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リアルとバーチャルの「梯子」をつくるーバーチャル空間を使った映像制作の"現在" 根本凪「タイニーグレープフルーツ」MV制作インタビュー

虹のコンキスタドール、でんぱ組.incとリアルでのアイドル活動を経た後、VTuberとして活動を開始した根本凪さん。
彼女の初のEPとなる「lume di spica」に収録された楽曲『タイニーグレープフルーツ』のミュージックビデオは、VRChatに実際にあるワールドを活用し制作されています。

リアルでは実際に行ける場所をロケ地として使い、映像を制作する事はあたりまえですが、これまでバーチャルでは「実際に行ける場所」を「ロケ地として」活用し制作される映像はあまり多くなかったように思います。

この「実際に行ける場所をロケ地として活用する」という点は、「映像を見る」という経験においても「そこに行けるかどうか、行ったことがあるかどうか」という観点である種の影響を与えるように感じます。

そこで今回は、映像制作を担当されたReeeznDさんと、ミュージックビデオ内のロケ地となったワールド「Room\20°」「Memory Terrarium」「Color Shower」を制作したyo-gurutoさんをお迎えして、『タイニーグレープフルーツ』のミュージックビデオ制作の経緯やコンセプト等をお伺いしました。

ReeeznD(写真右)
Computer Artist , Music Video Director , XR Director
音楽+CGIの領域を得意とする。
実写からVtuber、VR作品まで様々な作品に関わっています。
作品は
『ELV.HALL 000 -ゆめのなか(illequal remix)-』(VRChatのワールド)
『キズナアイ hello world2022 オープニング、エンディング映像』
『でんぱ組.inc / オーギュメンテッドおじいちゃん MV』などなど

≪リンク≫
・『ELV.HALL 000 -ゆめのなか(illequal remix)-』(VRChatのワールド)
制作物がまとまっているTwitterモーメント

yo-guruto(写真左)
World Creator
VRChatでワールドを作り、公開している。
公開ワールドは
ソヨカゼ荘-SOYOKAZESO-
Color Shower
Afterwords island』など

バーチャル空間──リアルとバーチャルのアイドル像を繋ぐもの

──本日はよろしくお願いします。
まずは『タイニーグレープフルーツ』を制作するに至った経緯から伺えればと思います。

ReeeznD
根本凪(以後、ねもちゃん)さんというVTuberの初の音源リリースのEPの最後に入っている『タイニーグレープフルーツ』という曲のミュージックビデオを依頼されてつくった、というのが一番ざっくりした答えですね。

このミュージックビデオはロケ地としてVRChatワールドクリエイターのyo-gurutoさんが制作した「Room\20°」や「Memory Terrarium」、「Color Shower」の3つのワールドをお借りして、そこで撮影を行ったかのようなミュージックビデオをつくりました。

ある日、#ワールド制作雑談会(毎週金曜日にVRChatで開催されているワールド制作者が集まる定期イベント)に行って、yo-gurutoさんに「あそこのワールドをお借りできないですか」という話をして「良いですよ」って言ってもらえたので、撮影することができました。

──yo-gurutoさんはワールドをお借りしたいという話を聞いてどうでしたか?

yo-guruto
その時は誰のミュージックビデオかは知らなかったのですが、声をかけてもらえたこと自体が光栄だなと思い、すぐ「やります」って言った記憶があります。

ReeeznD
まだ何も説明してないのに「良いですよ」って言われました(笑)

──なぜVRChatをロケ地とすることにしたのでしょうか?

