、演出の中に色々入れてるんですよ。
1番わかりやすいのだと、僕がむかし音ゲーをつくっていた話をしてて、その時に音ゲーみたいにシーケンスが降ってきて、それに応じてキャラクターが動くみたいな演出があったりするとおもろいかもねみたいな話をしてて、それは『スタート』のアイデアのコアになってますね。
「CAPSULEが支配する空間」を表現したかった
ReeeznD
あとは、「せっかくだからリアルでできないことやりたい」という話をしていて、モーションを切り刻んでグリッチさせたりできるといいよね、みたいな話をしてそれも『スタート』ですね。なぜか『スタート』の話ばっかりになっちゃうな(笑)
最初はCAPSULEの2人のモーションをグリッチさせてほしいというアイデアで。ですが個人的には「あの世界をCAPSULEの2人が支配していてほしいな」っていう気持ちが強くて、 だから2人が何か巨大な意思にコントロールされてるみたいな見え方をするのはやめようと思って、その代わりにバックバンドはどこまでいじってもいいみたいなルールを最初に決めて案を持っていったんです。
一方で、CAPSULEの2人は存在感の強い「生のライブ」として最初から最後までやってもらう。
──あくまで空間をコントロールする側としてCAPSULEの2人がいる。
ReeeznD
そうそう。CAPSULEのライブですから。
キヌさんがVRライブの演出のことを語るときに「実際のライブでは、アーティストが音を鳴らした瞬間にその空間を支配する。そして支配したものを空間上に目に見える表現として演出するのをVRライブでやっている」というニュアンスのことをよく言っていて、それは本当にその通りだなと思っていて。それが僕の意識というかVR演出の根底にあって、 それをCAPSULEにもやってほしかった。
キヌ
うんうん、わかります。
ReeeznD
ライブってそうじゃないですか。そうであってほしいし、お客さんもどこか支配されたくて行ってる部分すらある。
だから、キヌさんの言葉だったり、キヌさんの存在は本当の意味で演出監修という感じですよね。最初の企画書に「音楽と歌詞と演出が1つの方向を向いた時に、ものすごい胸を打つ瞬間が現れる」と書いたんですけど、これもキヌさんがよく言ってることなんですよね。
『メトロパルス』の世界観って少しアイロニーというか、ストレートじゃないことをやろうというニュアンスを含んでるものが多いとボクは感じていて。
ローポリのアーティスト写真もそうですけど、『メトロパルス』に関するミュージックビデオにも、そうしたちょっとしたずらしが入っている。それはミュージックビデオの良いところで、ちょっとずらしたものとのハーモニーで立体的に見えてくるものがある。一方で、ライブに関して言うと「感情が強烈に動く」ということが重要だと思ったんで、 音楽や演出が素直に全部同じ方向を向くべきだなと思ったんです。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
僕の中ではあえてちょっと外した演出みたいなのは入れてないつもりで、ストレートの球しか投げてない。
キヌ
めちゃめちゃストレートだもんね。特に最後。
ReeeznD
最後はね、1回しか使えない手を使いました(笑)
キヌ
でも、あれは本当に良かった。セットリスト全体を通してコンピューターやゲームと共に歩きながら見た夢にどんどんと近づいて、どんどんと現実になっていく感じがあって。
その先で「ついにここ(VR)に来てライブをやってるぞ」っていうのがストレートに出てくるのがすごく良いなって思ったし、そこで我々にも結びつくので。
最初にその構成を聞いた時にめっちゃ良いって思ったので「わたしがやることがあまりないんじゃないか」ってなりました(笑)
ReeeznD
それはやっぱり、キヌさんのライブを見たりインタビューを読んできたからですよ。
『バーチャル・フリーダム』っていう曲と歌詞がやっぱめっちゃ良くて、決め技になるだろうなとは最初から思ってて、どの曲順にあったとしても、あの曲をVRChatの中で聞くことに意味があるだろうなと思っていたんです。
キヌ
うんうん。
ReeeznD