ReeeznD
なぜVRChatを使ったかの話をするには根本凪さん自身の話が深く関わってきます。
もともと根本凪さんは虹のコンキスタドール(以下、虹コン)、でんぱ組.incというアイドルグループで生身の体でアイドル活動していたんですけど、ある日アイドル活動をやめられて。そこからしばらくして「VTuberとしてみんなの前に帰ってきます」という発表があって、今回のEPを出すに至ったんです。

僕たちが普段目にしているVTuberの多くはVTuberとしてこの世に出てくるんですけど、根本凪さんにはもともとの姿があって、それを応援していたファンの人たちがたくさんいて、リアルからある日VTuberになった。他の多くのVTuberとは出自が違う人なんですね。

僕は仕事としても趣味としてもアイドルを追いかけているので、もともと虹コンを聞いてたし、でんぱ組.incはライブもめちゃめちゃ行っていて、当時のねもちゃんの姿も知っていました。またその後にVTuberにドハマりして色々なVTuberの方の活動も観ていたので、ねもちゃんがVTuberになることはすんなり受け入れられました。

ですが、ファンの中ではすごく歓迎している人たちとかなり戸惑っている人たちというようにリアクションが分かれていたんです。

そうした状況の中でミュージックビデオの話が来て、どういう映像をつくろうかと考えた時に自分がVTuberを見始めた時のことをちょっと思い出したんです。
VTuberと言ったら最初は動画勢からスタートして、そこからにじさんじとか主に生配信をするVTuberの方が徐々に増えてきたじゃないですか。

──確か、そうでしたね。

ReeeznD
それで僕も配信の方も見るようになったんですけど、最初はどう見ていいか分からなかったんですよね。

説明のために言葉を濁さないで言うと、配信を中心に活動するVTuberは動かしているセンサーの向こうの人を想像しながら見ればいいのか、目の前にいるキャラクターを見ればいいのかという戸惑いがありました。
動画勢のように編集で画変わりやテンポをつくってるのと比べて、「センサーの向こうの人を想像しながら長い配信を見る」というのは見づらいなとずっと思っていたんです。

ですが、その思いを払拭してくれるいくつかの出会いがあって、見方が変わってきたんです。
ひとつは、文野環さんというVTuberなのですが、この方は配信中に事故を起こすんですよ。

たとえば、VTuberはあまり外で配信しないと思うんですけど、文野環さんは配信中に外に出て行ってマクドナルドとか買いに行っちゃう。それで店に着いたら欲しいものがなくて別の店舗に行くみたいなことを、携帯から家のPCにDiscordをつないで外から配信しているわけです。PCの前にいないので画面は静止画で。
その配信中も「移動するから切るね」みたいな感じで40分くらいBGMが流れているのを視聴者はただ見るみたいな、そういうことを平気でやっている。

そのマクドナルドの回は最後に買ったものを地面に落として泣きそうになりながら配信が終わる(笑)。そういうVTuberを見て、すごいスリリングだと感じたんです。

──マイクを掃除機の中に巻き込むみたいなのもありましたよね(笑)

ReeeznD
飼ってる猫がマイクに吐いちゃって、掃除機で吸ったらマイクごと掃除機に吸い込まれて(笑)
そういう生っぽい感じでやっているので事件性があって面白くて、センサーもなにもなくて関係なくなってくるんですよ。VTuberというガワと関係なく純粋に事件を面白く見ている。そこから配信系も見れるようになってきました。

その後にApex Legendsが流行り始めて、CR CupとかVTuberを含めたゲームの大会みたいなのがどんどん出てくるんですよ。そこでは大会に向けて本調子が出ないと泣いたりとか、そういう感情むき出しみたいな瞬間が大会を通じて見えて、そういうのを見ているとこっちも心が動いて「VTuberはセンサーを使って動いている...」とかがまったく気にならなくなってきた。

話を戻すと、ねもちゃんのファンは僕が経験したそういうVTuber配信を見て心が大きく動くコンテンツに触れてきてない人が多いかもしれないと思ったんです。
「アイドル根本凪」をずっと追いかけてきて、その延長で巻き込まれる形でVTuber配信を見る事になった人がいるだろうなって。だから、ねもちゃんがVTuberになったことで「シンプルに距離が遠くなった」と感じている人が多くなったのではないかと思ったんです。

だから、今回のミュージックビデオでは、とにかくねもちゃんがバーチャルの世界でイキイキしていて「その世界で生きている」というのを映像にすることで、バーチャルの姿でも心が揺れ動く経験をしてもらおうと考えました。それによってファンの方にとっての梯子になるのではないかと考えたんです。

特にMV公開のタイミングでは、ねもちゃんはバーチャルの姿でしか世に現れなかったので、ファンの方々が求めるものもそこにあると思っていました。VTuberとしての形を保ったまま、可能な限りねもちゃんを感じられる映像ということですね(インタビュー後に実写の姿も見せるようになり状況は少し変わりましたが)。

──確かに、ミュージックビデオではバーチャルの根本凪さんが生き生きと動いている姿が印象的でした。

ReeeznD
話が少しずれるのですが、どんなミュージックビデオを撮ろうかと考える時に、だいたい僕はその音源を聞きながら外を散歩するんですよ。
だけど今回はVTuberだからVRChatを散歩しながら聞いてみようかなと思って色々なワールドを巡ってみたんです。

その時に、yo-gurutoさんのこのワールド「Room\20°」に行った瞬間に「yo-gurutoさんのワールドで展開するミュージックビデオだとハマるな」と思ったんです。

それと同時に、ねもちゃんが生き生きと動く映像とは、逆からの梯子を掛けられるかもしれないと思いつきました。
先ほど話した、ねもちゃんのファンの中にはバーチャルという存在に馴染めてない人がいるかもという状況に対して、実際に来れるVRChatのワールドを使ってミュージックビデオを撮影して、ファンの人たちにもここに来てもらったらバーチャルで生きてるというイメージが実感できる。その距離を縮められるのではないかと考えたんです。

VTuberとVRChatは別のジャンルのものだとは思っています。ですが、バーチャルと現実のもうひとつの梯子としてひょっとしたらうまくハマるんじゃないかなと思って、VRChatのワールドを使うことを考えたんです。

──色々なワールドを見た結果、yo-gurutoさんのワールドが曲のイメージにハマったということですが、具体的にはどのような部分を良いと思ったのでしょうか?

ReeeznD
そうですね。まずはここ(「 Room\20°」)に来た時にピンと来たというのがなにより大きくて。yo-gurutoさんのワールドって光の扱い方が独特というか、ここも光がちょっと色分解していますよね。
Memory Terrarium」もパーティクルを使ったボリューメトリックライトの光源であったり、カラーリングやポストプロセスのかかり方も独特で美しいワールドです。「Color Shower」なんかはもろに光のワールドですし、「Afterwords island」はまた別の光のアプローチの表現で、ついこの間公開された「Bulbs」もまさに光のワールド。

そうした光についてのアプローチが今回のタイニーグレープフルーツという曲にとても合っていると感じたんです。

実写で映像を撮る時って、ライティングが超大事なんですよ。なんだったらカメラはiPhoneでもいいけどライティングはガチ機材じゃないとダメみたいな。
それくらいライティングは大事なので、ライトの演出がワールドに既に用意されていて、yo-gurutoさんのイメージしたライティングを使えば良い映像になるという見立てが早い段階でつくというのは今回の映像制作においてすごく大きいことでしたね。

yo-guruto
自分の好きな空間をつくって、それを良いと思ってもらってもらえるだけでも嬉しいのですが、さらにそれを使いたいと思ってもらえるのはものすごく光栄で有難いことです。
ミュージックビデオが公開された時は大興奮でしたね。

──「光の扱い方が独特」という話がありましたが、yo-gurutoさんは普段はどういうことを考えてワールドをつくられているんですか?

yo-guruto
学生の時にランプシェードをつくる課題をやったり、和紙の元になる素材を使って外に光が漏れる空間をつくったりしていて、昔から光や影を取り扱うことが好きだったので、その延長上でワールドをつくっているのではないかと思います。最初につくった「ソヨカゼ荘 -SOYOKAZESO」というワールドも「木漏れ日」をつくりたくてつくったんですよね。