『メトロパルス』というものと、バーチャルというかVRChatをどうやったら全肯定できるかなと考えると、ああいうストレートなことしかできなかったっすね。
「面白い縁」が生まれるバーチャルの世界
ReeeznD
キヌさん、Capさん、tanittaさんが僕が制作しているのを横で見ていて、どう思っていたのかなっていうのは、最後にちょっと聞いてみたいですね。
「なんか迷走してたな」とか(笑)
僕はあまり密にコミュニケーションを取らないでつくるタイプだという自覚があるんです。キヌさんとは演出の話を結構していたのですが、Capさんとtanittaさんはお任せしっぱなしだったので、ひょっとしたら僕が感じてるほど自分たちの影響力を感じられてないかもしれないなと思っていて。
僕は「この4人のチームだったからあのライブができた」という実感がめちゃくちゃあるくらい、お二人のライブへの貢献度を感じているんですけど、 そういうことを感じられるほど対話をしないままどんどんつくっちゃったんで、ひょっとしたら自分たちの貢献度が薄いと思ってるかもな、みたいなことはちょっと思っていたんですね。
Cap
貢献度を感じていないわけではありませんが、ReeeznDさんのやりやすさ的なところも踏まえて作品の制作は一番効率のいい形で進めていたのかなって見てて思っていました。
tanitta
制作の佳境で、ReeeznDさんがひとりで集中してひたすら作業を進める大暴れフェーズがありましたよね。
そのあたりになってくると、自分が何か手伝った方が良いかもしれないけど、集中してるところに水を差すのもな、とただ見守っていました(笑)
Cap
うんうん、そうね。
tanitta
結局良いライブができたので、このやり方で良かったなという風には自分は思ってますね。
ReeeznD
良かった。
Cap
明らかにReeeznDさんが1番頑張ってるので、自分は必要なものをつくるみたいな感じで分担でやってました。
なので、ライブそのものに「自分がやってやったぜ」みたいな感じではないっちゃないですけど、「自分は別になんもやってないです」みたいな感じではもちろんないです。だから、この4人だったからできたと言ってもらえるのはすごい嬉しいです。
tanitta
そうですね。「声掛けていただいてありがとうございます」って感じですね。
Cap
なんかこう、じんわりびっくりしましたけどね。最初に「CAPSULEのライブがあるんですけど」って話してもらった時に「あ、へえ、そうなんですね」から「え。か、CAPSULE?え、CAPSULEか。えーCAPSULEか。」みたいな(笑)
CAPSULEのライブがVRChatで開催されることになって、なぜかそれのモデリングをすることになる。「どういう流れでこうなるんだろう」とよく分からないんですけど、すごい不思議な縁を感じますね。色々な話をもらうときに毎回思いますが(笑)
キヌ
想像もしてなかった事態になる。
Cap
「なんでそうなった」みたいなことも今まで結構あって。「なにがそうなって僕がそこにいるんだ」みたいな。そういうことがあるからVRChatって面白いなって思います。なんか人の縁が繋がりやすいというか、面白い繋がり方をするというか。
サンリオとかもそうじゃないですか。
キヌ
うんうん。ほかにもGHOSTCLUBに#kzn(キズナ)ちゃんが来たりとかね。
──確かに。
キヌ
面白い縁がたくさんできてる。
(2023年9月16日収録)
もともとの音楽が持っている世界観をいかにVRに展開するか。そこに対する試行があらゆるレイヤーでなされていると伺え、非常に密度のあるお話を伺うことができました。
演出に対する細やかな思考や配慮も驚きでしたが、制作チーム同士、そしてCAPUSULEとの信頼関係の上でそれが成りたっていることが伝わってきました。
座談会に参加していただいたReeeznDさん、キヌさん、tanittaさん、Capさんありがとうございました。また、CAPUSULEのお二人、そして、メトロパルスの制作に関わった皆様に感謝申し上げます。
企画:タカオミ、FUKUKOZY
進行管理・執筆・編集:FUKUKOZY
写真:rocksuch(ロックサーチ)
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