やっぱり光と影が「実在」、つまり「自分がここにいる」というのが感じられやすい表現なのかなと思っていて、ワールドでの見せ方は毎回変えていますね。

──例えばこのワールド(「Room\20°」)ではどういうことを考えてワールドを制作されたのでしょうか?

yo-guruto
自分のつくっているワールドでは今までやってない方向の光をやろうと思って、表現が被らないようにつくってきたんですけど、このワールドではそこに縛られすぎなくてもいいかなと思って、自分が好きな空間をつくろうと思ってつくりました。このワールドは自分の作業スペースとしてつくったという面もあるので。

ですがやっぱり「光が差し込む空間をつくりたい」となったんですよね。普段あんまり日光に当たってないからかもしれませんが(笑)、明るい場所で作業したいなという気持ちでつくりました。

──ReeeznDさんもおっしゃっていましたが、このワールドは影が特徴的ですよね。

yo-guruto
そうですね。「影だからこうあるべき」というのはあんまりこだわってなくて、ここのようにピンク色などさまざまな色が滲んでいるのも、自分で試してみて良いと思えば、それでいいと思っています。
ただやっぱり光や影が物理側の身体の経験に基づく感覚を呼び起こすポイントになると思っていて、そこをどう表現するかはこだわっていますね。

──yo-gurutoさんも「実在感」を重視して光と影を表現したワールドをつくっていた。ReeeznDさんが散歩していて「ぴんときた」理由はそこにあったのかもしれないですね。

ReeeznD
うん、そうかも。

動きの癖──リアルとバーチャルのアイドル像を繋ぐもの

ReeeznD
バーチャルのねもちゃんとファンとの距離を近づけるということに対してVRChatのワールドを使うということもそうですが、ねもちゃんの動きにこだわったことも大きなポイントでした。

ねもちゃんのモーションキャプチャーをすごく綺麗に撮れる環境を用意しましたし、ねもちゃんのアバターをパーフェクトシンク(口など顔の細かい部分の動きを再現できるようにすることで表情を豊かに見せることができる。インタビューでは八つ橋まろんさんによる「Virtual Face」が例にあがった)に対応させることで生き生きとした表情を撮れるようになるだろうという予測の下にこの企画を立てました。

──なるほど。根本さん自身の動きや表情を表現するということにもこだわられて制作されたんですね。そういった点についてファンの方々から反応はあったのでしょうか?

ReeeznD
昔からねもちゃんを追いかけている人たちは、ねもちゃんの生身時代の動きの癖とかをあのミュージックビデオを通して感じてくれたみたいで、そこは上手くハマったかなと思っています。
本当にねもちゃんの動きしか使ってないので。

──「実質的バーチャルに根本さん」ということですね

ReeeznD
そうですね。普通のVTuberだったら「この角度はNG」みたいな顔の角度とかも「ねもちゃんならこういう顔するよな」と思って残してあるんです。

例えば、「Color Shower」に入ってすぐくらいに首を思い切り上にぐいーんと向けているんですけど、そうすると目が下に向いてぎょろっとしているみたいな感じになってしまうんです。でも、あのカットはむしろねもちゃんぽさがめっちゃ残っているなと思ってあえて残したんです。

そしたらファンの人たちはあそこがめっちゃ良いって言っている人が何人かいて。
そういう声を聞くと、いわゆるかわいいVTuberを求めているわけではなくて、ファンの方はねもちゃんのことが好きなんだなってことが伝わってきますね。

──動きから根本さんを感じることができるというのは面白いですね。

ReeeznD
一見の方だと分からないと思うんですけど、昔の思い出を参照してこれねもちゃんの動きだなと、動きの癖みたいなのを分かる人が多いというのは良かったですね。

yo-guruto
お話を聞いていて思ったんですけど、ねもちゃんのファンは当然ねもちゃんのことを好きじゃないですか。なので今回はバーチャルのねもちゃんのことを好きになってもらうのが目的なのであれば、リアルではなくいかにバーチャルのねもちゃんを魅力的に見せることが重要になってくるということですよね。

ReeeznD
確かにゴール地点はそこだったかもですね。

──バーチャルであることは強調した上でその魅力を伝える。

yo-guruto
バーチャルのねもちゃんの存在を認めてもらうということがReeeznDさんが考えていたことなのかなと思いました。

──それを考えると、確かにリアルで撮影するよりも、バーチャル空間で撮った方がより伝わりやすいというのは確かにそうだという気がします。

ReeeznD
そうですね。リアルのねもちゃんとバーチャルのねもちゃんだとギャップが激しすぎるので、その間を馴染ませようという思いがなんとなくありました。

──ファンの方が好きだと思っているリアルのねもちゃんの部分を分解した時に「動きの癖」といった要素が出てきて、それがバーチャルの表現に繋がるのが面白いなと思いました。
単純な見た目の話ではなくて、すごく感覚的・身体的な部分が出てきて、それが共通要素になっている。
それは、しっかり魂が形を変えたということですよね。VTuberの根本さんがリアルの身体性を引き継いでこっちで動いていて、それが伝わるようになっているというのは新鮮でした。

ReeeznD
冒頭でも話しましたが、ねもちゃんはねもちゃんのままバーチャルの世界に存在しているので、そういったアイデンティティが表現できたのはよかったです。

VRChatのワールドを題材にした映像制作のメリット

──今回の楽曲を聞きながら散歩していてyo-gurutoさんのワールドがぴたっとハマったという話がありましたが、そうした感覚的な部分の決断をVRChatでできたというのはすごいですよね。

ReeeznD
そうですね。CGの世界なのに感覚でチョイスできたというのは今回の制作では大きな部分だったかもしれないですね。

VRChatを使うとしても、1からワールドを設計していくとなったら、デザインや世界観の言語化をして、何か理由付けをしてクライアントに説明しなければならないんです。

ただやっぱりミュージックビデオって音楽と映像が調和してることが何より大事なので、良いと思ったワールドでバーっと写真を撮ってプロデューサーに見せてOKをもらう、つまり「言語化することなく感覚がハマったからOK」というプロセスを踏めたのはよかったですね。

──完全にリアルのロケハンと同じ制作プロセスですよね。

ReeeznD
そうそう。それがバーチャル空間でできるっていうのがおもしろいですよね。

そういえば面白い話があって。こっちに行くとネモフィラの花があって、ミュージックビデオの最後ではネモフィラが大きく映るんですけど。これはyo-gurutoさんのワールドをお借りしたいという話をした後に気付いて。

yo-guruto
え、そうなんですか。最初から気付いているだろうなと思ってました。

ReeeznD
そう思われているだろうなと思ってました(笑)

ねもちゃんのロゴがあるんですけど、それを知り合いの玉野ハヅキさんというデザイナーがつくっていて、ミュージックビデオつくることになってロゴのデータをもらったときに、ねもちゃんのロゴの左右についているのがネモフィラの花だということを初めて知ったんです。
「これネモフィラの花じゃん」という2回の気付きがあった(笑)

だから、ミュージックビデオの最後を、ここのネモフィラの花の映像にしてねもちゃんのネモフィラ付きのロゴで終わるっていう綺麗な終わり方ができるなって公開する直前に思いついて、偶然が重なって生まれたんです(笑)

──なるほど。それはなにか数奇な運命を感じますね。
ReeeznDさんはこれまでにさまざまなミュージックビデオを制作されてきていると思いますが、VRChatのワールドを使った映像制作をしてみて、どういう可能性やメリットがあると感じましたか?

ReeeznD
映像ということに限って言えば、ロケハンができるのは大きなメリットですね。

──実際に空間の中を歩いて自分でアングルを確認できる、ということですか?

ReeeznD
そうですね。カメラを構えて、こういう感じで撮ろうかなとかを自然にできるというのはやっぱ大きいですかね。

──そうなると、できてくるカットはUnity上でカメラを動かして撮るのとは違う発想になるのでしょうか?

ReeeznD
僕はあまり変わらないかも。というのはカメラワークを付ける時は演出のことしか考えなくてUnity上でひたすら良い画を探すので。ただ、最初に撮った写真とかはイメージボードにはなるんですよね。

──なるほど。1からデザインを考えて空間のラフ画やデザイン画を描くよりも、解像度の高いイメージボードになりますよね。

ReeeznD
そうですね。

──今回はコンテとかは切ったんですか?

ReeeznD
ラフなコンテは切ったんですけど、いわゆる絵コンテは切ってないですね。
UnityをCGツールのメインに置いてから、CG映像のつくり方が結構変わったんです。

以前はレンダリングでめちゃくちゃ時間かかるから絵コンテでがちがちにビデオコンテを切って、CGをつくる前にばっちり固めた後に、その絵をCGで再現してつくってレンダリングに2,3日かけてという風につくっていました。

Unityを使うようになってからはキャラクター中心のものだったら、まずワールドというかシチュエーションをつくって、カメラで良い角度を探っていくという実写に近い撮り方になっていますね。

そのつくり方はかなり良いと思っています。
『タイニーグレープフルーツ』はねもちゃんの即興演技なんですよ。即興で歌いながら踊りながら歩いていくので、実際にねもちゃんがどう動くかは事前に分からないんです。なので、あの映像はCG映像と実写映像のハイブリッドみたいなつくり方をしているんです。

──先に動きを撮ってから、カメラのアングルを後で変えるつくり方は現実では考えられないですね。

ReeeznD
そうなんですよね。それは大分楽というか面白いですよね。

──ReeeznDさんのメインツールがUnityになったことで、アウトプットも大分変わっているのでしょうか?

ReeeznD
そうですね。フローがぜんぜん違うので、変わっているんじゃないですかね。
以前は絵コンテでばっちりつくっていたので、頭で考えているものしか出てこないんです。Unityを使ってない時は1フレーム書き出すのに3分かかっていました。フレームレートが24フレームだと1秒書き出すのに1時間以上かかる。そうなると1秒も無駄にできないですよね。

──多めに撮っておいて後から編集するというのも難しいですよね。

ReeeznD
そうなんです。それに、今回の「頭から最後までずっと歩きながらダンスしている」という、一本のアクションで構成する映像は、後でカメラでなんとでもできるからこのつくり方を選べたという面はあります。
でなかったらもっとガチガチに演出を決めないとなので細切れでカット数が多かったと思いますね。ワールドのつなぎがうまくできれば、1カットでつくる案もありました。

──今回のようなつくり方だと、自分が想像していなかった画が出てくることもあったのでしょうか?

ReeeznD
ありました。

──それは面白いですね。アニメより実写に近い映像のつくられ方ということですね。

ReeeznD
もちろん下振れもしますけど。思ったよりよくない...みたいな(笑)。
『タイニーグレープフルーツ』で言うと最初にねもちゃんが歩いて入ってきて、引きで「Memory Terrarium」が広く見えるシーンがあります。そこのパーティクルの動きが、なぜか書き出すたびに変わっちゃいまして。RandomSeedは切ってるのになぜか。それで良い動きのパーティクルが出るまで、めっちゃ繰り返し撮影しましたね。

──そういうリテイクはリアルの映画の撮影とかでもありますよね。「煙の出方がちょっと…」みたいな。

ReeeznD
こだわり派の映画監督みたいなことをやっていました(笑)

──逆に上振れはどういった部分があったんですか?

ReeeznD
ねもちゃんは流し目みたいなのをよくするんですけど、ああいうのをボクが演出で考えるとあえては入れないなと思いました。

つまり、演出でコントロールしようとすると「僕の想像するねもちゃん像」みたいな映像になっちゃうんですよね。
ねもちゃん本人は、僕が考えているねもちゃん像よりもレンジが広いので、普段通りに撮るとレンジの狭いねもちゃん像を撮ってしまうことになるんです。

だけど、今回みたいにパーフェクトシンクにして撮影すると「こんな表情するんだ」みたいなのがCGのキャラクターでも出てくる。
最初に全身が映る時のカットでずっと目を細めて歩いているシーンがあるんですが、ああいうのは意外な表情が撮れて良かったなって思っています。

こういうのは一般的なCGアニメとは違うVTuberのミュージックビデオを撮る醍醐味かもしれないですね。

ワールドを映像に使うこと──ワールドの公共性について

ReeeznD
取材してもらう上で、ちょっと言っておきたいことがあって、僕の中ではVRChatのワールドを使うのがどうなんだみたいな気持ちが結構あるんです。使わせてもらった立場で言うことではないと思うんですけど。

例えばここはyo-gurutoさんがつくったワールドだけど、ここで何時間も雑談したり、楽しい思い出がある人はいっぱいいるはずじゃないですか。どのワールドにもそういう時間があって、制作者本人のものでもあると同時にそこで過ごした人たちの思い出のものだったりもすると思っていて......つまりVRChatのワールドには公共性があると思うんですよね。

僕はVRChatをはじめたのは2018年ですが、今のようによく遊ぶようになったのは2022年の頭から。VRChat文化に触れるようになって1年未満の比較的新参者なんです。僕は実はかなりひねくれているので、自分みたいな人がこの状況を見たら「土足で入ってきたな」と思う人がいてもしょうがないなと思っています。

──そこは難しいですよね。

──空間の公共性というところでリアルの文脈で考えると、土地とか建物の所有者が許可を出していれば問題はないですよね。感情の話なので、そういう風に切り分けられるものでもないかもしれませんが。

yo-guruto
パブリック化したワールドは配信やPVに気付いたら使われていることは結構あるので、むしろみんなそう使っていいものという認識だと思っていました。
パブリック化した段階で、みんながインスタンスを立てることができるようになるので、そのインスタンスの空間はそれぞれのものというか。それが私の中では今回のロケ地となったことにもあてはまります。あくまでこれは私の感覚の話で、普段から使ってくれている人はまた違った感じ方をするのかもしれません。

──アニメの聖地巡礼の議論でも、ただ後ろの背景を良くするためだけに実際の背景が使われている作品は批判されていることが多い一方で、もともとある風景の文脈を丁寧に読み取ってそれをさらに良く見せようとしている作品は受けいれられる傾向にあるんですよね。
結局それはその風景へのリスペクトがあるかどうか、もともとの場所が持っているコンテクストを無視せずにやるということが重要なのではないかと思います。

今回の場合は、yo-gurutoさんのワールドは光や実在感を大切にしているという文脈を丁寧に読み解くことによって、『タイニーグレープフルーツ』の撮影に使用する発想が生まれたんだと思います。なので、yo-gurutoさんのワールドが持つもともとの良さを、ねもちゃんというひとりのアーティストを通して別の角度から映し出しているという面もあるのかなと思いました。

こうした議論がリアルでもバーチャルでもパラレルにあるっていうのは面白いですね。

ReeeznD
VRChatという場所に生きている人が集まっているからこそ、今回のミュージックビデオを制作したんですけど、例えばキヌさんのようなめちゃくちゃVRChatで活動している人がミュージックビデオを撮るのにVRChatを使うのはめっちゃ自然だと思うんです。

一方でねもちゃんはVRChatの文脈とは違うところにいるから、ちょっと不自然。
僕を直接知っている人たちは僕がVRChatを楽しんでいることを知っているからあんまりそう思わないかもしれないけど、ネガティブに捉える人はいるかもしれません。そういうネガティブな気持ちを湧きたたせないために取りこぼしはできるだけないようにしましたが、カバーできていなかったら「ごめんなさい」という感じです。

──根本さんにVRChatでファンイベントをしてもらえたらいいですね。

ReeeznD
それで言うと、ファンの方でVRChatにきてくれてる人がすでに何人かいらっしゃって。
ねもちゃんがやっている「バ美肉マルシェ」という活動で「その人がバ美肉したらこういうキャラクターになる」というのをねもちゃんに描いてもらえるというのがあるですけど、その人はそこで描いてもらったキャラクターを3Dキャラ化して、「Room\20°」でポーズを撮って写真を撮っていたんですよね。
そういう人がいっぱいきてくれたらめちゃくちゃ嬉しいなって思いました。

──いいですね。ぜひいろんな人に来てほしい。
タイニーグレープフルーツの映像を見る方の割合としてはVRChatをやったことがない人がほとんどだと思いますけど、僕のように、ワールドを先に知っている人が見る時の気持ちとその空間を知らずに見る人の気持ちは違いそうだなと感じました。
僕の場合「ここ、いつも行ってるお店じゃん」みたいな気分になったり(笑)

ReeeznD
そういうVRChatをやってる人にとって実感が迫ってくるという感想は嬉しいですね。その感覚で自分が見たかった。つくってたら、新鮮な驚きがなくなってしまうんですよね(笑)。確かに「これ地元じゃん」みたいな映像を見て「うおっ」てなる気持ちに近いかもしれませんね。

──一気に親近感が沸きました。

ReeeznD
一応、今回みたいな色々狙ってやっている場合は情報を追えるようにしたいなと思っていて、「これはyo-gurutoさんがつくったVRChatのワールドなんだよ」というのはすぐに追えるようなツリーにしてTwitterに投稿したりしています。だから実感が伴わなくても情報は追っていけるようにするというのは結構気を付けてます。

このワールドのことを知らずに『タイニーグレープフルーツ』経由でこのワールドに来てくれた人が実感を伴って感動してくれる時間になると嬉しいなと思っています。

──yo-gurutoさんのワールドはQuest対応もしてますからね。

ReeeznD
そうですよね。それはめちゃでかい。

──映像で知ってここに来て、また映像を見たら感じ方が変わる、という可能性があるのも面白いですよね。単純に映像を何回も見るよりも映像に対しての感じ方が変わる可能性がある。

ReeeznD
そうですね。
なんだったらこのワールドでも映像を観れますしね。ちょっとコツはいりますけど。
ミュージックビデオを撮影した現場で映像を観れるのはさすがにあまりないですよね。

──確かにそうですね(笑)
「映像作品を見る場所」としてのワールドの可能性もありそうです。
本日は長時間ありがとうございました!

今回の話を聞き「誰かがつくったワールドが誰かの創作に影響を与える」という創作の連関の具体的なアウトプットとして生まれたのがこの『タイニーグレープフルーツ』のミュージックビデオだということが分かった。
それはソーシャルVRでの「ワールド」という創作行為が、これまでとは異なる文脈の創作を生み始めてきていることの証左だと言えると思う。

また今回のインタビューでは「バーチャルという存在」についても考えを巡らせる機会になった。同じ「バーチャル」でも「VTuber」と「ソーシャルVRのユーザー」(いわゆる「VR一般人」)では存在のありようはまったく異なる。そして、「VTuber」の中でもその存在のありようは多様である(らしい)。そうした状況を踏まえて、どの文脈を汲み取るか。その選択がまず第一に重要だということが伺えた。

今後も「バーチャル」を対象にした色々な映像は増えていくと予想されるが、その時にそれらの映像はどのような文脈を含んでいるのか、そうしたことに思いを巡らせながら観てみようと思う。

インタビューにお付き合いいただいたReeeznDさん、yo-gurutoさん、改めてありがとうございました。

企画・インタビュー・編集:タカオミFUKUKOZY三日坊主
撮影:meru0625

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